DRAGGY!ードラギィ!ー【フラップ編(リライト)2/18連載開始!】

Sirocos(シロコス)

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〈フロン編〉

エピローグ①

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 レンとユカの審査結果が発表された、その直後のこと。
古杉志朗氏は、自分の部屋で修行の観測役員から、
今日起きた出来事についてと、レンたちの合格発表についての報告を、
机の前のイスにゆったり座りながら一通り聞いていました。

 机の上に開かれたノートパソコンは、小説の執筆用ツールが起動されていて、
彼が朝から一日かけて原稿に書きこまれた難しい文章がびっしり。

夜の七時なのに、いつも通りデスクライトのみが灯され、
薄暗くした部屋の中、窓際で月明りを背にして浮かぶシルエットのドラギィ。
枝分かれした牡ジカのような角を持つ、あのドラギィでした。

「……以上が、本日の報告となります」

 シルエットのドラギィは、そう言って報告をしめくくります。

「はぁい、お疲れさん。最初にしてはなかなか上出来だったんじゃない。
僕が考案した、うぅーん……サプライズ作戦」

 志朗氏は座ったまま背伸びして、今日の執筆の仕事で疲れた身体をほぐします。

「巨大な黒金魚の幻を見せたのは、いい演出だったと思うよ。ルドルフだっけ?
あの変な猫の仕かけた罠ってだけで終わってたら、つまらなかったろうからねぇ」

「それにくわえ、あの三にんそれぞれがもっとも強いつながりを感じている、
人間の子どもたちの幻も見せて、試練への自発的な挑戦をうながしたのです。
この方が効率がよいと、われわれは判断しました。
これであの三にんは、急成長にむけて大きな一歩を踏み出したことでしょう」

「まあ、あの子たちは悪いとは思うけれど、
今後もこういう形で、サプライズを仕かけていきたいものだねぇ」

 志朗氏は、鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌でした。
なにしろ今日は、自分の思惑どおりに事が運んだのですから。

「……失礼ながら、マスター」

 シルエットのドラギィは、窓際からひゅうっと、
志朗氏のそばに飛んでくると、かかえていた疑問を投げかけました。

「われわれにあのようなことをさせて、いったい何を?
この作戦は、スクール校長の許可も得ずに行っているのですよ」

「そりゃあ、修行を手助けするために決まってるでしょ」

 志朗氏は何食わぬ顔で、ひょうひょうと答えてみせます。

「まあ、を進めるためでもある、と言った方がいいだろうけど」

「マスターが秘密裏に計画なさっている、あれのことですね。
スカイランドをより幸福な土地にする計画、とおっしゃっておりましたが、
そのために、まだ年端としはも行かないスクールの生徒を利用するとは」

「子どものドラギィじゃないと、実現できない計画なんだ。
このサプライズ作戦は、そのための特殊訓練。分かってちょうだいよ」

「分かるも何も……われわれスクール関係者は元より、だれひとりとして、
あなた様の指示にたいして何ひとつ懐疑かいぎの念を抱きはしません。
ああ、でも……どうしても気になる点が一つ」

 シルエットのドラギィは、質問を続けました。

「あなた様が、あのレン少年に関わる理由をまだうかがっておりません。
あの三匹の修行や、例の計画とはまったく関係ないように思えるのですが」

「ふふっ、やっぱり知りたいよね」

 この質問を受けた志朗氏は、パソコンを閉じてスリープ状態にすると、
右腕で静かに頬杖をつき、にこやかに笑いました。
あの時、レンにたいして見せた、若者を優しくさとすかのような、
やわらかくも重厚感のあるオーラを放ってみせたのです。

「……あの子はね、ぼくととてもよく似ているんだよ。
似ているといってもね、見た目の話じゃない。『中身』がだよ。
あの子もぼくと同じ、例のアレを持っているとみて間違いない。
感じたんだよね、あの子から。を」

……なるほど」

 シルエットのドラギィは、問答することもなく納得していました。

「もしや……導くおつもりなのですか? あの少年を」

「さあねぇ~」

 志朗氏は、両手を頭の後ろで組むポーズをして、
イスの背もたれ寄りかかります。

「今はまだ、どうしようかなって迷ってる。
ぼくも持ってるこの力が、あの子とって人生に必要なものになるかどうか、
それを確かめてから……教えてあげようかなって思ってる。
真実を洗いざらい、あの子に話すチャンスを得た、その後にね」

「分かりました」

 シルエットのドラギィは、静かに首を垂れました。
大きな耳が、彼の頬をすうっとなでています。

「それでは、次のサプライズ作戦まで、われわれは通常の業務に戻ります」

「はい、お願いしまーす」志朗氏も、テキトウな調子でおじぎします。
「悪いねえ。ぼくの勝手な指示のために、忙しくさせちゃって」

「何をおっしゃるのですか」シルエットのドラギィは妖しく微笑みます。

「あなたはスクールにとって……いえ、
われわれすべてのドラギィにとって、特別な存在。
特別も特別。おおいに特別なお方。ゆえにわれわれスクール関係者一同、
あなた様を修行の観測におけるゲスト相談役として、お迎えしたのですよ。
何があろうと、これからも頼りにさせていただきますとも。マスター」


 シルエットのドラギィは、しゅっと暗がりにまぎれて消え失せました。


 志朗氏はイスから立ち上がり、窓を開けてベランダへ出ました。
手すりに寄りかかり、涼やかな夜風を顔にあびながら、
まるで物思いにふけるように涼やかな夜空の星々を見上げます。


(ゲスト相談役……そうとも。これからも修行のお手伝いをかねて、
ちょこちょことちょっかい出させてもらうよ――
フラップ、フリーナ、フレディ――それから、レン君)


 まあ、でも……志朗氏は、どこか謎めいた笑みを浮かべました。




(べつに、キミたちのためにやるわけじゃないんだけどね)


 
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