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〈フロン編〉
4『でたらめ話は、人を笑わせたい時にするべし』②
しおりを挟む「「「ごちそーさまでしたぁ!!」」」
三匹のドラギィたちが、手の肉球を合わせて元気よくあいさつしました。
今夜のメニューはレンが久しぶりに小皿にもって出してくれた特製カレー。
しかも、お店では激辛にあたる『4辛』の、真っ赤なソースのカレーでしたから、
三匹とも大満足でした。ドラギィは辛いものが好物なのです。
「うーん! やっぱり辛い食べ物は最高においしいです」
フラップの陽気な一言に、フリーナとフレディが相づちを打ちます。
「お店の残り物だけど、キミたちにそうして喜んでもらえると、
オレも台所からこっそり運びこむ甲斐があるよ」
親が下のお店に出払っているのを見越しながらカレーを運んでくるのは、
手間はかかるけれど悪いもんじゃないなと、レンは思うのでした。
「カレーももちろんいいが――」
フレディが床の上からふわっと浮かびながら、言いました。
「ぼくとしてはそろそろ、魚が食べたい頃合いだったりするんだがね」
「魚かあ」レンは天井を見上げながら考えこみました。
そういえば、ドラギィたちに魚をごちそうしたことは、今まで一度もありません。
いつもだいたい、しろさんがラボでチーズ料理を彼らにふるまってくれますから。
「ドラギィって、やっぱり魚も食べるの?」
「ええ、よく食べますよ」フラップも、ふわっと飛び上がって言いました。
「故郷の空島では、ソライロマスとか、テンクウサーモンをよく食べてました。
たま~に、ウンカイダイなんかをお祝いの席で食べたり」
「ぼくは、ウンカイダイの刺身が大好物だな!」
フレディが珍しくウキウキとしていました。
前に、彼から魚が好きという話を聞いたことがあるのを、
レンは思い出しました。
「うーん……さすがに刺身は難しいかなぁ」
「アタシ、お魚よりパイのほうが好きだなあ」
フリーナが最後に飛び上がって、そう言いました。
「スカイランドにも、パイ料理があるんだヨ。
アップルパイとか、イチゴパイとか、バナナパイとか。
甘酸っぱいものだーい好き!」
好物のフルーツののったパイを次々と思い浮かべて、
フリーナはペロッと舌なめずり。食後のデザートを食べたいと言いたげでした。
レンは苦笑いして答えます。「パイは……もっと難しいや」
すると、フレディがおもむろに両手を上にあげました。
その両手から、ぷく~っと、石鹸泡のような光沢が輝くシャボン玉が出てきて、
フレディの手から離れたかと思うと、それはプルプルと震えながら少し大きくなり、
次第に変形しはじめました。フレディお得意の『泡ざいくの術』です。
「何作ってるの?」と、フラップが聞きました。
「魚だよ。こっちの世界に来てから、ぼくは、初めの頃は森に住んでたんだ。
その頃は、近くの川で魚を取って食料にしていたんだが、それっきりだなと思って。
だから今、泡で作りたくなったんだ」
フレディの頭上には、今やたっぷりと身のつまった美味しそうな魚が、
今にも泳ぎ出しそうにプカプカと浮かんでいました。
「ウンカイダイだね! ああ、ぼくも久しぶりに食べたくなっちゃったよ」
「フラップは、刺身よりも、焼いて食べる方が好みだったよな」
「まあ、レッド種は炎の一族ですから」フラップは得意げに答えました。
「オレも、スカイランドに行ったら食べてみたいな、そのウンカイダイってやつ」
「ウンカイダイは高級魚ですから、食べれるチャンスがあるかどうか――」
フラップがそう答えたとたん、宙に浮いていたウンカイダイが、
パアーン! と音を立てて割れてしまいました。
見ると、フリーナが両手をシンバルみたいに打ちつけて、
フレディがせっかく作った泡ざいくを割っていたのです。
「アタシぃ、お魚は生臭いにおいがきついから嫌いナノ。
ウカビハマグリとか、ハネサザエみたいな貝類も、ぜんぜんダメ」
フリーナはちょっぴり不機嫌そうでした。
そのかたわらではフレディが、割られてしまった泡ざいくを悲しく思って、
目元にわずかな涙をためていました。
「キミも……ぐすっ、そんなにパイが、好きなら……、
魚のパイなんかも、あるから、ぐすっ、きっと気に入ると、思うぞ。
今話題にしてた、ウンカイダイも、そうだが、ひっく……、
テンクウサーモンのパイ、なんかも、ぐすん、絶品なんだぜ……」
「テンクウサーモンのパイ!」フラップはくるんと宙返りしました。
「ぼく、前にフレディの家でごちそうしてもらったことがあったなあ」
「いーやアタシ、甘くも酸っぱくもないパイなんて、やだヨ。
でも、お魚に似せて作られたあの『タイヤキ』は、オイシかったなー!」
フリーナは、前にフラップといっしょにレンに連れられて、
うさみ商店街のお店のたい焼きをごちそうしてもらった日がありました。
その時のことを頭に思い浮かべて、またもやペロッと舌なめずりするのでした。
「竜ならやっぱり、お菓子より、辛いものや魚だよ」
と、フラップは言いました。
「辛いものや、甘いものは好きだケド、お魚は食べたくないですー。
お野菜とか、苦い木の実も食べようと思いませんー。
ねっ、レンもそう思うよネ!」
いきなり、フリーナはレンの背後に回ると、
むくむくむく~っと身体を大きくして、
大人のライオンと同等のサイズになると――
自分の胸に、レンの身体をぎゅうっと抱きよせました。
「えっ、えっ、ちょっ、なになに?」
「レンもアタシといっしょで、辛いものと甘いものしか食べないよネ~。
ねえねえ、そうでしょ~。そうだって言って~」
フリーナは、レンを抱いたまま左右に激しく身体をゆすりました。
こんなことを口にするわけにもいきませんが、
フリーナのふくらんだ胸がいやに気持ちよくて、
このままこうして抱かれていたら眠れるんじゃないかと、レンは思いました。
少し暑苦しいですけれどね。
「あっ、いやっ、あのっ、オレはね――」
「言うよねえ、レン~? さもないと、ハッピー☆スパ――――ク!!」
バリバリバリバリ~~~ッ!!
虹色にほとばしる幸福の電気が、狭い部屋の中をこうこうと照らし出して、
一人と二匹の友達を激しく包みこみました。
強烈な全身マッサージ。疲れを吹き飛ばすいやしの雷。愛情いっぱいの衝撃。
「――あ、ごめーん。アタシ、ついうっかりヤッチャッタ」
スパークが終わった時、わざとらしくペロッと舌を見せるフリーナの前に、
床の上に転がるレン、フラップ、フレディの姿がありました。
「……フリーナ。キミには、かなわない、よ」
フラップが、口から黒い煙を吹かしながらそうつぶやくのでした。
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