緑の指を持つ娘

Moonshine

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秋祭り

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「エズラ様、お元気でした??」

ナーランダに馬の上からおろしてもらうと、大きな笑顔でべスはエズラの元に駆け寄る。

「元気なわけあるか、お主が挨拶もせんと王都から帰ってしまったから、ほれ、わし寂しくて100歳は老けてしまったわい」

顔のあまたある皺とシミを適当に指差して、ベスの同情を買おうとしているエズラは、とてもではないがこの国の賢者という風態ではない。

「おお、髪も切ったのか。少し垢ぬけたの」

エズラは毎日ちゃんとご飯を食べているか、王都は寒くないか、と完全に孫をかわいがるおじいちゃんだ。
おじいちゃん子のべスは、エヘヘ、と実に嬉しそうにエズラに頭をなでられている。

「エズラ様ったら、お元気そうでなによりです。所でどの山車がエズラ様のものですか?」

大勢の魔術師や絵師たちがワイワイと山車の最終調整をしている所がべスにはとても物珍しい。

どの山車も金銀や花々に彩られて、それぞれに実に美麗だ。ベスの田舎のお祭りでも山車は出るが、その年収穫された小麦の藁を編んで作り、花々で飾りつけをする素朴なもので、それはそれでとても可愛いのだが、この様に美しい山車は初めて見るのだ。

山車は神殿の祝福を終えたのちに、それぞれ王都の各地区に戻って秋祭りの期間展示される。人々は52の地区を回って山車を見物に出かける。
評判の良い山車には見物人が殺到するため、見物の観光客相手のお土産屋や屋台が繁盛して地区の経済が活性化するという仕組みだ。

祭りの最終日に山車の最終投票が行われて、順位が決まる。優勝した山車を輩出した地区は、一年間の減税措置を受けるため、皆本気だ。

「あれじゃあれ。今年こそは確実に優勝してみせると、いつもの倍は予算をつぎこんだ」

ははは、と大きくエズラはわらって、一つの山車をベスに指さした。
エズラの家の家紋が大きく入った真っ黒の山車は、角度によって七色に光る、美しい黒い羽根に覆われていて、実に洗練されている。

この羽根は確か・・

「エズラ様、今年は本気ですね。これではお家の財政が傾いてしまいます」

ナーランダは感心しながらも呆れてそう言った。
この山車を覆うようにはりめぐらされている羽毛の持ち主の鳥は、夜光鳥とよばれる鳥で、夜会の髪飾りに大変人気の鳥の羽だ。
小さな山車とはいえ、これほどの量が惜しみなく利用されているとは、どれほどの金額がこの日の為についやされているのか。エズラの山車道楽は本物のようだ。

「わしが毎日汗水をたらして働いておるのは、年に一度のこの日のためじゃ」

エズラは周りの聞く耳をもたないらしい。
去年は僅差で、宰相の担当地区が優勝して地団駄を踏んで悔しがっていたのだ。

「べスが力を貸してくれたら、ワシは必ず優勝できる。優勝できたら、それだけの金をかけた価値があるもんじゃ。さあベス、わしに見せてくれるか?」

「はい!」

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ノエルが温室に引きこもりだしてから、もうどのくらい経つだろう。
いつもは温室の外であれこれとうるさい役人やら神官やらも、さすがに秋祭りの今日はノエルの説得をしに温室の外まできていない。これからしばらくは、静かな日々になるとノエルはほっとする。

今頃おさげ髪のあの娘は、村の小さな祭りに繰り出しているのだろうか。
祭りの日でしか食べられないというはちみつの焼き菓子の事を、あの娘がそれは熱を持って話してくれた事を思い出す。

正直どこにでもありそうな素朴なお菓子だとノエルは思ったのだが、べスの口から語られるそのお祭りのお菓子は、この世のものとは思えないほど甘く美味しくて、ワクワクするようなお菓子に、感じた。

(ノエル様、噛むとジュワッとハチミツが溢れるんです。噛むのが惜しくて、でも噛み締めて味わいたくて、どうしようかと口に入れて悩みます。噛んじゃったら、噛んじゃったで勿体無い!と美味しい!の間で心が揺れて、それから幸せが込み上げてくるんです)

ベスのキラキラした笑顔を思い出す。
そしてあの優しい娘は言うのだ。

(ノエル様にも食べさせてあげたいな)

(今頃、べスはどうしているだろう)

鬼百合がそろそろ開花だ。
美しい花びらの中に秘められた、馥郁たる濃厚な香りをあたりに漂わせはじめている。

鬼百合のオレンジ色の花弁は、べスが咲かせようとしていた百年草の花びらと同じ色だ。
素敵な恋人と、秋のお祭りをめぐるために、よき出会いがあるという開花の難しい百年草をベスが栽培していたのが二人の出会いのはじまりだ。

ノエルは静かにべスの笑顔を思い出していた。

「ノエル様ー!メシの時間です!」

今日のノエルのご飯当番らしいロドニーが、ノエルの結界の一部を遠慮なく破壊して入ってきた。

「ってか今日から秋祭りですよ。ちょい出掛けてきますか?俺が幻影魔法貼っておきますよ」

騒々しい男の来訪に、ノエルは水やりの手を止めて、一休憩を入れる事にした。

「ありがとうロドニー。だが祭りに興味はない」

そして汗を拭きながらソファに腰を下ろすと、言った。

「それに、どうも最近ナナちゃんの様子がおかしいんだ」

ナナちゃんは糸を吐き終わったらしくここの所おとなしくしていたのだが、その後ナナちゃんは菖蒲と菖蒲の間に、白くてねばねばする糸の繭にくるまれて、そのまま動かなくなってしまったのだ。

心配したノエルが魔術をかけてみると、生体反応はきちんと出るので、一応中で生きてはいるらしい。

気持ち悪いが。

ロドニーは一言、うげえ、と気味悪そうにナナちゃんの様子を一瞥すると、もう興味をなくしたといった様子でノエルの為にもってきたはずの差し入れのサンドイッチを行儀悪くかぶりつく。

ロドニーのお昼のおこぼれを狙って、ドラが近づいてきた。
ロドニーは頭をなでてやる。いつもはふてぶてしいドラが、ナーン、と甘い声を出して甘える。
よしよし、お前は俺の事が好きだなあ、とロドニーはサンドイッチから肉の塊をとりだして、ドラにくれてやる。
(ちなみにドラはご飯をくれる人間には皆この態度だ)
ドラは旨そうにニャウニャウと声を出して肉にくらいついていた。

「なんでも今年はエズラ様、山車にすごい仕組みをつくったらしいですよ。俺も今年は山車見に行こうとおもってます」

バスケットについている家紋の紋章を見る限り、サンドイッチはエロイースからの差し入れだろう。
ノエルもロドニーに向かい合って座り、サンドイッチに手を伸ばした。
ローストビーフにクランベリーのジャムは、さすがの公爵家の台所だ。

「あの方の山車道楽も今にはじまった事ではないからな。去年は惜しくも2位だったか?それで、今年はどんな仕組みを作り上げたんだ?」

ロドニーはサンドイッチを食べる手を止めずに言った。

「なんでも、癒される空間だとか」

「はあ?」

ノエルはおもわず手にしていたサンドイッチを落としそうになり、すんでの所で事故から救った。
ドラが残念そうに横目でノエルのサンドイッチをみている。

ノエルは少しだけ中身のローストビーフを分けてやり、ドラの頭をなでてやる。
ドラは「ナーン」と幸せそうだ。

「あの方が癒しの空間?馬鹿を言え。あの方は毒の専門だ。あの方の手にかかれば、子供のおもちゃですら大量殺人兵器にかわるぞ。何をいってる」

ロドニーからもノエルからも思いがけなく良い肉をもらって、とても満足そうなドラは、眠くなってきたらしい。

腹をみせて爆睡するドラは、とても元野生の猫に見えない。

割れた耳を上下させて、すっかり眠りについたドラの眠りを妨げない為、ロドニーは声をひそめて、勿体付けてノエルに言った。

「それが、ものすごい好評なんですってさ。王都中が大騒ぎになってます」



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