緑の指を持つ娘

Moonshine

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秋祭り

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閃光が落ち着いて、少しずつ目をすがめる。

(一体今のは・・)

白い視界の中から、ロドニーの顔が見えてきた。
ロドニーは、地面にのびていて、口から泡を吹いて気を失いかけているようだった。

「おい、大丈夫か!!」

ノエルがロドニーを急いで抱き上げる。どうやら息はある。
ほっとしたのもつかぬ間、そんな二人の前に、音もなく、大きな影が現れた。

(何人たりともその姿を見てはならぬ。その声を聞いてはならぬ)

その存在感は大きな雷の近付くごとくであり、竜巻の前の静けさのようであり、静かな、そして途方もない暴力的に強大な力の存在に、身体中の毛が逆立つ。

神と呼ばれる存在に遭遇したという古代の賢者の言葉を、そっくりそのままノエルは思い出した。
その姿は目が潰れるほど美しく、その声を耳にすると、その衝撃で耳が破壊されると、古代の魔術書に書かれていた。

恐る恐る、ノエルは頭を持ち上げる。
ノエルとロドニーの目の前にはナナちゃんも、そしてかつてナナちゃんであった、気味の悪い繭もいない。

そこには大きな蝶の羽を持つ、黒く長い髪の、目が潰れるほどの美しさを誇る男が宙に浮かんで大きな影で二人を覆っていた。

男の頭上に掲げられている大きな冠。大きな冠からは二本の触覚がのびている。纏うのは深い赤い衣装。
整った顔の瞳の部分には白目が存在しない。吸い込まれるように輝く、真っ黒の夜空のように輝く瞳。瞳に何を写しているのか、全く読めない。
目の前のノエルを見据えているようにも、はるか遠く世界の叡智を見ているようにも見える。

この男は、人ではない。
ノエルが何をどのようにしても、叶う相手ではない。相手は神の領域の存在だ。ノエルは途方もない巨大な力の存在を察して恐怖に震えながらも、ロドニーを脱出させる方法を考えようともがく。

そうしている間にも、この人外の存在の強力な眷属達が続々と現れてきて、ノエルとロドニーの周りを浮遊する。
ノエルの魔力では、この眷属達の一体と戦って相打ちが、せいぜいという所だ。万事休すだ。

蝶の羽を持ち、この触覚の伸びてある冠を掲げる存在は、ノエルの全ての知識を洗っても、該当するのはたった一人だ。ノエルが生きているうちに、その伝説の存在に会えた事の魔術師としての興奮と、暴力的な力の圧倒的な大きさに震えながらも、なんとか声を絞り出した。

「妖精王、オベロン・・・」

「いかにも」

目の前の男は、満足したかのようにノエルに微笑んだ。

「ななななななんで??ナナちゃん??」

半分気を失いかけながらも、半分白目でロドニーは言った。

「お前達弱き生き物である人の子に危害は加えない。心配は無用だ。この姿に戻る事ができたのは、本当に久しぶりで気分が良い、ベスと、そなたのおかげだな。礼を言う」

ノエルは、ベスの名をこの人外の存在の口から聞いて、体の血の全てが逆流するような気持ちになる。
先ほどまでの恐怖はどこかに消え失せて、ロドニーを放り出してオベロンの前に駆け出した。

眷属達がうるさくノエルの周りに警戒し、ぱち、ぱちとノエルは電気の痛みを肌に感じる。

「妖精王オベロンよ!」

ノエルは叫ぶ。

「なぜ醜いナナちゃんの姿を? なぜここに、私の温室に出現した?」

ノエルは矢継ぎ早に質問を投げた。
オベロンはゆっくりと、質問に答えた。

「妖精の王の代変わりだよ」

「妖精の王は、森の生き物の妖精の眷属の中で、最も醜く、無力な命の中から生まれる。最も醜く、最も無力な命の中で、その天寿まで生き延びる事ができたものが、前の妖精王の記憶を引き継いで、最も美しく、最も強く、最も賢い妖精の王となる決まりとなっているんだよ」

「ベスがナナちゃんと名付けて、このナメクジだった命を、その命の限界の天寿を全うさせるまで生き延びさせた。バナナナメクジは中々弱い個体だったろう?クコの実でも毎日与えていなければ、鳥に食われなくても、ナナちゃんは半分の大きさくらいに成長した時点で、体が病気になって動けなくなって、天寿を全うせずに土に還っていただろう。代変わりは、条件の整った命が完全にその天寿を全うした時点で叶う。今回の代変わりは、実に五百年ぶりの事だ」

「‥ベスが、貴方を妖精の王に」

「いかにも。ようやく代変わりが叶って、久しぶりに身体中に力が満ち溢れているよ。本当に気分がいい」

クコの実には強い滋養強壮の成分がある。
非常に貴重な実で、温室でも大切に栽培されている。

ベスがこんな貴重な実を、一応害虫で駆除対象であるナナちゃんに与えていたのはいっそ面白くて、ノエルはほったらかしにしていただけなのだが。

「前の妖精王は、金色のみみずで魔女の元で大切に飼われていたものだ。妖精王を輩出した魔女が住んでいた森が、精霊界への入り口となって今に至るのだ。この温室を選んで妖精王の発生の場としたのではない。ベスがナナちゃんの天寿を全うするまで世話した場所が、この温室だったというだけだ」

そしてオベロンは実に可笑そうに笑った。

「まさか妖精王が、こんな人間の世界の真ん中で発生するとは、次代の精霊界は面白い時代になりそうだ」

ノエルはたまらなくなって、絶叫した。

「ベスは!!一体何者なんですか!!」

ノエルの知っているベスは、ただの心優しい、純朴な田舎の娘だ。ノエルは、己の大切な娘の、何かとてつもなく重要な何かを知らずにいる。

「あれは紛れもなくただの人の子だよ。王の子でもない、魔力もない、ただの人の子だ」

「では一体なぜ??なぜベスには声なきものの声が聞こえる??なぜ植物の、動物の心が手に取るように分かるんだ??」

オベロンは、やれやれ、といった様子で答えた。

「お前達愚かな人間にはわからないのか?あれは、妖精が攫ってきた人間の子供だ。精霊の取り替え子、チェンジリングスと、お前達は呼ぶのだろう?」


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