緑の指を持つ娘

Moonshine

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緑の指を持つ娘 温泉湯けむり編

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アビーブの王都は、温泉を利用した観光地として実に有名だ。

特に王都の真ん中にある大きな市民用の温泉は観光の名物で、多くの地元の愛好家と、大勢の外国からの観光客とでごった返している。

ノエルは、夜フケだというのにアビーブに到着早々ベスを連れ出して、今晩はゆけむりの温泉街を二人でそぞろ歩きだ。明日の朝には実際の温泉に連れて行ってくれるという。

「べスと観光できるならという条件で親善使節に入ってやったんだ。文句あるまい」

ノエルはそう言って、社交に外交にと準備に忙しそうなナーランダと親善大使のジト目を後ろに、夜も更けたアビーブ王都の街に、ベスをそぞろ歩きに連れているのだ。

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「お、おそろしいわ、ノエル様・・この街には魔法がかかっているのかしら。気がついたら、こんなにたくさんのいらない物を買いこんでいるのですもの・・」

ガラクタでいっぱいになった両手を見つめて、ベスは慄いた。
べスは普段はあまり物欲がないのだが、夜も更けたアビーブの温泉街で、ふらふらと目的もなく店をのぞく度に何かしら手にして店を出てしまう。興奮がおさえられないのだ。

ガヤガヤと観光客でごった返している土産物屋には、ベスの見たことのないガラクタがいっぱいだ。

クマの彫り物やら(エズラへの土産だ)奇妙な美人の面や(これはエロイース宛らしい)剣に竜がまきついている小さな銅の財布飾り(これは聞かなくてもわかる。ロドニー用だろう)果ては三角のペナント。(これは自宅に飾る用らしい)

どう考えても普段は絶対に買わない土産用の品物が実に魅力的に見えて、どうしても欲しくなって、ノエルにおねだりをして沢山土産を買い込んでしまったのだ。

ノエルは笑ってべスが欲しがる全てのガラクタを買ってやって、言った。

「温泉町というのはそういうものだ。普段食わない物を食って、普段買わないようないらない物を買うのが醍醐味だ。お前の婚約者は甲斐性があるから、欲しいものは全部買ってやるから、遠慮するな」

すでに何度もこの国に学会で逗留した事のあるノエルは慣れたものだ。

ノエルは口を一杯に、温泉街名物の駄菓子を食べて幸せそうなベスをニコニコと幸せそうに眺めて、二人の幸せな一日は終わりを告げる。

そして観光二日目、ようやくおまちかねの温泉だ。

ノエルが連れて行ってくれたのは、王都の広場の真ん中に位置して市民であればだれでも入浴ができるという、タイル張りの屋外の大きな施設だった。

「うわあ!ここほとんど池ですね、すごいですね!」

「そうだな、この大きさはまるでタイル張りでできた池のようだな。ここは市民浴場だからだれでも入浴できるアビーブ名物だ。ベスもあそこの建物で入浴着をかりて、後でここのライオンの像の所で落ち合おう」

隣接する建物で専用の入浴着に着替えさえしたら、だれでも入っていいのだ。
この温泉は市民の憩いの場で、観光の目玉。
この国の北部にそびえるアビーブ山は活火山で、火山の活動の影響でそこらかしこらに温泉が湧き出るのだという。

ここは王立魔法学校の水魔法の魔術学生が練習も兼ねて水質管理を行なっており、良い水魔法の学生の訓練の場になっているとかで、水質も非常に高い。

老いも若きも、男も女も、小さな子供達も皆入浴着をきてぱちゃぱちゃと楽しそうに温水の中を泳いでいる。

「ここは私が考えていた大きな地面からお湯が出てくる魔法のお風呂というより、街中の噴水広場がお湯になって、遊び場になっているみたいですね!」

世界とは広い物だと、ベスは感心する。ベスは自分の育った田舎しか知らないので、ノエルが説明してくれた温泉というものが、こんなに巨大で楽しい場所だとは、想像すらできなかったのだ。

ベスいとって風呂とは、ただ身を清める場所だとばかり思っていたが、どうしてどうして。
ここの風呂はまるで遊戯場だ。

巨大な池の如く浴場の、四方に設置された口からお湯を吐く、金のライオン。
お湯が流れてくる滑り台。
奥の方には泡がぶくぶく湧いてくる魔術が施された仕組みの面白いお風呂もある。

なお、貴族用の施設は少し奥に入った石づくりの建物の内にあって、個室制で予約制なのだとか。
貴族用の個室よりは、平民用の一般屋外施設の方がよほど面白いと事前にノエルは聞いていたので、こうしてベスとノエルは二人してのんびり平民用の屋外温泉を楽しんでいるのだ。

「そうだな、実質は遊戯場だが、ここの温泉にも薄いが薬効もあるんだ。多少の体の不調であればここで遊んでいれば整うと聞いている」

泡にぶくぶく体を任せて、ほう、と息をついているノエルだが、やはりその美貌は一般人の間では相当目立つ。
皆と同じ入浴着で皆と同じように風呂に入っていると、逆にノエルの美貌はまるで彫刻のように浮き立って、アビーブの王都に点在する美しい彫刻の像の一つの様だ。
ちらちらと薄着のノエルの肌を横目で見て頬を染めて様子を伺っている若い娘達が後を絶たない。

「すごいですね、でしたらこの国の人はお医者様いらずですね」

なんとなく娘たちのノエルへの視線が不愉快で、ノエルの首にしがみついて泡に一緒に身を任せてみるベスに、ノエルは実にご機嫌だ。

「ああ。ここの施設は観光用の娯楽施設だが、温泉での病気治療専門の施設もあるんだ。源泉に近ければ近いほど効能が強いから、山奥には多くの療養所がある」

風呂の横の売店で、しゅわしゅわとした炭酸水の入った水を買ってきて、べスに渡すと、ノエルは言った。

「明日は首都から離れて、アビーブ山の方に行く。そこの王家の離宮で湯治にはいっている尊いお方がいるんだ。今回の俺の仕事は、このお方を診断する事だけだから、今晩は旨いものでも食べ歩いて、趣味の悪いはがきでも見て回ろうか」

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