緑の指を持つ娘

Moonshine

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緑の指を持つ娘 温泉湯けむり編

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「・・・そうですか。フェリクス王太子の容態はそこまで」

ノエルとベスが温泉を呑気に観光している頃、末端とはいえ王族に籍を置くナーランダは、親善使節団として、ナーランダは王と王妃の主催する晩餐会に招待されていた。

アビーブの王宮は全て白い大理石で、実に巨大で繊細に作り込まれている。
廊下を曲がるたびに壁にはそれぞれの時代を代表する作家の絵画や彫刻が所狭しと並べられ、王家お抱えの魔法部門によって、一日中城の中は明るく清潔で、快適な温度に保たれている素晴らしい王宮だ。

アビーブ王国は、国力も高く、魔法文化も大きく花開いた経済大国で、文明国だ。
ユージニア女王の敷く新政権下の元、是非アビーブ王国と強い友好関係を構築していきたいという使命をナーランダは帯びて、使節団に参加しているのだ。

研究室でのナーランダは簡易な紺のローブを纏っているが、王族としての白い衣装に身を包んだナーランダは、紫色のその長い髪と合わせ、実に厳かな美しさだ。
研究職にその身を投じているが、傍系とはいえ、ナーランダの王位を願う声が絶えないのは、その魔術の才能と合わせ、その厳かな美貌も理由である。
己の国の頂点に掲げる人間が美しければ美しいほど良いと考えるのは、アビーブ王国の国民だけではない。
どの国の民も同じなのだ。

「ええ、もう誰とも会いたくないと引きこもっておりますの。自分の事を、化け物だと自嘲して。あの天使のような美貌を誇った私の王子がううう・・・・」

晩餐会の後、王族の客室で歓待を受けていたナーランダは、この国の訪問の目的の一番の理由である王太子の惨状を王妃から耳にして、大きくため息をついた。

王妃は他国からの賓客の前であるというにも関わらず、さめざめと涙が止まらない。

王妃の美貌は大陸中の吟遊詩人の恰好の創作の元となるほど、よく知られた大変な美貌であり、そしてそれを己の誇りともしてきた。

フェリクス王太子はその王妃によく似た大変な美貌の王太子であったはずなのに、今は自分の外見を化け物と揶揄するなど、美貌を誇りとして生きてきた王妃の心は如何許りだろうか。

「フェリクスは気位の高い子でしたから。あの子の輝く美貌も、未来の王として神より与えられたものと、フェリクスも私も大いに誇りにしておりました。未来の輝かしい王として、私どもも決して誰にも弱みを見せる事のない様に、全てを完璧にと育てていたのです・・馬術も、学問も、剣術も・・そして美貌も・・うう・・それが、裏目に出るなんて」

ナーランダが、壁に飾られたフェリクス殿下の肖像を見る。
壁に飾られたフェリクス殿下の肖像は、自信にみなぎった、輝かんがばかりの若き美貌の未来の王の姿だった。
その美貌は未来の王の威厳を飾る、大切な権力の象徴であったのだろう。

王が、言葉を継いだ。

「我が息子ながら、フェリクスは完全無欠の、国で一番の輝くばかりの美貌と才能の若者であったと思います。そしてそれを我々も、息子も誇りにしておりました。息子は今、完全無欠ではない自分が受け入れられないのです。弱りきって魔女に見せても、あの皮膚は呪いの影響ではないという。獅子の王子と呼ばれた我が子がこの手に戻ってくるのであれば、私は・・・」

王は両手で顔を覆った。

「今フェリクスは体中の皮膚がはがれて、髪は抜け落ち、一日中体を掻きむしっておりますの。離宮にこもって社交もせず、鍛錬もせず。せめて学問だけでも、と勧めたのですが、それも体がかゆくて集中できないし、このような化け物に一体何の学問が必要なのかといって、あれほど本好きだった息子が、本など一冊も手にしなくなったのです。す・・もう、誰とも会いたくないと、友人にも会わず、私達にも会わずに、ずっと田舎に療養という体で引きこもっておりますの」

この王国の未来の王。

獅子の子と呼ばれたほどの、美貌と才能に恵まれた、未来を嘱望されていた完全無欠の若者だ。
この国の乙女の憧れという憧れを一身に浴びていた、一点の曇りもなかった完璧な王太子が、皮膚を理由にその未来を投げ出そうとしているのだ。

ナーランダは、涙にくれる王妃にかける言葉をかけた。

「・・明日、サラトガ魔法泊がお忍びで殿下の元に伺います。何かお力になる事が叶う事を切に願います」

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