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緑の指を持つ娘 温泉湯けむり編
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(・・・昨夜の眠りは、実に素晴らしかった)
目覚めたばかりのフェリクスは、乾いた清潔なシーツの上での、安らかな目覚めに涙があふれてきた。
昨晩の長い入浴で、疲れ切った心と体は夢もみずに深い眠りにいざなわれ、今日の目覚めには、一筋の眠りの世界への未練を残さない、子供の日の力みなぎる、希望の朝のような目覚めだったのだ。
夢すら見ることはなかった。
シーツを見てみる。
どこも、血の跡も、膿の跡もない。
かゆくない。
いたくない。
フェリクスの皮膚はまだあちこち肌が剥けて、赤黒い惨い状態ではあるが、明らかに回復しているのだ。
皮膚はその破れた部分を継ぐべく新しい細胞を伸ばしている。
まだ、古い魔力が巡っているのは感じるが、それは昨日までの激しい嵐のような苦しみを伴うものではない。
そっと恐々と、髪の毛に触れてみる。
2.3本の金の糸のような髪の毛が指にからまったが、それだけだ。
昨夜までは、髪をひっぱると、ごっそりと束のように頭皮から抜けて、抜けた後から体液が流れ出て、朝がくる度陰鬱な気持ちになっていた。
べスがそうした方がよいとメイソンに告げた通り、昨日はいつもの純白の絹のシーツの上ではなく、農家の家の青年のように、麻と綿を混紡した、荒い生成り色のシーツの上で眠りについた。
生成りのシーツは、昨日眠った時と同じように少し固く、ゴワゴワと心地よく、清潔な状態のままで朝を迎えた。
シーツだけではなく、普段使っているコカトリスの羽毛を使ったやわらかい枕も、ベスが固い穀物の殻と、乾燥させたラベンダーの花を入れただけの、べスがいつも使っているものと同じものに変えてくれた。
頭を動かす度に固い穀物の殻が心地の良い音をたて、ラベンダーの花の香りが鼻孔を優しく撫でた。
全て、フェリクスが風呂で眠っている間に、オリビアの担当する主寝室の掃除を手伝ったべスのアイデアだ。
普段の夜は花粉やほこりを恐れて締め切っている窓も、昨晩は大いに開けて、部屋にはみずみずしい、心地よい新しい空気の新しい風が通り抜ける。
メイソンは、フェリクスの目覚めを待ってその許可を取る事なく、フェリクスが風呂で眠ってしまっている間に、さっさとべスの言った通りの寝室をフェリクスに手配して、風呂上がりのフェリクスを直ぐにベッドの上に投げ込んだ。
一般的には、この行動の全てはアビーブ王太子フェリクスに対し、不敬極まりない行いである。
だがフェリクスは、そんなメイソンにも、べスにも、フェリクスへの不敬を恐れず、ただただ素晴らしい朝を贈ってくれた感謝しかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それは誠心誠意で謝るしかないでしょうね」
ベスとノエル、そしてオリビアとその婚約者に大変な事をしでかしてしまったフェリクスに、淡々と言い放つ。王族は決して頭をさげない生き物だ。
否、だれにも決して謝罪をしないように特別な教育を受けている身分だ。
「お前・・正気か」
「それだけの事をしでかしたのですよ。なんとお可哀想なベス様。それからオリビアまで、お体の中心の輝かしいものを見せられてしまうなど。憲兵を呼べば、フェリクス様といえど三日は牢に閉じ込められる軽犯罪です」
よよと泣きまねをするメイソンを叱責する気すら失せて、真っ赤になってしまった。
そう、昨日事故とはいえ、自分の大変輝かしいものを二人の乙女に見せてしまったのだ。
「自分の罪を認め、丁寧に謝罪をすれば許される事がこの世は多いですが、どうでしょう」
欲深い連中や、虚栄心の強い連中の相手をするのは簡単だ。
名誉や金を与えれば、ほぼ誰でも溜飲を下げるのだが、特にサラトガ魔法伯は温室でナメクジと語らっているような噂のある変人だ。誠心誠意謝罪して、許してもらうしかなさそうだ。
王族の謝罪の重さを知っているフェリクスは少し青くなる。
・・いや。
(私は確かに大罪を犯している。寝ても覚めても、あの娘に対する思いは強くなるばかりだ)
実はフェリクスは、メイソンにすらもあの外の不思議な温泉での出来事は打ち明けていない。
あの森での出来事、あの日、幻のように見てしまったべスの温泉での白い姿。どのベスの姿もフェリクスの眼裏に焼き付いて、気がつけば思いは否定できない重さになってしまっている。
そして、昨日贈られた、あの風呂のひと時。優しい夜。
(どれだけ謝罪しても、私はすでに償えない罪を犯してしまっているのかもしれない。ああ、なんと私は罪深い)
うっとりとベスの事を考えるフェリクスの思考を、メイソンが邪魔だてをした。
「お考え事中に失礼ですが」
ニヤニヤとメイソンが笑いを堪えたような顔をする。
「サラトガ魔法伯がお見えですよ。こんな早朝から、おおこわい」
目覚めたばかりのフェリクスは、乾いた清潔なシーツの上での、安らかな目覚めに涙があふれてきた。
昨晩の長い入浴で、疲れ切った心と体は夢もみずに深い眠りにいざなわれ、今日の目覚めには、一筋の眠りの世界への未練を残さない、子供の日の力みなぎる、希望の朝のような目覚めだったのだ。
夢すら見ることはなかった。
シーツを見てみる。
どこも、血の跡も、膿の跡もない。
かゆくない。
いたくない。
フェリクスの皮膚はまだあちこち肌が剥けて、赤黒い惨い状態ではあるが、明らかに回復しているのだ。
皮膚はその破れた部分を継ぐべく新しい細胞を伸ばしている。
まだ、古い魔力が巡っているのは感じるが、それは昨日までの激しい嵐のような苦しみを伴うものではない。
そっと恐々と、髪の毛に触れてみる。
2.3本の金の糸のような髪の毛が指にからまったが、それだけだ。
昨夜までは、髪をひっぱると、ごっそりと束のように頭皮から抜けて、抜けた後から体液が流れ出て、朝がくる度陰鬱な気持ちになっていた。
べスがそうした方がよいとメイソンに告げた通り、昨日はいつもの純白の絹のシーツの上ではなく、農家の家の青年のように、麻と綿を混紡した、荒い生成り色のシーツの上で眠りについた。
生成りのシーツは、昨日眠った時と同じように少し固く、ゴワゴワと心地よく、清潔な状態のままで朝を迎えた。
シーツだけではなく、普段使っているコカトリスの羽毛を使ったやわらかい枕も、ベスが固い穀物の殻と、乾燥させたラベンダーの花を入れただけの、べスがいつも使っているものと同じものに変えてくれた。
頭を動かす度に固い穀物の殻が心地の良い音をたて、ラベンダーの花の香りが鼻孔を優しく撫でた。
全て、フェリクスが風呂で眠っている間に、オリビアの担当する主寝室の掃除を手伝ったべスのアイデアだ。
普段の夜は花粉やほこりを恐れて締め切っている窓も、昨晩は大いに開けて、部屋にはみずみずしい、心地よい新しい空気の新しい風が通り抜ける。
メイソンは、フェリクスの目覚めを待ってその許可を取る事なく、フェリクスが風呂で眠ってしまっている間に、さっさとべスの言った通りの寝室をフェリクスに手配して、風呂上がりのフェリクスを直ぐにベッドの上に投げ込んだ。
一般的には、この行動の全てはアビーブ王太子フェリクスに対し、不敬極まりない行いである。
だがフェリクスは、そんなメイソンにも、べスにも、フェリクスへの不敬を恐れず、ただただ素晴らしい朝を贈ってくれた感謝しかなかった。
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「それは誠心誠意で謝るしかないでしょうね」
ベスとノエル、そしてオリビアとその婚約者に大変な事をしでかしてしまったフェリクスに、淡々と言い放つ。王族は決して頭をさげない生き物だ。
否、だれにも決して謝罪をしないように特別な教育を受けている身分だ。
「お前・・正気か」
「それだけの事をしでかしたのですよ。なんとお可哀想なベス様。それからオリビアまで、お体の中心の輝かしいものを見せられてしまうなど。憲兵を呼べば、フェリクス様といえど三日は牢に閉じ込められる軽犯罪です」
よよと泣きまねをするメイソンを叱責する気すら失せて、真っ赤になってしまった。
そう、昨日事故とはいえ、自分の大変輝かしいものを二人の乙女に見せてしまったのだ。
「自分の罪を認め、丁寧に謝罪をすれば許される事がこの世は多いですが、どうでしょう」
欲深い連中や、虚栄心の強い連中の相手をするのは簡単だ。
名誉や金を与えれば、ほぼ誰でも溜飲を下げるのだが、特にサラトガ魔法伯は温室でナメクジと語らっているような噂のある変人だ。誠心誠意謝罪して、許してもらうしかなさそうだ。
王族の謝罪の重さを知っているフェリクスは少し青くなる。
・・いや。
(私は確かに大罪を犯している。寝ても覚めても、あの娘に対する思いは強くなるばかりだ)
実はフェリクスは、メイソンにすらもあの外の不思議な温泉での出来事は打ち明けていない。
あの森での出来事、あの日、幻のように見てしまったべスの温泉での白い姿。どのベスの姿もフェリクスの眼裏に焼き付いて、気がつけば思いは否定できない重さになってしまっている。
そして、昨日贈られた、あの風呂のひと時。優しい夜。
(どれだけ謝罪しても、私はすでに償えない罪を犯してしまっているのかもしれない。ああ、なんと私は罪深い)
うっとりとベスの事を考えるフェリクスの思考を、メイソンが邪魔だてをした。
「お考え事中に失礼ですが」
ニヤニヤとメイソンが笑いを堪えたような顔をする。
「サラトガ魔法伯がお見えですよ。こんな早朝から、おおこわい」
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