99 / 130
緑の指を持つ娘 温泉湯けむり編
36
しおりを挟む
ノエルは、ベスの望みであれば、なんでも叶えてやりたいと本気で願っている。
例えその望みがこの世で一番大きなサファイアであろうと、王国の一つであろうとも、ノエルはベスが望むのであれば、その能力の全てを駆使して、ベスの望みを叶えるだろう。
そもそもベスは物欲が薄く、ノエルは何か物をベスからおねだりされるなど、滅多にない。
そんなベスが温泉をノエルに強請っているのだ。
(全てに替えても)
ノエルは有頂天で温室の地盤の調査に乗り出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
かつてこの温室には、温泉が引き込まれていた形跡があるとナーランダの調査結果であったが、湯を引き込むのに使われていたと思われる管は、調査を始めたその日のうちに、非常に簡単な探知魔法で地中に見つかった。
ノエルが管の見つかったあたりを軽く探索魔法をかけてみると、見事な石造の湯船の跡が地中に埋まっているのも見える。相当な大きさで、温室の半分をしめる。
間違いない。この温室は元々温泉のために建立されたものだ。
(問題は、どこからどうやって湯を引き込むかだが、これは・・実に良い風呂になりそうな)
湯船は掘り出せば今からでも多少手を入れれば使えそうな、堅牢な作りのものに見える。
ベスの望みを叶えて温泉を作ってやるだけのつもりだったノエルだが、思わず生唾を飲み込んでしまうほどに、良い風呂になる予感がする。
温泉の再建のために掘り起こす予定の場所は、温室の中心、敷石が敷き詰められている中広場のような場所だ。
この場所は非常に広い温室の一部で、敷石とタイルが敷き詰められているのをわざわざ掘り起こすのも面倒なので、普段はベスは園芸用品の置き場所にしている。
探索魔法で地盤の奥をよく見ていると、固い岩盤をそのまま利用しており、岩盤の上に、大きな岩をぐるりと囲んで、浴槽として配置されている。
岩は白粉石と呼ばれるこの王国の名産で、美しい白い岩肌の、非常に美しく、価値の高い岩でのみ構成されている。
おそらくこれほど大きな岩が土壌の中あるとなると、植物を植えても根の育成の邪魔になると判断して、いつの時代にかこの場所を埋めて敷石を引くことにしたのだろう。
この白い岩で囲まれた大きな浴槽に、水色の源泉の温泉の湯を引き入れて、ベスの育てた深い緑の温室で入浴する自分の姿をノエルは想像してみた。
ゆったりと体を湯に浸し、白粉石に体を任せて源泉の水色の湯に体を預ける。
源泉の湯はとめどなく豊潤に流れて、全ての心の、体の重荷の何もかもを流し出す。
いつもの宿の風呂よりもよほど広い浴槽の中、生き生きとした緑の中で、鳥の歌を聴きながら、肺の奥の奥まで、深い呼吸をつくのだろう。
背の高い温室の尖塔になっている場所にある大きな窓を開け広げると、木々のざわめきと共に、そこから湯気が逃げいてくのが見えるだろうか。
うっとりとノエルは思いを馳せながら、温室から空をみる。
温室の尖塔の先にはこの国の建国の神、黒い亀の意匠の風見鶏がついていた。
離宮に到着当初、さすが王家の温室には不思議な意匠を利用するものだと感心してノエルは見ていたのだが、これが建築の当初から温泉の湯気でくるくると回るという作りになっていたとなると、また格別に意味合いが違って見えてくる。
ベスは、源泉の周りには例の黄色い実をつける多肉植物をぐるりと配置したいと、今から温室の模様替えに忙しそうで微笑ましい。
例の人外の温泉をここに再現するのだと、ベスはとても張り切っているのだ。
黄色いその多肉性の植物は、心なしかノエルの方を期待に満ちた視線を送っているような気がして、ノエルはクスリと微笑んだ。
源泉の湯気を浴びて、この黄色い実はみずみずしく輝いて、美しいのだろう。
このベスが妙にこだわっているこの植物は、なんの植物かは誰にもわからない。
特に目を引く植物でもないし、誰も気にしない雑草の類だと思われる。
だが正直ノエルにとって、どうでもいい。
ノエルは機嫌良く温泉に浸かって、あのフェリクスの浴槽の内部に描かれてあった絵画の建国の乙女のごとく、黄色い実と戯れるベスの姿をうっとりと想像する。
そしてその隣で、水色の湯に体を預けて、ベスと湯を楽しんでいる己の幸福そうな笑顔も。
(なんとも・・最高の温泉じゃないか)
離宮から、古いアビーブの民謡だというピアノとバイオリンの合奏が聞こえてくる。
ラッカと、メイソンの最近の午後の日課だ。
例えその望みがこの世で一番大きなサファイアであろうと、王国の一つであろうとも、ノエルはベスが望むのであれば、その能力の全てを駆使して、ベスの望みを叶えるだろう。
そもそもベスは物欲が薄く、ノエルは何か物をベスからおねだりされるなど、滅多にない。
そんなベスが温泉をノエルに強請っているのだ。
(全てに替えても)
ノエルは有頂天で温室の地盤の調査に乗り出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
かつてこの温室には、温泉が引き込まれていた形跡があるとナーランダの調査結果であったが、湯を引き込むのに使われていたと思われる管は、調査を始めたその日のうちに、非常に簡単な探知魔法で地中に見つかった。
ノエルが管の見つかったあたりを軽く探索魔法をかけてみると、見事な石造の湯船の跡が地中に埋まっているのも見える。相当な大きさで、温室の半分をしめる。
間違いない。この温室は元々温泉のために建立されたものだ。
(問題は、どこからどうやって湯を引き込むかだが、これは・・実に良い風呂になりそうな)
湯船は掘り出せば今からでも多少手を入れれば使えそうな、堅牢な作りのものに見える。
ベスの望みを叶えて温泉を作ってやるだけのつもりだったノエルだが、思わず生唾を飲み込んでしまうほどに、良い風呂になる予感がする。
温泉の再建のために掘り起こす予定の場所は、温室の中心、敷石が敷き詰められている中広場のような場所だ。
この場所は非常に広い温室の一部で、敷石とタイルが敷き詰められているのをわざわざ掘り起こすのも面倒なので、普段はベスは園芸用品の置き場所にしている。
探索魔法で地盤の奥をよく見ていると、固い岩盤をそのまま利用しており、岩盤の上に、大きな岩をぐるりと囲んで、浴槽として配置されている。
岩は白粉石と呼ばれるこの王国の名産で、美しい白い岩肌の、非常に美しく、価値の高い岩でのみ構成されている。
おそらくこれほど大きな岩が土壌の中あるとなると、植物を植えても根の育成の邪魔になると判断して、いつの時代にかこの場所を埋めて敷石を引くことにしたのだろう。
この白い岩で囲まれた大きな浴槽に、水色の源泉の温泉の湯を引き入れて、ベスの育てた深い緑の温室で入浴する自分の姿をノエルは想像してみた。
ゆったりと体を湯に浸し、白粉石に体を任せて源泉の水色の湯に体を預ける。
源泉の湯はとめどなく豊潤に流れて、全ての心の、体の重荷の何もかもを流し出す。
いつもの宿の風呂よりもよほど広い浴槽の中、生き生きとした緑の中で、鳥の歌を聴きながら、肺の奥の奥まで、深い呼吸をつくのだろう。
背の高い温室の尖塔になっている場所にある大きな窓を開け広げると、木々のざわめきと共に、そこから湯気が逃げいてくのが見えるだろうか。
うっとりとノエルは思いを馳せながら、温室から空をみる。
温室の尖塔の先にはこの国の建国の神、黒い亀の意匠の風見鶏がついていた。
離宮に到着当初、さすが王家の温室には不思議な意匠を利用するものだと感心してノエルは見ていたのだが、これが建築の当初から温泉の湯気でくるくると回るという作りになっていたとなると、また格別に意味合いが違って見えてくる。
ベスは、源泉の周りには例の黄色い実をつける多肉植物をぐるりと配置したいと、今から温室の模様替えに忙しそうで微笑ましい。
例の人外の温泉をここに再現するのだと、ベスはとても張り切っているのだ。
黄色いその多肉性の植物は、心なしかノエルの方を期待に満ちた視線を送っているような気がして、ノエルはクスリと微笑んだ。
源泉の湯気を浴びて、この黄色い実はみずみずしく輝いて、美しいのだろう。
このベスが妙にこだわっているこの植物は、なんの植物かは誰にもわからない。
特に目を引く植物でもないし、誰も気にしない雑草の類だと思われる。
だが正直ノエルにとって、どうでもいい。
ノエルは機嫌良く温泉に浸かって、あのフェリクスの浴槽の内部に描かれてあった絵画の建国の乙女のごとく、黄色い実と戯れるベスの姿をうっとりと想像する。
そしてその隣で、水色の湯に体を預けて、ベスと湯を楽しんでいる己の幸福そうな笑顔も。
(なんとも・・最高の温泉じゃないか)
離宮から、古いアビーブの民謡だというピアノとバイオリンの合奏が聞こえてくる。
ラッカと、メイソンの最近の午後の日課だ。
601
あなたにおすすめの小説
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』
鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」
王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。
感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、
彼女はただ――王宮を去った。
しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。
外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、
かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。
一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。
帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、
彼女は再び“判断する側”として歩み始める。
やがて明らかになるのは、
王国が失ったのは「婚約者」ではなく、
判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。
謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。
それでも――
選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。
これは、
捨てられた令嬢が声を荒げることなく、
世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。
稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」
兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。
「取引……ですか?」
「ああ、私と結婚してほしい」
私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか……
ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。
* * * * * * * * * * * *
青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。
最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。
リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。
※ゆる〜い設定です。
※完結保証。
※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。
成功条件は、まさかの婚約破棄!?
たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」
王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。
王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、
それを聞いた彼女は……?
※他サイト様にも公開始めました!
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、国の経済を掌握しました
鍛高譚
恋愛
「経済を握る者こそ、世界を動かす――」
前世、日本の証券会社で働いていた**瑞穂紗羅(みずほ さら)**は、異世界に転生し、サラ・レティシア伯爵令嬢として生まれ変わった。
貴族社会のしがらみや婚姻政策に巻き込まれながらも、彼女はひそかに動き始める。
「まずは資金を確保しなくちゃね」
異世界の為替市場(FX)を利用し、通貨の価値変動を読み、巨額の富を得るサラ。
次に狙うは株式投資――貴族の商会やギルドに出資し、国の経済に食い込んでいく。
気づけば彼女は、両替所ネットワークと金融システムを構築し、王国の経済を裏から支配する影の実力者となっていた。
そんな中、彼女に公爵令息との婚約話が舞い込む。
しかし、公爵令息は「格下の伯爵令嬢なんて興味がない」と、一方的に婚約破棄。
それを知った公爵は激怒する――
「お前は何も分かっていない……! あの女は、この国の経済を支配する者だぞ! 世界すら掌握しかねないのだ!」
サラの金融帝国の成長は止まらない。
貴族たちは彼女にひれ伏し、国王は頼り、王太子は取り込もうとし、帝国は彼女の影響力に戦慄する。
果たしてサラは、異世界経済の頂点に立ち、さらなる世界の覇権を握るのか――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる