大和型戦艦、異世界に転移する。

第六章〜新たな世界〜

第59話 魔族の進軍

深緑島。日丸国の最西端に位置し、島全域が深い森に包まれていたため、深緑島と名付けられた島である。
その深緑島は現在開墾が行われており、田畑や牧場、養殖場などが建設される予定である。

「おーい！今日はここらで切り上げるぞー！」

日が沈みかかっているのを見て、田畑に適した土壌を耕している作業員の一人が、他の者達に声をかけて、仕事の切り上げを促した。
その時だった。

ﾊﾟｷﾞｬｰｯ!

空から甲高い雄叫びが聞こえ、空から作業員達に向けて火球が次々と降り注いでくる。

「なんだ！？」

「と、取り敢えず逃げろ！！」

急な攻撃に作業員達は安全そうな場所へと、必死に逃げ回る。
だが、一人、また一人と火球の餌食になる。

「一体何が…」

森の中へと逃げ込んだ作業員達の一人が、空を見上げながら呟く。
空を観察していると、巨大な鳥のような生物が次々と地上に降りてきた。鳥の背中には鎧を纏った者の姿が見える。
作業員達は農具片手に身を潜め、連中の様子を伺うことにした。

「なんだこいつら、我々が進軍しているというのに、呑気に畑仕事か…？」

火球にやれ黒焦げの死体になってしまった作業員の亡骸を踏みつけながら、鎧を纏った者の一人が呟く。

「彼奴ら…！」

「怒りは分かるが、落ち着け！」

連中の所業に作業員の一人が怒りを覚え、隠れている場所から出ようとするが、周りの者達に出ないように後ろへと押し返させる。

「おい、リルジャック様に上陸の合図を遅れ」

「おう…！」

鎧を纏った者の一人が空に向けて何かを放った。
放たれた物は、空へと上がっていき、そして黒い光を放った。

「何を…」

黒い光が放たれた数分後、港の方から悲鳴などが聞こえてくる。

「おい、移動するぞ」

作業員達は一人を先頭にして、港が見える場所まで音を立てないように移動を始めた。


○


港が見える場所に移動した作業員達は、港に見に来たのに後悔した。
港には見たことの無い旗を掲げた船が止まっており、明らか人間では無い者共が、港に居た者達を狂気の笑みを浮かべながら殺したり、人間の身体の一部を食べりしていた。

「うっ…おぇ」

残酷な光景を見た作業員の一人が、その場で体内の物を吐き出した。
吐き出したのは一人だけだが、他の者達も今すぐ吐くレベルで気分が悪い。これ以上惨劇を見ていられないと判断し、作業員達が港から離れようとしたその時、

「人間…」

後ろから不気味な声が聞こえ、作業員達は恐る恐る後ろを振り返る。
そこには緑肌の小人が数匹居て、全員が涎をダラダラと流しながら、作業員達を見ていた。

「食う…ッ！」

ｳﾜｧｰｰ!!

緑肌の小人達は涎を撒き散らしながら作業員達に襲いかかったが、農具を持っていた作業員達により、叩きのめされた。

「逃げるぞ！」

居場所がバレたことにより、作業員達は慌ててその場から離れて行く。
怖い。殺される。そんなことを思いながら、作業員達は必死に暗い森の中を駆け抜ける。

「はぁ、はぁ…はぁ～……こ、ここまで来たら…」

顔の汗を袖で拭いながら、作業員の一人がそう呟く。
港から遠く離れた場所に来た作業員達は、息を整えながら辺りが安全かどうか見渡す。

「疲れたぁ…」

「助けが来るまで、逃げないといけないのか…」

その場に座り込みながら、作業員達は不満を次々と述べる。

「………ん？」

作業員達の愚痴を無言で来ていた作業員の一人が、何かに気づいた。

「なぁ、もう一人居なかったか…？」

「えっ？」

一人減っていることに気づき全員が凍りつく。

「お、おい…そんな怖いこと言うnﾊﾞｸﾝｯ!

茶化して恐怖を抑えようと一人の作業員が、何かに食わえられ、上へと持っていかれる。
残った作業員達は、恐る恐る上を見上げる。
暗くて気づかなかったが、そこには巨大な龍が居た。
口に加えて作業員の一人を持ち上げた龍は、上を向いてそのまま作業員を丸呑みにした。

「う、うわぁーーー！！」

龍の恐ろしさに、作業員達は半狂乱になって逃げ始める。だが、龍が作業員達を逃がすことは無かった。
丸呑みにしたり、尻尾で吹き飛ばしたり、その巨大な図体に押しつぶすなどをされ、唯一生き残っていた作業員達も全滅した。


○


深緑島の港は現在、突如現れた魔族達に占拠されていた。
港に停泊していた船は撃沈されており、その代わりとして巨大な船が三隻停泊していた。

「口ほどにもないな…！」

即席で港に作らせた椅子に座っているリルジャックは、人肉を焼いている小鬼ゴブリン達を見ながら呟いた。
シンシア達を逃がした彼らは、その後も航海を続けて海を渡ろうとしたのだが、その最中で濃霧に包み込まれてしまい、光太郎達と同じようにこの世界にやってきたのだ。
だが彼らは、今いる場所が自分達が居た世界では無いことに気づいておらず、深緑島を襲撃した理由は、人間がいたから、取り敢えず襲ったというたったそれだけの理由だった。

「日が昇り次第、飛竜ワイバーンを飛ばす。準備しておけ！」

「はっ！」

リルジャックは殺した人間の腕を骨ごと食べながら、部下に飛竜ワイバーンの準備を命令した。

「必ずや、東の大陸を魔王様に献上してやる…！」

作業員達用に用意されていた酒を樽ごと持ち上げ、魔王への大陸献上を誓ったのち酒を飲み始めた。