愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里

文字の大きさ
13 / 15

13.本当はずっと前から

しおりを挟む
 扉を開けて飛び込んできたのはライアンだった。


「マリア……!」

 ライアンは慌てたように私のそばまで駆け寄ってくると、後ろから強くぎゅうっと抱きしめてくる。


「……どうして?」

「いきなりごめん、こんなことして。でもマリアが傷ついているような気がしたから」

「私が傷つこうと傷つかなかろうと、もう、ライアンには関係ないでしょう?」

「関係なくなんてない! どうしてそんなこと言うんだ」

「だって、ライアンはデイジーの方がいいんじゃないの?」


 ライアンから切り出される前に、私自身から切り出すことにした。

 同じことを言われるにしても、ライアンの口から言われるよりも自分の口から言った方がマシだと思ったからだ。その方がまだショックは少なくて済む。


「何の話だ。確かに君の妹と話してはいたが、私は君の妹の話はお断りしている」

「……え? デイジーの話を聞いたのに、あなたは私を選んでくれるの?」


 なんとなく信じられないような気持ちになりながら、私はライアンを見つめる。


「どうして……」

「俺は契約として君との結婚が決まる前から、ずっと君のことが好きだったからだよ」

「まさか……!」


 だって契約での結婚が決まる前、私はライアンとほとんど口すら聞いたことがなかった。
 それなのに、どうしてライアンが私のことを好きだっただなんて言えるのだろう。


「君と俺が学園が一緒だったのは君も知っているだろう。君は誰も見ていないところでも細かいところに気がつき気配りが出来る子だった。誰も見ていなくても落し物を拾って持ち主に届けたり、みんなに忘れ去られている花に水を与えたり、最初はそんな君を不思議に思って見ていたけれど、気づいたら好きになっていたんだ」


 日頃はそれほど口数の多くないライアンが、これほど一気にたくさん話すのを、私は初めて聞いたかもしれない。

 それ以前にライアンが、そんなに前から私のことを見ていてくれたなんて知らなかった。

 しかも自分ですら意識してやっていたわけではないから、そうだったかなと思ってしまうような事柄ばかりだ。


「デイジーから色々話は聞いたけれど、俺は見返りを求めず細やかな気配りができる君のことが好きだったんだ。今回契約結婚としてヒューネル子爵の娘と結婚させてほしいという旨を父に申し出たのも、そう言えば俺の結婚相手としてマリアが俺の婚約者になってくれると思ったからだ」


 信じられなかった。そんなに強くライアンから思ってもらえていたことを。


「でもやっぱりマリアにとって俺はただの契約結婚相手でしかない。デイジーの話が本当なら、一緒に住み始めてから俺は相当マリアにとってつらいことをしてきたかもしれないと思っている。だから俺は、マリアの本当の気持ちが聞きたい」


 きっとライアンは一緒に住み始めてから毎晩のように、私のことを愛してくれたことを言っているのだろう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」 伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。 そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。 アリアは喜んでその条件を受け入れる。 たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ! などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。 いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね? ふりですよね? ふり!! なぜか侯爵さまが離してくれません。 ※設定ゆるゆるご都合主義

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

今日だけは、溺愛してくださいませ旦那様

五条葵
恋愛
 借金を背負ってしまった実家を救うため、爵位を買ったばかりの新興商人に嫁いだ男爵令嬢レベッカ。世間では『買われた花嫁』などと揶揄されているが、夫となった人は優しく、レベッカは幸せだった。  そんな彼女の悩みは夫が紳士的すぎること。そのせいで、社交界に不仲説が流れているのだ。  レベッカは噂を払拭するため、とある夜会で夫とことさらに仲の良い姿を見せつけることにするが……  勘違い夫婦の一夜限り? の溺愛の結末をご覧あれ。  「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】山猿姫の婚約〜領民にも山猿と呼ばれる私は筆頭公爵様にだけ天使と呼ばれます〜

葉桜鹿乃
恋愛
小さい頃から山猿姫と呼ばれて、領民の子供たちと野山を駆け回り木登りと釣りをしていた、リナ・イーリス子爵令嬢。 成人して社交界にも出たし、今では無闇に外を走り回ったりしないのだが、元来の運動神経のよさを持て余して発揮しまった結果、王都でも山猿姫の名前で通るようになってしまった。 もうこのまま、お父様が苦労してもってくるお見合いで結婚するしか無いと思っていたが、ひょんな事から、木の上から落ちてしまった私を受け止めた公爵様に婚約を申し込まれてしまう。 しかも、公爵様は「私の天使」と私のことを呼んで非常に、それはもう大層に、大袈裟なほどに、大事にしてくれて……、一体なぜ?! 両親は喜んで私を売りわ……婚約させ、領地の屋敷から王都の屋敷に一人移り住み、公爵様との交流を深めていく。 一体、この人はなんで私を「私の天使」などと呼ぶのだろう? 私の中の疑問と不安は、日々大きくなっていく。 ずっと過去を忘れなかった公爵様と、山猿姫と呼ばれた子爵令嬢の幸せ婚約物語。 ※小説家になろう様でも別名義にて連載しています。

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします

水都 ミナト
恋愛
 伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。  事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。  かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。  そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。  クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが… ★全7話★ ※なろう様、カクヨム様でも公開中です。

処理中です...