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アリスは部屋へ入ることなくドアの面会窓を開けると中を覗き込み、そこにアレクサンドラの姿を見つけると憎々しげに言った。
「あなたが私の人生から消えていなくなればそれでかまわなかったのに。これでうまくいくって思っていたのにこんなところにいたなんて、話が違うじゃない」
「話が違うって、一体どういうことですの?」
「それをあなたが知る必要はないの。それにしても、本当に目障りね。私をこんなに煩わせたんですもの、私の手でせいぜい苦しませてあげるわ」
アリスはそう言って微笑むと、ピシャリと窓を閉じドア向こうで兵士たちに何やら小声で指示を出しているようだった。
アレクサンドラは必死で耳をそばだてたが、その内容を聞き取ることはできなかった。だが、なにもしなくともアリスが兵士たちになにを指示していたのかはすぐにわかった。
兵士たちにより、秘密裏にそこから連れ出されもっと劣悪な環境へ連れ去られる事ととなったからだ。
そうして今度は地下の薄暗くなにもない牢屋へと閉じ込められたアレクサンドラは、さらに過酷な状況へと追いやられたのだった。
そしてドアの向こうで兵士たちは笑いながら言った。
「お嬢様、俺の靴を舐めて綺麗にしてくれたら夕食を出してやってもいいぜ」
そんな屈辱を受けながら、アレクサンドラはいつかは冤罪が晴れ、誰かが助けに来てくれることを祈りながら耐えた。
そうして食事もろくにあたえられなくなり、三日も過ぎた頃には空腹を感じなくなっていた。
体を拭くことも許されず、自分の体から耐え難い悪臭を放つようになってもアレクサンドラは貴族令嬢としてのプライドを捨てることなく、兵士たちに屈することなく耐え続けた。
だが、体が先に限界を迎えた。
ある朝、起きることができなくなってしまったのだ。
アレクサンドラは諦めずに腕に力を入れ何度も起き上がろうとするが、細くやせ衰えたその腕では体重を支えられず、だらしなく床に這いつくばっていた。
「くっさーい! ちょっと、いくらなんでもこの臭いなんとかなりませんの?!」
そんな声が聞こえなんとか床から見上げると、アリスがこちらを見下ろし仁王立ちしていた。
そして、アリスはそんなアレクサンドラと目が合うとニンマリ笑って言った。
「あら、ごきげんようデュカス公爵令嬢。地面に這いつくばっていいざまね。でもその場所、あなたによくお似合いですわ」
アレクサンドラは思わずアリスを睨みつけた。すると、アリスは口元を手で隠し楽しそうにクスクスと笑った。
「やっだ~! こっわ~い」
そしてアレクサンドラの横にしゃがみ込むと、顔をのぞき込んだ。
「アレクサンドラ、心配しないでね。あなたの物は財産も、地位も、それともちろん殿下も、すべて私のものにするから」
そう言うと、いつの間にか壁に立てかけてあった石頭ハンマーの柄をつかみ、それを重そうに引きずって来ると小首をかしげた。
「ちょっと、う~ん。結構……かな? 痛いかもしれないけれど一瞬だから大丈夫よね? なるべく失敗しないようにしますわ。私やってみたかったの、ふふふ」
そうしてアリスは、思い切りハンマーを振りかぶった。それを見たアレクサンドラは思わず目を固く閉じた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな絶叫とともに飛び起きると、そこは見慣れた自分の寝室だった。
「お嬢様?!」
そう叫びながらメイドのロザリーが着の身着のまま慌てて隣の部屋から駆け込んで来ると、アレクサンドラの手を強く握り顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか? なにがあったのですか? まさか、暴漢が?!」
そう言うと、周囲を警戒した。
アレクサンドラは呆然とロザリーの顔を見つめる。そしてそれが本物なのか確認するため、ゆっくりとロザリーの顔を両手で包み込むように触った。
「ロザリー? 本当にロザリーなの?」
「お嬢様? はい、間違いなくロザリーでございます」
指先から伝わるロザリーの温もりが本物であることを確信したアレクサンドラは、あれがすべて夢だったのだと安堵し涙をこぼした。
それを見て、ロザリーは慌ててアレクサンドラを慰めるように抱きしめ背中をさすってくれた。
「きっと、とても怖い夢を見てしまわれたのですね。ですが、もう大丈夫です。こうして夢から覚めたのですから」
アレクサンドラはその台詞に少し不安を覚える。
本当に? 夢から覚めたのだろうか。あんなに現実味を帯びた夢を、本当に夢だと片付けてよいものなのだろうか。
あの夢の内容は実際にこれから起こることなのではないだろうか?
そう考えてしまうぐらい、夢の内容はとてもリアルだった。アレクサンドラはロザリーから体を少し離し、涙をぐっとこらえると質問した。
「ロザリー、今日は何日かしら?」
「今日ですか? 大丈夫です。ちゃんと覚えていますよ。今日は誕生会のドレス合わせの日ですよね。楽しみにしていらしたので、しっかり準備してあります」
「ドレス合わせの日?」
「はい。あの、その確認をされたんですよね?」
「えっ? えぇ、そう。準備万端ならいいわ。ゆっくり眠れそうよ」
アレクサンドラがそう言って取り繕うと、ロザリーは一瞬だけ腑に落ちないような顔をしたが、微笑むと言った。
「はい、安心してゆっくり休んでくださいませ。では、失礼いたしますね」
そうしてアレクサンドラの寝室から出ていった。
「今日が殿下の誕生会のドレス合わせの日。ということはあの誕生会まであと一週間……」
まだ、夢に見たことがこれから本当に起こるとは限らない。だが、対策を立てるに越したことはないだろう。
まずアレクサンドラは、夢の中でアリスやシルヴァンに言われた罪の内容を思い出すことにした。
そして手始めに、アレクサンドラが盗んで売ったといわれた真珠のネックレス事件について考えてみた。
「あなたが私の人生から消えていなくなればそれでかまわなかったのに。これでうまくいくって思っていたのにこんなところにいたなんて、話が違うじゃない」
「話が違うって、一体どういうことですの?」
「それをあなたが知る必要はないの。それにしても、本当に目障りね。私をこんなに煩わせたんですもの、私の手でせいぜい苦しませてあげるわ」
アリスはそう言って微笑むと、ピシャリと窓を閉じドア向こうで兵士たちに何やら小声で指示を出しているようだった。
アレクサンドラは必死で耳をそばだてたが、その内容を聞き取ることはできなかった。だが、なにもしなくともアリスが兵士たちになにを指示していたのかはすぐにわかった。
兵士たちにより、秘密裏にそこから連れ出されもっと劣悪な環境へ連れ去られる事ととなったからだ。
そうして今度は地下の薄暗くなにもない牢屋へと閉じ込められたアレクサンドラは、さらに過酷な状況へと追いやられたのだった。
そしてドアの向こうで兵士たちは笑いながら言った。
「お嬢様、俺の靴を舐めて綺麗にしてくれたら夕食を出してやってもいいぜ」
そんな屈辱を受けながら、アレクサンドラはいつかは冤罪が晴れ、誰かが助けに来てくれることを祈りながら耐えた。
そうして食事もろくにあたえられなくなり、三日も過ぎた頃には空腹を感じなくなっていた。
体を拭くことも許されず、自分の体から耐え難い悪臭を放つようになってもアレクサンドラは貴族令嬢としてのプライドを捨てることなく、兵士たちに屈することなく耐え続けた。
だが、体が先に限界を迎えた。
ある朝、起きることができなくなってしまったのだ。
アレクサンドラは諦めずに腕に力を入れ何度も起き上がろうとするが、細くやせ衰えたその腕では体重を支えられず、だらしなく床に這いつくばっていた。
「くっさーい! ちょっと、いくらなんでもこの臭いなんとかなりませんの?!」
そんな声が聞こえなんとか床から見上げると、アリスがこちらを見下ろし仁王立ちしていた。
そして、アリスはそんなアレクサンドラと目が合うとニンマリ笑って言った。
「あら、ごきげんようデュカス公爵令嬢。地面に這いつくばっていいざまね。でもその場所、あなたによくお似合いですわ」
アレクサンドラは思わずアリスを睨みつけた。すると、アリスは口元を手で隠し楽しそうにクスクスと笑った。
「やっだ~! こっわ~い」
そしてアレクサンドラの横にしゃがみ込むと、顔をのぞき込んだ。
「アレクサンドラ、心配しないでね。あなたの物は財産も、地位も、それともちろん殿下も、すべて私のものにするから」
そう言うと、いつの間にか壁に立てかけてあった石頭ハンマーの柄をつかみ、それを重そうに引きずって来ると小首をかしげた。
「ちょっと、う~ん。結構……かな? 痛いかもしれないけれど一瞬だから大丈夫よね? なるべく失敗しないようにしますわ。私やってみたかったの、ふふふ」
そうしてアリスは、思い切りハンマーを振りかぶった。それを見たアレクサンドラは思わず目を固く閉じた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな絶叫とともに飛び起きると、そこは見慣れた自分の寝室だった。
「お嬢様?!」
そう叫びながらメイドのロザリーが着の身着のまま慌てて隣の部屋から駆け込んで来ると、アレクサンドラの手を強く握り顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか? なにがあったのですか? まさか、暴漢が?!」
そう言うと、周囲を警戒した。
アレクサンドラは呆然とロザリーの顔を見つめる。そしてそれが本物なのか確認するため、ゆっくりとロザリーの顔を両手で包み込むように触った。
「ロザリー? 本当にロザリーなの?」
「お嬢様? はい、間違いなくロザリーでございます」
指先から伝わるロザリーの温もりが本物であることを確信したアレクサンドラは、あれがすべて夢だったのだと安堵し涙をこぼした。
それを見て、ロザリーは慌ててアレクサンドラを慰めるように抱きしめ背中をさすってくれた。
「きっと、とても怖い夢を見てしまわれたのですね。ですが、もう大丈夫です。こうして夢から覚めたのですから」
アレクサンドラはその台詞に少し不安を覚える。
本当に? 夢から覚めたのだろうか。あんなに現実味を帯びた夢を、本当に夢だと片付けてよいものなのだろうか。
あの夢の内容は実際にこれから起こることなのではないだろうか?
そう考えてしまうぐらい、夢の内容はとてもリアルだった。アレクサンドラはロザリーから体を少し離し、涙をぐっとこらえると質問した。
「ロザリー、今日は何日かしら?」
「今日ですか? 大丈夫です。ちゃんと覚えていますよ。今日は誕生会のドレス合わせの日ですよね。楽しみにしていらしたので、しっかり準備してあります」
「ドレス合わせの日?」
「はい。あの、その確認をされたんですよね?」
「えっ? えぇ、そう。準備万端ならいいわ。ゆっくり眠れそうよ」
アレクサンドラがそう言って取り繕うと、ロザリーは一瞬だけ腑に落ちないような顔をしたが、微笑むと言った。
「はい、安心してゆっくり休んでくださいませ。では、失礼いたしますね」
そうしてアレクサンドラの寝室から出ていった。
「今日が殿下の誕生会のドレス合わせの日。ということはあの誕生会まであと一週間……」
まだ、夢に見たことがこれから本当に起こるとは限らない。だが、対策を立てるに越したことはないだろう。
まずアレクサンドラは、夢の中でアリスやシルヴァンに言われた罪の内容を思い出すことにした。
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