婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー

文字の大きさ
9 / 30

9

しおりを挟む
「はい、現在調べているところでございます。明日には報告できるかと」

「そうなのね、流石セバスありがとう。仕事が早くて助かるわ」

「ありがたいお言葉、感謝いたします。ところでお嬢様、王太子殿下より先ほど使いがありました」

 シルヴァンからの使いと聞いて、アレクサンドラはなにを言われるのか少し不安になった。

「そう、それでなんの用件だったのかしら?」

「はい。昨日の件で王妃陛下が大変お喜びで王太子殿下からお礼を言いたいとのことでございます」

「殿下が?!」

「はい、そのとおりでございます」

 今日は領地にある川に毒を流したと言われた件について調べようと思っていた。誕生会まで、あと六日。当然シルヴァンに関わる余裕などなかった。

「殿下にはとても申し訳ないのだけれど、体調がすぐれないから行けそうにないとお断りしてちょうだい」

「さようでございますか。承知いたしました」

 セバスチャンはそう答えて一礼し部屋のドアの前まで行くと立ち止まった。そして、なにか思い出したようにこちらに振り返ると言った。

「お嬢様、もう一つシャトリエ男爵令嬢について報告がございます」

「あら、なにかしら?」

「はい。これは先ほどわかったことなのですが、シャトリエ男爵令嬢は本日お茶会に参加することになっておりまして、そこでお嬢様に嫌がらせされる予定になっております」

「そう……」

 アレクサンドラはそう答えて報告書に視線を落としかけて、もう一度セバスチャンを見つめた。

「ちょっとまって、それはどういうこと? 意味がわからないわ。わたくし今日はお茶会へ行く予定はないはずよ?」

「はい、承知しております。ですが、シャトリエ男爵令嬢が先日トゥール侯爵令嬢に『今度お茶会の予定があるが、そこでデュカス公爵令嬢と会うことになるので嫌がらせをされるかもしれない』と話していたとの報告が入りました。調べましたところ、それが本日の予定だと判明いたしました」

「信じられないわ、よくもそんな嘘を……」

「はい。ですから先手を打って、お茶会へ参加していなかったことを証明できるようにする必要があるかと思われます」

 ここまで言われて、アレクサンドラはセバスチャンがなにを言わんとしているのかようやく理解できた。

「わかったわセバス。あなたはわたくしに殿下のところへ行くべきだと言いたいのね」

「いいえ、とんでもないことにございます。それはお嬢様が判断されること、わたくしごときが意見をすることではございません」

 アレクサンドラは大きくため息をついた。以前ならシルヴァンに呼ばれたら喜んですぐにでも馳せ参じただろう。

 だが、今となってはどうでもいい存在になっていた。

 好きだからこそ、無下にされても我慢ができたが今そんな態度をされてはこちらの気分が悪くなるだけである。

 そう考え憂鬱になったが、今後のためだと自身に言い聞かせ覚悟を決めるとセバスチャンに言った。

「セバス、殿下にはそちらの都合の良い時間に伺うと返事してちょうだい」

「承知しました。そのようにいたします」

 セバスチャンはそう言って、部屋を出ていった。

 なんとなくセバスチャンに言いくるめられたような気もしなくはないが、結果的にはこれが名案かもしれない。

 そう思いながら、王宮へ向かう準備をした。




 以前ならシルヴァンに会うとなれば念入りな準備をしてでかけたものだったが、今はシルヴァンに興味がなく時間もないことから、アレクサンドラは最低限失礼のない格好で出かけることにした。

 馬車が王宮へ着くと、グラニエがアレクサンドラを出迎えた。

「グラニエ、昨日といいご苦労さま」

 アレクサンドラは、シルヴァンや自分のような令嬢の気分一つに振り回されるこの、近衛隊長を気の毒に思うと思わず労いの言葉をかけた。

 すると、グラニエは満面の笑みで答えた。

「とんでもないことでございます。昨日さくじつは立ち会わせていただいたこと、光栄に思っています。私としては感謝したいぐらいですよ」

 アレクサンドラはそう言って差し出すグラニエの手をとると、エスコートされ王宮のエントランスへ入って行った。

「グラニエ、今日はそんなに時間がかからないと思うの。馬車は……」

 そう話している途中で、アレクサンドラはエントランスでシルヴァンが出迎えていることに気づき驚きのあまり足を止めた。

「殿下?!」

「アレクサンドラ、なにをそんなに驚くことがある?」

「い、いえ。殿下がわたくしごときを出迎えるなんて思ってもいなかったので」

「君を呼びつけたのは僕だ。当然のことだろう」

 シルヴァンはそう言うと、グラニエから奪うようにアレクサンドラの手をとり腰に手を回してエスコートし始めた。

 アレクサンドラはそのシルヴァンの態度に少し驚きながらも、無言でエスコートに従った。

 そのまま客間に通されると、促されるままソファへ腰掛けすぐに口火を切った。

「殿下、恐れながら申し上げます。昨日のことでしたら防衛を司る者の親族として、いえ、国王陛下に忠誠を誓う者として当然の行いだと思っていますわ。ですから、殿下が気遣う必要はございません」

 するとシルヴァンはいつもの無表情で答える。

「それでも、君はこの国の大きな問題を解決したのだから国王陛下や僕が感謝するのは当然のことだ。それに、今回のことで盗難事件を解決しただけではなく、この国を膿を出すことができた。その功績と貢献は計り知れないものがある」

「ありがとうございます」

 アレクサンドラはシルヴァンが借りを作りたくないのだと気づくと、面倒臭いと思いながらシルヴァンを満足させさっさと帰ることだけを考えていた。

 シルヴァンは褒めてはいるものの、にこりともせずに言った。

「王妃殿下が君のことをとてもよく褒めていた。もちろん国王陛下もだ。なにか欲しいものはないか? 褒美をやろう」

 これでは褒めたいのか、こちらの気分を悪くさせたいのかわからないと思いながらアレクサンドラは思考を巡らせ、シルヴァンが喜ぶような答えを言った。

「では、一つお願いがございます。婚約を解消してください」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

殿下が好きなのは私だった

恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。 理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。 最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。 のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。 更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。 ※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約破棄。それは悪役令嬢にとって、終わりではなく始まりだった。名を奪われ、社会から断罪された彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな学び舎だった。そこには“名前を持たなかった子どもたち”が集い、自らの声と名を選び直していた。 かつて断罪された少女は、やがて王都の改革論争に巻き込まれ、制度の壁と信仰の矛盾に静かに切り込んでいく。語ることを許されなかった者たちの声が、国を揺らし始める時、悪役令嬢の“再生”と“逆襲”が静かに幕を開ける――。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

処理中です...