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それを聞いてシルヴァンは虚ろな目で答える。
「そうか、いつかそう言われると思っていた。わかった。君の望むよう国王陛下には僕から口添えしておこう」
そう言うと立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
アレクサンドラはたったこれだけで二人の関係を、自分がシルヴァンに対して思っていた数年の気持を終らせてしまうことが許せず、最後に気持ちをぶつけることにした。
「殿下、お待ち下さい。少しお話ししたいことがあります。私に少し時間を下さい。これは最後のお願いになります」
そう言うとシルヴァンは立ち止まりこちらを振り向いた。
「これ以上話すことが?」
「はい。申し訳ありませんがすぐに終わりますからお座りになっていただけますか?」
するとシルヴァンは渋々といった感じでソファに腰掛けた。
「ありがとうございます。殿下、幼少の頃になりますが土ボタルを見に連れて行ってくださったことを覚えていらっしゃいますか?」
そう尋ねると、シルヴァンは不思議そうに答える。
「逆に僕はきみがそんな些細なことを覚えていたことに今驚いているが……。それがどうした?」
『些細なこと』アレクサンドラはそう言われたことに少なからずショックを受けていたが、それについて顔には出さずに言った。
「あの日……、あのとき私は、殿下とのお出かけにとても心を弾ませておりました。緊張のあまりなにもお話しできませんでしたが。あのころから、ずっと変わらず殿下のことを慕ってまいりました。それが迷惑と知りながら、です」
そこで、一度言葉を切ると大きく息を吐き、アレクサンドラはシルヴァンをしっかり見据えて続ける。
「殿下、私心から殿下を愛しておりました。殿下を思い続けることを今の今までお許しくださったこと、深くお礼申し上げます。こんなことになってしまいましたが、今後も変わらぬお付き合いをしていただければ幸いですわ」
そこまで言うと、アレクサンドラはシルヴァンに対する気持はとうに消えているはずなのに、涙が込み上げた。
「では、失礼いたしますわね」
アレクサンドラは泣いてしまいそうなのを悟られぬよう、素早く立ち上がりシルヴァンに背を向けた。
「まて、待ってくれそれはどういう意味だ、そんなはずはない!」
シルヴァンは困惑したようにそう言ったが、なにを困惑することがあるのか理解できなかった。
今までシルヴァンに対し、自分の気持ちを隠さず態度に出してきた。それに気づかないはずはない。
「殿下、今更取り繕うことはありませんわ。殿下が私を嫌っていた、というか私に無関心だったことはわかっていますから」
そう言って振り向くと、微笑んで話を続ける。
「本日は私のためにお時間いただきありがとう御座いました。それともう一つ、差し出がましいかもしれませんがあえて付け加えて言っておきますわ。今後は身近に置く者のことはしっかりお調べになったほうがよろしいかと思います。では、失礼いたします」
そうしてカーテシーをすると、素早く客間を出た。
一瞬もしかしてシルヴァンが追いかけて来るのではと淡い期待を抱き振り返ったが、客間の扉が開くことはなかった。
王宮の長い廊下を歩きながらアレクサンドラは今までのことを思い出していた。
シルヴァンに気に入ってもらうために菓子職人と相談しながらお菓子の開発に励んだこともあったし、素晴らしい美術品を手に入れるべく奮闘したこともあった。
だが、どれに対してもシルヴァンが喜ぶことも興味を示すこともなかった。
せっかく舞踏会に二人で参加したときも、シルヴァンはこちらを見向きもせず無表情でアレクサンドラを義務のようにエスコートするだけで、そんな二人を周囲の貴族がくすくすと笑っていることもあった。
そうして何度となくアレクサンドラは傷ついてきた。
それも今日で終わりだ。
今後、また親に決められた相手と婚約することになるだろうが、次こそはお互いがお互いを尊重し合える、そんな関係を相手と築いていこう。
そう思いながら王宮をあとにした。
屋敷へ戻り、アレクサンドラは少し気分が沈んでいたがとにかくテオドールに今日あったことを報告しなければならないと思い、セバスチャンにテオドールの予定を尋ねた。
「本日、旦那様はお帰りが遅くなるとのことでした」
昨日の一件があり、対応に追われているのだろう。
「そう、わかったわ。ところで、私のいない間になにか変わりはあったかしら」
セバスチャンのことだ、先を読んでなにか調べたり行動しているかもしれない。
そう思っての質問だった。
すると、セバスチャンは後ろで控えていたロザリーに目配せした。
するとロザリーはプレートに載せた手紙をアレクサンドラに差し出す。
「お嬢様、これは今日お嬢様がお出かけになったすぐあとにデュバル公爵令嬢から届いたものです」
「デュバル公爵令嬢から?」
実を言うと、アレクサンドラとイライザ・ド・デュバル公爵令嬢とはあまり親交がない。と言うより、仲が悪いと言えるぐらいである。
なぜならイライザとは同じ年齢で、その昔シルヴァンとの婚約者の座を争った仲だからである。
結局、テオドールの采配によってアレクサンドラが婚約者として選ばれたため、その争いは終わったはずだったが、それ以来なぜかずっとデュバル公爵令嬢にはライバル視されてきた。
アレクサンドラが最新のドレスを仕立てれば、イライザは同じデザイナーに数着ドレスを仕立てるよう依頼し、宝飾品を買えばその宝石商からさらに上のランクの宝飾品を購入する。
そんなことを繰り返していた。
それは社交界では有名な話であったが、事を荒立てては好奇の目にさらされるだけだとわかっていたので、アレクサンドラはあえてそこには触れずにやってきた。
そんなイライザがアレクサンドラに招待状や御礼状以外で手紙をよこすなどあり得ないことであり、今朝セバスチャンから受けた報告を思い出し、アリスに何か関係がありそうだと思いながらプレートに載った可愛らしい封筒を見つめた。
「ロザリー、部屋で内容を確認するわ」
「はい、承知しました」
「そうか、いつかそう言われると思っていた。わかった。君の望むよう国王陛下には僕から口添えしておこう」
そう言うと立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
アレクサンドラはたったこれだけで二人の関係を、自分がシルヴァンに対して思っていた数年の気持を終らせてしまうことが許せず、最後に気持ちをぶつけることにした。
「殿下、お待ち下さい。少しお話ししたいことがあります。私に少し時間を下さい。これは最後のお願いになります」
そう言うとシルヴァンは立ち止まりこちらを振り向いた。
「これ以上話すことが?」
「はい。申し訳ありませんがすぐに終わりますからお座りになっていただけますか?」
するとシルヴァンは渋々といった感じでソファに腰掛けた。
「ありがとうございます。殿下、幼少の頃になりますが土ボタルを見に連れて行ってくださったことを覚えていらっしゃいますか?」
そう尋ねると、シルヴァンは不思議そうに答える。
「逆に僕はきみがそんな些細なことを覚えていたことに今驚いているが……。それがどうした?」
『些細なこと』アレクサンドラはそう言われたことに少なからずショックを受けていたが、それについて顔には出さずに言った。
「あの日……、あのとき私は、殿下とのお出かけにとても心を弾ませておりました。緊張のあまりなにもお話しできませんでしたが。あのころから、ずっと変わらず殿下のことを慕ってまいりました。それが迷惑と知りながら、です」
そこで、一度言葉を切ると大きく息を吐き、アレクサンドラはシルヴァンをしっかり見据えて続ける。
「殿下、私心から殿下を愛しておりました。殿下を思い続けることを今の今までお許しくださったこと、深くお礼申し上げます。こんなことになってしまいましたが、今後も変わらぬお付き合いをしていただければ幸いですわ」
そこまで言うと、アレクサンドラはシルヴァンに対する気持はとうに消えているはずなのに、涙が込み上げた。
「では、失礼いたしますわね」
アレクサンドラは泣いてしまいそうなのを悟られぬよう、素早く立ち上がりシルヴァンに背を向けた。
「まて、待ってくれそれはどういう意味だ、そんなはずはない!」
シルヴァンは困惑したようにそう言ったが、なにを困惑することがあるのか理解できなかった。
今までシルヴァンに対し、自分の気持ちを隠さず態度に出してきた。それに気づかないはずはない。
「殿下、今更取り繕うことはありませんわ。殿下が私を嫌っていた、というか私に無関心だったことはわかっていますから」
そう言って振り向くと、微笑んで話を続ける。
「本日は私のためにお時間いただきありがとう御座いました。それともう一つ、差し出がましいかもしれませんがあえて付け加えて言っておきますわ。今後は身近に置く者のことはしっかりお調べになったほうがよろしいかと思います。では、失礼いたします」
そうしてカーテシーをすると、素早く客間を出た。
一瞬もしかしてシルヴァンが追いかけて来るのではと淡い期待を抱き振り返ったが、客間の扉が開くことはなかった。
王宮の長い廊下を歩きながらアレクサンドラは今までのことを思い出していた。
シルヴァンに気に入ってもらうために菓子職人と相談しながらお菓子の開発に励んだこともあったし、素晴らしい美術品を手に入れるべく奮闘したこともあった。
だが、どれに対してもシルヴァンが喜ぶことも興味を示すこともなかった。
せっかく舞踏会に二人で参加したときも、シルヴァンはこちらを見向きもせず無表情でアレクサンドラを義務のようにエスコートするだけで、そんな二人を周囲の貴族がくすくすと笑っていることもあった。
そうして何度となくアレクサンドラは傷ついてきた。
それも今日で終わりだ。
今後、また親に決められた相手と婚約することになるだろうが、次こそはお互いがお互いを尊重し合える、そんな関係を相手と築いていこう。
そう思いながら王宮をあとにした。
屋敷へ戻り、アレクサンドラは少し気分が沈んでいたがとにかくテオドールに今日あったことを報告しなければならないと思い、セバスチャンにテオドールの予定を尋ねた。
「本日、旦那様はお帰りが遅くなるとのことでした」
昨日の一件があり、対応に追われているのだろう。
「そう、わかったわ。ところで、私のいない間になにか変わりはあったかしら」
セバスチャンのことだ、先を読んでなにか調べたり行動しているかもしれない。
そう思っての質問だった。
すると、セバスチャンは後ろで控えていたロザリーに目配せした。
するとロザリーはプレートに載せた手紙をアレクサンドラに差し出す。
「お嬢様、これは今日お嬢様がお出かけになったすぐあとにデュバル公爵令嬢から届いたものです」
「デュバル公爵令嬢から?」
実を言うと、アレクサンドラとイライザ・ド・デュバル公爵令嬢とはあまり親交がない。と言うより、仲が悪いと言えるぐらいである。
なぜならイライザとは同じ年齢で、その昔シルヴァンとの婚約者の座を争った仲だからである。
結局、テオドールの采配によってアレクサンドラが婚約者として選ばれたため、その争いは終わったはずだったが、それ以来なぜかずっとデュバル公爵令嬢にはライバル視されてきた。
アレクサンドラが最新のドレスを仕立てれば、イライザは同じデザイナーに数着ドレスを仕立てるよう依頼し、宝飾品を買えばその宝石商からさらに上のランクの宝飾品を購入する。
そんなことを繰り返していた。
それは社交界では有名な話であったが、事を荒立てては好奇の目にさらされるだけだとわかっていたので、アレクサンドラはあえてそこには触れずにやってきた。
そんなイライザがアレクサンドラに招待状や御礼状以外で手紙をよこすなどあり得ないことであり、今朝セバスチャンから受けた報告を思い出し、アリスに何か関係がありそうだと思いながらプレートに載った可愛らしい封筒を見つめた。
「ロザリー、部屋で内容を確認するわ」
「はい、承知しました」
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