婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー

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 アレクサンドラは『シルヴァンが自分を手放さないなんてことはない』と、この場で婚約解消したことを言ってしまいたかったが、まだ発表前だったのでそれをグッとこらえた。

「そうね。イザベラ、わたくし思うんだけど」

「なんですの?」

「今度の誕生会、あそこでアリスはなにか仕掛けてくると思いますの」

 イザベラは少し考えたあと答える。

「そうね、確かに調べた限り誕生会に向けて色々準備しているようにも見えますもの」

「そうですわよね。それで、考えがありますの」

 アレクサンドラはその作戦をイザベラに伝えた。それは、アリスがアレクサンドラとイザベラが不仲だと思っているのを逆手に取った作戦だった。

「面白そうね、でも本当にあなたの言う通りアリスが殿下の誕生会で仕掛けてくるかしら?」

「わかりませんわ。でもいずれは仕掛けてくると思いますの。そのときにこの作戦を実行すればいいことですわ」

「確かにそうね」

 そう答えるとイザベラはアレクサンドラを見つめた。

「なんですの?」

「あなた、思ってたよりとっても面白いわ。あの投書をきっかけに使って本当によかったわ」

「きっかけ、ですの?」

「そうよ、わたくしだって仲良くしたくてどう接すればいいか迷ったんだから!」

「そうだったんですの?!」

 するとイライザは少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

「そ、そうですわよ!」

「なら、普通に誘ってくだされば……」

「避けられているのに、そこまで図々しいことできませんわ」

「そうでしたわね、ごめんなさい。これからは仲良くして下さいませ」

 それを聞いてイライザはアレクサンドラに向き直った。

「もちろんですわ! これからは頻繁にお誘いしますわ。覚悟してちょうだい!」

わたくしこそ、頻繁にお誘いしてイライザがうんざりなさるかもしれませんわ」

 アレクサンドラがそう答えると、二人同時に声を出して笑い合った。





 翌朝、寝るのが遅かったこともありほんの少し寝坊しようと思っていたが、それをロザリーに阻止される。

「お嬢様、申し訳ありません。起きて下さい!」

「なんですの? 今日は特別な予定はなかったはずよ?」

「そうですが、セバスチャンが早急にお知らせしたいことがあると」

 それを聞いてアレクサンドラは直ぐに体を起こした。

「セバスが?」

「はい」

 起き上がるとロザリーが不安そうな顔をしている。

 セバスチャンが早急に話したいと言うからには、重要なことに決まっていた。

 時間を確認すると、まだ朝の五時台だった。

 アレクサンドラは慌てて支度を整えながら、昨夜テオドールに婚約解消の話をするのを忘れていたと思いロザリーに聞いた。

「ゼバスから話を聞く前に、お父様と話をしなければならないの。お父様はもう起きてらっしゃるかしら?」

「旦那様ですか? それが、昨夜は宮殿からお戻りになりませんでした」

「そう……」

 もしかしたら宮殿で殿下から直接婚約解消の話を聞いているかもしれない。そう思いながら寝室を出た。

「お嬢様、おはようございます」

 セバスチャンはアレクサンドラが寝室を出たところで待ち構えていた。一体この優秀な執事はいつ寝ているのだろう? そう思いながら声をかける。

「おはよう、セバス。それより話があるそうね。なにかしら?」

 ソファに座りながら尋ねると、セバスチャンは一礼して報告した。

「お嬢様が現在お調べになっているシャトリエ男爵令嬢のことですが、我がデュカス公爵家の領地でよからぬ企てを立てていると情報を得ました」

「なんなの?」

「はい、言うことを聞かない領民を懲らしめるため見せしめに川に毒を流したと、ありもしない噂話を流しているそうなのです」

「その件ね、わたくしも調べなくてはと思っていたの」

「流石お嬢様、この件についてご存知でしたか」

 そう言われ、アレクサンドラは『夢の中で聞いたのよ』と呟くと言った。

「知ってはいたけれど、そこまで詳しい訳では無いの。できれば調べた詳細を教えてちょうだい」

「はい、承知いたしました」

 デュカス公爵領は縦に長く、北は隣国と接しており右側はモワノ子爵、右はジュベル伯爵領に挟まれている。

 問題になっているのはモワノ子爵領に隣接している南西にあるモイズ村での出来事とのことだった。

 モイズ村はモワノ子爵領から流れるヒウイ川を水源とし、農業を生業としている農村なのだが、モワノ子爵領領の領民が水を堰き止めて金品を要求してきたというのだ。

 当然、それに対して村人たちは反発した。

 ところがテオドールはモワノ子爵ととの争いを避けるために『我慢しろモワノ子爵に従え』と命令を出したというのだ。

 だが、村人たちは生活がかかっている。そんな命令に従うことはなく、モワノ子爵領に勝手に立ち入り川の流れを堰き止めているダムを破壊してしまった。

 そこでテオドールがその村人たちをを懲らしめるために、その川に毒を流すとの噂が出た。

 これらはまったくのでたらめなのだが、これほどの噂を流すのだから実際に現地に工作員を送り込み、噂話が本当にあったかのように演じさせているのかもしれない。

わたくしは領地に関わることはないわ。だからこれが本当のことか分からないけれど、こんな小競り合いがあったならお父様が社交シーズンだからといって宮殿にとどまるとは思えないのだけれど」

 アレクサンドラは率直にそう意見を言った。セバスチャンはそれを聞いて大きく頷く。

わたくしもそのように思います。水源の争いに関してはよくある話でございますが、実際にはモワノ子爵領とこのような小競り合いはございません。それにモワノ子爵は大変立派なかたです。旦那様と親交も深く、このようなことがあればすぐに駆けつけ解決なさるでしょう」

「ということは、卿とお父様の両方を貶めるためにこんな噂をでっちあげたのね」

「はい、そのように思います」

「でも、こんな噂話、きっと誰も信じないわ」

 すると、セバスチャンはゆっくり顔を横に振った。

「お嬢様、これだけならばわたくしも朝早くからお嬢様を煩わせるようなことはいたしません」

「ということは、まだ続きがあるというの?」

「はい。実際に川に毒を流す計画を立てているとの情報が入りました。旦那様は今お忙しくされています。直ぐに動けるのはお嬢様しかいらっしゃらないかと……」

「わかったわ、そういうこと。直ぐにモイズに出かける準備をしてちょうだい。それにしても、なんて卑劣なのかしら!」

 アレクサンドラは憤りを感じた。噂話程度のことであればまだ我慢はできるが、領民を苦しめようとするなんて到底許せることではない。
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