婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー

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 そこでアレクサンドラが答える。

「そんなことするわけがありませんわ。だって、わたくしの雇っているデザイナーはシェーレグリーンを使わずにエメラルドグリーンに布を染める方法を知ってますもの」

「そんな、そんなはずない! 嘘をつくな!」

「あら、城下にくれば本当だと証明できるわ。そうしたら、誰があなたにそんな嘘を吹き込んだか証明してもらうわよ」

 すると男はしばらく考えるような顔をし、しばらくすると無言で頷いた。

 アレクサンドラは先ほどのファイザルと違って、彼は騙されただけなのではないかと思いなが質問した。

「聞きたいことがあるの。復讐ってことは、誰か家族が犠牲に?」

 すると男は悔しそうに言った。

「娘が、その毒にやられた。今は寝たきりだ」

「そう。なら援助するわ。あなたは罪を償う必要があるけれど」

 すると、男は顔を上げアレクサンドラにすがるようなまなざしをむけた。

「本当か?! なら、お願いがある。直ぐに娘を助け出してくれ、人質に取られてるんだ!」

 そう言うと、涙を流した。

 アレクサンドラはこのとき、アリスの卑劣さに心底腹を立てた。

 グラニエも同じ気持ちだったのだろう、拳を固く握り締めて言った。

「娘の居場所はわかるな? 教えろ。直ぐに兵士を向かわせる」

「すまない、ありがとうございます」

 男は地面に額をこすりつけるように頭を下げた。

 すると、グラニエは茂みに向かって合図を送った。すると茂みから二人の兵士が出て来て素早くグラニエの前に跪く。

「この者を城下へ秘密裏に運ぶ。四班に引き渡せ。それとこの男の娘を奪還しろ」

 そう言って彼らに引き渡すと、アレクサンドラに向き直った。

「では、我々はモイズへ戻りましょう」

 アレクサンドラは一体自分に何人の護衛がつけられているのだろうと疑問に思いながら、モイズへの帰路についた。

 途中、ファイザルを捕らえていた場所を通りかかったが、そこにファイザルは居なかった。

「逃げたのかしら」

 アレクサンドラがそう呟くと、グラニエが首を横に振った。

「いいえ、おそらくうちの四班が回収したのでしょう。四班はそういう役割を持ってますから」

 そこでアレクサンドラは疑問に思っていたことを尋ねることにした。

「グラニエ、少し訊きたいのだけれど」

「はい、なんでしょう?」

わたくしの護衛は何人いますの?」

 グラニエは答えてよいものなのか少し迷っている様子を見せると、意を決したように言った。

「おおよそ三小隊が関わっています」

 一小隊が三十~六十人で構成されている。ということは少なくとも九十人の人間が交代でアレクサンドラを護衛していたということになる。

 アレクサンドラはめまいがするのをこらえながら、なお質問する。

「その、護衛の役目は本当に護衛だけですの?」

「はい、デュカス公爵令嬢の個人的なことには誰も踏み切らないようにと、殿下のご命令です」

「そう、わかったわ」

 これに嘘はないように感じた。個人的なことまですべて調べ上げていれば、夢の中でも冤罪を簡単に晴らすことができたはずだからだ。

 それに正直、シルヴァンがアレクサンドラは冤罪なのだと知っていて、救うこともせず監禁したとは思いたくないという気持もあった。

 モイズに着くとファイザルは野党に襲われたことになっていた。

 これもグラニエの連れてきた工作班によるものだろう。そう思いながら、グラニエの部下たちにより完璧に警備されたファイザルの屋敷へ向った。

「よかった。お嬢様が無事にお戻りで。村長は、残念でしたけど」

 屋敷ではダヴィドが待っており、アレクサンドラの姿を見ると開口一番にそう言った。

 そして、あらためて後ろに引き連れているモワノ領の領民をアレクサンドラに一人ずつ紹介した。

 アレクサンドラは笑顔で一人一人と挨拶を交わす。

「みんなよく来てくれたわ。実は何者かによってデュカス領とモワノ領との間でいさかいを起こすよう仕組まれているようなの。あなたたちにはそれが誤解だとうちの領民に説明してほしくて」

 するとモワノ領の領民である、リシが代表で答える。

「誰がそんなことを?! そういうことなら、もちろん俺らはなんだって協力します!」

「ありがとう。とても助かるわ」

「とんでもない、俺たちを信用して領地に招いてくださったこと、とっても嬉しく思ってますから」

 リシがそう言うと、他の者たちもそれに呼応して頷いた。

 アレクサンドラはダヴィドに向き直って言った。

「ダヴィド、あなたにこのあとのことを任せてもいいかしら?」

「はい、もちろんです!」

「お願いするわ」

 そうは言っても、ファイザルのこともある。誰が摘か味方かわからない状況であるのは変わりなく、すべてダヴィドに任せてしまうにはリスクが大きすぎることはわかっていた。

 だが、時間がないのも確かである。

 そこでアレクサンドラは、彼らには申し訳ないと思いながらグラニエに頼んで、彼らを監視するよう誰か付けてほしいとお願いした。

 そうしてこの問題を一応なんとか解決したアレクサンドラは、早々に城下に戻ることにした。

 城下に戻る馬車の中で、運良く毒を川に流すタイミングでモイズに来れたことをとても幸運だったと思った。

「ロザリー、わたくしたち本当についてたわね。ちょうど犯行の現場に居合わせることができたなんて」

 窓の外をぼんやり眺めながらそう呟くと、ロザリーは恐る恐る言った。

「お嬢様、それについてなんですけれど。私少し思ったことがあります」

 アレクサンドラはロザリーを見つめた。

「なにかしら?」

「たぶん、本当は毒を流すのは今日ではなかったのではないでしょうか?」

「どうしてそう思うの?」

「あの犯人が『だから今日は無理だと言ったのに』って言ってましたよね?」

「そうね、確かにそう言ってたわね」

「はい、それで今日急に実行するように言われたんだと思ったんです」

 それを聞いて、アレクサンドラは合点がいった。

「そういうことだったのね!」

「お嬢様?」

「たぶん、わたくしがモイズ村に来たから急遽、今日実行することにしたんだわ!」

 ロザリーは目を見開いてアレクサンドラを見つめた。

「なるほどです、犯人はお嬢様や旦那様に罪を着せようとしたんですから。でも、結果的にはそれがこちらに優位に働いたので、よかったですね!」

 そう聞いてアレクサンドラは複雑な気持で微笑んだ。

 屋敷へ戻るとアレクサンドラは疲れから泥のように眠った。

 翌朝、アレクサンドラは突然ベッドの中でアルナウト・ラ・トゥール侯爵暗殺事件がこれから起きることを思い出した。

 そして、それを阻止するなら今しかないとベッドから飛び起きた。

 アルナウト・ラ・トゥール侯爵はとても戒律に厳しい人物で、先代の侯爵が亡くなり自身が爵位を継承してしてから、ありとあらゆる不正を正し摘発してきた人物である。
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