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それを見届けると、アレクサンドラはバスケットの中身を覗いた。
今日はプルーンパイのようだった。ひし形のパイの中央にプルーンを甘く煮たものがふんだんに載せられている。
それがざっと数えて二十個ほど入っていた。
「カサンドル、一つ聞きたいことがあるの。いつもこんなにたくさん作るの?」
「はい、材料がたくさんあって。余らせないように作れって言われるんですわ。でも、他のみんなはたくさん作っても配るから余らないそうですの」
その言い方にアレクサンドラは引っかかるものを感じ、さらに質問する。
「あら、じゃあカサンドルは他の者たちに配ったりしないのかしら?」
すると、カサンドルはチラリとアルナウトを見ると不満そうに言った。
「もちろん私は他の者たちや執事のユスフにだって食べてもらいたいですわ。でも、お父様が」
「お父様が?」
「誰にも食べさせないって、独り占めしますの」
そう言ってカサンドルがやや呆れ気味にアルナウトを見ると、アルナウトは所在無下げに視線を彷徨わせていた。
カサンドルがアレクサンドラに視線を戻したので、アレクサンドラは質問する。
「そう。でもこんなにたくさん、お父様一人じゃ食べ切れないわよね?」
すると、カサンドルは可愛らしく頰を膨らませながら言った。
「そうなんです! お父様ったら食べきれないのに独り占めして、結局だめになってしまってるんですの」
その台詞にアルナウトが驚いた様子でカサンドルを見つめた。
「カサンドル、お前お父様がその、食べきれずにす、捨てて……」
それを聞いてカサンドルは振り向きもせずに答える。
「捨てているの、知ってますわよ!」
それを聞いてアルナウトはあからさまにがっかりしたような顔をした。
アレクサンドラは思わず苦笑したが、そこである考えがよぎり重ねて質問する。
「ねぇ、カサンドル。それって外でお話したことがあるかしら?」
そんな質問を受けて、カサンドルは不思議そうな顔をした。
「はい。お菓子の会のときに。みんなとても仲良しで、とても楽しい会なんですの。そうだ、今度お姉様も参加しませんこと? きっと気に入りますわ!」
「そうなの? では考えておきますわね」
そう答えると、執事の手からバスケットを抜き取って言った。
「このお菓子、こんなにたくさん今から食べてしまったらお昼が食べられなくなりますわ。午後にお茶と一緒にゆっくりいただきましょう」
そう聞いてカサンドルは少し残念そうな顔をしたが、微笑むとドレスを着替えるために部屋へ戻っていった。
アレクサンドラはカサンドルがいなくなった瞬間、ユスフに言った。
「今からコックに言って同じものを同じ数作ってもらって。午後のお茶にはそれをだしてちょうだい」
それを聞いてシルヴァンはアレクサンドラの顔を見つめた。
「ではやはりこれに毒が?」
「そうだと思いますわ。調べてみないとわかりませんけれど」
アルナウトは戸惑いながらアレクサンドラに質問する。
「一体どういうことだ、説明してくれ」
「その前にもう一つ質問がありますの。毒見の方法ですわ。カサンドルが作ったお菓子はいつ毒見をしてますの?」
それにはユスフが答える。
「お嬢様はいつもバスケットを持ち帰り、そのまま旦那様にお渡しいたします。ですからお嬢様と一緒にお菓子を作りに行っている乳母が、出来上がったその場で毒見をしております。その場でお嬢様も召し上がられるので、それが一番安全かと」
「やっぱりそうなの。じゃあどうやったのか説明できますわ。でもここだとカサンドルがこの話を聞いてしまうかもしれません。場所を少し移しましょう」
そこでシルヴァンが口を開いた。
「わかった、では宮殿の一室を提供しよう」
そうしてアレクサンドラたちは、場を宮殿に移すことにし、カサンドルには午後には戻ると伝えお茶の約束をした。
宮殿の客間に通されると、アレクサンドラは持っていたバスケットを中央のテーブルに置いた。
アルナウトはそれを見つめ、不機嫌そうにアレクサンドラに尋ねる。
「本当にこの中に毒が入っていると君は思っているのかね」
「そうですわ。でも、当然すべてに毒が入っている訳ではないと思いますの」
「なんだって?」
「犯人は、カサンドルから卿がお菓子を独り占めしていること、食べきれずにいつも捨てていることを聞いてこの計画を立てたんだと思いますわ」
それを聞いてアルナウトは不機嫌そうに言った。
「どういうことだ?」
「カサンドルはずっとお菓子の会に通っていましたわよね。多少は油断したのではありませんか? 毒は絶対に仕込まれないと」
「そんなことはないはずだが、まぁ、言われてみると過信していたかもしれん」
「それまで犯人は待っていたんですわ。そうして、屋敷の者たちが油断したところで計画を実行に移した」
「だが、どうやって毒を入れる?」
「それはもちろん、乳母が毒見を終えたあとバスケットに入れる前のお菓子の一つに毎回毒を仕込むか、もしくは自分が作ったお菓子に毒を仕込んでそれをすり替える。そんなことをしていたんだと思いますわ」
「たった一つに?」
「そうですわ。これは卿がお菓子を独り占めにするからできた作戦ですわ。もし他のご令嬢のように、余ったお菓子を使用人に配ることがあれば、毒が入っていたのがすぐにばれてしまいますもの」
そこでシルヴァンがハッとしたように言った。
「そうか、アルナウトは食べきれずに捨ててしまっていた。だから、毒が仕込まれていることに気づかれなかった。犯人としては、毎度毒を仕込んでいつかそれをアルナウトが食べればそれでよかったということか」
「そういうことですわ」
そこで、アルナウトがアレクサンドラに質問する。
「では、君はカサンドルとお菓子の会に参加している誰かが犯人だとでも? だが、参加しているのは下級貴族といってもみな身元の保証された者たちだぞ? それに、作っているたいだ使用人たちは食材に一切触れることはできない。誰がそんなこと……。いや、まて、そもそも本当にこのお菓子に毒は入っているのか?」
今日はプルーンパイのようだった。ひし形のパイの中央にプルーンを甘く煮たものがふんだんに載せられている。
それがざっと数えて二十個ほど入っていた。
「カサンドル、一つ聞きたいことがあるの。いつもこんなにたくさん作るの?」
「はい、材料がたくさんあって。余らせないように作れって言われるんですわ。でも、他のみんなはたくさん作っても配るから余らないそうですの」
その言い方にアレクサンドラは引っかかるものを感じ、さらに質問する。
「あら、じゃあカサンドルは他の者たちに配ったりしないのかしら?」
すると、カサンドルはチラリとアルナウトを見ると不満そうに言った。
「もちろん私は他の者たちや執事のユスフにだって食べてもらいたいですわ。でも、お父様が」
「お父様が?」
「誰にも食べさせないって、独り占めしますの」
そう言ってカサンドルがやや呆れ気味にアルナウトを見ると、アルナウトは所在無下げに視線を彷徨わせていた。
カサンドルがアレクサンドラに視線を戻したので、アレクサンドラは質問する。
「そう。でもこんなにたくさん、お父様一人じゃ食べ切れないわよね?」
すると、カサンドルは可愛らしく頰を膨らませながら言った。
「そうなんです! お父様ったら食べきれないのに独り占めして、結局だめになってしまってるんですの」
その台詞にアルナウトが驚いた様子でカサンドルを見つめた。
「カサンドル、お前お父様がその、食べきれずにす、捨てて……」
それを聞いてカサンドルは振り向きもせずに答える。
「捨てているの、知ってますわよ!」
それを聞いてアルナウトはあからさまにがっかりしたような顔をした。
アレクサンドラは思わず苦笑したが、そこである考えがよぎり重ねて質問する。
「ねぇ、カサンドル。それって外でお話したことがあるかしら?」
そんな質問を受けて、カサンドルは不思議そうな顔をした。
「はい。お菓子の会のときに。みんなとても仲良しで、とても楽しい会なんですの。そうだ、今度お姉様も参加しませんこと? きっと気に入りますわ!」
「そうなの? では考えておきますわね」
そう答えると、執事の手からバスケットを抜き取って言った。
「このお菓子、こんなにたくさん今から食べてしまったらお昼が食べられなくなりますわ。午後にお茶と一緒にゆっくりいただきましょう」
そう聞いてカサンドルは少し残念そうな顔をしたが、微笑むとドレスを着替えるために部屋へ戻っていった。
アレクサンドラはカサンドルがいなくなった瞬間、ユスフに言った。
「今からコックに言って同じものを同じ数作ってもらって。午後のお茶にはそれをだしてちょうだい」
それを聞いてシルヴァンはアレクサンドラの顔を見つめた。
「ではやはりこれに毒が?」
「そうだと思いますわ。調べてみないとわかりませんけれど」
アルナウトは戸惑いながらアレクサンドラに質問する。
「一体どういうことだ、説明してくれ」
「その前にもう一つ質問がありますの。毒見の方法ですわ。カサンドルが作ったお菓子はいつ毒見をしてますの?」
それにはユスフが答える。
「お嬢様はいつもバスケットを持ち帰り、そのまま旦那様にお渡しいたします。ですからお嬢様と一緒にお菓子を作りに行っている乳母が、出来上がったその場で毒見をしております。その場でお嬢様も召し上がられるので、それが一番安全かと」
「やっぱりそうなの。じゃあどうやったのか説明できますわ。でもここだとカサンドルがこの話を聞いてしまうかもしれません。場所を少し移しましょう」
そこでシルヴァンが口を開いた。
「わかった、では宮殿の一室を提供しよう」
そうしてアレクサンドラたちは、場を宮殿に移すことにし、カサンドルには午後には戻ると伝えお茶の約束をした。
宮殿の客間に通されると、アレクサンドラは持っていたバスケットを中央のテーブルに置いた。
アルナウトはそれを見つめ、不機嫌そうにアレクサンドラに尋ねる。
「本当にこの中に毒が入っていると君は思っているのかね」
「そうですわ。でも、当然すべてに毒が入っている訳ではないと思いますの」
「なんだって?」
「犯人は、カサンドルから卿がお菓子を独り占めしていること、食べきれずにいつも捨てていることを聞いてこの計画を立てたんだと思いますわ」
それを聞いてアルナウトは不機嫌そうに言った。
「どういうことだ?」
「カサンドルはずっとお菓子の会に通っていましたわよね。多少は油断したのではありませんか? 毒は絶対に仕込まれないと」
「そんなことはないはずだが、まぁ、言われてみると過信していたかもしれん」
「それまで犯人は待っていたんですわ。そうして、屋敷の者たちが油断したところで計画を実行に移した」
「だが、どうやって毒を入れる?」
「それはもちろん、乳母が毒見を終えたあとバスケットに入れる前のお菓子の一つに毎回毒を仕込むか、もしくは自分が作ったお菓子に毒を仕込んでそれをすり替える。そんなことをしていたんだと思いますわ」
「たった一つに?」
「そうですわ。これは卿がお菓子を独り占めにするからできた作戦ですわ。もし他のご令嬢のように、余ったお菓子を使用人に配ることがあれば、毒が入っていたのがすぐにばれてしまいますもの」
そこでシルヴァンがハッとしたように言った。
「そうか、アルナウトは食べきれずに捨ててしまっていた。だから、毒が仕込まれていることに気づかれなかった。犯人としては、毎度毒を仕込んでいつかそれをアルナウトが食べればそれでよかったということか」
「そういうことですわ」
そこで、アルナウトがアレクサンドラに質問する。
「では、君はカサンドルとお菓子の会に参加している誰かが犯人だとでも? だが、参加しているのは下級貴族といってもみな身元の保証された者たちだぞ? それに、作っているたいだ使用人たちは食材に一切触れることはできない。誰がそんなこと……。いや、まて、そもそも本当にこのお菓子に毒は入っているのか?」
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