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下級貴族、そう聞いて犯人が誰なのかアレクサンドラはピンときて訊いた。
「その前に確認ですわ。そのお菓子の会にはシャトリエ男爵令嬢は参加していますかしら?」
すると、アルナウトは驚いた顔をした。
「カサンドルはシャトリエの娘に誘われてお菓子の会に行くようになった。そもそもお菓子の会の主催がシャトリエ男爵家だ」
「やはりそうでしたのね。では、このお菓子の中に毒が入っているか確認するのは簡単ですわ」
アレクサンドラはそう言うと、シルヴァンに訊いた。
「殿下、棚の物を少しお借りしても?」
「もちろん、構わない」
「ありがとうございます」
そう言うと、客間の棚に飾られている銀のスプーンを一つ手に取り、そのスプーンをプルーンパイ一つ一つに刺していった。
そうして十個目のパイにスプーンを差したときだった、スプーンが黒く変色した。
「ヒ素ですわ」
おそらくここでもシェーレグリーンが使われているのだろう。
それを見たアルナウトは顔色をなくすと、震える声で言った。
「もしかすると、カサンドルが食べてしまう恐れもあったということか……」
「そうですわ。犯人としてはこれが失敗したとしても他の方法を探せばいいわけですもの」
それを聞いてアルナウトは拳を握りしめ、わなわなと唇を震わせながら叫んだ。
「なんということだ、絶対に許さん!!」
それを聞いてアレクサンドラは大きく頷く。
「えぇ、本当に私も卑劣だと思いますわ」
「そうだ、卑劣だ! なんとしてでも捕らえてやる……」
「でしたら証拠が必要ですわ。これだけではまだシャトリエ男爵令嬢が犯人だと特定できませんもの」
アレクサンドラがそう言うと、アルナウトは少し冷静さを取り戻して言った。
「確かにそうだな」
「乳母が毎回一緒に通ってると仰ってましたわよね? 何かしら見ているかもしれません。あとで少し話を聞きに人を寄越しますわ。いいでしょうか?」
「もちろんだ、話ができるよう手配しておこう」
アルナウトがそう答えると、話を聞いていたユスフは直ぐに部屋から出ていった。それを見送るとアレクサンドラはアルナウトに言った。
「トゥール侯爵、このことはカサンドルにはバレないように対処したほうがいいですわね。バレたら彼女とても傷つきますものね」
「あぁ、そうだな。アレクサンドラ、娘を気遣ってくれてありがとう。カサンドルはお菓子の会をとても楽しんでいたからな」
そこでアレクサンドラはある考えを伝えた。
「それなのですけれど、今後私が主催でお菓子の会をいたしますわ。忙しいときもありますから、一週間に一度というわけにはいきませんけれど」
すると、アルナウトは表情を明るくした。
「いいのか?」
「もちろんですわ。ですからカサンドルには突然アリスのお菓子の会に行くなとは言わず、私のお菓子の会に参加するよう声を掛けてくださるかしら?」
「わかった」
そう答えると、アルナウトはあらためてアレクサンドラを見つめた。
「なんですの?」
「いや、最初にあれだけ私は君に失礼な態度をとったのに、ここまでしていただいて感謝している。本当にありがとう」
「いいえ、かまいませんわ」
「いや、国王陛下が褒めちぎる気持が今ならよくわかる」
そこでアルナウトは不思議そうに言った。
「それにしてもなぜシャトリエ男爵が私を?」
そこでアレクサンドラは彼に伝えなければならないことを思い出した。
「それについては私思い当たることがありますわ。卿は密輸の取り締まりを担当なさってますわよね」
「そうだが?」
「なら有益な情報がありますの」
アレクサンドラはにっこりと微笑むと、ファニーから知り得た情報をアルナウトに話し、あとで証拠を届けさせると約束した。
「なるほど、この件が暴かれては困るから先に私を暗殺しようとしたということですな?」
「そういうことだと思いますわ」
「それにしても流石アレクサンドラ様。そんなことも御存知だったとは。私の警備もすべてアレクサンドラ様に見直ししてもらう必要がありそうですな」
その手のひらを返したような態度にアレクサンドラは驚いた。
「トゥール侯爵、そんなにかしこまらないでください」
「いや、とんでもない。殿下がアレクサンドラ様を選んだ理由がわかりました」
アレクサンドラは、アルナウトの態度の違いに戸惑い話題を逸らした。
「いいえ、それは関係ありませんわ。それより、カサンドルと約束していますもの。早く屋敷へ戻りましょう」
アルナウトはとびきりの笑顔で答える。
「はい、ご馳走を準備いたします」
そうしてトゥール侯爵家に行くと、アレクサンドラはアリスの密輸工場の証拠をファニーのところから持ってこさせアルナウトに渡した。
そして午後にはカサンドルと約束したとおりお茶を楽しむと、トゥール家をあとにした。
帰り際、シルヴァンがいつになく真剣な顔でアレクサンドラに声をかけてきた。
「話したいことがある。僕の馬車で君の屋敷まで送ろう」
そう言われ、断れずにアレクサンドラは渋々王宮の馬車に乗り込んだ。
馬車の中でじっとアレクサンドラを見つめ、いつまでも話をしようとしないシルヴァンに痺れを切らしたアレクサンドラは先に口を開いた。
「今日は私の味方をしてくださってありがとうございました」
「いや、それは当然のことだろう」
「いいえ、あのとき殿下がいらっしゃらなければ今日の事件は解決できなかったかもしれませんわ」
「いや、ここ数日の君の功績を考えれば味方をして当然だろう」
「それでも、ですわ。やはり信じてもらえるというのは嬉しいことですから」
アレクサンドラがそう言うと、シルヴァンはしばらく無言になったあと苦しそうな顔で言った。
「僕は王太子殿下として『愛しているから、好きだから』と、そんな感情のみで人を信用することができない。あらゆる証拠がなければ信じることができないんだ。それだけは分かっていてほしい」
「それは、当然のことですわ」
そう返しながら、アレクサンドラは夢の中でのシルヴァンの言動を思い出していた。
あのとき、シルヴァンが証拠を探していたのはそういうことだったのかもしれない、そう思った。
なんとなく場の空気が悪くなってしまった気がしたので、アレクサンドラは話題を変えた。
「それにしても殿下、今日はわざわざトゥール伯爵家までいらっしゃらなくとも、あとで報告書を提出いたしましたのに」
「いや、実は君に用事があった、先日王宮で君と離したことについて、僕たちは話し合わなければならないと思ったんだ」
アレクサンドラはそれを聞いて、私には話すことはない。あれで二人の関係は終わったのだから。と、心の中で呟く。
それが見透かされたのかシルヴァンは言った。
「僕と話すのは嫌そうだ」
「いいえ、そんなことありませんわ」
アレクサンドラはそう言って笑顔を取り繕った。
「いや、無理をしなくていい。君の気持は先日聞いているからな。僕のことはもうなんとも思っていないのだろう?」
返事に窮して無言でいるとシルヴァンは苦笑しゆっくりと話し始めた。
「君は覚えているかわからないが、昔テオドールが君をからかったのを覚えているか? 『お前は殿下が好きなのだろう』と」
アレクサンドラはそれを覚えていた。
なぜなら、テオドールが大勢がいる場所でその質問をしてきたので、とても恥ずかしい思いをしたせいで印象に残っていたからだ。
「確かに、からかわれたことがあったかもしれませんわ」
「そのときなんと答えたか覚えているか?」
「確か、恥ずかしかったので『他に好きな人がいる』と答えましたわ」
「そうだ。それにテオドールから僕との婚約が決まったと聞いてなんと答えたか覚えているか?」
アレクサンドラはなぜそんなことを訊くのか不思議に思いながら答える。
「確か、お父様の決めたことに従いますとお答えしたと思いますわ」
「そうだ。だから僕は君には好きな人がいて、僕との婚約はテオドールが決めたから嫌々ながら従ったと思っていた」
アレクサンドラはそれを聞いて驚いてシルヴァンの顔を見つめた。
だが、シルヴァンはいつもと変わらぬ無表情で、そこからは何を考えているのかまったく読み取れなかった。
「その前に確認ですわ。そのお菓子の会にはシャトリエ男爵令嬢は参加していますかしら?」
すると、アルナウトは驚いた顔をした。
「カサンドルはシャトリエの娘に誘われてお菓子の会に行くようになった。そもそもお菓子の会の主催がシャトリエ男爵家だ」
「やはりそうでしたのね。では、このお菓子の中に毒が入っているか確認するのは簡単ですわ」
アレクサンドラはそう言うと、シルヴァンに訊いた。
「殿下、棚の物を少しお借りしても?」
「もちろん、構わない」
「ありがとうございます」
そう言うと、客間の棚に飾られている銀のスプーンを一つ手に取り、そのスプーンをプルーンパイ一つ一つに刺していった。
そうして十個目のパイにスプーンを差したときだった、スプーンが黒く変色した。
「ヒ素ですわ」
おそらくここでもシェーレグリーンが使われているのだろう。
それを見たアルナウトは顔色をなくすと、震える声で言った。
「もしかすると、カサンドルが食べてしまう恐れもあったということか……」
「そうですわ。犯人としてはこれが失敗したとしても他の方法を探せばいいわけですもの」
それを聞いてアルナウトは拳を握りしめ、わなわなと唇を震わせながら叫んだ。
「なんということだ、絶対に許さん!!」
それを聞いてアレクサンドラは大きく頷く。
「えぇ、本当に私も卑劣だと思いますわ」
「そうだ、卑劣だ! なんとしてでも捕らえてやる……」
「でしたら証拠が必要ですわ。これだけではまだシャトリエ男爵令嬢が犯人だと特定できませんもの」
アレクサンドラがそう言うと、アルナウトは少し冷静さを取り戻して言った。
「確かにそうだな」
「乳母が毎回一緒に通ってると仰ってましたわよね? 何かしら見ているかもしれません。あとで少し話を聞きに人を寄越しますわ。いいでしょうか?」
「もちろんだ、話ができるよう手配しておこう」
アルナウトがそう答えると、話を聞いていたユスフは直ぐに部屋から出ていった。それを見送るとアレクサンドラはアルナウトに言った。
「トゥール侯爵、このことはカサンドルにはバレないように対処したほうがいいですわね。バレたら彼女とても傷つきますものね」
「あぁ、そうだな。アレクサンドラ、娘を気遣ってくれてありがとう。カサンドルはお菓子の会をとても楽しんでいたからな」
そこでアレクサンドラはある考えを伝えた。
「それなのですけれど、今後私が主催でお菓子の会をいたしますわ。忙しいときもありますから、一週間に一度というわけにはいきませんけれど」
すると、アルナウトは表情を明るくした。
「いいのか?」
「もちろんですわ。ですからカサンドルには突然アリスのお菓子の会に行くなとは言わず、私のお菓子の会に参加するよう声を掛けてくださるかしら?」
「わかった」
そう答えると、アルナウトはあらためてアレクサンドラを見つめた。
「なんですの?」
「いや、最初にあれだけ私は君に失礼な態度をとったのに、ここまでしていただいて感謝している。本当にありがとう」
「いいえ、かまいませんわ」
「いや、国王陛下が褒めちぎる気持が今ならよくわかる」
そこでアルナウトは不思議そうに言った。
「それにしてもなぜシャトリエ男爵が私を?」
そこでアレクサンドラは彼に伝えなければならないことを思い出した。
「それについては私思い当たることがありますわ。卿は密輸の取り締まりを担当なさってますわよね」
「そうだが?」
「なら有益な情報がありますの」
アレクサンドラはにっこりと微笑むと、ファニーから知り得た情報をアルナウトに話し、あとで証拠を届けさせると約束した。
「なるほど、この件が暴かれては困るから先に私を暗殺しようとしたということですな?」
「そういうことだと思いますわ」
「それにしても流石アレクサンドラ様。そんなことも御存知だったとは。私の警備もすべてアレクサンドラ様に見直ししてもらう必要がありそうですな」
その手のひらを返したような態度にアレクサンドラは驚いた。
「トゥール侯爵、そんなにかしこまらないでください」
「いや、とんでもない。殿下がアレクサンドラ様を選んだ理由がわかりました」
アレクサンドラは、アルナウトの態度の違いに戸惑い話題を逸らした。
「いいえ、それは関係ありませんわ。それより、カサンドルと約束していますもの。早く屋敷へ戻りましょう」
アルナウトはとびきりの笑顔で答える。
「はい、ご馳走を準備いたします」
そうしてトゥール侯爵家に行くと、アレクサンドラはアリスの密輸工場の証拠をファニーのところから持ってこさせアルナウトに渡した。
そして午後にはカサンドルと約束したとおりお茶を楽しむと、トゥール家をあとにした。
帰り際、シルヴァンがいつになく真剣な顔でアレクサンドラに声をかけてきた。
「話したいことがある。僕の馬車で君の屋敷まで送ろう」
そう言われ、断れずにアレクサンドラは渋々王宮の馬車に乗り込んだ。
馬車の中でじっとアレクサンドラを見つめ、いつまでも話をしようとしないシルヴァンに痺れを切らしたアレクサンドラは先に口を開いた。
「今日は私の味方をしてくださってありがとうございました」
「いや、それは当然のことだろう」
「いいえ、あのとき殿下がいらっしゃらなければ今日の事件は解決できなかったかもしれませんわ」
「いや、ここ数日の君の功績を考えれば味方をして当然だろう」
「それでも、ですわ。やはり信じてもらえるというのは嬉しいことですから」
アレクサンドラがそう言うと、シルヴァンはしばらく無言になったあと苦しそうな顔で言った。
「僕は王太子殿下として『愛しているから、好きだから』と、そんな感情のみで人を信用することができない。あらゆる証拠がなければ信じることができないんだ。それだけは分かっていてほしい」
「それは、当然のことですわ」
そう返しながら、アレクサンドラは夢の中でのシルヴァンの言動を思い出していた。
あのとき、シルヴァンが証拠を探していたのはそういうことだったのかもしれない、そう思った。
なんとなく場の空気が悪くなってしまった気がしたので、アレクサンドラは話題を変えた。
「それにしても殿下、今日はわざわざトゥール伯爵家までいらっしゃらなくとも、あとで報告書を提出いたしましたのに」
「いや、実は君に用事があった、先日王宮で君と離したことについて、僕たちは話し合わなければならないと思ったんだ」
アレクサンドラはそれを聞いて、私には話すことはない。あれで二人の関係は終わったのだから。と、心の中で呟く。
それが見透かされたのかシルヴァンは言った。
「僕と話すのは嫌そうだ」
「いいえ、そんなことありませんわ」
アレクサンドラはそう言って笑顔を取り繕った。
「いや、無理をしなくていい。君の気持は先日聞いているからな。僕のことはもうなんとも思っていないのだろう?」
返事に窮して無言でいるとシルヴァンは苦笑しゆっくりと話し始めた。
「君は覚えているかわからないが、昔テオドールが君をからかったのを覚えているか? 『お前は殿下が好きなのだろう』と」
アレクサンドラはそれを覚えていた。
なぜなら、テオドールが大勢がいる場所でその質問をしてきたので、とても恥ずかしい思いをしたせいで印象に残っていたからだ。
「確かに、からかわれたことがあったかもしれませんわ」
「そのときなんと答えたか覚えているか?」
「確か、恥ずかしかったので『他に好きな人がいる』と答えましたわ」
「そうだ。それにテオドールから僕との婚約が決まったと聞いてなんと答えたか覚えているか?」
アレクサンドラはなぜそんなことを訊くのか不思議に思いながら答える。
「確か、お父様の決めたことに従いますとお答えしたと思いますわ」
「そうだ。だから僕は君には好きな人がいて、僕との婚約はテオドールが決めたから嫌々ながら従ったと思っていた」
アレクサンドラはそれを聞いて驚いてシルヴァンの顔を見つめた。
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