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確か夢の中で会ったアリスは、自分は殿下から覚えがいいとかそんなことを言ってきていた気がするが、あのときは相手にしていなかったので適当に話を聞き流した記憶がある。
今考えると、あれはアリスなりの宣戦布告だったのかもしれない。
一瞬、散歩に行くか迷ったが逃げていても仕方がないし、なんなら今度はこちらから宣戦布告してやればよいのだと考え直して、散歩に出かけることにした。
ロザリーと外へ出ると、アレクサンドラは大きく深呼吸をした。
「とっても気持ちがいいわ。ゆっくり散歩するのもいいわね」
「はい、お嬢様。それはよかったです」
以前と変わりなければ、もう少し進んだ曲がり角でアリスと軽くぶつかることになる。そうしてアリスは偶然を装いアレクサンドラに接触するつもりなのだ。
アレクサンドラはゆっくりとその曲がり角へ近づいて行った。すると、予想通りタイミングよくその角からアリスが飛び出てきた。
それを見てアレクサンドラはひょいと体をかわした。
すると、かわされるとは思ってもいなかったのかバランスを崩したアリスは派手に転んだ。
そんなアリスに手を差し出して微笑む。
「大丈夫かしら、怪我をしていなければいいのだけれど」
するとアリスは何処かぶつけたのか、痛みをこらえるように苦笑するとアレクサンドラの手を取りなんとか立ち上がった。
そして今気づいたと言わんばかりの顔で、アレクサンドラを見つめ瞳を輝かせた。
「あの、デュカス公爵令嬢でいらっしゃいますよね」
「そうだけど、どこかでお会いしたかしら?」
「えっと、私はアリスです。アリス・ル・シャトリエです」
アレクサンドラはわざととぼけて見せた。
「アリス、アリス、シャトリエ……。どこかで聞いた名前ねぇ? どこだったかしら?」
するとアリスは一瞬ムッとしたような顔をしたが、それを隠すように不安そうな顔をした。
「あの、まさか公爵令嬢ともあろうかたが、貴族令嬢の名前を御存知ないわけではありませんよね……?」
そこでアレクサンドラは声を出して笑った。
「やだ、冗談ですわ。私下流貴族の名前も全員知ってますもの。ね、アリス・ル・シャトリエ男爵令嬢」
そこでアリスは口元を少し引きつらせた。
「よ。よかったですわ。それにしてもお会いできて私とっても光栄ですわ。お互いに王太子殿下に寵愛される身として、一度お会いしておかなければと思ってましたの」
それを聞いてアレクサンドラはアリスを憐憫の眼差しで見つめた。
「そう、いるのよねあなたみたいな令嬢」
「ど、どういうことですの?」
「自分こそ殿下に愛されているって勘違いしてしまう令嬢よ」
「は? えっとあの、デュカス公爵令嬢は御存知ありませんの?」
「なにがですの?」
「ルイーズ・デュドネという占い師の予言ですわ」
「あぁ、あのペテン師のルイーズのこと? あらやだ、あなたあのペテン師のこと本当に信じてますの? 可哀想に……」
そう言ってアレクサンドラはアリスのことを上から下までじっくりと見た。
アリスは顔を真っ赤にして、今にも爆発しそうだったがなんとか落ち着くと鼻で笑った。
「そんな余裕をかましていられるのも今のうちですわ」
「こんなところにいたのか、僕の愛しい人」
その声に驚きアリスとアレクサンドラが振り向くと、そこにシルヴァンが立っていた。
アレクサンドラは嫌な予感がすると思いながらアリスをチラリと見た。するとアリスはそれに気づいてにやりと笑うと、瞳を輝かせてシルヴァンに駆け寄る。
「殿下、もしかして私を心配してきてくださったのですか?!」
そう言って上目遣いでシルヴァンを見つめたが、シルヴァンはアリスの存在そのものにまったく気づいていない様子でアレクサンドラに駆け寄り抱きしめた。
「殿下、ここは外ですし他の令嬢も見てますわ」
アレクサンドラは慌ててシルヴァンを自分の体から離そうとするが、シルヴァンは離そうとしない。
アリスは唖然としてそんな二人を見つめていたが、我に返るとこちらにやってきてシルヴァンに言った。
「殿下? あの、これはどういうことですの?」
するとシルヴァンはやっとアリスの存在に気づいたようだった。
「君はたしか、シャトリエ男爵の? そんなところにいたのか、気づかなかった」
するとアリスは口元をひくつかせながら、なんとか笑顔を作って言った。
「まだお二人は婚約解消していませんもの、表面上取り繕う必要があるのは仕方ありませんわ。それに私はデュカス公爵令嬢と違って嫉妬なんかしたりしませんからお気になさらず」
そうは言ったが、それがやせ我慢であるのは明らかだった。
なぜなら、手の指が白くなるぐらいドレスを握りしめており、あまりにも力が入っているせいかぷるぷると震えていたからだ。
それに歯を噛み締めているのか、こめかみにうっすらと青筋まで浮き上がっている。
シルヴァンはそんなアリスを無視し、アレクサンドラの顔を嬉しそうに見つめた。
「君が嫉妬? 僕のことで嫉妬してくれたのか?! なんて可愛らしいんだ!!」
「殿下、私は嫉妬などしておりません! 勘違いですわ。とにかく離してくださいませ!」
アレクサンドラはそう言うと身動ぎしながらアリスを睨んだ。
「アリス、誤解を招く言い方はやめてくださらないかしら?」
「ご、誤解もなにも本当のことですわ」
それを聞いてシルヴァンはさらに嬉しそうな顔をした。
「やはり本当のことなんだね! いつの話なんだ? いや、それよりこれからは君に嫉妬なんてさせないほど愛を注ぐことにしよう」
そう言ってシルヴァンはアレクサンドラの頭にキスの雨を降らせる。
「殿下! やめてください! こ、ここではだめです!」
「そうか? 場所など気にする必要はないと思うか゚……。それに誰が見ていてもかまわないだろう?」
「私はかまいます!」
「では、慣れてもらおう」
そう言ってシルヴァンはアレクサンドラをもう一度ぎゅっと抱きしめたあと、不思議そうにアレクサンドラに尋ねた。
「それにしても、君はこんなところでなにをしていたんだ?」
「さ、散歩ですわ」
「そうか、気晴らしもいいものだ。僕も散歩に同行してもかまわないか?」
「それはかまいませんわ、ですが……」
そう答えアレクサンドラはアリスを見つめた。アリスはムッとした顔でなにか言おうとしたがシルヴァンが突然アレクサンドラを縦抱きに抱き上げたので、それは遮られた。
「殿下?! 危ないですわ! それに私は自分で歩けます! 降ろしてくださいませ!」
するとシルヴァンは悲しそうにじっとアレクサンドラを見つめた。
それはまるで捨てられた子犬のようだった。
「そんな目で見てもだめですわ」
そう言ったが、シルヴァンが無言でアレクサンドラを見つめ続けるためついに根負けした。
「わ、わかりましたわ。お願いいたします。でも、こんなに端ないことは今日だけですわよ?」
「うん、わかった」
「約束ですわよ?」
「もちろんだ。婚姻するまでは我慢しよう」
「婚姻するまでって……」
「そうだ。それぐらいしか我慢できないからね」
そう言って満面の笑みを見せるシルヴァンを唖然として見つめていると、その後ろでアリスが叫んだ。
「殿下?! 私の存在をお忘れですの?」
よく見ると、アリスはシルヴァンのジャケットの裾を少し引っ張り、シルヴァンにすがるような眼差しを向けている。
シルヴァンはその手を振り払うと冷たく言い放った。
「まだいたのか」
アリスはその様子を見て、訴えるように言った。
「酷いですわ! 噂の話をお父様がしたときに、殿下はこちらに任せればいいとおっしゃったそうではありませんか! それは、私の存在を認めてくださったからではありませんの?」
シルヴァンは呆れたように返す。
「どうしたらそれが認めたことになるんだ」
すると、アリスは手をわなわなと震わせながら言った。
「ですが、殿下がアレクサンドラの本性を知ったらその気持ちはきっと変わりますわ!」
「アレクサンドラの本性? そんなものはとっくに知っている。それにお前ごときにどうこう言われる筋合いもない。それにしてもお前はなんて無礼なんだ、気分が悪いどこかへ消えてくれ」
そう答え、シルヴァンは無言でアリスに向かって手で払うような仕草をした。
「殿下、きっと後悔なさいますわ!」
アリスはそう捨て台詞のようなことを言って去っていった。
「煩わしい。やはり迎えに来てよかった」
シルヴァンはそう呟くとアレクサンドラをじっと見つめた。
「僕は君を守れたか?」
「は、はい」
「そうか、よかった」
そう言うと、ギュッと抱きしめたあと嬉しそうにアレクサンドラを抱えたまま歩き出した。
「あの、殿下。本当にこのまま散歩しますの?」
「そうだが?」
そこでアレクサンドラは大きくため息をついた。
「最近、殿下がなにを考えているのかさっぱりわかりませんわ」
そうアレクサンドラが言うと、シルヴァンは立ち止まりアレクサンドラの顔をじっと見つめたあと言った。
「そうか、君を不安にさせていたのだな。では、僕がなにを考えてるか話そう」
シルヴァンがそんなことを言うとは思わなかったアレクサンドラは、驚きながら答える。
「は、はい。お願いしますわ」
「うん。まず、君の唇はとても魅力的だと思っている」
「えっ? はい?」
「形も素晴らしいし、ピンク色で美しく、それを味わう事ができたらどれだけ幸せかと……」
そこまで聞いてアレクサンドラは慌ててシルヴァンの口を両手で塞いだ。
「も、もういいですわ!」
シルヴァンは口を塞ぐアレクサンドラの手をつかみそれを避けると微笑んだ
「よくない。君には正直になることにしたからね」
そう言ってアレクサンドラの胸の辺りに視線を落とす。
「それに、そのドレスに包み隠している滑らかな真珠色の肌を想像するだけで……」
アレクサンドラは慌ててシルヴァンの手を振り払いもう一度シルヴァンの口を両手で塞いだ。
「殿下、お願いします。もうしゃべらないでいただけますかしら?」
シルヴァンは苦笑しながら答える。
「君がそこまで言うなら仕方がない」
「ありがとうございます」
「ただ、僕がとても我慢していることだけは理解してほしい。僕は僕からも君を守っているんだよ」
「は、はい」
「では、散歩の続きをしよう」
シルヴァンはそう言うと、口笛を吹きながら楽しそうに歩き始めた。
今考えると、あれはアリスなりの宣戦布告だったのかもしれない。
一瞬、散歩に行くか迷ったが逃げていても仕方がないし、なんなら今度はこちらから宣戦布告してやればよいのだと考え直して、散歩に出かけることにした。
ロザリーと外へ出ると、アレクサンドラは大きく深呼吸をした。
「とっても気持ちがいいわ。ゆっくり散歩するのもいいわね」
「はい、お嬢様。それはよかったです」
以前と変わりなければ、もう少し進んだ曲がり角でアリスと軽くぶつかることになる。そうしてアリスは偶然を装いアレクサンドラに接触するつもりなのだ。
アレクサンドラはゆっくりとその曲がり角へ近づいて行った。すると、予想通りタイミングよくその角からアリスが飛び出てきた。
それを見てアレクサンドラはひょいと体をかわした。
すると、かわされるとは思ってもいなかったのかバランスを崩したアリスは派手に転んだ。
そんなアリスに手を差し出して微笑む。
「大丈夫かしら、怪我をしていなければいいのだけれど」
するとアリスは何処かぶつけたのか、痛みをこらえるように苦笑するとアレクサンドラの手を取りなんとか立ち上がった。
そして今気づいたと言わんばかりの顔で、アレクサンドラを見つめ瞳を輝かせた。
「あの、デュカス公爵令嬢でいらっしゃいますよね」
「そうだけど、どこかでお会いしたかしら?」
「えっと、私はアリスです。アリス・ル・シャトリエです」
アレクサンドラはわざととぼけて見せた。
「アリス、アリス、シャトリエ……。どこかで聞いた名前ねぇ? どこだったかしら?」
するとアリスは一瞬ムッとしたような顔をしたが、それを隠すように不安そうな顔をした。
「あの、まさか公爵令嬢ともあろうかたが、貴族令嬢の名前を御存知ないわけではありませんよね……?」
そこでアレクサンドラは声を出して笑った。
「やだ、冗談ですわ。私下流貴族の名前も全員知ってますもの。ね、アリス・ル・シャトリエ男爵令嬢」
そこでアリスは口元を少し引きつらせた。
「よ。よかったですわ。それにしてもお会いできて私とっても光栄ですわ。お互いに王太子殿下に寵愛される身として、一度お会いしておかなければと思ってましたの」
それを聞いてアレクサンドラはアリスを憐憫の眼差しで見つめた。
「そう、いるのよねあなたみたいな令嬢」
「ど、どういうことですの?」
「自分こそ殿下に愛されているって勘違いしてしまう令嬢よ」
「は? えっとあの、デュカス公爵令嬢は御存知ありませんの?」
「なにがですの?」
「ルイーズ・デュドネという占い師の予言ですわ」
「あぁ、あのペテン師のルイーズのこと? あらやだ、あなたあのペテン師のこと本当に信じてますの? 可哀想に……」
そう言ってアレクサンドラはアリスのことを上から下までじっくりと見た。
アリスは顔を真っ赤にして、今にも爆発しそうだったがなんとか落ち着くと鼻で笑った。
「そんな余裕をかましていられるのも今のうちですわ」
「こんなところにいたのか、僕の愛しい人」
その声に驚きアリスとアレクサンドラが振り向くと、そこにシルヴァンが立っていた。
アレクサンドラは嫌な予感がすると思いながらアリスをチラリと見た。するとアリスはそれに気づいてにやりと笑うと、瞳を輝かせてシルヴァンに駆け寄る。
「殿下、もしかして私を心配してきてくださったのですか?!」
そう言って上目遣いでシルヴァンを見つめたが、シルヴァンはアリスの存在そのものにまったく気づいていない様子でアレクサンドラに駆け寄り抱きしめた。
「殿下、ここは外ですし他の令嬢も見てますわ」
アレクサンドラは慌ててシルヴァンを自分の体から離そうとするが、シルヴァンは離そうとしない。
アリスは唖然としてそんな二人を見つめていたが、我に返るとこちらにやってきてシルヴァンに言った。
「殿下? あの、これはどういうことですの?」
するとシルヴァンはやっとアリスの存在に気づいたようだった。
「君はたしか、シャトリエ男爵の? そんなところにいたのか、気づかなかった」
するとアリスは口元をひくつかせながら、なんとか笑顔を作って言った。
「まだお二人は婚約解消していませんもの、表面上取り繕う必要があるのは仕方ありませんわ。それに私はデュカス公爵令嬢と違って嫉妬なんかしたりしませんからお気になさらず」
そうは言ったが、それがやせ我慢であるのは明らかだった。
なぜなら、手の指が白くなるぐらいドレスを握りしめており、あまりにも力が入っているせいかぷるぷると震えていたからだ。
それに歯を噛み締めているのか、こめかみにうっすらと青筋まで浮き上がっている。
シルヴァンはそんなアリスを無視し、アレクサンドラの顔を嬉しそうに見つめた。
「君が嫉妬? 僕のことで嫉妬してくれたのか?! なんて可愛らしいんだ!!」
「殿下、私は嫉妬などしておりません! 勘違いですわ。とにかく離してくださいませ!」
アレクサンドラはそう言うと身動ぎしながらアリスを睨んだ。
「アリス、誤解を招く言い方はやめてくださらないかしら?」
「ご、誤解もなにも本当のことですわ」
それを聞いてシルヴァンはさらに嬉しそうな顔をした。
「やはり本当のことなんだね! いつの話なんだ? いや、それよりこれからは君に嫉妬なんてさせないほど愛を注ぐことにしよう」
そう言ってシルヴァンはアレクサンドラの頭にキスの雨を降らせる。
「殿下! やめてください! こ、ここではだめです!」
「そうか? 場所など気にする必要はないと思うか゚……。それに誰が見ていてもかまわないだろう?」
「私はかまいます!」
「では、慣れてもらおう」
そう言ってシルヴァンはアレクサンドラをもう一度ぎゅっと抱きしめたあと、不思議そうにアレクサンドラに尋ねた。
「それにしても、君はこんなところでなにをしていたんだ?」
「さ、散歩ですわ」
「そうか、気晴らしもいいものだ。僕も散歩に同行してもかまわないか?」
「それはかまいませんわ、ですが……」
そう答えアレクサンドラはアリスを見つめた。アリスはムッとした顔でなにか言おうとしたがシルヴァンが突然アレクサンドラを縦抱きに抱き上げたので、それは遮られた。
「殿下?! 危ないですわ! それに私は自分で歩けます! 降ろしてくださいませ!」
するとシルヴァンは悲しそうにじっとアレクサンドラを見つめた。
それはまるで捨てられた子犬のようだった。
「そんな目で見てもだめですわ」
そう言ったが、シルヴァンが無言でアレクサンドラを見つめ続けるためついに根負けした。
「わ、わかりましたわ。お願いいたします。でも、こんなに端ないことは今日だけですわよ?」
「うん、わかった」
「約束ですわよ?」
「もちろんだ。婚姻するまでは我慢しよう」
「婚姻するまでって……」
「そうだ。それぐらいしか我慢できないからね」
そう言って満面の笑みを見せるシルヴァンを唖然として見つめていると、その後ろでアリスが叫んだ。
「殿下?! 私の存在をお忘れですの?」
よく見ると、アリスはシルヴァンのジャケットの裾を少し引っ張り、シルヴァンにすがるような眼差しを向けている。
シルヴァンはその手を振り払うと冷たく言い放った。
「まだいたのか」
アリスはその様子を見て、訴えるように言った。
「酷いですわ! 噂の話をお父様がしたときに、殿下はこちらに任せればいいとおっしゃったそうではありませんか! それは、私の存在を認めてくださったからではありませんの?」
シルヴァンは呆れたように返す。
「どうしたらそれが認めたことになるんだ」
すると、アリスは手をわなわなと震わせながら言った。
「ですが、殿下がアレクサンドラの本性を知ったらその気持ちはきっと変わりますわ!」
「アレクサンドラの本性? そんなものはとっくに知っている。それにお前ごときにどうこう言われる筋合いもない。それにしてもお前はなんて無礼なんだ、気分が悪いどこかへ消えてくれ」
そう答え、シルヴァンは無言でアリスに向かって手で払うような仕草をした。
「殿下、きっと後悔なさいますわ!」
アリスはそう捨て台詞のようなことを言って去っていった。
「煩わしい。やはり迎えに来てよかった」
シルヴァンはそう呟くとアレクサンドラをじっと見つめた。
「僕は君を守れたか?」
「は、はい」
「そうか、よかった」
そう言うと、ギュッと抱きしめたあと嬉しそうにアレクサンドラを抱えたまま歩き出した。
「あの、殿下。本当にこのまま散歩しますの?」
「そうだが?」
そこでアレクサンドラは大きくため息をついた。
「最近、殿下がなにを考えているのかさっぱりわかりませんわ」
そうアレクサンドラが言うと、シルヴァンは立ち止まりアレクサンドラの顔をじっと見つめたあと言った。
「そうか、君を不安にさせていたのだな。では、僕がなにを考えてるか話そう」
シルヴァンがそんなことを言うとは思わなかったアレクサンドラは、驚きながら答える。
「は、はい。お願いしますわ」
「うん。まず、君の唇はとても魅力的だと思っている」
「えっ? はい?」
「形も素晴らしいし、ピンク色で美しく、それを味わう事ができたらどれだけ幸せかと……」
そこまで聞いてアレクサンドラは慌ててシルヴァンの口を両手で塞いだ。
「も、もういいですわ!」
シルヴァンは口を塞ぐアレクサンドラの手をつかみそれを避けると微笑んだ
「よくない。君には正直になることにしたからね」
そう言ってアレクサンドラの胸の辺りに視線を落とす。
「それに、そのドレスに包み隠している滑らかな真珠色の肌を想像するだけで……」
アレクサンドラは慌ててシルヴァンの手を振り払いもう一度シルヴァンの口を両手で塞いだ。
「殿下、お願いします。もうしゃべらないでいただけますかしら?」
シルヴァンは苦笑しながら答える。
「君がそこまで言うなら仕方がない」
「ありがとうございます」
「ただ、僕がとても我慢していることだけは理解してほしい。僕は僕からも君を守っているんだよ」
「は、はい」
「では、散歩の続きをしよう」
シルヴァンはそう言うと、口笛を吹きながら楽しそうに歩き始めた。
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