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第四十一話
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アザレアは魔力切れを起こしたため、数日は安静にしなければならなかった。
カルは毎日時間がある限り、アザレアのそばに寄り添ってくれていた。そして、枕元でつらそうに言った。
「アズ、助かったから良かったものの、君がどうかしてしまったら、立ち直れない男がここにいるってことを忘れないでくれ」
リアトリスも毎日面会に訪れた。
「いつか、お前が私の手元から離れて行くことは分かっているが、それはお前の母親のように死に別れると言うことではないのだぞ」
そう言ってアザレアの頭をそっと撫でた。
「お父様、ごめんなさい」
リアトリスは微笑む。
「分かってくれればいい。だが今回お前のしたことは素晴らしい行動だった。そこは胸を張りなさい。私も誇らしい」
今回の件で王宮サイドから今後出掛ける際、必ず護衛の人間を一人つけることを約束させられた。
今まではこっそり出かけるのを許されていたのが、それができなくなったと言うことだ。
アザレアは、この安静にしている間に聖女の御披露目パレードが終わってくれれば良い。と淡い期待を抱いていた。
だが、そんなに上手くいくはずもなかった。更に栞奈の要求が多いお陰で、パレードの日程がずれ込むことになった。その日程ならば、アザレアがゆっくり休養をとっても十分な余裕があった。
アザレアは、それを残念に思いながら、とにかく今は自分の体調を整えることを優先することにした。
ずっと床上で過ごしていたのですっかり体が鈍ってしまっている。なので、まずはリハビリもかねて庭に出て、ガゼボでゆっくり読書することにした。
庭に出ると、久々の外の空気が心地よかった。ゆっくり歩みを進め、ガゼボに行くと先客がいる。フランツだった。フランツはガゼボの椅子に座り書類仕事をしているようだった。
仕事を邪魔してはいけないと言う気持ちと、先日の夜のことを思いだし、声をかけるか躊躇していたが、その間にフランツがこちらに気がついた。目が合ったので笑顔を向ける。
「こんにちわ」
するとフランツはこちらを見て驚き、つらそうな顔で
「アザレア様……」
と言うと、立ちあがってこちらに二~三歩近づいた。アザレアは先日のことを思いだし、思わず後ずさる。フランツが悲しそうに微笑む。
「お願いですから、逃げないで」
懇願するように言った。そうしてアザレアに駆け寄ると、アザレアの手を取り両手で包む。フランツのせつない様子に、アザレアも拒否できなかった。
「とても、とても心配しました。貴女が死んでしまうかと……」
そう言って、目の前に片膝を立てて跪きアザレアを見上げて言った。
「もし、次に貴女の命が危ない時は、僕を思い出していただけないでしょうか? 僕を頼ってもらえないでしょうか? 貴女にもしもの事があったらと考えるだけで……。とにかく貴女は自分をもっと大切にしてください」
そう言って、つらそうに笑った。フランツの手はわずかに震えていた。アザレアが頷くとフランツは立ち上がり、アザレアを見つめる。
「ですが、あの状況であんな行動をとれてしまう貴女だからこそ、こんなにも魅かれるのでしょうね」
フランツはアザレアの手を優しく撫でると、指先にキスをした。
「こちらには散歩がてらこられたのでしょう? 少しガゼボでゆっくりしていってください」
そう言うと、アザレアの手を引いてガゼボの方へ歩きだした。アザレアは手を引かれたまま椅子の前まで来ると、フランツから少し距離を置いて座る。
「流石にそこまであからさまだと、僕も傷つくな」
フランツは自嘲気味にそう言うと苦笑した。
「ですが、こうすればアザレア様が安心して僕と同じ空間で過ごしてくれるのなら、僕は喜んでそれに従います」
そう言うと、フランツもアザレアより距離を取って座る。そして、いつもの穏やかな表情で言った。
「それと、一つ以前から気になっていたことがあるのですが」
アザレアは首をかしげ、フランツの話の先を黙って促す。
「アザレア様が僕の名前に敬称をつける必要はありませんよ。宮廷魔導師になられるのですから、今から慣れてもらわなければいけません。そういったこともアザレア様の勤めなのですよ」
そう言われ、アザレアは確かにそうかもしれないと思う。
「では、これからはフランツ、と呼ばせていただきますわね?」
フランツは苦笑する。
「敬語も使う必要はありません。まぁ、それは追々慣れていただくことにして、それにしても、そう呼ばれると昔を思いだしますね」
アザレアは昔のことと言われても、フランツと会ったことを覚えていなかったので訊いた。
「私と昔お会いしたことが?」
フランツは少しがっかりしたような残念そうな苦笑を浮かべる。
「アザレア様はまだ幼かったので、覚えてらっしゃらないかもしれませんね。僕が昔スパルタカス家に養子に入ったばかりの頃、アザレア様はケルヘール公爵に連れられて、よく王宮に来られていたのです。そしてある日、父上の言い付けで書類を持って歩いている僕に、突然机の下から飛び出したアザレア様が抱き付いたのです。そして『セミ!!』と仰ったんですよ」
フランツは優しく微笑みアザレアを見つめる。そして続けた。
「その後、アザレア様は恥ずかしかったのか、知らない相手だと気づくと『まちあえちゃった』と仰って逃げて行ってしまったんです。その後も何度か間違えられて、それが続くうちに僕の名前を覚えてくださったんです。そして『セミ!!』と抱きついた後『フランツだった、まちあえちゃったけど捕まえた~』と、そのまま抱きついていました。本当に愛らしかったです」
あまりの内容にアザレアは恥ずかしくなり顔を上げることもできなかった。フランツはアザレアをいとおしそうに見つめる。
「そうやって、あの時から僕は貴女に捕らえられたままなのです」
アザレアは顔を赤くした。それをみたフランツは満足そうに微笑む。
「先に僕を捕まえたのは貴女なのですから、責任は取ってもらいます」
そう言うとフランツは、アザレアの手を取って手の甲にキスをするとため息をついた。そして、書類を片付け始める。
「僕がここにいると、アザレア様はきっと読書に集中できないでしょうから、僕は退散致します。アザレア様、あまり体に負担をかけぬよう無理はせず、ごゆっくりお過ごしください」
そう言って去っていった。
カルは毎日時間がある限り、アザレアのそばに寄り添ってくれていた。そして、枕元でつらそうに言った。
「アズ、助かったから良かったものの、君がどうかしてしまったら、立ち直れない男がここにいるってことを忘れないでくれ」
リアトリスも毎日面会に訪れた。
「いつか、お前が私の手元から離れて行くことは分かっているが、それはお前の母親のように死に別れると言うことではないのだぞ」
そう言ってアザレアの頭をそっと撫でた。
「お父様、ごめんなさい」
リアトリスは微笑む。
「分かってくれればいい。だが今回お前のしたことは素晴らしい行動だった。そこは胸を張りなさい。私も誇らしい」
今回の件で王宮サイドから今後出掛ける際、必ず護衛の人間を一人つけることを約束させられた。
今まではこっそり出かけるのを許されていたのが、それができなくなったと言うことだ。
アザレアは、この安静にしている間に聖女の御披露目パレードが終わってくれれば良い。と淡い期待を抱いていた。
だが、そんなに上手くいくはずもなかった。更に栞奈の要求が多いお陰で、パレードの日程がずれ込むことになった。その日程ならば、アザレアがゆっくり休養をとっても十分な余裕があった。
アザレアは、それを残念に思いながら、とにかく今は自分の体調を整えることを優先することにした。
ずっと床上で過ごしていたのですっかり体が鈍ってしまっている。なので、まずはリハビリもかねて庭に出て、ガゼボでゆっくり読書することにした。
庭に出ると、久々の外の空気が心地よかった。ゆっくり歩みを進め、ガゼボに行くと先客がいる。フランツだった。フランツはガゼボの椅子に座り書類仕事をしているようだった。
仕事を邪魔してはいけないと言う気持ちと、先日の夜のことを思いだし、声をかけるか躊躇していたが、その間にフランツがこちらに気がついた。目が合ったので笑顔を向ける。
「こんにちわ」
するとフランツはこちらを見て驚き、つらそうな顔で
「アザレア様……」
と言うと、立ちあがってこちらに二~三歩近づいた。アザレアは先日のことを思いだし、思わず後ずさる。フランツが悲しそうに微笑む。
「お願いですから、逃げないで」
懇願するように言った。そうしてアザレアに駆け寄ると、アザレアの手を取り両手で包む。フランツのせつない様子に、アザレアも拒否できなかった。
「とても、とても心配しました。貴女が死んでしまうかと……」
そう言って、目の前に片膝を立てて跪きアザレアを見上げて言った。
「もし、次に貴女の命が危ない時は、僕を思い出していただけないでしょうか? 僕を頼ってもらえないでしょうか? 貴女にもしもの事があったらと考えるだけで……。とにかく貴女は自分をもっと大切にしてください」
そう言って、つらそうに笑った。フランツの手はわずかに震えていた。アザレアが頷くとフランツは立ち上がり、アザレアを見つめる。
「ですが、あの状況であんな行動をとれてしまう貴女だからこそ、こんなにも魅かれるのでしょうね」
フランツはアザレアの手を優しく撫でると、指先にキスをした。
「こちらには散歩がてらこられたのでしょう? 少しガゼボでゆっくりしていってください」
そう言うと、アザレアの手を引いてガゼボの方へ歩きだした。アザレアは手を引かれたまま椅子の前まで来ると、フランツから少し距離を置いて座る。
「流石にそこまであからさまだと、僕も傷つくな」
フランツは自嘲気味にそう言うと苦笑した。
「ですが、こうすればアザレア様が安心して僕と同じ空間で過ごしてくれるのなら、僕は喜んでそれに従います」
そう言うと、フランツもアザレアより距離を取って座る。そして、いつもの穏やかな表情で言った。
「それと、一つ以前から気になっていたことがあるのですが」
アザレアは首をかしげ、フランツの話の先を黙って促す。
「アザレア様が僕の名前に敬称をつける必要はありませんよ。宮廷魔導師になられるのですから、今から慣れてもらわなければいけません。そういったこともアザレア様の勤めなのですよ」
そう言われ、アザレアは確かにそうかもしれないと思う。
「では、これからはフランツ、と呼ばせていただきますわね?」
フランツは苦笑する。
「敬語も使う必要はありません。まぁ、それは追々慣れていただくことにして、それにしても、そう呼ばれると昔を思いだしますね」
アザレアは昔のことと言われても、フランツと会ったことを覚えていなかったので訊いた。
「私と昔お会いしたことが?」
フランツは少しがっかりしたような残念そうな苦笑を浮かべる。
「アザレア様はまだ幼かったので、覚えてらっしゃらないかもしれませんね。僕が昔スパルタカス家に養子に入ったばかりの頃、アザレア様はケルヘール公爵に連れられて、よく王宮に来られていたのです。そしてある日、父上の言い付けで書類を持って歩いている僕に、突然机の下から飛び出したアザレア様が抱き付いたのです。そして『セミ!!』と仰ったんですよ」
フランツは優しく微笑みアザレアを見つめる。そして続けた。
「その後、アザレア様は恥ずかしかったのか、知らない相手だと気づくと『まちあえちゃった』と仰って逃げて行ってしまったんです。その後も何度か間違えられて、それが続くうちに僕の名前を覚えてくださったんです。そして『セミ!!』と抱きついた後『フランツだった、まちあえちゃったけど捕まえた~』と、そのまま抱きついていました。本当に愛らしかったです」
あまりの内容にアザレアは恥ずかしくなり顔を上げることもできなかった。フランツはアザレアをいとおしそうに見つめる。
「そうやって、あの時から僕は貴女に捕らえられたままなのです」
アザレアは顔を赤くした。それをみたフランツは満足そうに微笑む。
「先に僕を捕まえたのは貴女なのですから、責任は取ってもらいます」
そう言うとフランツは、アザレアの手を取って手の甲にキスをするとため息をついた。そして、書類を片付け始める。
「僕がここにいると、アザレア様はきっと読書に集中できないでしょうから、僕は退散致します。アザレア様、あまり体に負担をかけぬよう無理はせず、ごゆっくりお過ごしください」
そう言って去っていった。
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