死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー

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第五十話

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 チューザレ大司教の件は、焦る気持ちはあれど、どうすることもできず。相手が馬脚を表すのを待つしかなかった。結局は普段通りの生活を送るしかないということだ。だが、何かあったときに対応できるように、知識を深め魔力を高めることも必要不可欠なことだった。

 アザレアは、少し不安な気持ちを抱えながら日々講義に集中することにした。

 そんな中、先日マユリに作ってもらった箱に、時間魔法の魔力を注入し完成させることに成功した。出来上がったものを、まずはヒュー先生に見せようと思い講義に持参する。

 講義が始まって、挨拶を交わし、いつものようにヒュー先生が机に腰かけて、質問を待っている。そこでアザレアは言った。

「先生、以前言っていた時間の経過を止める箱なのですけど、完成しました」

 それを聞くと、ヒュー先生は腰かけていた机から立ち上がり、アザレアの前までくると揉み手をして楽しそうに言った。

「それは是非見たいなぁ、持ってきた?」

 アザレアは、箱を包んでいる布を広げてヒュー先生に見せた。

「試作品第一号ですので、本当に小さいものですけれど」

 そう言って、ヒュー先生に見せる。箱を受け取ったヒュー先生は、まず箱に施された細工に見入って、箱をなめるように隅々まで見る。そして、鼻眼鏡の位置を指で変えながら訊いてきた。

「これは、どうやってるの? 僕には宝石を止めている爪が見えないんだけど」

 アザレアはにんまり笑って答える。

「ミステリー・セッティングっていいますの。本来は小さな宝石を大きく見せるために施すものですけれど、この箱については側面に多く、隙間なく宝石をセッティングするために施していますわ」

 そう言うと、先生は驚いて箱から視線を外しアザレアを見る。

「えっ?  ミステリー・セッティング? そんな技巧初めて聞いたよ」

 と、驚き、箱に視線を戻した。アザレアは更に説明する。

「たぶんこの技巧は知られていない技巧だと思います。それと驚くことがもう一つありますわ。ミステリーセッティングは普通スクエアカットの石を並べますの。わたくしも最初はそのようにお願いしたのですけれど、マユリさん、あの、ジュエリー職人の方が、俺のやりたいようにやらせてくれって言うので任せましたの、そうしたら……」

 そこでカルが話を次いで言う。

「先生、私も一度作り方をマユリの工房で見せてもらったことがあるのですが、こんな技巧でモザイク模様を作るなんて驚きです」

 そうヒュー先生に言ったあと、カルはアザレアに向き直る。

「本当に、君もよくこんな卓越した職人を探しだしたものだ」

 カルは感心したように言った。ヒュー先生も頷く。

「マユリさん? その職人に一度あってみたいな、素晴らしいね。完璧な仕上りだ」

 そう言って、マユリを褒めた。アザレアは二人がマユリを褒めてくれたことがなによりも嬉しかった。

 ヒュー先生は箱をアザレアに返しながら、笑みを浮かべてアザレアを見た。

「ところで、魔道具としてはどうかな?」

 今度はアザレアの腕の見せ所である。アザレアは笑みを返す。

「そちらはおまかせくださいませ、もうそろそろですわ」

 そう言い終わる前に、箱のブラックダイヤがキラキラ輝きだした。カルも先生も輝く箱を見つめ感嘆の声を漏らした。

 そして、箱から仕掛けの作動するような金属音がすると、ゆっくり蓋が開いた。全員で中を覗く。ヒュー先生がアザレアに尋ねる。

「月下美人?」

 アザレアは頷く。

「そうなんですの、先日植物園に行った時に思いついたんです。月下美人は夜に咲いて朝にはしぼんでしまいますでしょう? だから昨晩咲いた花を入れておきましたの。昼間に開けた時に、まだ花が咲いていれば成功したことになりますわね」

 するとカルが口を挟む。

「植物園、ね。誰と行ったのか気になるところだが、それはさておき。花は咲き誇っているし、きちんと講義の時間に蓋が開いたし、成功じゃないか? でも、君の大切な花を実験のために手折ってしまってよかったのか?」

 そう心配そうに言った。アザレアは笑顔で答える。

「ありがとうカル、お花は時間魔法で治せるから大丈夫ですわ」

 するとカルは頷く。

「そうか、良かった」

 そう言って微笑んだ。ヒュー先生がアザレアに訊く。

「時間指定は必ずしなければならないの? それとも、設定なしで物を保存するだけってのもできるの?」

 アザレアはヒュー先生の方向を向いた。

「もちろん、時間指定なしでもできますわ。先生もご存じの通り、この箱の創作を閃いた当初は物の時間を止めて、物を保存するためだけに作ろうと思っていましたので。先生に時間指定できるように提案があったのを思いだしてその機能を追加しました」

 ヒュー先生は机に腰かけ腕を組んだあと、手を自身の頬に当てた。

「いや、まさか本当に作ってしまうとは驚いたよ」

 そして、首を振る。

「いや、作れないと思っていた訳じゃなくてね、アザレアなら作れるだろうってわかっていたけど、実際に目にするまではね」

 そう言って苦笑した。カルが横からヒュー先生に向かって言う。

「当然です。アズにできないことはないですからね」


 アザレアは少し恥ずかしくなり下を向いた。しばらくして、先生に訊いておかなければならないことがあったのを思い出した。

「先生、話が変わってしまうのですが、質問よろしいかしら?」

 そう言うと、ヒュー先生は腕を組んだまま答える。

「はいはい、君たち生徒が質問しないと、僕の授業は成り立たないからね。思い付いたら何でもどうぞ」

 アザレアはカルの方を見る。

「その前に、カルに断りをいれる必要がありましたわ。この前フランツが言っていた時空魔法と奈落についての話を、先生に質問してもいいかしら?」

 カルは一瞬動きを止めて考えていたが、なんのことか思い出したようで頷いた。

「全く構わないよ、私は君に隠したくて講義でその話題を出さなかっただけだから」

 そう言って苦笑した。アザレアはカルに微笑み返しヒュー先生を見る。

「教会の文献に、昔時空魔法で奈落を塞いだと言う記述があったそうです。それが本当だとして、時空魔法で塞げるとするなら、そこからどういったことが考えられますでしょう? 時空魔法で塞げるなんて、奈落ってどういった物なんでしょう?」

 ヒュー先生は少し考えて答える。

「質問に答える前に、僕はその文献を見たことがない。文献を読んでみないと、ちゃんとした回答はできないなぁ。カルミア、教会からその文献の閲覧許可は取れるかい? と言うか、正直に言うと一研究者として、その文献を読みたい気持ちの方が強いね。ここは王太子殿下様のお力添えで、何とかできないかな?」

 カルは笑って答える。

「わかりました、アゲラタムには私から言っておきます」

 ヒュー先生は嬉しそうにカルに近づくと、カルの手を握って言った。

「うん、君は本当に素晴らしい王子だね!」
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