死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー

文字の大きさ
53 / 66

第五十一話

しおりを挟む
 数日後、ヒュー先生が講義の冒頭で言った。

「先日アザレアからもらった質問の回答に、今日は答えられそうだよ」

 机に腰かけたまま、鼻眼鏡を上げると腕を組んで笑顔を浮かべた。カルは驚く。

「もう少し文献の閲覧に時間がかかると思っていました。まぁ、こちらもアゲラタムをせっついたので、多少は効いたかもしれませんね」

 アザレアは答えが早く知りたくて、先生を期待の眼差しで見つめた。それを見てヒュー先生は微笑む。

「アザレアは気になるよね。ところでアザレア自身はあの文献読んだの?」

 アザレアは首を振った。

「だよね、あの文献の内容、僕やアザレアのように知識がないと理解できない内容だったから、僕やアザレアに見せてくれていればもっと早くに根本的な解決策を提示できたかもしれない」

 そう言って、苦笑した。

「結論を言うとね、奈落ってのはどうやら時空の歪みで、空間に穴が開いてしまっている状態らしい。昔の時空魔法使いがそれに気づいたようで、穴を塞ぎに行ったんだけど魔力不足で叶わなかったみたい。ちなみにモンスターと言われている者の正体は、その時空の歪みと言うか、空間の穴を通って他の時空から流入する『何か』みたいだね。誰も見たことが無いから、その正体はわからないけど。触れると数日後に、生きた屍になってしまうって書いてあった。アザレア、逆に僕は訊きたい。これについて何か思い当たることはある?」

 アザレアは一つだけ思い当たる物があった。それは放射能だ。目に見えず触れると生きた屍になる。放射能の特性に合致していた。もしそういうものなのだとしたら、聖女の作る結界にはオゾン層のようにそれを通さない力があるのかもしれない。

 アザレアは黙ってしばらく考え込む。その様子を見てヒュー先生は言った。

「やっぱり、君にはそれがなんなのか分かるんだね」

 アザレアは頷き、少し考えながら答える。

「分かると言うか思い当たることが一つだけあります。でもこれを説明するとなると、途方もなく難しい話になってしまうので、さらっとだけ説明しますわね。それでも話が長くなりますわ、よろしいでしょうか?」

 ヒュー先生もカルも頷く。アザレアは一呼吸入れると話し始めた。

「全ての物は目に見えないほど小さな粒子でできてます。その粒子の塊の量などで、その物質の理が決まりますの。ほとんどの物質は、その粒子の形や量が安定しているのですけれど、多く持ちすぎたり、形がわるかったりと安定せず、絶えず余ってしまっていて、粒子を飛散している物質があります。これを崩壊物質と呼びますわ。ここまではよろしいかしら?」

 アザレアはそう言って二人の顔を見ると、二人は頷いた。二人ともここで講義をしているせいか、ここまですんなり理解したようだった。アザレアは続ける。

「その崩壊物質は、長い年月をかけていらない粒子を飛散し終わると安定した形になり、飛散を辞めます。問題はこの飛ばされ続ける目に見えない小さな粒子の方です。分かりやすく今後は飛散粒子と呼びますわね。その極小さな粒子は見えないけれどわたくし達の体を貫通して、体を構成するのに大事なものまで破壊します。なので、その粒子が体を貫通したあとすぐは死ななくとも、その後に体の再生ができなくなるので生きた屍となり死に至ります。わたくしは、その飛散粒子こそモンスターの正体ではないかと思います」

 言い終わると、ヒュー先生もカルも驚いた顔をしていた。信じられなくても仕方がないと思う。だが二人の反応はアザレアの予想に反していた。

「聖女の結界は光の粒子によるものかな? 魔法学の観点からも、物質が粒子によって作られていると言うのはなんら不思議もないしね。見えないぐらいの飛散粒子が体にダメージを与えるって言うのは、少しイメージつきにくいけどさ」

 カルも頷く。

「魔法学のように、それをしっかり証明できれば、これからの進歩に役立ちそうな話だね」

 そしてヒュー先生があることに気づいて、カルに向かって言った。

「アザレアの話をもとに、モンスターにやられた時の治療魔法の確立ができるんじゃないかな? 根本的な治療ができるよね? 色々状況が変わるんじゃないかな? それと、国境を行き来するための小規模な結界石が王宮にあるって聞いたことがあるけど、それを使えばアザレアが奈落まで行って奈落を塞げるんじゃない?」

 カルはそれを聞いて、顔をしかめる。

「確かに、隣国との国交のためにいくつか小さな結界石は存在しています。でも」

 そう言ってアザレアの顔を見て、真剣な顔になる。

「それをアズがやるのは私は反対します。本当にできるかわからないし、もしアズに何かあったらどうするのです? 危険すぎます」

 ヒュー先生は頷く。

「もちろん、今話したことは推測の域を出ないからね。今後アザレアの言ったことをもとに調査団を編成して、何度か調査したりしてこの話の裏付けが取れて安全が確保されないと。僕だって可愛い教え子達をそんなところに行かせられないよ」

 そう言うと、ヒュー先生はアザレアを見て話を続ける。

「アザレアは国の宝だ。失えばその損失は計り知れないよ」

 カルも頷く。

「先生のおっしゃる通りだと思います。素晴らしい女性なのは知っていましたが、その知性も想像を遥かに越えている」

 そう言って、アザレアに向かって微笑んだ。アザレアもカルを見つめ返す。しばらくそうしてからカルが口を開いた。

「私はこれから忙しくなりそうだ。君が教えてくれたことを調査しなければならないしね。もちろん、先生や君にも協力をお願いすることもあると思う。君には負担をかけっぱなしで申し訳ない」

 そう言うとアザレアに頭を下げた。アザレアは首を振る。

「とんでもないことですわ、この国のことはわたくしのことでもあるのですから、当然です」

 そう言って二人は見つめ合った。その横で、ヒュー先生が何かを思い出したように、カルに訊いた。

「そう言えば、教会の聖女ってどうしてるの? 降臨祭の時もなんだかパッとしなかったけど、その後も全然民衆の前に出てこないしさ。光の属性持ちだし、アザレアみたいにやっぱ知識量とかも半端ないんでしょ? 一度は会ってみたいなぁ」

 そう言うと楽しそうに微笑んだ。カルはそんなヒュー先生を見ながら苦い顔をして答える。

「先生、それはやめておいた方が良いと思いますよ。彼女は予想の斜め上をいってますから」

 ヒュー先生は大きく目を見開いた。

「いいよ、そういうの。研究者として興味あるなぁ」

 アザレアとカルは顔を見合わせて苦笑した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...