死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー

文字の大きさ
59 / 66

第五十七話

しおりを挟む
 聖女は片手を腰にあて、もう片方の手の人差し指を立てると前に出し、周囲をぐるりと見回すと

「良いですか? 皆さん。あの崩落事故の直後に、アザレア公爵令嬢とこの老人が話をしているのを目撃したものが何人もいます。その証言を得た私は、この老人を調べました。ところがありとあらゆる手段を用いても、この老人の身元が全く分かりませんでした。私の調べ方がいけなかったのか? いいえ答えはノーです。そもそもこの老人はサイデューム国に存在していない人物なのです」

 そう言ったあと、ノクサとアザレアを蔑むように一瞥し、カルに向き直る。

「それがあの崩落事故の犯人だと言うことを物語っているとは思いませんか?」

 と言い、一呼吸する。

「さて、本来聖女でもなんでもない、自分の利益のためになら人命も厭わず、神聖な場所で事件を起こすようなこの女を聖女扱いしてしまったために天罰が下りました。皆さんご存じだと思いますが、先日結界が一部消失したあの事件です」

 そして、栞奈かんなは人差し指を顎にあて小首をかしげる。

「今までこのような現象が、過去にあったでしょうか? 私はありとあらゆる文献を調べましたが、見つかりませんでした。そして気がつきました。かつて本物の聖女をないがしろにし、偽物の聖女を崇めた、こんなことがあったでしょうか? いいえ、一度もありません。それこそがあの結界の一部消失の原因だったのです」

 そこまで聖女が話したところで、部屋がノックされた。カルが答える。

「入れ」

 許可がでると、ドアが開き執事のホルンストが一礼し部屋に入った。

「お話し中のところ大変申し訳ありません。お客様がおいでになってます」

 そう言うと、突然ドアから勢い良く

「聖女、来たよ! 面白いことやってるって?」

 と、待ちきれないとばかりにファニーが入って来た。栞奈かんなはファニーを見ると満面の笑顔になった。

「ファニー、私のために来てくれたのね! 嬉しい。良いところにきたわ! 今この女を断罪していたところなの。貴方もこの女についてなにか情報をつかんだって言ってたじゃない? 証言してもらって良いかしら?」

 するとファニーさんは声を出して笑いだした。

「本当に面白いねあんた、最高だよ!」

 そして、大きくため息をついて肩をすくめる。

「でも、僕、実は王妃陛下に雇われてるから、あんたの味方するのは無理だなぁ」

 その場にいた全員がファニーの顔を驚きの眼差して凝視した。ファニーは全員を見渡す。

「あれ? もしかしてここにいる全員知らなかったのかな? そもそも、僕、王妃殿下に拾われてデザイナーやってんだし、考えれば分かるもんだと思うけどなぁ。王妃殿下が『アテクシのアザレアちゃんをいじめる奴はコテンパンにしておやり!』とか言ったからさぁ、聖女の味方するふりしたりして、色々動いてたわけさ。今日もこの騒ぎを知った王妃殿下が『お前、行ってアザレアちゃんを救出してきなさい! 今すぐ!!』って半ギレで言うから見参しました~」

 途中、裏声で王妃陛下の真似をしながら言うと、アザレアの所へやってきてアザレアと腕を組む。

「それに、王妃殿下がご令嬢を気に入るの、僕分かるなぁ。だってさ、ご令嬢えらい素直だし。僕も気に入ったんだよなぁ」

 そして、聖女に向かって言う。

「あんたの欲望に忠実で、傲慢で、そんなところ嫌いじゃないけど、灰汁が強すぎてお腹いっぱい。ごめんな」

 栞奈かんなはぷるぷる震えだす。

「こっちだって、あんたみたいな気持ち悪い奴はお断り!」

 ファニーは、にんまり笑う。

「そっかぁ、良いんじゃない? でも、困るのはそっちだよな~、だってマフィンに添えられてる手紙、王妃殿下から借りてあんたに渡したの、僕だし」

 すると、栞奈かんなは切れた。

「この男の言っていることは全部嘘です! 私をはめようとしているんです。その女の仲間なのです」

 と、アザレアを指差した。そこでカルが口を開いた。

「嘘かどうかは王妃殿下に伺えば分かることだ、後で確認させてもらおう。そう言えば君はこの部屋に入って直ぐにマフィンに毒が入ってると言ったね? なぜわかったのかな?」

 栞奈かんなは自信満々に答える。

「私には特別な力があります。絶対にそのマフィンは毒入りです。わかるんです! なんと言っても聖女ですから!」

 そう言うと、胸を張った。カルは微笑む。

「なるほど、聖女とはそう言うものなのか。ではその力を皆の前で証明しようではないか」

 そう言うと、フランツに前に出るように手で合図した。

「フランツ、そのマフィンを食べろ」

 栞奈かんなは慌てる。

「王子、何を言ってるんですか? そのマフィンにはあの女が入れた毒が入ってるんですよ? やめてください。私のフランツが死んじゃう!!」

 フランツはそんな栞奈かんなの様子も構わず、マフィンを手に取るとぱくりとかぶりついた。

「イヤァァァ!!」

 栞奈かんなの叫び声が執務室内に響いた。フランツは微笑む。

「普通のマフィンです。味はまずまずといったところですね」

 そう言って、指で口元を拭った。栞奈かんなは呆気に取られる。

「嘘よ、嘘、嘘、だってそのマフィンには毒が入ってるはずなのに」

 と泣きそうになった。カルはフランツに下がるよう指示を出す。

「確かに預かったマフィンには毒が入っていた」

 すると、聖女の顔がパッと明るくなる。

「ですよね!? ほら、やっぱり毒入りだったじゃないですか!」

 それを受けてカルは栞奈かんなを見据えて言った。

「私はそのマフィンを最初から、毒の入っていないものと入れ替えてここに置いていた。なのになぜ聖女は毒の入っていないマフィンを毒入りだと断定できたのだ?」

 と訊いた。聖女は青ざめる。

「えっ? えっと、それは、あの、毒が入ったマフィンを持ってくるあの女が、頭の中で見えたからです」

 そう小声でぼそぼそと言った。カルは鼻で笑う。

「そもそもマフィンを持ってきたのは、アザレア公爵令嬢ではない。更に言えば、アザレア公爵令嬢は王宮の厨房を使用する許可を取っていない。なのにマフィンを手作りして持参したら怪しまれるとは思わないか? 彼女は王宮により保護されている立場だ。どこかでマフィンを作ってくるということもできない」

 栞奈かんなは黙りこんでしまった。カルは続ける。

「それに崩落事件のことについても、とんでもない考え違いをしている」

 そう言ったあと、カルは立ち上がりノクサの前まで行くと、跪く。

倪下げいか、お久しぶりです」

 ノクサは苦笑すると残念そうに言った。

「なんだ、バレてしまっていたのか……」

 カルは立ち上がって振り返り聖女を見る。

「お前が犯人と言ったこの方はアゲラタムの教皇だ。お前は教皇があの崩落事件を起こしたと言うのか?」

 アザレアはカルの顔を見たのち、ノクサの顔を見た。ノクサはアザレアと目が合うとイタズラっぽく微笑んだ。栞奈かんなは意味がわかっていないのか、きょとんとしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...