悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー

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 オルヘルス・リートフェルト男爵令嬢はエーリク・テン・ホルト公爵令息にエスコートされ、国王主宰の舞踏会へのぞんだ。

 ダンスホールへ着くと、とても悲しそうな顔でアリネア・デ・コーニング伯爵令嬢がそんなふたりを見つめていた。

 アリネアはとても美しい令嬢で、陶器のような白い肌に薔薇色の頬、そして大きく潤んだ瞳にぷっくりとした唇を持ち、彼女に合えば誰もがその美しさの前にひれ伏すだろうと言われているほどだった。

 アリネアはしばらくこちらを見つめていたかと思うと、突然ぽろぽろと涙をこぼしその場に座り込んだ。

 それを見たエーリクは、じっとしていられないとばかりにつかんでいたオルヘルスの手を振り払った。

「すまない」

 そう言い残すと、アリネアに駆け寄りハンカチを取り出し涙を拭う。

「アリネア、泣かないでくれ」

 アリネアは潤んだ瞳でエーリクを見上げた。

「ごめんなさい。わたくしに泣く権利なんてありませんのに。幸せそうなふたりを見ていたら……」

 そう言うとオルヘルスを見つめる。そんなアリネアをエーリクは抱きしめた。

 アリネアはエーリクから体を離そうとするが、エーリクはそんなアリネアをさらに強く抱きしめた。すると、アリネアはイヤイヤをするように、首を横に振りエーリクを見上げた。

「だめですわ、離してください! わたくしは親友のオリを裏切ることなんてできません!」

 そう言ってもう一度オルヘルスを見つめ、エーリクはそんなアリネアを見て苦しそうな顔をした。

「君にこんなにもつらい思いをさせてすまない。だが、私もこれ以上自分の気持ちを抑えられそうにない」

 そう呟くと、オルヘルスに向かって申し訳なさそうに言った。

「そういうわけでオリ、すまない。君との婚約は破棄させてくれ!」

 オルヘルスは満面の笑みでうなずく。

「はい、わかりましたわ!」

 だが、エーリクは自分に酔ったかのように話を続ける。

「私は君と言う存在がありながら、アリネアを愛してしまったんだ。彼女は運命の女性だ」

「はい、だから婚約解消しましょう」

 オルヘルスはそう答えるが、エーリクはまだ止まらない。

「そうか、どうしてもそれに納得がいかないと言うなら、私は君がアリネアにしていた嫌がらせの証拠を……」

「だから、いいですわよ? しましょう! 婚約解消」

「は?」

 アリネアもエーリクも鳩に豆鉄砲を食らったような顔でオルヘルスを見つめた。

 そんなふたりにかまわずオルヘルスは使用人に合図し、準備していた書類を持ってこさせる。

「これ、婚約解消の書類ですわ。サインしてくださるかしら?」

 エーリクは呆気に取られていたが、気を取り直したように言った。

「君はなんとも思わないのか?!」

 それに続いてアリネアも不満そうにオルヘルスに言った。

「そうですわ、親友に婚約者を取られたんですのよ?! 悔しくありませんの?!」

 オルヘルスは不思議に思いふたりに質問する。

「なぜですの?」

 エーリクは慌てる。

「なぜって、それはお前、裏切られたんだぞ?」

 そこでオルヘルスは微笑み返した。

「おふたりが罪悪感を覚える必要はありませんわ。こうなることはわかっていましたもの。それにわたくしとエーリク様とは政略的なものですし、そこは割りきってますし、知り合いに幸せになってもらいたいのは当然のことですわ」

 そう言ってエーリクに書類とペンを突き付ける。

「どうぞ、こちらにサインをお願いいたしますわね」

 エーリクはその書類とオルヘルスの顔を交互に見つめると、渡されたペンを取りサインしながら呟く。

「信じられない。たかが男爵家の令嬢がせっかく公爵家に嫁げるというのに……」

 オルヘルスはそれを見届けると、これで解放されると思い嬉しくなった。

「サイン、ありがとうございますわ!」

 お礼を言うと、エーリクの背後からオルヘルスを恨みがましい眼差しで睨んでいるアリネアに気づく。

 オルヘルスはそんなアリネアに祝福の言葉を送った。

「アリネア様、どうぞ運命の人とお幸せに」

 周囲にいる貴族たちは、好機の目でそんな三人のやり取りを見つめていた。

 オルヘルスは、これ以上社交界での話題のネタを提供するつもりはなかったので、周囲に向かって言った。

「お騒がせして大変申し訳ありませんでした。今回のことは、誰が悪いわけでもありませんの。このおふたりは真実の愛を貫いたのですわ。どうか暖かく受け入れてくださいませ」

 そう言って恭しく一礼する。周囲の貴族たちも一瞬戸惑ったようだったが、しばらくしてオルヘルスに拍手を送った。

 それに笑顔で答えると、オルヘルスはその場を立ち去ろうとした。

 そのとき、注目を集めるように誰かが大きく手を叩いた。

 どうしたのかとそちらに注目すると、そこにはグランツ・ファン・デ・ヴァル・ユウェル王太子殿下が立っていた。

 それに気づいたものたちが一斉に膝を折る。

「なんの騒ぎかと思ったら、これはどういうことだ?」

 オルヘルスは慌てた。

「お騒がせして、大変申し訳ございません」

 グランツはそんなオルヘルスを一瞥したあと、エーリクに向き直る。

「騒ぎは見ていた。謝るべきはオリではなく、エーリク、そしてアリネアお前たちの方だろう」

 エーリクは慌てて頭をさげる。

「こ、このような騒ぎをおこして申し訳ありません!」

 それにアリネアも続いた。

「殿下、申し訳ありませんでした」

 グランツはそんな二人を侮蔑の眼差しで見つめていたが、しばらくして鼻で笑うと言った。

「まぁ、いい。これは私にとって朗報だからな」

 そして、オルヘルスに向き直る。

「オリ、顔を上げてくれ」

「はい」

 オルヘルスはなにをいわれるのかと、恐る恐る顔を上げた。すると、グランツの優しい眼差しに驚いて思わずうつむく。

「私は君がエーリクと婚約し、幸せそうにしているのを見て諦めようとしていた。だが、君は幸せではなかったのだな」

「は、はい」

「ならば、君のことは私がきっと幸せにしてみせよう。私と婚約してほしい」

 オルヘルスは戸惑い動揺し、思わず顔を上げグランツを見つめ返す。

 グランツはそんなオルヘルスの様子に気づいたように言った。

「わかっている。婚約を破棄したばかりで、君も複雑な気持ちなのだろう。だから、しばらく時間をおいて君の気持ちが落ち着いたところで婚約しよう」

 思いもよらぬその台詞に、オルヘルスは驚いてどう返事をしてよいか迷った。そんなオルヘルスをグランツは詰める。

「返事は?」

「え? は、はい。わかりました」

「よし」

 グランツはそう言って満足そうにうなずくと、オルヘルスの手を取り甲にキスすると自分の方へ引き寄せ腰に手を回した。

 そして、周囲に向かって高らかに言った。

「そういうことだ。さぁ、舞踏会の続きを楽しもう」

 すると、周囲の貴族たちは祝福の言葉を口々にし拍手を送った。

 そんな中、アリネアとエーリクがオルヘルスを鋭い眼差しで睨んでいた。
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