18 / 43
17
しおりを挟む
オルヘルスは不思議に思いながら部屋の中を覗くと、イーファが立っており小手を外しているところだった。
「お兄様?! いつ戻られましたの?」
オルヘルスが声をかけると、イーファは背を向けたまま答える。
「さっき戻ったところだ」
「そうなんですの。今回はいつまでいられますの?」
「ずっとだ」
「え?」
「だから、ずっとだ」
「どういうことですの?」
オルヘルスがそう訊くと、イーファはこちらを向き無表情で答える。
「今までの任が解かれた。今日からは違う任務に着くことになる」
「ずいぶん急な話なんですのね。で、次の赴任先はどこですの?」
「護衛だ。お前の」
「護衛?! 私の?!」
護衛なら、すでにグランツが手配している。屋敷の前にも屯所があり、騎士団の者が交代で詰めていた。
それなのに、さらに護衛をつけることにオルヘルスは驚いていた。
「何を驚く、お前は王太子殿下の婚約者となるのだから、専属の護衛がついて当然だろう」
「専属のって、もしかしてこれからずっとお兄様が?」
「そうなるが、嫌なのか」
「えっ? いいえ、そういうわけではありませんわ。ただ、親族が護衛に着くなんて変な感じだと思って」
「殿下の希望だ」
「殿下のですの? 確かにお兄様なら信頼できますものね。では、お兄様。これからよろしくお願いいたしますわ。私をしっかり守ってくださいませ」
オルヘルスがそう言って微笑むと、イーファは鼻で笑った。
「当然だ」
「流石お兄様。頼りになりますわ。そういえば、今日ちょうど殿下とお兄様のお話をしましたの」
「私の?」
「えぇ。もしかしたら、殿下はこのことを知っていてお兄様のお話をされたのかもしれませんわね」
「だろうな」
イーファはそう答えると、オルヘルスの顔を無言でじっと見つめる。
「お兄様? なんですの?」
「殿下は私のことをなんと?」
「えっ?」
「だから、殿下は私のことをなんと言っていた?」
そう聞かれたオルヘルスは『殿下は、お兄様がシスコンだって仰ってましたわ!』という言葉を飲み込むと、当たり障りのない返事をする。
「えっと……。確かお兄様はとても優秀だと」
「そうか。他には?」
そう問われ、婚約の話を思い出す。
「それと、昔アリネア様と婚約の話がでたとか……。お兄様、本当ですの? 私知りませんでしたわ」
すると、イーファは不機嫌そうな顔をした。
「余計なことを」
「なんですの?」
「いや、それに関してはもう昔の話だ。とくに話すこともない」
「そうですの? でも、アリネア様もなにも仰らなかったから、本当に驚きましたわ」
オルヘルスがそう言うと、イーファはなにかを思い出したようにふっと笑うと言った。
「だろうな」
その様子を見て、二人の間になにかあったのだろうと予測できた。
だがきっと、何があったのか訊いてもイーファは答えないだろうと思い、オルヘルスは話題を逸らした。
「とにかく、お兄様が帰ってきてお母様はきっと喜ぶと思いますわ。じゃあ、あとで食堂で……」
「まて、お前に話すことがある」
「なんですの?」
「殿下はお忙しいから、明日から私がお前の乗馬の指導をすることになった。私は殿下と違って厳しいからそのつもりで」
オルヘルスはそれを聞いて内心がっかりしていたが、悟られないよう微笑んで返した。
「わかりましたわ。では、明日からそちらもよろしくお願いしますわ」
そう言うと、自室へ向かった。
そうしてオルヘルスは自室にもどり、オルガに着替えを手伝ってもらいながら今日グランツと話した内容を思い出して呟く。
「お兄様が私以外眼中にないだなんて、ありえませんわ」
すると、オルガが不思議そうにオルヘルスを見つめる。
「イーファ様がどうかされたのですか?」
「なんでもないわ。気にしないで、独り言なの」
「はい……」
そうして、この日からオルヘルスはイーファと行動を共にするようになった。
翌朝、乗馬の指導があるためいつものように早朝から厩舎へ向かった。
始めてオルヘルスが馬房に入って手伝いをしたとき、世話係のギルは慌ててオルヘルスを止めたものだが、最近では朝オルヘルスが顔を出すと笑顔で出迎えてくれるようになっていた。
「おはようギル。とくに問題はないかしら?」
「はい、お嬢様。スノウもお嬢様が来た日はとても元気になるんですよ」
「そうなの? よかったわ。じゃあもっと通わないとね」
そんなやり取りをしたあと、スノウの馬房に入る。そしてまず馬房の掃除をし、餌をやるとスノウを丁寧にブラッシングした。
それからあらかじめ手入れした馬装具をスノウに装着し、それから乗馬服に着替えるとスノウを馬場に出し、常歩で歩かせながらイーファを待った。
「スノウ、今日から先生が変わるのよ? しばらくはお兄様が指導してくださるんですって」
そんなふうに話しかけていると、イーファがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「お兄様、おはようございます」
すると、イーファは驚いた顔をした。
「もう来ていたのか」
「当然ですわ、馬房の掃除と馬装具の装着とやることは色々ありますもの」
「まさか、殿下はそこからやれと?」
「違いますわ。これは私が勝手に始めたことですの。スノウが可愛くて」
そう答えると、イーファは少し考えた様子を見せたあとに言った。
「私が思っていたよりも、お前は真剣なのだな」
「もちろんですわ。私いたって真面目に取り組んでますの」
「そうか、わかった。私は少々お前を見くびっていたようだ」
「わかっていただければ結構ですわ」
そう答えるオルヘルスにイーファは苦笑する。
「それにしてもお前は馬の扱いがうまいな」
「この子だけですわ。他の子だったらこうはいかなかったと思いますの」
「いや、お前がそれだけスノウを大切にしているからだろう」
そんな会話をしていると、突然スノウがオルヘルスの肩に自分の鼻先を押し付けた。そのお陰で、オルヘルスの肩はスノウのよだれと鼻水でべっとりと汚れた。
「もう! スノウってば自分がかまってもらえないからっていたずらして!」
それを見てイーファが声を出して笑った。
「洗礼を受けているな。それにしても、スノウは本当にお前のことが好きらしい。じゃあスノウをこれ以上待たせるわけにもいかない。指導を始めよう」
そうして、イーファによる指導が始まった。だが、オルヘルスが予想しているよりもとても優しいものだった。
殿下より厳しくすると言っていたのはなんだったのかしら?
オルヘルスはそう思いながらイーファの指導を受けた。
指導中、イーファはオルヘルスの上達の早さにも驚いていたが、とくにスノウの賢さに感心していた。
「スノウはまるで、お前の考えを先読みしているような動きをする。本当に不思議な馬だ」
「お兄様?! いつ戻られましたの?」
オルヘルスが声をかけると、イーファは背を向けたまま答える。
「さっき戻ったところだ」
「そうなんですの。今回はいつまでいられますの?」
「ずっとだ」
「え?」
「だから、ずっとだ」
「どういうことですの?」
オルヘルスがそう訊くと、イーファはこちらを向き無表情で答える。
「今までの任が解かれた。今日からは違う任務に着くことになる」
「ずいぶん急な話なんですのね。で、次の赴任先はどこですの?」
「護衛だ。お前の」
「護衛?! 私の?!」
護衛なら、すでにグランツが手配している。屋敷の前にも屯所があり、騎士団の者が交代で詰めていた。
それなのに、さらに護衛をつけることにオルヘルスは驚いていた。
「何を驚く、お前は王太子殿下の婚約者となるのだから、専属の護衛がついて当然だろう」
「専属のって、もしかしてこれからずっとお兄様が?」
「そうなるが、嫌なのか」
「えっ? いいえ、そういうわけではありませんわ。ただ、親族が護衛に着くなんて変な感じだと思って」
「殿下の希望だ」
「殿下のですの? 確かにお兄様なら信頼できますものね。では、お兄様。これからよろしくお願いいたしますわ。私をしっかり守ってくださいませ」
オルヘルスがそう言って微笑むと、イーファは鼻で笑った。
「当然だ」
「流石お兄様。頼りになりますわ。そういえば、今日ちょうど殿下とお兄様のお話をしましたの」
「私の?」
「えぇ。もしかしたら、殿下はこのことを知っていてお兄様のお話をされたのかもしれませんわね」
「だろうな」
イーファはそう答えると、オルヘルスの顔を無言でじっと見つめる。
「お兄様? なんですの?」
「殿下は私のことをなんと?」
「えっ?」
「だから、殿下は私のことをなんと言っていた?」
そう聞かれたオルヘルスは『殿下は、お兄様がシスコンだって仰ってましたわ!』という言葉を飲み込むと、当たり障りのない返事をする。
「えっと……。確かお兄様はとても優秀だと」
「そうか。他には?」
そう問われ、婚約の話を思い出す。
「それと、昔アリネア様と婚約の話がでたとか……。お兄様、本当ですの? 私知りませんでしたわ」
すると、イーファは不機嫌そうな顔をした。
「余計なことを」
「なんですの?」
「いや、それに関してはもう昔の話だ。とくに話すこともない」
「そうですの? でも、アリネア様もなにも仰らなかったから、本当に驚きましたわ」
オルヘルスがそう言うと、イーファはなにかを思い出したようにふっと笑うと言った。
「だろうな」
その様子を見て、二人の間になにかあったのだろうと予測できた。
だがきっと、何があったのか訊いてもイーファは答えないだろうと思い、オルヘルスは話題を逸らした。
「とにかく、お兄様が帰ってきてお母様はきっと喜ぶと思いますわ。じゃあ、あとで食堂で……」
「まて、お前に話すことがある」
「なんですの?」
「殿下はお忙しいから、明日から私がお前の乗馬の指導をすることになった。私は殿下と違って厳しいからそのつもりで」
オルヘルスはそれを聞いて内心がっかりしていたが、悟られないよう微笑んで返した。
「わかりましたわ。では、明日からそちらもよろしくお願いしますわ」
そう言うと、自室へ向かった。
そうしてオルヘルスは自室にもどり、オルガに着替えを手伝ってもらいながら今日グランツと話した内容を思い出して呟く。
「お兄様が私以外眼中にないだなんて、ありえませんわ」
すると、オルガが不思議そうにオルヘルスを見つめる。
「イーファ様がどうかされたのですか?」
「なんでもないわ。気にしないで、独り言なの」
「はい……」
そうして、この日からオルヘルスはイーファと行動を共にするようになった。
翌朝、乗馬の指導があるためいつものように早朝から厩舎へ向かった。
始めてオルヘルスが馬房に入って手伝いをしたとき、世話係のギルは慌ててオルヘルスを止めたものだが、最近では朝オルヘルスが顔を出すと笑顔で出迎えてくれるようになっていた。
「おはようギル。とくに問題はないかしら?」
「はい、お嬢様。スノウもお嬢様が来た日はとても元気になるんですよ」
「そうなの? よかったわ。じゃあもっと通わないとね」
そんなやり取りをしたあと、スノウの馬房に入る。そしてまず馬房の掃除をし、餌をやるとスノウを丁寧にブラッシングした。
それからあらかじめ手入れした馬装具をスノウに装着し、それから乗馬服に着替えるとスノウを馬場に出し、常歩で歩かせながらイーファを待った。
「スノウ、今日から先生が変わるのよ? しばらくはお兄様が指導してくださるんですって」
そんなふうに話しかけていると、イーファがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「お兄様、おはようございます」
すると、イーファは驚いた顔をした。
「もう来ていたのか」
「当然ですわ、馬房の掃除と馬装具の装着とやることは色々ありますもの」
「まさか、殿下はそこからやれと?」
「違いますわ。これは私が勝手に始めたことですの。スノウが可愛くて」
そう答えると、イーファは少し考えた様子を見せたあとに言った。
「私が思っていたよりも、お前は真剣なのだな」
「もちろんですわ。私いたって真面目に取り組んでますの」
「そうか、わかった。私は少々お前を見くびっていたようだ」
「わかっていただければ結構ですわ」
そう答えるオルヘルスにイーファは苦笑する。
「それにしてもお前は馬の扱いがうまいな」
「この子だけですわ。他の子だったらこうはいかなかったと思いますの」
「いや、お前がそれだけスノウを大切にしているからだろう」
そんな会話をしていると、突然スノウがオルヘルスの肩に自分の鼻先を押し付けた。そのお陰で、オルヘルスの肩はスノウのよだれと鼻水でべっとりと汚れた。
「もう! スノウってば自分がかまってもらえないからっていたずらして!」
それを見てイーファが声を出して笑った。
「洗礼を受けているな。それにしても、スノウは本当にお前のことが好きらしい。じゃあスノウをこれ以上待たせるわけにもいかない。指導を始めよう」
そうして、イーファによる指導が始まった。だが、オルヘルスが予想しているよりもとても優しいものだった。
殿下より厳しくすると言っていたのはなんだったのかしら?
オルヘルスはそう思いながらイーファの指導を受けた。
指導中、イーファはオルヘルスの上達の早さにも驚いていたが、とくにスノウの賢さに感心していた。
「スノウはまるで、お前の考えを先読みしているような動きをする。本当に不思議な馬だ」
1,365
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる