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そう言うと、使用人からシャンパンの入ったグラスを二つ受け取りそのうちの一つをオルヘルスに渡した。
そうして、全員の方へ向き直ると言った。
「今日は集まってくれてありがとう」
その一言で、招待客が口を閉じシャウテン公爵に集中し静かになるのを待つと、シャウテン公爵は話し始める。
「カヴァロクラブの乗馬会は今日で百回を越える。百回だ、こんな会が百回も行われたなんて、本当に驚きだ」
シャウテン公爵がそうおどけて冗談を言うと、周囲から笑いが起きた。その笑いが収まるのを待ってシャウテン公爵は話を続ける。
「そんな節目に、リートフェルト男爵令嬢のような聡明な女性を招待できたことも、素晴らしいことだと思う。これからも日々馬について語らい、馬について情報交換をし見識を広げ、馬と共にこの国を大いに盛り立てて行こう!」
そう挨拶をしてグラスを掲げると、それを合図に食事会が始まった。
最初は緊張していたオルヘルスも、終始流れる和やかな空気に次第にリラックスしていった。
食事中は、愛馬会でオルヘルスがスノウを見極めた経緯が話題となり、さらに実際のプライモーディアル種はどんな特徴があるのかといった質問を四方から受けることとなった。
一通り食事を食べ終えると、意見交換をしたい者はサロンに移動し、連れてきた馬の品評や乗馬の腕前を披露したい者は馬場へ移動した。
オルヘルスはついにこのときが来たと思いながら、シャウテン公爵に耳打ちする。
「実は私乗馬の訓練をいたしましたの。今日ここでその腕前を披露してみんなを驚かせたいのですけれど、よろしいでしょうか」
すると、シャウテン公爵は一瞬驚いた顔をしたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「それは素晴らしい、君が颯爽とあの馬で現れたらさぞかしみんな驚くことだろう」
「では、少し外しますわ」
そうして、化粧室へ行くふりをしてオルヘルスは席を立った。その後ろにイーファが続こうとしたが、オルヘルスはそれを断る。
「お兄様、今回は一人で大丈夫ですわ」
「だが、エーリクが待ち構えているかもしれない」
「エーリク様はもう帰ったみたいですわ、お食事にいらっしゃらなかったもの」
「しかし……」
「お願い、お兄様」
オルヘルスがそう言ってイーファを見つめると、イーファは目を逸らして言った。
「仕方がない」
「ありがとうお兄様」
オルヘルスがそう言って微笑むと、イーファはオルヘルスの顔を真剣な眼差しで見つめた。
「だが、もしもお前が戻ってくるのが遅かったりすれば、直ぐに追いかけるからな」
「はい、お願いいたします」
そう言うと厩舎に向かって行った。
イーファが心配しながらそのうしろ姿をじっと見つめていると、シャウテン公爵が声をかける。
「先ほどはホルト公爵令息のことで、君たちに不快な思いをさせたが厩舎の方は警備がここよりも厳重だ。心配はいらない。私たちは馬場で彼女が来るのを待とう」
そうして、軽く背中を押し馬場へ行くよう促した。
馬場ではすでに何頭かの馬が厩舎から出され御披露目されており、興味深げにその馬の特徴や今までの馬術競技の成績、どこのルーツなのかなどを盛んにやり取りしていた。
「今年は素晴らしい馬が揃っていますね」
イーファが馬場を見つめながらそう言うと、シャウテン公爵も馬場を見つめながら大きくうなずく。
「そうだな。五年前にフィーレンス侯爵家のブルーダイヤが死んでしまってから、あまり良い馬がいなかったが、今年は素晴らしい馬が出揃っている」
そう言うと、イーファの方に向き直り微笑んだ。
「特にスノウは群を抜いている。それに、オルヘルス嬢も素晴らしい。確か愛馬会のときは馬に乗れず殿下と相乗りしていた記憶があるが?」
「はい、そうですね。恥ずかしながら妹は乗馬ができませんでしたから」
すると、シャウテン公爵は苦笑する。
「それは仕方あるまい。彼女は大義のために健康な体を手放したのだから。それにしても乗馬ができるほど回復し、こんなに短期間で馬を乗りこなすとは。目利きの件といい、彼女を王妃にすればこの国は安泰だろうな」
「褒め過ぎです」
「本当のことだ」
そう言うと、シャウテン公爵とイーファはしばらく微笑み合った。
そのときだった、背後から取り乱した様子の執事が駆けてきた。
「旦那様、大変でございます!」
「どうした、カスペル。お前がそんなに慌てるなど珍しいこともあるものだ」
「それが、エントランスでホルト公爵令息が……」
それを聞いてシャウテン公爵は険しい顔をした。
「ん? 彼は帰っただろう」
「それが、一度はお帰りになったのですが今度はコーニング伯爵令嬢を伴っていらしたのです」
「なんだって?」
カスペルはちらりとイーファを見ると、シャウテン公爵に視線を戻して言った。
「それが『リートフェルト男爵令嬢は護衛だと言って兄を連れてきているのだから、私が誰を連れてきても構わないだろう』と……」
すると、シャウテン公爵は怒りを露にした。
「なんと恥さらしな、こんなことは到底許されることではない。とりあえずここに連れて来い」
そう言うと心底呆れた顔でイーファに言った。
「ハインリッヒのために、少しでもホルト公爵家の名誉を回復すべく気を回して招待はしたが、これでは逆にホルト公爵家の名誉を傷つけかねんな」
そう話しているところへ、エーリクがアリネアを伴ってやって来ると周囲を見回し大きな声で話し始めた。
「シャウテン公爵、あなたの執事が私の連れを通そうとしなくてまいりましたよ、少し教育なさったほうがよろしいのでは?」
それを受けてシャウテン公爵は、エーリクに憐憫の眼差しを向けた。
「ホルト公爵令息、ご存じの通りカヴァロクラブは会員制だ。外部の者は招待状がないと入れない決まりになっている」
すると、エーリクは腕を組みニヤリと笑うと馬鹿にしたように言った。
「ほぅ、ではリートフェルト男爵家だけは特別ということですか? オリは兄のイーファを護衛として連れ込んでいるのですから」
シャウテン公爵は分かりやすく大きなため息をつくと説明した。
「なにか勘違いしているようだが、イーファはカヴァロクラブの会員だ。入ることが許されて当然だろう」
それを聞いて、エーリクは顔を歪ませて言い返す。
「馬鹿な、一介の男爵令息がカヴァロクラブに入会を許されるはずがない」
「なにを言っている。イーファは馬術大会の総合馬術で最小年で優勝したほどの実力の持ち主だ。知らないのか」
そうして、全員の方へ向き直ると言った。
「今日は集まってくれてありがとう」
その一言で、招待客が口を閉じシャウテン公爵に集中し静かになるのを待つと、シャウテン公爵は話し始める。
「カヴァロクラブの乗馬会は今日で百回を越える。百回だ、こんな会が百回も行われたなんて、本当に驚きだ」
シャウテン公爵がそうおどけて冗談を言うと、周囲から笑いが起きた。その笑いが収まるのを待ってシャウテン公爵は話を続ける。
「そんな節目に、リートフェルト男爵令嬢のような聡明な女性を招待できたことも、素晴らしいことだと思う。これからも日々馬について語らい、馬について情報交換をし見識を広げ、馬と共にこの国を大いに盛り立てて行こう!」
そう挨拶をしてグラスを掲げると、それを合図に食事会が始まった。
最初は緊張していたオルヘルスも、終始流れる和やかな空気に次第にリラックスしていった。
食事中は、愛馬会でオルヘルスがスノウを見極めた経緯が話題となり、さらに実際のプライモーディアル種はどんな特徴があるのかといった質問を四方から受けることとなった。
一通り食事を食べ終えると、意見交換をしたい者はサロンに移動し、連れてきた馬の品評や乗馬の腕前を披露したい者は馬場へ移動した。
オルヘルスはついにこのときが来たと思いながら、シャウテン公爵に耳打ちする。
「実は私乗馬の訓練をいたしましたの。今日ここでその腕前を披露してみんなを驚かせたいのですけれど、よろしいでしょうか」
すると、シャウテン公爵は一瞬驚いた顔をしたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「それは素晴らしい、君が颯爽とあの馬で現れたらさぞかしみんな驚くことだろう」
「では、少し外しますわ」
そうして、化粧室へ行くふりをしてオルヘルスは席を立った。その後ろにイーファが続こうとしたが、オルヘルスはそれを断る。
「お兄様、今回は一人で大丈夫ですわ」
「だが、エーリクが待ち構えているかもしれない」
「エーリク様はもう帰ったみたいですわ、お食事にいらっしゃらなかったもの」
「しかし……」
「お願い、お兄様」
オルヘルスがそう言ってイーファを見つめると、イーファは目を逸らして言った。
「仕方がない」
「ありがとうお兄様」
オルヘルスがそう言って微笑むと、イーファはオルヘルスの顔を真剣な眼差しで見つめた。
「だが、もしもお前が戻ってくるのが遅かったりすれば、直ぐに追いかけるからな」
「はい、お願いいたします」
そう言うと厩舎に向かって行った。
イーファが心配しながらそのうしろ姿をじっと見つめていると、シャウテン公爵が声をかける。
「先ほどはホルト公爵令息のことで、君たちに不快な思いをさせたが厩舎の方は警備がここよりも厳重だ。心配はいらない。私たちは馬場で彼女が来るのを待とう」
そうして、軽く背中を押し馬場へ行くよう促した。
馬場ではすでに何頭かの馬が厩舎から出され御披露目されており、興味深げにその馬の特徴や今までの馬術競技の成績、どこのルーツなのかなどを盛んにやり取りしていた。
「今年は素晴らしい馬が揃っていますね」
イーファが馬場を見つめながらそう言うと、シャウテン公爵も馬場を見つめながら大きくうなずく。
「そうだな。五年前にフィーレンス侯爵家のブルーダイヤが死んでしまってから、あまり良い馬がいなかったが、今年は素晴らしい馬が出揃っている」
そう言うと、イーファの方に向き直り微笑んだ。
「特にスノウは群を抜いている。それに、オルヘルス嬢も素晴らしい。確か愛馬会のときは馬に乗れず殿下と相乗りしていた記憶があるが?」
「はい、そうですね。恥ずかしながら妹は乗馬ができませんでしたから」
すると、シャウテン公爵は苦笑する。
「それは仕方あるまい。彼女は大義のために健康な体を手放したのだから。それにしても乗馬ができるほど回復し、こんなに短期間で馬を乗りこなすとは。目利きの件といい、彼女を王妃にすればこの国は安泰だろうな」
「褒め過ぎです」
「本当のことだ」
そう言うと、シャウテン公爵とイーファはしばらく微笑み合った。
そのときだった、背後から取り乱した様子の執事が駆けてきた。
「旦那様、大変でございます!」
「どうした、カスペル。お前がそんなに慌てるなど珍しいこともあるものだ」
「それが、エントランスでホルト公爵令息が……」
それを聞いてシャウテン公爵は険しい顔をした。
「ん? 彼は帰っただろう」
「それが、一度はお帰りになったのですが今度はコーニング伯爵令嬢を伴っていらしたのです」
「なんだって?」
カスペルはちらりとイーファを見ると、シャウテン公爵に視線を戻して言った。
「それが『リートフェルト男爵令嬢は護衛だと言って兄を連れてきているのだから、私が誰を連れてきても構わないだろう』と……」
すると、シャウテン公爵は怒りを露にした。
「なんと恥さらしな、こんなことは到底許されることではない。とりあえずここに連れて来い」
そう言うと心底呆れた顔でイーファに言った。
「ハインリッヒのために、少しでもホルト公爵家の名誉を回復すべく気を回して招待はしたが、これでは逆にホルト公爵家の名誉を傷つけかねんな」
そう話しているところへ、エーリクがアリネアを伴ってやって来ると周囲を見回し大きな声で話し始めた。
「シャウテン公爵、あなたの執事が私の連れを通そうとしなくてまいりましたよ、少し教育なさったほうがよろしいのでは?」
それを受けてシャウテン公爵は、エーリクに憐憫の眼差しを向けた。
「ホルト公爵令息、ご存じの通りカヴァロクラブは会員制だ。外部の者は招待状がないと入れない決まりになっている」
すると、エーリクは腕を組みニヤリと笑うと馬鹿にしたように言った。
「ほぅ、ではリートフェルト男爵家だけは特別ということですか? オリは兄のイーファを護衛として連れ込んでいるのですから」
シャウテン公爵は分かりやすく大きなため息をつくと説明した。
「なにか勘違いしているようだが、イーファはカヴァロクラブの会員だ。入ることが許されて当然だろう」
それを聞いて、エーリクは顔を歪ませて言い返す。
「馬鹿な、一介の男爵令息がカヴァロクラブに入会を許されるはずがない」
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