悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー

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 そう言われ、エーリクが黙り込んでいるとそのうしろでアリネアが腰をくねらせながらイーファを見つめて言った。

「流石、イーファ様ですわ。カヴァロクラブに入会をゆるされるなんて……」

 それを聞いて、エーリクがアリネアを睨み付ける。

 「ひっ! 怖いですわ。イーファ様、助けてください」

 そうしてアリネアはわざとらしく怯えて見せると、イーファの背後に隠れた。

 そんなアリネアを見て、イーファは呆れ顔でエーリクに言う。

 「連れの管理ぐらいはしっかりして欲しいものだ」

 そう言われたエーリクは怒り心頭とばかりに、顔を赤くしイーファの後ろに隠れているアリネアの元へ行くと腕をつかんだ。

「来い!」

「い、痛いですわ! 離してくださらないかしら」

 それを見ていたシャウテン公爵が口を挟む。

「ここで仲間割れをされても困る。とにかく、そう言ったわけで招待状を持っていないコーニング伯爵令嬢を連れてご退場願おう」

 だが、それでもエーリクは引かなかった。

「いや、まだ話がある。そもそもどんなに素晴らしい馬を所持してるとはいえ、乗馬もできないような小娘であるオルヘルスを招待するのはおかしい!」

 そう反撃すると、それに便乗してアリネアも訴える。

「そうですわ、わたくしなら乗馬もできますのに……」

 そのときだった、背後から一段と明るい声が馬場に響く。

「お兄様~!」

 見るとスノウに乗ったオルヘルスだった。オルヘルスは満面の笑みでイーファに手を振っている。

 そうしてこちらまで颯爽と駆けてくると、馬上から明るく笑顔を振り撒いた。

「お集まりの皆様、今日はわたくしの愛馬をご紹介いたしますわ。それに伴って、この場をわたくしの乗馬の初御披露目の場にもしてしまうことをお許しくださいませ」

 そう言って恭しく一礼すると、素早くスノウに鞭を入れた。

 競技場まで駆けていくと、オルヘルスはスノウを易々と操って競技用のバーを次々に飛び越えて行く。

 集まった面々はエーリクとアリネアのことなどすっかり忘れ、オルヘルスに集中し拍手を送り、短期間であれだけ馬を乗りこなせることに賛辞の言葉を口にした。

 それを見ていたエーリクは固く拳を握りしめ、馬を駆るオルヘルスを恨みのこもった眼差しで睨み付け、アリネアは衝撃を受けたような顔をしており、目の前で起こっていることが信じられないといった様子だった。

「そんな、おかしいですわあの子に乗馬ができるわけありませんのに、しかもこのわたくしよりもあんなにうまく乗りこなすなんて、嘘ですわ。そうよ、あの馬よ、あの馬……」

 アリネアは右手親指の爪を噛みながら、オルヘルスを見つめずっとそんなことをぶつぶつと呟いていた。

 エーリクはそんなアリネアの腕をつかみ引き寄せると、シャウテン公爵に言った。

「父にはカヴァロクラブがどのようなところなのか、私からしっかり報告させていただきます」

 そしてアリネアに向き直る。

「ボケッとしてるんじゃない。帰るぞ」

 そうしてその場を去ろうとするエーリクにシャウテン公爵は言った。

「待ちなさい。一つ誤解があるようだから言っておこう。リートフェルト男爵令嬢は、先日の愛馬会で一目でスノウが他の馬と違うことを見抜いた。それが評価され招待された」

「そんなこと、今さらどうでもいい」

 エーリクはそう吐き捨てると、アリネアの腕を引っ張って歩きだした。その背中に向けてシャウテン公爵はいい放つ。

「待て、エーリク。もう一つ言っておこう。ハインリッヒにはどのように報告しても構わない。なぜなら、どうあがいてもお前はカヴァロクラブからは永久追放になるだろうからな」

 エーリクは一度立ち止まり、目の端でこちらをちらりと見ると、それ以上なにも言わずにアリネアと共にその場を立ち去っていった。

 シャウテン公爵はそのうしろ姿を見つめて言った。

「ここにリートフェルト男爵令嬢がいなかったことだけが救いだ」

 そう言うとイーファに向き直る。

「やつは逆恨みでなにかするかもしれん。気を付けろ」

「はい、わかっています」

 そのときすべての競技を終えたオルヘルスがスノウとこちらに戻って来ると、あっという間に他の貴族たちに囲まれた。

 イーファはその貴族たちをかき分けオルヘルスのもとへ行くと護衛を続けた。





「お兄様、わたくしうまくできましたでしょうか?」

 乗馬会が終わり、途中からずっと浮かない顔をしているイーファに帰りの馬車の中で尋ねた。

「ん? いや、お前は完璧だった。今日のことで、さらにお前の名声が上がったことは間違いがないだろう。おそらく近々カヴァロクラブへ正式な入会の打診が来るはずだ」

 オルヘルスはそう言われても、不安を払拭できなかった。

「でも、お兄様はわたくしがお披露目をして戻ってからずっと様子がおかしいですわ」

「あぁ、すまない。お前がいないあいだに起きたことを思い出していた」

「なにかありましたの?」

「そうだな。あまり心配させたくはないがお前にも話しておいた方がいいだろうな」

 そう言ってイーファは、乗馬会でオルヘルスが厩舎に向かったあと何があったのかを話してくれた。

「そんなことがありましたの? 本当に最近のエーリク様は一体どうされてしまったのでしょう」

 オルヘルスがそう言ってため息をつくと、イーファは苦笑した。

「これでますます彼らの社交界での立場が悪くなったことは言うまでもないな。それと……」

「それと、なんですの?」

「シャウテン公爵も仰っていたのだが、逆恨みに気をつけた方がいいと。脅すつもりはないが、これは私も同意見だ」

 そう言われ、オルヘルスは食事会で会ったときのエーリクを思い出し、それも十分あり得るかもしれないと思った。

「わかりましたわ。エーリク様とアリネア様は、わたくしが一人のときに近づいて来ることが多いように思いますの。ですからなるべく一人にならないよう注意しますわね」

「そうだな、そうしてくれると助かる」

 イーファがほっとしたように微笑んだので、オルヘルスは心配をかけてしまっていることを申し訳なく思いながら、馬車の窓から外を見つめた。

 それから数日、特に何事もなく過ぎ去り、心配は杞憂に終わったのかもしれないと考え始めていた。

 そんなある日、もう日課になってしまっている乗馬訓練を終え、ゆっくりしているときにグランツが言った。

「君に渡さなければならないものがある」

 グランツからは毎日のようにプレゼントが贈られてきていたので、これ以上何があるのだろうと首をかしげる。

「なんですの?」

 グランツは少し照れ臭そうにポケットからハンカチを取り出し差し出した。

「これだ。以前狩猟会のときに君から預かったままになっていた」

 それはオルヘルスがベルトポーチと揃いの刺繍を入れたハンカチだった。

 オルヘルスは恥ずかしくなり、一瞬で顔が赤くなるのを感じた。

「あの、これは……。その、殿下と揃いのものが欲しくて……。申し訳ありません」 
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