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と、サミュエルのそばを少し離れたところで、背後から誰かに支えられ誰かと思い振り返る。
「デュケール公爵令息?!」
「大丈夫ですか? 遠目にも君の体調が良くなさそうに見えたもので、差し出がましくも手をだしてしまいました。お帰りになるならエントランスまで送りましょう」
「いえ、あの大丈夫ですわ。そのようなことをしていただくわけには」
そう言って丁寧に断ろうとするが、アレルはジョゼフィーヌの腰に手を回ししっかり抱き寄せるとエントランスへ向かって歩き始めた。
こうしてかなり強引ではあるものの、紳士的に馬車までエスコートしてくれた。アレルは馬車に乗り込むジョゼフィーヌの手にキスをして、熱っぽく見つめながら言った。
「今日の出会いを僕は一生忘れないでしょう」
そのあまりにもキザな台詞に、ジョゼフィーヌは苦笑した。
「そうですわね、お互いに素敵な出会いがあれば良いですわね。おほほほほほ」
そう言って急いで馬車に乗り込んだ。
こうして屋敷へ戻ると、ジョゼフィーヌは自分の断罪を避けるために徹底的にゲームのキャラに関わらないことを心に誓った。
そんな時、ジョゼフィーヌはある噂を聞く。
『王太子殿下にはもう意中の相手がいるようだ』
そんな噂だった。ジョゼフィーヌはそれはマリーのことだとすぐに気づいた。そんな噂が流れると言うことは、マリーがうまくやっているということだろう。
そんな時、突然デュケール家から縁談の話があったと父親から聞かされる。
そうは言ってもサミュエルの手前、サミュエルの婚約発表があるまでは正式なものではないとのこと。
ジョゼフィーヌは攻略対象との婚約に焦った。なるべく関わらない方が良いに越したことはないからだ。
縁談が攻略対象でもなんでもない令息からのものだったなら、もっと喜べたのにと思いながら、とりあえず頷いて返した。
ジョゼフィーヌは記憶が戻ってから、なるべく社交の場には行かずに過ごしていた。
そこで誰にも知られぬように、ゲーム内に出てきたお気に入りの場所に出かけることが多くなった。
そこはエンディングを迎えたあとにしか行けない場所で、たまたまマリーが舞踏会前のイベントで見つけるはずの場所となっているので、誰にも知られていないはずである。
乙女草と呼ばれるゲーム内にしかない、白く輝く美しい花が自生し咲き乱れる場所で、一人でゆっくり出来るのも良かった。
この場所に着くと、サニアは手荷物をその場に置くと言った。
「お嬢様、今支度をしますからしばらくお待ちくださいませ」
侍女のサニアにそう言われ、思い切り伸びをすると準備の邪魔にならないよう少し離れたところへ行き、深呼吸してドレスが汚れるのも構わずそこに腰を落とした。
後でサニアにドレスを汚したことを謝らないと。
そんなことを考えながら、このまま平和に過ぎてくれれば良いのにと前方をぼんやり見つめていると、背後から近づいて来る足音に気付き振り向きながら言った。
「サニア、早かったわね。私もうお腹ペコペコ!」
だが、そこにはサミュエルが立っていた。ジョゼフィーヌは慌てた。
王太子殿下がなぜここに?!
そう思いながら立ち上がると、カーテシーをする。サミュエルはそんなジョゼフィーヌを見て微笑んだ。
「やぁ、ジョゼフィーヌ。私もちょうどお腹が空いている。一緒にいいか?」
「はい、もちろんでございます」
今日の予定がつぶれてしまったと思いがっかりしたが、そんなことはおくびにも出さずに微笑んで返す。
「良かった。では今日はゆっくり君と過ごすとしよう」
いや、ゆっくりされても困るのですけど……。
そう思いながらも頷く。
「は、はい」
そこへサニアがやって来ると準備ができたことを二人に告げた。
サミュエルが先に準備されている絨毯の上に座り、となりに座るように促したのでジョゼフィーヌも腰を下ろす。
「突然すまない。君と少し話がしたかった。君はこの前『本来の自分を取り戻した』と言ったね。あれはどういう意味だ?」
わざわざそんなことを訊きに?
そう思いながらも答える。
「深い意味はありませんわ。ただ……」
「ただ?」
「今から話すことは無礼講でお願いしますわ」
サミュエルは頷いた。それを確認するとジョゼフィーヌは口を開いた。
「自分の立場に縛られなくても良いのではないかと、やっと気づいただけですわ」
「自分の立場? しかし、それをわきまえ行動するのが貴族や王族の務めでは?」
「そうですわね、すべて自由にと言っているわけではありませんわ。その枠の中での役割をしっかりこなしていれば、それ以外については自由ということですわ」
サミュエルはそれを聞いてしばらく目を閉じて何か考えたあとに神妙な顔で言った。
「君の言いたいことはわかった」
「良かったですわ」
ジョゼフィーヌは満面の笑みを返して続ける。
「特に王太子殿下は並々ならぬ努力をしてきていらっしゃるので、家名のことは気にせずご自身の信じる相手を選んでほしいと思っております」
そう言うジョゼフィーヌをサミュエルはじっと見つめた。それを見て思う。サミュエルはマリーのことで悩んでいたのかもしれない。
そこでジョゼフィーヌは更に畳み掛けるように言った。
「それが我が儘だと言われても、それがどうしたと言うんですか? 国王が幸せでないと国民も幸せになれませんわ」
そう言って、ハチミツたっぷりのマフィンを手渡すと、その後ぼんやりしているサミュエルと当たり障りのない会話を心がけてこの日をやり過ごした。
数日後、婚約者候補とサミュエルとの正式な顔合わせがあり出席することになった。これもゲーム内のイベントだったはずだ。
婚約者候補とサミュエルだけではなく、攻略対象者も参加しておりここで誰と親交が深いかがわかる仕組みになっていた。
会場に着くと、すぐさまマリーがジョゼフィーヌの近くへ駆け寄る。どうしたのだろうと見つめているとマリーは突然悲しげに言った。
「アルシェ侯爵令嬢が色々な令嬢たちのことを、礼儀もなっていないとあれやこれや噂していると周囲から聞きましたわ。そんな噂を流すなんて、私は端ないことだと思いますの」
その芝居がかった大きな声に周囲が注目する。ジョゼフィーヌは困惑顔で答えた。
「私そんなこと言った覚えはありませんわ。誰がそんなことを?」
するとマリーはわかりやすく大きなため息をついた。
「アルシェ侯爵令嬢、自分の非を認めないのは恥ずかしいことだと思いますわ。それに、しっかり反省してこれからの行いを正すことの方が大切だと私思いますの」
そう言って憐憫の眼差しでジョゼフィーヌを見つめるマリーを見て、意味がわからないと思っていると、アレルから声をかけられる。
「どうされたのですか?」
ヒロインは嬉しそうにアレルに駆け寄り、その腕をつかんだ。
「アルシェ侯爵令嬢が、その、他の令嬢について礼儀がどうとか、噂をされていたようですの……。そんなことを言うのは端ないことだと私は学びましたわ」
なにを言っているの?
ジョゼフィーヌは戸惑った。なぜマリーはこんなことを言うのだろうか。それにきっとアレルはマリーの言うことを信じてしまうだろう。
そんな憂鬱な気分でアレルを見上げると、アレルはジョゼフィーヌに微笑んだあと、マリーを冷たい眼差しで見つめる。
「そんな噂をジョゼフィーヌがしているなんて、僕は初めて聞いたけど?」
マリーは慌てて答える。
「えっ?あ、あの、まだデュケール公爵令息がご存知ないだけですわ」
するとアレルはそっとマリーに何事か耳打ちした。
マリーは急に顔を赤くし周囲を見ると、ジョゼフィーヌを睨み付けその場から去っていった。その姿を見送ると、注目していた周囲の者たちも元通り会話を始めた。
「デュケール公爵令息?!」
「大丈夫ですか? 遠目にも君の体調が良くなさそうに見えたもので、差し出がましくも手をだしてしまいました。お帰りになるならエントランスまで送りましょう」
「いえ、あの大丈夫ですわ。そのようなことをしていただくわけには」
そう言って丁寧に断ろうとするが、アレルはジョゼフィーヌの腰に手を回ししっかり抱き寄せるとエントランスへ向かって歩き始めた。
こうしてかなり強引ではあるものの、紳士的に馬車までエスコートしてくれた。アレルは馬車に乗り込むジョゼフィーヌの手にキスをして、熱っぽく見つめながら言った。
「今日の出会いを僕は一生忘れないでしょう」
そのあまりにもキザな台詞に、ジョゼフィーヌは苦笑した。
「そうですわね、お互いに素敵な出会いがあれば良いですわね。おほほほほほ」
そう言って急いで馬車に乗り込んだ。
こうして屋敷へ戻ると、ジョゼフィーヌは自分の断罪を避けるために徹底的にゲームのキャラに関わらないことを心に誓った。
そんな時、ジョゼフィーヌはある噂を聞く。
『王太子殿下にはもう意中の相手がいるようだ』
そんな噂だった。ジョゼフィーヌはそれはマリーのことだとすぐに気づいた。そんな噂が流れると言うことは、マリーがうまくやっているということだろう。
そんな時、突然デュケール家から縁談の話があったと父親から聞かされる。
そうは言ってもサミュエルの手前、サミュエルの婚約発表があるまでは正式なものではないとのこと。
ジョゼフィーヌは攻略対象との婚約に焦った。なるべく関わらない方が良いに越したことはないからだ。
縁談が攻略対象でもなんでもない令息からのものだったなら、もっと喜べたのにと思いながら、とりあえず頷いて返した。
ジョゼフィーヌは記憶が戻ってから、なるべく社交の場には行かずに過ごしていた。
そこで誰にも知られぬように、ゲーム内に出てきたお気に入りの場所に出かけることが多くなった。
そこはエンディングを迎えたあとにしか行けない場所で、たまたまマリーが舞踏会前のイベントで見つけるはずの場所となっているので、誰にも知られていないはずである。
乙女草と呼ばれるゲーム内にしかない、白く輝く美しい花が自生し咲き乱れる場所で、一人でゆっくり出来るのも良かった。
この場所に着くと、サニアは手荷物をその場に置くと言った。
「お嬢様、今支度をしますからしばらくお待ちくださいませ」
侍女のサニアにそう言われ、思い切り伸びをすると準備の邪魔にならないよう少し離れたところへ行き、深呼吸してドレスが汚れるのも構わずそこに腰を落とした。
後でサニアにドレスを汚したことを謝らないと。
そんなことを考えながら、このまま平和に過ぎてくれれば良いのにと前方をぼんやり見つめていると、背後から近づいて来る足音に気付き振り向きながら言った。
「サニア、早かったわね。私もうお腹ペコペコ!」
だが、そこにはサミュエルが立っていた。ジョゼフィーヌは慌てた。
王太子殿下がなぜここに?!
そう思いながら立ち上がると、カーテシーをする。サミュエルはそんなジョゼフィーヌを見て微笑んだ。
「やぁ、ジョゼフィーヌ。私もちょうどお腹が空いている。一緒にいいか?」
「はい、もちろんでございます」
今日の予定がつぶれてしまったと思いがっかりしたが、そんなことはおくびにも出さずに微笑んで返す。
「良かった。では今日はゆっくり君と過ごすとしよう」
いや、ゆっくりされても困るのですけど……。
そう思いながらも頷く。
「は、はい」
そこへサニアがやって来ると準備ができたことを二人に告げた。
サミュエルが先に準備されている絨毯の上に座り、となりに座るように促したのでジョゼフィーヌも腰を下ろす。
「突然すまない。君と少し話がしたかった。君はこの前『本来の自分を取り戻した』と言ったね。あれはどういう意味だ?」
わざわざそんなことを訊きに?
そう思いながらも答える。
「深い意味はありませんわ。ただ……」
「ただ?」
「今から話すことは無礼講でお願いしますわ」
サミュエルは頷いた。それを確認するとジョゼフィーヌは口を開いた。
「自分の立場に縛られなくても良いのではないかと、やっと気づいただけですわ」
「自分の立場? しかし、それをわきまえ行動するのが貴族や王族の務めでは?」
「そうですわね、すべて自由にと言っているわけではありませんわ。その枠の中での役割をしっかりこなしていれば、それ以外については自由ということですわ」
サミュエルはそれを聞いてしばらく目を閉じて何か考えたあとに神妙な顔で言った。
「君の言いたいことはわかった」
「良かったですわ」
ジョゼフィーヌは満面の笑みを返して続ける。
「特に王太子殿下は並々ならぬ努力をしてきていらっしゃるので、家名のことは気にせずご自身の信じる相手を選んでほしいと思っております」
そう言うジョゼフィーヌをサミュエルはじっと見つめた。それを見て思う。サミュエルはマリーのことで悩んでいたのかもしれない。
そこでジョゼフィーヌは更に畳み掛けるように言った。
「それが我が儘だと言われても、それがどうしたと言うんですか? 国王が幸せでないと国民も幸せになれませんわ」
そう言って、ハチミツたっぷりのマフィンを手渡すと、その後ぼんやりしているサミュエルと当たり障りのない会話を心がけてこの日をやり過ごした。
数日後、婚約者候補とサミュエルとの正式な顔合わせがあり出席することになった。これもゲーム内のイベントだったはずだ。
婚約者候補とサミュエルだけではなく、攻略対象者も参加しておりここで誰と親交が深いかがわかる仕組みになっていた。
会場に着くと、すぐさまマリーがジョゼフィーヌの近くへ駆け寄る。どうしたのだろうと見つめているとマリーは突然悲しげに言った。
「アルシェ侯爵令嬢が色々な令嬢たちのことを、礼儀もなっていないとあれやこれや噂していると周囲から聞きましたわ。そんな噂を流すなんて、私は端ないことだと思いますの」
その芝居がかった大きな声に周囲が注目する。ジョゼフィーヌは困惑顔で答えた。
「私そんなこと言った覚えはありませんわ。誰がそんなことを?」
するとマリーはわかりやすく大きなため息をついた。
「アルシェ侯爵令嬢、自分の非を認めないのは恥ずかしいことだと思いますわ。それに、しっかり反省してこれからの行いを正すことの方が大切だと私思いますの」
そう言って憐憫の眼差しでジョゼフィーヌを見つめるマリーを見て、意味がわからないと思っていると、アレルから声をかけられる。
「どうされたのですか?」
ヒロインは嬉しそうにアレルに駆け寄り、その腕をつかんだ。
「アルシェ侯爵令嬢が、その、他の令嬢について礼儀がどうとか、噂をされていたようですの……。そんなことを言うのは端ないことだと私は学びましたわ」
なにを言っているの?
ジョゼフィーヌは戸惑った。なぜマリーはこんなことを言うのだろうか。それにきっとアレルはマリーの言うことを信じてしまうだろう。
そんな憂鬱な気分でアレルを見上げると、アレルはジョゼフィーヌに微笑んだあと、マリーを冷たい眼差しで見つめる。
「そんな噂をジョゼフィーヌがしているなんて、僕は初めて聞いたけど?」
マリーは慌てて答える。
「えっ?あ、あの、まだデュケール公爵令息がご存知ないだけですわ」
するとアレルはそっとマリーに何事か耳打ちした。
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