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気がつくとジェイドはベッドに横たわっていた。
「ジェイドちゃん、気がついたのかい?」
心配そうに顔を覗き込む女性を見てジェイドは驚く。
「デボラさん?!」
デボラはジェイドの故郷であるイーコウ村でお世話になった女性だった。
体を起こそうとすると、左肩から右脇腹にかけて激しい痛みが走る。
「まだ寝てないと、大怪我してたんだから。それにしても、どこかの立派な騎士様がジェイドちゃんを抱えて村の外に立ってたときはビックリしたわよ!」
「じゃあここはイーコウ村なんですか?」
「そうだよ。治癒魔法で怪我は治ってるのに何日も起きないから心配したよ」
「すみません、お世話になりました」
「いいんだよぉ、大変だったんだろう? あんたは私の娘みたいなんもんなんだから、ゆっくりしていきなさい」
ジェイドはデボラの恩情に甘えて、しばらくゆっくりすることにした。
落ち着くと、騎士館での出来事がまざまざと思い起こされた。
みんな大丈夫だっただろうか、カーレルは? ラファエロは?
そう思ったとき、カーレルがミリナを助けていた姿が思い起こされた。二人は行動を共にするぐらいの仲なのだろう。
ジェイドにとっては胸の傷よりもその事実のほうがつらかった。
その感情を無理やり振り払うと、ゆっくり起き上がり自分の育ての親だったエクトルの墓参りをすることにした。
ジェイドは孤児だった。
孤児であることで心ない人々から酷い仕打ちを受けることはあったが、エクトルがそれ以上にあまりある愛情を注いでくれたので、不幸ではなかった。
墓前に立つとジェイドは話しかける。
「父さん、あまり会いに来れなくてごめんなさい」
そして墓前に跪くと、エクトルの好きだったアルメリアの花を供えた。周囲を見渡すとアザレアの花が咲き始めており、とても綺麗に手入れされている。
デボラさんが手入れしてくれてるのかな?
そう思いながら、手を合わせ最近起こったことを報告した。
そのとき、お墓の背後の森の奥の方でなにかが光輝くのが見えた。もしかしたら、モンスターかもしれないと思ったジェイドは、杖を掴むと森の奥へ奥へと入っていった。
森のかなり奥深くへ進んで行くと、より木々が鬱蒼と繁り、なにかを取り囲んでいる場所があった。
その中から光が漏れ出ているが、それを確認するには木々をすべて切り倒す必要がありそうだった。
困っていると、その木々が突然中心へジェイドを誘うように避け始めた。それを見つめ唖然として立ち尽くしていると、その中心には『スタビライズ』があった。
「こんなところに『スタビライズ』が?」
『スタビライズ』はこの世界の数ヵ所に点在しており聖遺物『レリック』として、人々から崇められている存在だ。
縦幅三メートル、横幅二メートルぐらいの壁のようなその物体は、半透明でエメラルドグリーンに淡く光っており、よく見ると幾何学的な模様が入っている。
この物体がなんのために存在しているのか誰にもわかっていなかった。
そこにあった『スタビライズ』は、誰にも気づかれていないせいか、木々に囲まれ植物の蔦が覆い苔むしていた。
ジェイドはこんなに間近で『スタビライズ』を見るのは初めてで、驚きながらそっとそれに触れる。
すると、『スタビライズ』が更に輝きを増していき、それがあまりにも眩しくて目を閉じた。
その瞬間、ジェイドは自分の体に異変を感じ、力が漲るような感覚に襲われた。
「ジェイド、私の娘……」
その声に驚いてゆっくり目を開けると、ジェイドの目の前にホログラムの男性が立っていた。
「あなたは?」
「ジェイド、私の娘よ。やっと会えた」
「娘? ではあなたは私の本当の父親なのですか?」
そのホログラムの男性は頷くと、自分はミヒェル・ベッケンバウアーだと名乗り、驚きの事実を語り始めた。
ミヒェルのいた宇宙は崩壊の危機にさらされ、新しい宇宙を作るために『ジェイド』という名の装置を作ったそうだ。
そして開発中にその装置に自分のAIを組み込み、なにかあったときに覚醒するようにしていたと語った。
「そしてジェイド、お前は私の娘をモデルに作られた『ジェイド』のセキュリティシステムだ」
「そんな、でも……」
「驚くのも当然だろう。本来ならお前は『ジェイド』のプログラムに添って育てられるはずだった。だが、お前は人に拾われ人として育てられた」
「では、本来の私は人ですらないということなのですか?」
その質問にミヒェルはとても悲しそうな顔をした。
「そういうことだ。お前にこんな重荷を背負わせてすまない。だが、お前がどのような存在であろうと私の大切な娘に変わりはない。もしもお前が人間として生きたいのであれば、それを反対するつもりはない」
「でも、私がその役目を放棄したらどうなるのですか?」
「人として生きるなら、知る必要はないだろう」
ミヒェルはそう言ったが、ジェイドはしばらく考えると覚悟を決めた。
「わかりました、やります。どうすればいいのか教えてください」
「そうか、ありがとう」
そう言って微笑むミヒェルに、ジェイドは言った。
「その前に一つ言っておきます。私がやると決めたのは『ジェイド』のシステムとしてではなく、人として自分にできることがあるならそれをまっとうしたいからです」
「そうか、なんともお前らしい反応だ」
ミヒェルはそう答えると話し始めた。
『スタビライズ』は宇宙を安定させる装置で、役目を終えたら停止する設定になっていた。
だが、その役目を終えているにも拘わらず、今も機能停止していない。このまま放っておくと、エネルギー過多でこの宇宙は弾けてしまうことになるという。
「では、どうすれば?」
「『スタビライズ』を手動で停止するしかない。その『スタビライズ』の停止はお前にしかできない」
お前にしかできないと言われても、自分がそんなことをできるか少し不安に思った。
「でも、あの、私はまだ未熟で……」
ミヒェルは首を振る。
「『スタビライズ』に触れ私と対話すれば覚醒するようプログラムされている。今のお前なら力があるはずだ」
確かに、『スタビライズ』に触れてから、内より力が漲るような感覚を覚えていた。
「それにお前が『スタビライズ』を停止させるのは、これに触れ対話するだけでいい」
この世界で『スタビライズ』と対話できるものなどいない。本当にそれができるならば、やはり自分は普通の人間ではないのだろう。
「わかりました、とにかくやってみます」
「そうか、ならばまずここにある『スタビライズ』から停止するがいい。そうしてすべてを停止したら『ジェイド』の元へ戻れ」
ジェイドは頷くと、そこにある『スタビライズ』に両手で触れた。すると、『スタビライズ』は眩く光り輝き始め、ジェイドはそのまま取り込まれた。
取り込まれたあとは暖かい物に包まれる感触があり、『スタビライズ』に溶け込み一体となるようなそんな不思議な感覚がしたあと、気がつくと停止した『スタビライズ』の前に佇んでいた。
周囲を見渡すと消えつつあるミヒェルがジェイドに微笑んだ。
「お前が私の娘であることに変わりはない。なにかあれば『スタビライズ』か『ジェイド』の前で会おう……」
そう言って消えていった。
『スタビライズ』は信仰の対象でもあり、そこから発するエネルギーを利用している国もあった。
そんな『スタビライズ』を停止するなどこの世界では最大のタブーであり、きっとジェイドは反対にあい恨まれることになるだろう。
だが、停止させなければならないと説明をしたとして、『ジェイド』がこの宇宙を作ったことや、ジェイドがセキュリティシステムそのものであるなんて突拍子もない話を誰が信じるというのだろうか。
このとき、ジェイドは誰にもこのことを言わずに行動することに決めた。そしてたとえ恨まれたとしても、この世界の存続のために力を尽くすことを心に誓ったのだった。
村に戻ると、デボラが森の中で誰かに会わなかったかと聞いてきたが、誰とも会っていないと答えると不思議そうな顔をした。
もしかしたら、ミヒェルが会話していたのを聞かれたのかもしれないと思ったが、デボラがそれ以上なにかを聞いてくることはなかったので、あえてジェイドもなにも言わなかった。
そうしてジェイドは、翌日にはこの村を旅立つ決意をしていた。
次の日に村を出ると、ジェイドはホークドライ区域にある『スタビライズ』を停止しに向かった。
そこでカーレルたちに『スタビライズ』を停止したのを見られ、それ以来騎士団に追われ国に仇をなす裏切り者として指名手配されることとなった。
だが覚醒したジェイドには、その追手から逃れることは容易なことだった。
それでもときに、逃げ去る背中に罵声を浴びせられることもあった。それも仕方のないことだと自分に言い聞かせた。
そうして一つまた一つと各地の『スタビライズ』を停止させて回り、いよいよ最後の一つ、フルスシュタットの滝の向こうにある『スタビライズ』の前に立った。
両手で触れ、『スタビライズ』と対話しようとしたその時、突然胸に鋭い痛みを感じ下を向く。
すると自分の胸を大剣が貫いていた。
振り向きその犯人を見ようとしたが、ジェイドの意識はそこで途切れた。
「ジェイドちゃん、気がついたのかい?」
心配そうに顔を覗き込む女性を見てジェイドは驚く。
「デボラさん?!」
デボラはジェイドの故郷であるイーコウ村でお世話になった女性だった。
体を起こそうとすると、左肩から右脇腹にかけて激しい痛みが走る。
「まだ寝てないと、大怪我してたんだから。それにしても、どこかの立派な騎士様がジェイドちゃんを抱えて村の外に立ってたときはビックリしたわよ!」
「じゃあここはイーコウ村なんですか?」
「そうだよ。治癒魔法で怪我は治ってるのに何日も起きないから心配したよ」
「すみません、お世話になりました」
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ジェイドはデボラの恩情に甘えて、しばらくゆっくりすることにした。
落ち着くと、騎士館での出来事がまざまざと思い起こされた。
みんな大丈夫だっただろうか、カーレルは? ラファエロは?
そう思ったとき、カーレルがミリナを助けていた姿が思い起こされた。二人は行動を共にするぐらいの仲なのだろう。
ジェイドにとっては胸の傷よりもその事実のほうがつらかった。
その感情を無理やり振り払うと、ゆっくり起き上がり自分の育ての親だったエクトルの墓参りをすることにした。
ジェイドは孤児だった。
孤児であることで心ない人々から酷い仕打ちを受けることはあったが、エクトルがそれ以上にあまりある愛情を注いでくれたので、不幸ではなかった。
墓前に立つとジェイドは話しかける。
「父さん、あまり会いに来れなくてごめんなさい」
そして墓前に跪くと、エクトルの好きだったアルメリアの花を供えた。周囲を見渡すとアザレアの花が咲き始めており、とても綺麗に手入れされている。
デボラさんが手入れしてくれてるのかな?
そう思いながら、手を合わせ最近起こったことを報告した。
そのとき、お墓の背後の森の奥の方でなにかが光輝くのが見えた。もしかしたら、モンスターかもしれないと思ったジェイドは、杖を掴むと森の奥へ奥へと入っていった。
森のかなり奥深くへ進んで行くと、より木々が鬱蒼と繁り、なにかを取り囲んでいる場所があった。
その中から光が漏れ出ているが、それを確認するには木々をすべて切り倒す必要がありそうだった。
困っていると、その木々が突然中心へジェイドを誘うように避け始めた。それを見つめ唖然として立ち尽くしていると、その中心には『スタビライズ』があった。
「こんなところに『スタビライズ』が?」
『スタビライズ』はこの世界の数ヵ所に点在しており聖遺物『レリック』として、人々から崇められている存在だ。
縦幅三メートル、横幅二メートルぐらいの壁のようなその物体は、半透明でエメラルドグリーンに淡く光っており、よく見ると幾何学的な模様が入っている。
この物体がなんのために存在しているのか誰にもわかっていなかった。
そこにあった『スタビライズ』は、誰にも気づかれていないせいか、木々に囲まれ植物の蔦が覆い苔むしていた。
ジェイドはこんなに間近で『スタビライズ』を見るのは初めてで、驚きながらそっとそれに触れる。
すると、『スタビライズ』が更に輝きを増していき、それがあまりにも眩しくて目を閉じた。
その瞬間、ジェイドは自分の体に異変を感じ、力が漲るような感覚に襲われた。
「ジェイド、私の娘……」
その声に驚いてゆっくり目を開けると、ジェイドの目の前にホログラムの男性が立っていた。
「あなたは?」
「ジェイド、私の娘よ。やっと会えた」
「娘? ではあなたは私の本当の父親なのですか?」
そのホログラムの男性は頷くと、自分はミヒェル・ベッケンバウアーだと名乗り、驚きの事実を語り始めた。
ミヒェルのいた宇宙は崩壊の危機にさらされ、新しい宇宙を作るために『ジェイド』という名の装置を作ったそうだ。
そして開発中にその装置に自分のAIを組み込み、なにかあったときに覚醒するようにしていたと語った。
「そしてジェイド、お前は私の娘をモデルに作られた『ジェイド』のセキュリティシステムだ」
「そんな、でも……」
「驚くのも当然だろう。本来ならお前は『ジェイド』のプログラムに添って育てられるはずだった。だが、お前は人に拾われ人として育てられた」
「では、本来の私は人ですらないということなのですか?」
その質問にミヒェルはとても悲しそうな顔をした。
「そういうことだ。お前にこんな重荷を背負わせてすまない。だが、お前がどのような存在であろうと私の大切な娘に変わりはない。もしもお前が人間として生きたいのであれば、それを反対するつもりはない」
「でも、私がその役目を放棄したらどうなるのですか?」
「人として生きるなら、知る必要はないだろう」
ミヒェルはそう言ったが、ジェイドはしばらく考えると覚悟を決めた。
「わかりました、やります。どうすればいいのか教えてください」
「そうか、ありがとう」
そう言って微笑むミヒェルに、ジェイドは言った。
「その前に一つ言っておきます。私がやると決めたのは『ジェイド』のシステムとしてではなく、人として自分にできることがあるならそれをまっとうしたいからです」
「そうか、なんともお前らしい反応だ」
ミヒェルはそう答えると話し始めた。
『スタビライズ』は宇宙を安定させる装置で、役目を終えたら停止する設定になっていた。
だが、その役目を終えているにも拘わらず、今も機能停止していない。このまま放っておくと、エネルギー過多でこの宇宙は弾けてしまうことになるという。
「では、どうすれば?」
「『スタビライズ』を手動で停止するしかない。その『スタビライズ』の停止はお前にしかできない」
お前にしかできないと言われても、自分がそんなことをできるか少し不安に思った。
「でも、あの、私はまだ未熟で……」
ミヒェルは首を振る。
「『スタビライズ』に触れ私と対話すれば覚醒するようプログラムされている。今のお前なら力があるはずだ」
確かに、『スタビライズ』に触れてから、内より力が漲るような感覚を覚えていた。
「それにお前が『スタビライズ』を停止させるのは、これに触れ対話するだけでいい」
この世界で『スタビライズ』と対話できるものなどいない。本当にそれができるならば、やはり自分は普通の人間ではないのだろう。
「わかりました、とにかくやってみます」
「そうか、ならばまずここにある『スタビライズ』から停止するがいい。そうしてすべてを停止したら『ジェイド』の元へ戻れ」
ジェイドは頷くと、そこにある『スタビライズ』に両手で触れた。すると、『スタビライズ』は眩く光り輝き始め、ジェイドはそのまま取り込まれた。
取り込まれたあとは暖かい物に包まれる感触があり、『スタビライズ』に溶け込み一体となるようなそんな不思議な感覚がしたあと、気がつくと停止した『スタビライズ』の前に佇んでいた。
周囲を見渡すと消えつつあるミヒェルがジェイドに微笑んだ。
「お前が私の娘であることに変わりはない。なにかあれば『スタビライズ』か『ジェイド』の前で会おう……」
そう言って消えていった。
『スタビライズ』は信仰の対象でもあり、そこから発するエネルギーを利用している国もあった。
そんな『スタビライズ』を停止するなどこの世界では最大のタブーであり、きっとジェイドは反対にあい恨まれることになるだろう。
だが、停止させなければならないと説明をしたとして、『ジェイド』がこの宇宙を作ったことや、ジェイドがセキュリティシステムそのものであるなんて突拍子もない話を誰が信じるというのだろうか。
このとき、ジェイドは誰にもこのことを言わずに行動することに決めた。そしてたとえ恨まれたとしても、この世界の存続のために力を尽くすことを心に誓ったのだった。
村に戻ると、デボラが森の中で誰かに会わなかったかと聞いてきたが、誰とも会っていないと答えると不思議そうな顔をした。
もしかしたら、ミヒェルが会話していたのを聞かれたのかもしれないと思ったが、デボラがそれ以上なにかを聞いてくることはなかったので、あえてジェイドもなにも言わなかった。
そうしてジェイドは、翌日にはこの村を旅立つ決意をしていた。
次の日に村を出ると、ジェイドはホークドライ区域にある『スタビライズ』を停止しに向かった。
そこでカーレルたちに『スタビライズ』を停止したのを見られ、それ以来騎士団に追われ国に仇をなす裏切り者として指名手配されることとなった。
だが覚醒したジェイドには、その追手から逃れることは容易なことだった。
それでもときに、逃げ去る背中に罵声を浴びせられることもあった。それも仕方のないことだと自分に言い聞かせた。
そうして一つまた一つと各地の『スタビライズ』を停止させて回り、いよいよ最後の一つ、フルスシュタットの滝の向こうにある『スタビライズ』の前に立った。
両手で触れ、『スタビライズ』と対話しようとしたその時、突然胸に鋭い痛みを感じ下を向く。
すると自分の胸を大剣が貫いていた。
振り向きその犯人を見ようとしたが、ジェイドの意識はそこで途切れた。
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