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デボラの言った『助けてくださった』とは、一体のことだろうと不思議に思いながらフードの下からカーレルとデボラを交互に見つめた。
すると、デボラがそれに気づいて説明してくれた。
「ジェイドちゃんがモンスターの襲撃で怪我したときに、殿下がこの村に運んでくださったんだよ。怪我の治療もしてくれてね~」
それを聞いて翡翠は驚きカーレルを見上げる。と、カーレルは素早く視線を逸らした。
あのときに助けてくれた騎士が誰なのかずっと気になっていた翡翠は、それがカーレルだったと知り少し嬉しく思った。
だが、次にデボラが言った言葉で現実に引き戻される。
「あのとき殿下と一緒にいらした女性は、聖女様ですよね?」
そう、あの日カーレルとミリナは一緒にいた。それが現実である。
カーレルはジェイドを心配したわけでも、追いかけてきたわけでも、助けたくて助けた訳でもない。
責任感の強いカーレルは、たまたまジェイドが負傷しているのを見かけたのだろう。
放っておけずに救出してくれた、ただそれだけのことだ。
何度勘違いをすれば気がすむの?
翡翠はそう自分に問いかけると、うつむきフードの端を引っ張り更に顔を隠した。
その様子を見てカーレルがデボラに向かって言った。
「確かに聖女は行動を共にしていた。だが、それだけだ。もういいだろう、下がってくれないか」
カーレルにそう命令され、デボラは申し訳なさそうに頭を下げ部屋を出ていく。
そこで翡翠は慌ててデボラを引き留めた。
「あの、待ってください。話が聞けて嬉しかったです。ありがとうございました」
「いいのよ、これぐらい」
デボラはそう言うと、もう一度カーレルに頭を下げて部屋を出ていった。
カーレルはデボラが立ち去ったのを確認すると、翡翠に尋ねる。
「先ほど柱のシミの話をしていたが、なにか思い出したのか?」
「子供のころのことを少しだけですけど。先ほどの換気をしにいらした女性には大変お世話になりました」
「そうか、だが彼女は少しおしゃべりなところがある」
「でも、とても優しくしてもらっていました」
「そうか……。ところで彼女が先ほどの話していたことだが、本当は君の記憶が戻ってから話したかった」
そう言うと、カーレルは翡翠との距離を詰めた。翡翠は驚いて後退り背後にある壁まで追い詰められた。
驚いて横へ逃げようとするが、カーレルは壁に手をついてそれを阻止した。逃げ場をなくし、その状況に困惑しながらカーレルを見上げると真剣な眼差しで翡翠を見つめていた。
翡翠の心臓は早鐘を打ち、今にも口から飛び出しそうだった。
「あの、なにか?」
やっとのことでそれだけ言うと、カーレルはそのまま翡翠の耳元へ口を近づけ囁く。
「シー、少しそのまま。私たちのことをずっとつけている者がいる。先ほどうまく撒いたがここまで様子を見に来たようだ」
翡翠はハッとする。
それで先ほどカーレルは突然農道をそれ、初めてジェイドと会ったあの場所へ連れていったのだと気づいたからだ。
それにしても、と翡翠は疑問に思い質問する。
「誰がなんの目的で私たちのことを?」
「わからない……。翡翠、もう少し壁の方へ詰めることは出きるか?」
翡翠の背後にはもうスペースはない。
「すみません、これ以上は」
そう答え、今にもお互いの唇が触れてしまいそうな距離で思わず顔を逸らして下を向いた。
「すまない、少し我慢してくれ」
カーレルはそう言うと、翡翠をギュッと抱きしめた。
「しばらく、このままで」
翡翠は口から心臓が飛び出しそうだと思いながら、カーレルの胸の中でじっとしていた。
だが、あまりにも長い時間カーレルが翡翠を抱きしめているので、翡翠はカーレルを見上げて小声で訊いた。
「あの、あの、もう行ったのでは?」
カーレルは下を向いて翡翠を見つめる。とても近い距離で翡翠は緊張のあまり目がチカチカした。
目を逸らそうとするが、さらにしっかり抱きしめられ身動ぎすらできなかった。
そんな翡翠の緊張を知ってか知らずか、カーレルは冷静に言った。
「そのようだが、また戻ってくるかもしれない。すぐには動かない方がいいだろう」
「ひ、ひゃい!」
緊張で声が裏返る。カーレルは微笑み翡翠をじっと見つめた。
そのままカーレルと近距離で見つめ合いながら、少しの時間を過ごした。
翡翠がもうこれ以上この状態が続けばどうにかなりそうだと思ったころ、カーレルは外の様子を確認するように見るとやっと翡翠を解放した。
「ここから動くな」
そう言い残すと、外へ確認しに出ていった。
翡翠は気持ちを落ち着かせるため大きく深呼吸し、自分に言い聞かせる。
あれは、私を守るためにやむ終えずとった行動であり、それに対して私が意識するのは失礼なことだ、と。
きっとカーレルは、他の人たちを助けることもあるだろう。その度にこんなに意識されたのでは、カーレルもたまったものではないに違いない。
そう考えると、すっと冷静になった。
そこへカーレルが戻ってくると、翡翠に微笑んだ。
「もう大丈夫そうだ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いや、私も少し私情を挟んだ。もう少し自重しなければならないな」
カーレルはそう答えて苦笑した。
それを聞いてもしかするとカーレルは、翡翠を守るのを少し躊躇したのかもしれないと思った。
成り行きとはいえ、裏切り者を今は守る立場なのは同情せざる終えない。
そう考えると、先ほどまで意識してしまっていた自分を恥じた。
「本当にごめんなさい」
翡翠はうつむいてカーレルに聞こえないようにそう呟いた。
イーコウ村には保養地として宿泊施設がたくさんあり、翡翠たちはこの日そのうちの一つに宿泊することになった。
翡翠は食事もすべて部屋に運んでもらい、一目に触れぬようずっと室内で過ごし夜になるのを待つと、そっと宿を抜け出した。
目的はエクトルの墓参りだった。
昼に来たときは、カーレルも一緒だったためゆっくり墓前に報告することもできなかった。
明日にはここを立たなければならなかったので、その前にどうしても行っておきたかった。
外套を着てフードをかぶるとそっと宿を抜け出し、ランプを手に急いでエクトルの墓へ向かった。
翡翠はエクトルのお墓まで誰にも会わずに行き着くと、墓前でエクトルに向かって語りかける。
「昼間はちゃんと報告できなくてごめんね……」
そう言って今までのことを報告した。
この世界で確かに誰かに殺されたこと、そうして記憶を持ったまま他の世界で転生したこと、でもやるべきことが残っていたためまたこの世界へ帰ってきたこと。
すると、デボラがそれに気づいて説明してくれた。
「ジェイドちゃんがモンスターの襲撃で怪我したときに、殿下がこの村に運んでくださったんだよ。怪我の治療もしてくれてね~」
それを聞いて翡翠は驚きカーレルを見上げる。と、カーレルは素早く視線を逸らした。
あのときに助けてくれた騎士が誰なのかずっと気になっていた翡翠は、それがカーレルだったと知り少し嬉しく思った。
だが、次にデボラが言った言葉で現実に引き戻される。
「あのとき殿下と一緒にいらした女性は、聖女様ですよね?」
そう、あの日カーレルとミリナは一緒にいた。それが現実である。
カーレルはジェイドを心配したわけでも、追いかけてきたわけでも、助けたくて助けた訳でもない。
責任感の強いカーレルは、たまたまジェイドが負傷しているのを見かけたのだろう。
放っておけずに救出してくれた、ただそれだけのことだ。
何度勘違いをすれば気がすむの?
翡翠はそう自分に問いかけると、うつむきフードの端を引っ張り更に顔を隠した。
その様子を見てカーレルがデボラに向かって言った。
「確かに聖女は行動を共にしていた。だが、それだけだ。もういいだろう、下がってくれないか」
カーレルにそう命令され、デボラは申し訳なさそうに頭を下げ部屋を出ていく。
そこで翡翠は慌ててデボラを引き留めた。
「あの、待ってください。話が聞けて嬉しかったです。ありがとうございました」
「いいのよ、これぐらい」
デボラはそう言うと、もう一度カーレルに頭を下げて部屋を出ていった。
カーレルはデボラが立ち去ったのを確認すると、翡翠に尋ねる。
「先ほど柱のシミの話をしていたが、なにか思い出したのか?」
「子供のころのことを少しだけですけど。先ほどの換気をしにいらした女性には大変お世話になりました」
「そうか、だが彼女は少しおしゃべりなところがある」
「でも、とても優しくしてもらっていました」
「そうか……。ところで彼女が先ほどの話していたことだが、本当は君の記憶が戻ってから話したかった」
そう言うと、カーレルは翡翠との距離を詰めた。翡翠は驚いて後退り背後にある壁まで追い詰められた。
驚いて横へ逃げようとするが、カーレルは壁に手をついてそれを阻止した。逃げ場をなくし、その状況に困惑しながらカーレルを見上げると真剣な眼差しで翡翠を見つめていた。
翡翠の心臓は早鐘を打ち、今にも口から飛び出しそうだった。
「あの、なにか?」
やっとのことでそれだけ言うと、カーレルはそのまま翡翠の耳元へ口を近づけ囁く。
「シー、少しそのまま。私たちのことをずっとつけている者がいる。先ほどうまく撒いたがここまで様子を見に来たようだ」
翡翠はハッとする。
それで先ほどカーレルは突然農道をそれ、初めてジェイドと会ったあの場所へ連れていったのだと気づいたからだ。
それにしても、と翡翠は疑問に思い質問する。
「誰がなんの目的で私たちのことを?」
「わからない……。翡翠、もう少し壁の方へ詰めることは出きるか?」
翡翠の背後にはもうスペースはない。
「すみません、これ以上は」
そう答え、今にもお互いの唇が触れてしまいそうな距離で思わず顔を逸らして下を向いた。
「すまない、少し我慢してくれ」
カーレルはそう言うと、翡翠をギュッと抱きしめた。
「しばらく、このままで」
翡翠は口から心臓が飛び出しそうだと思いながら、カーレルの胸の中でじっとしていた。
だが、あまりにも長い時間カーレルが翡翠を抱きしめているので、翡翠はカーレルを見上げて小声で訊いた。
「あの、あの、もう行ったのでは?」
カーレルは下を向いて翡翠を見つめる。とても近い距離で翡翠は緊張のあまり目がチカチカした。
目を逸らそうとするが、さらにしっかり抱きしめられ身動ぎすらできなかった。
そんな翡翠の緊張を知ってか知らずか、カーレルは冷静に言った。
「そのようだが、また戻ってくるかもしれない。すぐには動かない方がいいだろう」
「ひ、ひゃい!」
緊張で声が裏返る。カーレルは微笑み翡翠をじっと見つめた。
そのままカーレルと近距離で見つめ合いながら、少しの時間を過ごした。
翡翠がもうこれ以上この状態が続けばどうにかなりそうだと思ったころ、カーレルは外の様子を確認するように見るとやっと翡翠を解放した。
「ここから動くな」
そう言い残すと、外へ確認しに出ていった。
翡翠は気持ちを落ち着かせるため大きく深呼吸し、自分に言い聞かせる。
あれは、私を守るためにやむ終えずとった行動であり、それに対して私が意識するのは失礼なことだ、と。
きっとカーレルは、他の人たちを助けることもあるだろう。その度にこんなに意識されたのでは、カーレルもたまったものではないに違いない。
そう考えると、すっと冷静になった。
そこへカーレルが戻ってくると、翡翠に微笑んだ。
「もう大丈夫そうだ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いや、私も少し私情を挟んだ。もう少し自重しなければならないな」
カーレルはそう答えて苦笑した。
それを聞いてもしかするとカーレルは、翡翠を守るのを少し躊躇したのかもしれないと思った。
成り行きとはいえ、裏切り者を今は守る立場なのは同情せざる終えない。
そう考えると、先ほどまで意識してしまっていた自分を恥じた。
「本当にごめんなさい」
翡翠はうつむいてカーレルに聞こえないようにそう呟いた。
イーコウ村には保養地として宿泊施設がたくさんあり、翡翠たちはこの日そのうちの一つに宿泊することになった。
翡翠は食事もすべて部屋に運んでもらい、一目に触れぬようずっと室内で過ごし夜になるのを待つと、そっと宿を抜け出した。
目的はエクトルの墓参りだった。
昼に来たときは、カーレルも一緒だったためゆっくり墓前に報告することもできなかった。
明日にはここを立たなければならなかったので、その前にどうしても行っておきたかった。
外套を着てフードをかぶるとそっと宿を抜け出し、ランプを手に急いでエクトルの墓へ向かった。
翡翠はエクトルのお墓まで誰にも会わずに行き着くと、墓前でエクトルに向かって語りかける。
「昼間はちゃんと報告できなくてごめんね……」
そう言って今までのことを報告した。
この世界で確かに誰かに殺されたこと、そうして記憶を持ったまま他の世界で転生したこと、でもやるべきことが残っていたためまたこの世界へ帰ってきたこと。
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