裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー

文字の大きさ
27 / 48

27

しおりを挟む
 おそらく魔法を使ってこの仕掛けを作っているのだろう。

 そんなことを思いながら、その光の粒の中を進んでいくと大きな人口の池があり、水面に色とりどりの花びらが浮いている。

 さらに空を見上げると、花がなんの支えもなくふわふわと浮きながら巨大なアーチを描いていて、そこから花びらが舞い落ちてきていてとても美しかった。

 人工池の中央には浮島があり、そこにヘルヴィーゼブルーのガラスでできた橋が渡されてある。

 それを渡ると、丸みのある真っ白なガゼボがあり、ブルーのガゼボカーテンか風に揺られていた。

 ガゼボには白とブルーを基調としたテーブルとイスがセッティングされていて、その周囲を花弁が舞っておりなんとも幻想的な景色だった。

 エミリアはその椅子にまで案内し、ピンクの薔薇の蕾がたくさん入ったガラスのティーポットを持ってきた。

 そして、ティーカップにそのお茶を淹れた瞬間、あたりに薔薇の香りが広がる。

「いい香り」

「はい。最高級の薔薇茶でございます。存分にお楽しみください」

 そう言ってテーブルにティーポットを置くと、エミリアは一礼して下がっていった。

 ふと見るとガゼボの横にある花壇の中にバードバスが設置してあることに気づき、そこにやってくる小鳥を眺めながらゆっくりとお茶を楽しんだ。

 そのとき、ガラスの橋を渡り誰かが向こうから歩いてくるのが見えた。その人物が誰なのか見つめていると、それはカーレルだった。

 殿下も庭でお茶を楽しみに来たのだろうか? だとしたら邪魔をしてはいけないから、部屋に戻った方がよいかもしれない。

 そう考え、翡翠が立ち上がるとカーレルはそれを制した。

「そのままで、一緒に過ごしたい」

 カーレルにそう声を掛けられ、翡翠がもう一度椅子に座ると、カーレルもほっとしたように微笑み隣の椅子に腰かけた。

 エミリアが素速くカーレルのお茶を入れると、一礼して去っていきそれを見送るとカーレルが口を開いた。

「昔話をしても?」

 先ほどニクラスと勝手に出かけたことを注意されるのだと思っていた翡翠は、驚きながらもとりあえずうなずいた。

 するとカーレルは優しく微笑み話し始める。

「昔からとても愛している女性がいた」

 翡翠はその告白にショックで目の前がぐるぐると回るような感覚に襲われながら、無言でうなずいてカーレルに話の先を促す。

「その女性はとても素晴らしい女性で、こんな私のことをあふれんばかりの愛情で包んでくれていた」

 このとき翡翠はその女性がミリナのことだとピンときた。きっとジェイドの知らないところで二人は出会い、愛を育んでいったのだろう。

 これ以上話を聞きたくなくてこの場を離れたい気持ちをグッと抑えると、目の前のティーカップを見つめる。

 カーレルはそんな翡翠の気持ちを知ってか知らずか話を続ける。

「だが、私は彼女に優しくすることができず、彼女をとても傷つけた。そして、彼女が大きな使命を果たすために私のそばにいなくなって、とても後悔することになった」

 翡翠はなんとか笑顔を作ると言った。

「仲直りを」

「仲直り?」

 翡翠はうなずくと続ける。

「もし彼女に会うことが出来たら次はうんと優しくして、仲直りすればいいと思います。そんなに愛情深い女性なら、絶対に許してくれるはずですから」

 そう返すと、カーレルの表情が明るくなった。翡翠はそのカーレルの表情を見てさらに暗い気持ちになる。

 カーレルはミリナをとても愛しているのだ。いつも冷たい態度を取っているが、あれは愛情の裏返しだということなのだろう。

 翡翠にこんな話をするなんて、翡翠がジェイドだったころ素直に伝えていた気持ちなど、カーレルにとっては取るに足らないことであり、どうでもよいことだったのだと思い知らされる。

 そうでなければ、ジェイドの記憶を少しでも思い出しているはずの翡翠にこんな話をするはずがない。

 翡翠は美しく舞う花弁に視線を移すと、それをぼんやり見つめ、いたたまれない気持ちになり立ち上がった。

「翡翠? どうしたんだ?」

 そう言って不思議そうにカーレルは翡翠を見つめる。

「疲れてしまったので、先に部屋に戻ります。殿下はごゆっくりなさってください。それと、その愛する女性とお幸せに」

 それだけ言って微笑むと、足早に部屋へ向かった。途中振り向くが、カーレルは翡翠を追いかけてくることはなく、それは当然のことだと分かりながらもさらにショックを受けた。

 部屋に戻るとエミリアに手伝ってもらいながら、準備されたドレスに着替えるとぼんやりした。

 エミリアはそんな翡翠をとても心配してくれたが、なんとか作り笑顔を返すのがやっとだった。

 晩餐会までには戻ると言っていたニクラスは、宣言通り戻ってきてはいたが挨拶に追われていた。

 今回の晩餐会は表向き外交の催し物となっているためか、外部からの参加者も多く含まれていたからだ。

 ビュッフェスタイルで立食だったため、カーレルが翡翠のエスコートをしようとしたが、カーレルも挨拶に追われていたため、目立ちたくないからとそれを断り、少しそばを離れて部屋の隅でうつむいて過ごした。

 ラファエロは晩餐会が始まってすぐに護衛長のストックに呼ばれ、なにやら話し込んでいる。

 昼間のこともあり、そうして暗い気持ちで晩餐会の参加者たちをぼんやり遠目に眺めていたとき声をかけられた。

「ちょっとぉ~! なんでこんなところで壁の花になってるのさぁ~」

 その声に驚いて顔を上げるとファニーが仁王立ちをしていた。

「ファニーさん。壁の花と言うか、今日は政治的にも大切なシーンのようですし、私が邪魔するわけにはいきませんから。それに、私はあまり目立ちたくないんです」

「そ~いうことじゃないよぉ~。だったらさぁ、それなりの配慮をするのが当たり前じゃん? エンジェルを放っておくなんて言語道断!!」

 そう言って怒っているファニーに、エミリアが近づくとなにやら耳打ちし、それに対してファニーは楽しそうな顔をしてエミリアに指示を出した。

「あの、ファニーさん? 私、本当に大丈夫ですよ?」

 なにやら企てているようだったので、慌てて翡翠はそう返す。

「なに言ってんのさぁ~。壁際で悲しげな顔をしていたくせにぃ。そもそもぉ、こんなふうに放っておかれるぐらいならさぁ、晩餐会なんて出る必要ないって!」

 そう言うと翡翠の手を取り歩き始めた。

「あの、私はカーレル殿下の目の届く場所にいないといけないので、ここから離れられません」

 するとファニーはピタリと立ち止まり、振り返って驚いた顔で翡翠を見つめる。

「はぁ? なにそれぇ?! あの根暗王子ときたらどんだけ束縛すんのさ! それに、別に屋敷を出るわけじゃないし、使用人たちにも翡翠がどこにいるか伝えてあるもん。少し離れるぐらい問題ないって! ほったらかしにしてるんだからさぁ~、文句言われる筋合いもないしねぇ」

 そう言って肩をすくめると、歩き始めた。

 確かに、屋敷から出なければカーレルもそこまで怒ることはないだろう。翡翠は黙ってファニーのうしろに続いた。

 どこへ連れて行く気なのだろうと思っていると、小さな食堂へ通される。そこには晩餐会で供されたものと同じものが準備され、サイデューム国から翡翠に仕えてくれている使用人たちが待ち構えていた。

 使用人たちの代表でエミリアが笑顔で出迎える。

「翡翠様、こちらでごゆっくりお過ごしください」

「えっと、私のために準備を?」

 すると執事のブランドンが言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜
恋愛
 エリザベス・ファロンは黎明の羅針盤(アウローラコンパス)と呼ばれる伝説のパーティの一員だった。  メンバーはすべてS級以上の実力者で、もちろんエリザベスもSS級。災害級の事案に対応できる数少ないパーティだったが、結成してわずか2年足らずでその活動は休眠となり「解散したのでは?」と人は色々な噂をしたが、今では国内散り散りでそれぞれ自由に行動しているらしい。  エリザベスは名前をリサ・ファローと名乗り、姿も変え一般冒険者として田舎の町ガレーヌで暮らしている。  その町のギルマスのグレンはリサの正体を知る数少ない人物で、その彼からラリー・ブレイクと名乗る人物からの依頼を受けるように告げられる。  それは彼女の人生を大きく変えるものだとは知らずに。 ※ゆる~い設定です。 ※ご都合主義なところもあります。 ※えっ?というところは軽くスルーしていただけると嬉しいです。

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

婚約破棄を希望しておりますが、なぜかうまく行きません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のオニキスは大好きな婚約者、ブラインから冷遇されている事を気にして、婚約破棄を決意する。 意気揚々と父親に婚約破棄をお願いするが、あっさり断られるオニキス。それなら本人に、そう思いブラインに婚約破棄の話をするが 「婚約破棄は絶対にしない!」 と怒られてしまった。自分とは目も合わせない、口もろくにきかない、触れもないのに、どうして婚約破棄を承諾してもらえないのか、オニキスは理解に苦しむ。 さらに父親からも叱責され、一度は婚約破棄を諦めたオニキスだったが、前世の記憶を持つと言う伯爵令嬢、クロエに 「あなたは悪役令嬢で、私とブライン様は愛し合っている。いずれ私たちは結婚するのよ」 と聞かされる。やはり自分は愛されていなかったと確信したオニキスは、クロエに頼んでブラインとの穏便な婚約破棄の協力を依頼した。 クロエも悪役令嬢らしくないオニキスにイライラしており、自分に協力するなら、婚約破棄出来る様に協力すると約束する。 強力?な助っ人、クロエの協力を得たオニキスは、クロエの指示のもと、悪役令嬢を目指しつつ婚約破棄を目論むのだった。 一方ブラインは、ある体質のせいで大好きなオニキスに触れる事も顔を見る事も出来ずに悩んでいた。そうとは知らず婚約破棄を目指すオニキスに、ブラインは… 婚約破棄をしたい悪役令嬢?オニキスと、美しい見た目とは裏腹にド変態な王太子ブラインとのラブコメディーです。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

冷酷な旦那様が記憶喪失になったら溺愛モードに入りましたが、愛される覚えはありません!

香月文香
恋愛
家族から虐げられていた男爵令嬢のリゼル・マギナは、ある事情によりグレン・コーネスト伯爵のもとへと嫁入りすることになる。 しかし初夜当日、グレンから『お前を愛することはない』と宣言され、リゼルは放置されることに。 愛はないものの穏やかに過ごしていたある日、グレンは事故によって記憶を失ってしまう。 すると冷たかったはずのグレンはリゼルを溺愛し始めて――!? けれどもリゼルは知っている。自分が愛されるのは、ただ彼が記憶を失っているからだと。 記憶が戻れば、リゼルが愛されることなどないのだと。 (――それでも、私は) これは、失われた記憶を取り戻すまでの物語。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

処理中です...