裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー

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 馬車は国境を分ける外壁にある大きな門扉の前で止まった。そこがティヴァサ国とヘルヴィーゼ国との国境検問所であった。

 翡翠は馬車が止められ、自分が突き出されてしまうのではないかと不安になり、フードをかぶると顔を隠すようにうつむいた。

 そうして、ドキドキしながら無事にそこを通過できることを祈った。

 横でカーレルがその様子に気づいて翡翠の肩を抱き寄せると、安心させるかのように背中を撫でて耳元で囁いた。

「翡翠、大丈夫。大丈夫だから」

 そうして国境検問所の前でしばらくまたされていたが、大きな門扉が開かれる音がすると馬車は動き出した。

 カーレルは翡翠の顔を覗き込み微笑む。

「ほら、大丈夫だったろう?」

「はい……」

 翡翠は心からほっとした。

 そうして馬車は走りだし、ティヴァサ国の首都であるキッカへ向かった。国境からキッカまでは比較的近い位置にあり、馬車で四時間ほどの距離だ。

 翡翠たちは朝早くにクルを出たので、キッカには昼過ぎには到着した。

 キッカは『スタビライズ』がある場所でスペランツァ教の聖地でもあり、本拠地のような場所で特に宗教色の強い街だ。

 街並みも独特で四角い建物が多く外壁に紋様が彫刻されてあり、玄関の上にはスペランツァ教のシンボルである星を型どったものが飾られている。

 そんな家々が丘や山の斜面に並び、統一のとれた美しい風景を作り出していた。

 キッカの人々は、淡い色を好む傾向があるのか外壁やその装飾に至るまで、すべてのデザインが淡い色彩なのだが、衣服についてははっきりとした濃い色合いのものが好まれているようで、その対比がとても美しかった。

 そして隣のヘルヴィーゼ国と違い、山脈からの冷たい風が吹きつけるため、やや寒い気候のせいもあってか、人々はみな外套を羽織りフードを被っている。

 そのお陰で、翡翠が外套を着てフードをかぶっていても目立つことがないのは有り難かった。

 街の中央には入り組んだ長い細い柱でできた大聖堂があり、その光景を懐かしく思いながら見つめる。

 だが、不意にその光景の向こう側に見慣れないものを見つけ驚く。

 大聖堂のずっと向こう側、最後の『スタビライズ』がある方向にとてつもなく大きなドーム状の結界が張られていたのだ。

 話には聞いていたが、あれほど大きな結界だとは思っておらず、あんなものをミリナ一人で張ったのだとしたら、確かに彼女は聖女と呼ぶに相応しい存在だろうと思った。

「翡翠、驚いたか? あの結界が最後の『スタビライズ』を守っている」

 確かに、カーレルたちからすれば翡翠から『守っている』ことになるだろう。そう思いながら結界を見つめた。

 今の翡翠では、あの結界を超えて最後の『スタビライズ』に行くことはできないだろう。使命を果たすためには、なんとしてでも『ジェイド』を探しださなければならない。

 翡翠はこのとき、少し焦りを感じていた。

 大聖堂へ着くと、カーレルにエスコートされて馬車を降りた。すると、ミリナがエルレーヌと何人かの神官を引き連れて出迎えてくれた。

 ミリナは一歩前に出ると、優雅にお辞儀をして微笑んだ。

「お待ちしておりました、カーレル殿下。それにブック首相、ようこそいらっしゃいました」

 公式の場であるためか、ミリナのお転婆ぶりは鳴りを潜めていた。

 カーレルは作り笑顔で答える。

「久しいな、では案内をたのむ」

「もちろんでございます。ですが、殿下も賢人も到着したばかりですから、少し休まれたほうがよろしいでしょう。さぁ、こちらへ」

 そう言って大聖堂の中へ案内した。

 大聖堂の中に入ると、幾重にも重なる柱の隙間から効果的に日の光が差し、床に光が幾何学的な模様を描いていてとても神秘的に見えた。

 翡翠はカーレルに手を引かれながら、フードの縁をつかむと深くかぶって、うつむきながらその後ろに続いた。

 しばらく日の差す赤いカーペットの上を進んで行くと、客間のような部屋へ通された。

 エルレーヌは部屋に入ると頭を下げる。

「聖女様と積もる話しもありますでしょう。しばらくこちらでゆっくりお過ごしください。昼食の準備が出きましたらお声かけさせていただきます。ではごゆるりと」

 そう言って部屋を去っていった

 エルレーヌと他の神官が部屋を出ていった瞬間、ミリナはぴょんと跳びはねると拳を上に掲げた。

「やっと自由にできる~! カーレル殿下、会いたかった!」

 そう叫び、手を広げてカーレルの方へ駆け寄り抱きつこうとした。だが、カーレルは素早くそれをかわす。

「止めろ」

 ミリナはカーレルに避けられ、バランスを崩しそうになったがなんとか体制を整えると、振り向いて言った。

「もう! 相変わらず冷たい!」

 そして今度は翡翠のほうへ駆け寄ると手を取った。

「翡翠も久しぶり! 元気?! ゆっくりしていってね! そうそう私、明日が誕生日なの。それで、聖女の誕生祭とかなんとかで教会で祝ってくれるらしいから、翡翠も参加して!」

 翡翠はこの誘いを受けてよいか戸惑い、カーレルに視線を向けた。カーレルはそれに気づいてため息をつくとミリナに言った。

「仕方ない。もともと私も招待はされていたし、ここまで来て出ないわけにはいかないだろう。翡翠も参加するといい」

「なによ~、その渋々な感じ。本当に正直じゃないな~」

 そう言い返したあと、今度はニクラスに駆け寄りお辞儀する。

「ブック首相、お久しぶりです」

「久しいな聖女殿。こちらでしばらく厄介になるが、よろしくたのむ」

 すると、ミリナは頬を染め憧れと尊敬の眼差しで見つめ嬉しそうに答える。

「はい、お任せください。それで、よろしければ、ブック首相も誕生会に出席していただけないでしょうか?」

 ニクラスはしばらく考えてから答える。

「聖女殿の誕生会にちょうど訪問したというのも、なにかの縁かもしれないな。出席してもかまわない」

「ありがとうございます!」

 そして今度はラファエロに駆け寄る。

「あっ、ラファエロももちろん参加するわよね?!」

 ラファエロは面倒くさそうに言った。

「俺はおまけか」

「最後に声をかけられたからって、不貞腐れない!」

 そう言ってミリナはクスクスと笑った。そのとき、エルレーヌが戻って来た。

「準備が整ってございます。こちらへどうぞ」

 食堂で昼食を取りながら、ミリナやエルレーヌが明日の聖女誕生会について説明しているのを聞いた限り、それがかなり盛大に行われるのだと知った。

 翡翠は内心そんなに大勢がくる場に出席することも、その場でカーレルとミリナの二人を遠くから見つめることも憂鬱に思いながら食事を口に運んだ。

 食後、聖堂内を案内したいとミリナが言ったがカーレルがそれを断った。

「今朝、諸事情でゆっくりできなかった。それに、明日の誕生会に翡翠も出席するとなるとそれなりに準備しなければならない」
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