裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー

文字の大きさ
38 / 48

38

しおりを挟む
「これはグリエット家に伝わるといわれているクレイモア『ミケル・グリエット』ですよね。ということは……」

 翡翠はそう言って振り返りミリナの顔を見つめた。すると、ミリナは翡翠ににんまり微笑み返す。

「そうなの! 私がったの。やっぱりばれちゃったね」

 そう言って、舌を小さくペロッと出すと話を続ける。

「ここでジェイドを殺したあと、ちょっともたついちゃて。そしたら突然『スタビライズ』にジェイドが吸い込まれちゃうんだもん。しかも、驚いてるところにあの結界でしょ? そのお陰で剣も取り損ねたし、本当にまいっちゃった」

「こっっわ!」

 ファニーがこの世のものじゃないものを見るような目付きでミリナを見つめそう言うと、ミリナはそれを一瞥して鼻で笑った。

 翡翠はこんなことを楽しそうに語るミリナに恐怖を覚えながら訊く。

「まさかミリナ様は、これを確かめるために?」

 ミリナは嬉しそうにうなずくと答える。

「そう、そのままになってたら犯人が私ってばれちゃうでしょう? で、確認して、もしも残ってたらまたればいいや、って思って」

 そう言うと、隠し持っていたダガーを翡翠に向けた。

 だが、ミリナは薄ら笑いを浮かべ軽く片手でダガーを構えていて、本気でこちらに敵意を向けているようには見えない。

 そのとらえどころのない態度が、余計に翡翠を不安にさせた。ミリナは薄ら笑いを浮かべたまま話を続ける。

「それにしても、翡翠ったら私が渡したお茶、飲まなかったの?」

 突然、まったく関係ない質問をされ翡翠はなんのことだか思い出すのに少し時間がかかった。

「お茶って、あの疲労を回復する茶葉ですか? それなら毎日……」

 そう返事をしたところで、ある考えが浮かんでゾッとする。

 顔色を悪くした翡翠を見て、ミリナは嬉しそうに微笑む。

「飲んだ? 飲んだのね?! 今、気づいたみたいだけど、あれ毒入りなの! じゃあ、今らなかったとしても翡翠の命も長くはないってことか~」

 そう言うと、少し考えた様子になった。

「じわじわ効く毒だもの。毒が効いてくるのを待って、見てるのもいいかもしれないなぁ」

 そこまで言うと、翡翠に向き直り楽しそうに質問する。

「ねぇ、今も体調が悪いでしょう?」

 そう言われたが、ミリナの言うように体調が悪くなるようなことはなかった。

 そこでファニーが口を挟む。

「見届ける前にぃ、あんた捕まるよ! 僕が証人!」

「面白~い! あなた、ここから生きて帰れると思ってるんだ!」

「うっわ~、あんた最悪だねぇ」

「ありがとう!」

 そんなやり取りを横目に、翡翠はあることを思い出し、慌てて首から下げていた小袋を取り出し中身を取り出してみる。と、宝石が光輝いていた。

 それを見てミリナが顔色を変えた。

「ちょっ! なによそれ、ククルカンの宝石? それはルール違反じゃない? もう! 面白くないわね。カーレルが持たせたの? 本当に、徹底的に私の楽しみを奪うんだから!」

 そう言って不貞腐れたようにそっぽを向いた。

 ミリナのその反応を見て、翡翠は不思議に思う。

「ミリナ様、なぜですか? ジェイドは裏切り者のだったはずです。ミリナ様はそんなジェイドの行動を阻んだのですから、殺したことをそこまで隠す必要はないはずです。それに……」

 するとミリナは、心底うんざりしたような顔をした。

「やだ、まだ気づいてないの? 信じらんない」

「気づくってなにをです?」

 すると、ミリナは大きくため息をついてから言った。

「ねぇ、あなた、私が親切にそれを教えてあげると思うの? あなたがなにも知らないで死んだほうが面白いもの、教えるわけないじゃない」

「そんな、でも……」

 そこでファニーが翡翠を止める。

「エンジェルこんな奴になにを訊いたって、まともな返事が返ってくるわけないんだから、もう止めときな!」

 ファニーはそう言うと、心底嫌悪するものを見る目でミリナを見つめた。

「あっそ。じゃあもういいわよね。時間切れ~。あっ、最後に一つだけいいこと教えてあげる」

「いいこと?」

「そうそう。私ね、ジェイドがイーコウ村で『スタビライズ』を発見して、ニヒェルの幻影と話してたの見てたの」

「じゃあ、私の目的を……」

「そう! 最初から全部知ってたってこと。だから先回りして、ここでジェイドを待ち伏せできたんじゃない」

 ミリナは普段と変わらぬ様子で楽しそうにそう言うと、無邪気に微笑んだ。

 翡翠はその笑顔に怒りを覚え思わず一歩前に出る。すると、ミリナは小馬鹿にしたように言った。

「おっ? やる気?」

 そしておどけながら軽く剣をかまえると、突然オオハラに向かって言った。

「オオハラ、ご苦労様。その変な道化師も連れてくるとは思わなかったけど、殿下と翡翠を引き離せたんだから大成功って感じね!」

 翡翠は驚いてオオハラを見上げた。

「どういうことですか?」

「いろいろ事情があるんです」

 そう言って苦笑し、オオハラは翡翠の腕をつかむと自分の背後に隠して叫ぶ。

「殿下、翡翠は確保できました!」

 その声を合図に、周囲の森の中から一斉に騎士団が出てくると翡翠たちを取り囲んだ。呆気にとられていると、その中からカーレルが姿を現した。

 翡翠は全員に騙されていたのだと思い、もう終わりだと思った。

 だが、なぜオオハラまでもが翡翠のことを騙したのかわからず、フードの縁を握りうつむく。

 ミリナは周囲を見ると満面の笑みでカーレルに叫ぶ。

「カーレル殿下! 来てくれたんですね! 私、翡翠になにか誤解されているみたい。オオハラがそれを説明してくれるところなの」

 それを聞いて翡翠は、きっとミリナは自分に都合のよいことをでっち上げるにちがいないと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜
恋愛
 エリザベス・ファロンは黎明の羅針盤(アウローラコンパス)と呼ばれる伝説のパーティの一員だった。  メンバーはすべてS級以上の実力者で、もちろんエリザベスもSS級。災害級の事案に対応できる数少ないパーティだったが、結成してわずか2年足らずでその活動は休眠となり「解散したのでは?」と人は色々な噂をしたが、今では国内散り散りでそれぞれ自由に行動しているらしい。  エリザベスは名前をリサ・ファローと名乗り、姿も変え一般冒険者として田舎の町ガレーヌで暮らしている。  その町のギルマスのグレンはリサの正体を知る数少ない人物で、その彼からラリー・ブレイクと名乗る人物からの依頼を受けるように告げられる。  それは彼女の人生を大きく変えるものだとは知らずに。 ※ゆる~い設定です。 ※ご都合主義なところもあります。 ※えっ?というところは軽くスルーしていただけると嬉しいです。

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

婚約破棄を希望しておりますが、なぜかうまく行きません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のオニキスは大好きな婚約者、ブラインから冷遇されている事を気にして、婚約破棄を決意する。 意気揚々と父親に婚約破棄をお願いするが、あっさり断られるオニキス。それなら本人に、そう思いブラインに婚約破棄の話をするが 「婚約破棄は絶対にしない!」 と怒られてしまった。自分とは目も合わせない、口もろくにきかない、触れもないのに、どうして婚約破棄を承諾してもらえないのか、オニキスは理解に苦しむ。 さらに父親からも叱責され、一度は婚約破棄を諦めたオニキスだったが、前世の記憶を持つと言う伯爵令嬢、クロエに 「あなたは悪役令嬢で、私とブライン様は愛し合っている。いずれ私たちは結婚するのよ」 と聞かされる。やはり自分は愛されていなかったと確信したオニキスは、クロエに頼んでブラインとの穏便な婚約破棄の協力を依頼した。 クロエも悪役令嬢らしくないオニキスにイライラしており、自分に協力するなら、婚約破棄出来る様に協力すると約束する。 強力?な助っ人、クロエの協力を得たオニキスは、クロエの指示のもと、悪役令嬢を目指しつつ婚約破棄を目論むのだった。 一方ブラインは、ある体質のせいで大好きなオニキスに触れる事も顔を見る事も出来ずに悩んでいた。そうとは知らず婚約破棄を目指すオニキスに、ブラインは… 婚約破棄をしたい悪役令嬢?オニキスと、美しい見た目とは裏腹にド変態な王太子ブラインとのラブコメディーです。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

冷酷な旦那様が記憶喪失になったら溺愛モードに入りましたが、愛される覚えはありません!

香月文香
恋愛
家族から虐げられていた男爵令嬢のリゼル・マギナは、ある事情によりグレン・コーネスト伯爵のもとへと嫁入りすることになる。 しかし初夜当日、グレンから『お前を愛することはない』と宣言され、リゼルは放置されることに。 愛はないものの穏やかに過ごしていたある日、グレンは事故によって記憶を失ってしまう。 すると冷たかったはずのグレンはリゼルを溺愛し始めて――!? けれどもリゼルは知っている。自分が愛されるのは、ただ彼が記憶を失っているからだと。 記憶が戻れば、リゼルが愛されることなどないのだと。 (――それでも、私は) これは、失われた記憶を取り戻すまでの物語。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

処理中です...