【完結】料理人は冒険者ギルドの裏で無双します

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スピンオフ『厨房の見習いは夢を見る』

第一章:爆発と、味の才能

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「栄作さん、スープ、ちょっとだけ味見してもいいですか?」

朝の厨房。まだ他のスタッフも少ない時間帯に、トムはおそるおそる声をかけた。
手にしていたのは、昨日の残りで煮込んでいた野菜のスープ。

「うん、いいよ。自分の舌を信じて判断してみな」

トムはお玉でひとすくいし、慎重に口に含んだ。
ふぅと息を吐いて、目を閉じる。

「……うーん、ちょっと…甘い?」

「野菜の自然な甘さだね。だけど、何が足りないと思う?」

「……酸味、かな」

栄作はにやりと笑った。

「正解。ほんの少しだけ、干し果実の酸味が入ると味が締まる。やってみる?」

「や、やります!」

そんなやり取りが日常になって、もうひと月が経つ。
トムはこの厨房の“見習い”であり、冒険者ギルドの一角で働く「食事係の一人」にすぎなかった。
けれど、彼には夢があった。

(いつか僕も、栄作さんみたいに、みんなに喜ばれる料理が作れるようになりたい…)

そんな思いを胸に、彼は今日も小さな鍋を前に格闘していた。

──そして、その日は突然やってきた。

* * *

「トム、鍋、頼むぞ。俺は仕入れに行ってくるから」

「は、はい!任せてください!」

厨房を一任された午前の時間。トムは張り切っていた。
今朝は珍しく、栄作が町の市場へ食材調達に出かけている。
責任重大だ。

「今日は特製キノコスープと、ハーブソーセージ。火加減だけは間違えないように……」

ごく普通の工程――のはずだった。

だがそのとき、食材庫の隅に置かれていた小瓶のラベルが目に入った。

『香辛液 ―激性濃縮・魔力反応注意』

(これって……たしか、使っちゃダメなやつだったっけ……でも、ほんのちょっとなら……)

軽い気持ちで数滴垂らした瞬間――

ボンッッ!!!

小鍋が激しく噴き上がり、白煙と蒸気が厨房中に広がった。

「うわっ!?」

床に尻もちをつくトム。
周囲は一面、真っ白な霧の中だった。

「……な、なにこれ……」

呆然としていると、なぜか鼻をくすぐるスープの香りが妙に鮮やかに感じられる。
鼻孔だけでなく、頭の奥に――味の構成が流れ込んでくるような感覚。

(……玉ねぎは炒めすぎてる。トマトの酸味が飛んでる。ベースはキノコ。……あと、焦げ臭い)

自分の思考が、味に変換されている。いや、“味が頭に直接伝わってきている”。

「……な、なにこれ?」

そのとき、背後から戸が開いた音がした。

「……まさか爆発音が厨房から聞こえるとは思わなかったぞ」

蒸気の中から現れたのは、栄作だった。
苦笑を浮かべながらも、彼の目は真剣だった。

「トム。何か、変わったことはなかったか?」

トムは震える声で答えた。

「……味が、わかるんです。食べなくても、香りだけで……」

しばしの沈黙のあと、栄作は静かに頷いた。

「……どうやら君に、“味覚魔法”の才能が目覚めたらしいな」

トムの目が、驚きに見開かれた。

「……魔法? 僕が?」

「そうだ。そしてこれは、普通の魔法じゃない。料理人にしか扱えない“料理魔法”だ」

トムの小さな夢は、この瞬間から現実の“道”へと変わっていく。
それがどれほど険しく、そして甘美なものであるかを、彼はまだ知らなかった――。
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