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第二部:料理と冒険の日々
第7章:冒険者たちの物語
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夕暮れのギルド食堂には、一日の任務を終えた冒険者たちが集まっていた。
栄作は厨房から、彼らの笑顔や疲れた表情を眺めながら調理を続けていた。ここに来て数ヶ月、彼は多くの冒険者と交流を持ち、その料理で彼らを支えてきた。
しかし、本当に彼らのことを理解しているだろうか—そんな疑問が栄作の心に浮かんでいた。
「栄作さん、いつものをお願い」
カウンター越しに声をかけてきたのは、若い女性冒険者のナディアだった。彼女はいつも夕食後に栄作特製の「安眠のハーブティー」を注文する。
「今日もお疲れ様。すぐに準備するよ」栄作は微笑んで答えた。
ティーポットにお湯を注ぎながら、栄作はナディアの様子を観察した。いつもなら任務の話で盛り上がるマグナスたちと違い、今日のナディアは一人で座り、静かに手紙を書いている。
「ハーブティーです。今日は森で見つけた新しいハーブを少し加えてみました」栄作はティーカップを差し出した。
「ありがとう」ナディアは微笑んだが、その表情には何か影があった。
栄作は少し躊躇ってから隣に座った。「何か悩みごと?」
ナディアはため息をついた。「...実は、これは故郷の家族への仕送りの手紙なの」
「仕送り?」
「ええ。私には年老いた両親と、小さな弟妹が三人いるわ。彼らを養うために冒険者になったの」彼女は手紙を折りながら言った。「今月は少し稼ぎが少なくて...」
栄作はナディアの顔をじっと見つめた。いつも冷静で強いナディアだが、家族のことになると表情が柔らかくなる。
「ナディアさんは、とても優しい人なんですね」栄作は静かに言った。
彼女は少し赤くなって目をそらした。「そんなことないわ。みんな同じよ」
「いいえ、同じじゃありません」栄作は首を振った。「冒険者になる理由は人それぞれ。ナディアさんは家族のために命を懸けている。それは素晴らしいことです」
ナディアはハーブティーを一口飲んだ。「このティー...なんだか心が落ち着くわ」
「明日、ナディアさんのために特別な料理を作ります。遠征に持っていける栄養価の高い保存食です。いつもより長く効果が続くようにしましょう」
彼女の目が少し潤んだ。「ありがとう...でも、私だけ特別扱いは...」
「大丈夫です」栄作は笑った。「料理人の特権です」
翌朝、栄作は早くから厨房に立ち、ナディア専用の特製保存食を準備していた。普段の保存食に加え、栄養価を高める特殊ハーブと、彼女の故郷を思わせる香辛料を使った一品だ。
「おはよう、栄作」
振り返ると、マグナスが大きなあくびをしながら厨房に入ってきた。赤毛の大男は、まだ眠そうな目をこすっていた。
「マグナスさん、こんな早くから珍しいですね」栄作は作業を続けながら言った。
「ああ、ちょっと眠れなくてな」マグナスは厨房の椅子に腰掛けた。「何か温かいものはないか?」
栄作はすぐにスープを用意し、マグナスの前に置いた。「何か悩みでも?」
マグナスはスープを一口飲んで目を見開いた。「うまい!...いや、別に大したことじゃない」
しかし、その表情は何かを隠しているように見えた。栄作は静かに待った。
マグナスはため息をついた。「実は...明日は、俺の故郷が滅んだ日なんだ」
「故郷が...?」
「ああ」マグナスは遠くを見るような目になった。「十年前、ドラゴンの襲撃で村が全滅した。俺だけが生き残った」
栄作は言葉を失った。いつも陽気で強いマグナスが、そんな過去を背負っていたとは。
「毎年この日は、村の人たちのために祈りをささげるんだ」マグナスは淡々と続けた。「だから、明日は任務に出ない」
栄作はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。「マグナスさんの故郷は、どんな村だったんですか?」
その質問に、マグナスは少し驚いたような顔をした。誰も彼の過去について詳しく尋ねることはなかったのだ。
「小さな農村だったよ。山の麓にあって、特産品は蜂蜜とリンゴだった」彼は少し笑顔になった。「村の祭りの日には、みんなでリンゴと蜂蜜のケーキを作って...」
栄作はその話を聞きながら、何かを思いついたように目を輝かせた。「マグナスさん、明日の朝、ここに来てもらえますか?」
「ああ、いいけど...何か?」
「秘密です」栄作は微笑んだ。
翌朝、マグナスが食堂に現れると、そこには栄作だけが待っていた。テーブルの上には一つの大きなケーキが置かれていた。
「これは...」マグナスは息を呑んだ。
「リンゴと蜂蜜のケーキです。マグナスさんの故郷のレシピを再現しようと思って」栄作は少し恥ずかしそうに言った。「食材屋に聞き込みをして、この地方の伝統的なレシピを調べました」
マグナスはケーキを見つめ、手が少し震えた。「なんでこんなことを...」
「料理は記憶を繋ぐものだと思うんです」栄作は静かに言った。「私の料理で、マグナスさんが故郷の人たちとの思い出を大切にする手伝いができればと思いました」
マグナスは一切れを口にした瞬間、目に涙が浮かんだ。「まさにあの味だ...母さんの味そのままだ...」
栄作は黙って隣に座り、マグナスが故郷の思い出を語るのを聞いた。強く明るいマグナスが、この日だけは涙を流しながら、失われた家族や友人たちのことを話す。栄作は彼の言葉一つ一つを心に刻んだ。
---
午後、厨房に小さな姿が現れた。
「栄作さん、今日も魔法の練習をしていいですか?」
ルークの幼い声に栄作は振り返り、微笑んだ。「もちろん。でも、その前に聞きたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「ルークくんはどうして魔法使いになりたいの?」
少年は少し驚いたような顔をしたが、すぐに目を輝かせて答えた。「世界一の魔法使いになって、みんなを助けたいからです!」
「素晴らしい夢だね」栄作は頷いた。「でも、どうして魔法使いなの?剣士や弓使いじゃなくて」
ルークは少し口ごもった。「それは...」
「言いにくいことなら、無理に話さなくていいよ」
「いえ、栄作さんなら分かってくれると思います」ルークは決意したように言った。「実は、僕の両親は魔法の事故で亡くなったんです」
栄作は息を呑んだ。
「父さんは町の魔法研究者で、新しい治癒魔法を開発していました。でも、実験中に暴走して...」ルークは悲しそうに目を伏せた。「だから僕は、父さんの残した研究を完成させたいんです。みんなを治せる魔法で」
栄作はルークの小さな肩に手を置いた。「立派な夢だね。きっと実現できるよ」
「栄作さんみたいに、料理で人を助ける魔法使いになりたいんです」
その言葉に栄作は心を打たれた。
「じゃあ、今日は特別な魔法料理の作り方を教えよう」栄作は立ち上がった。「魔力増幅の効果があるだけじゃなく、集中力も高める料理だ。練習にきっと役立つよ」
ルークの目が輝いた。「本当ですか?」
二人は午後いっぱい、特製の魔法使い用料理を作りながら、ルークの夢や魔法の話で盛り上がった。栄作は少年の純粋な情熱に、自分の若い頃を思い出していた。
---
夕方になり、栄作が市場から戻ると、シルヴァンがギルドの前で待っていた。エルフの弓使いは普段は一人で行動することが多く、栄作と話すことも少なかった。
「シルヴァン?何かあったの?」
「少し話がある」彼は静かに言った。「森で見つけた食材を持ってきた」
栄作は興味を示した。「どんな食材?」
シルヴァンは小さな布袋を差し出した。中には見たこともない輝く葉と、小さな赤い実が入っていた。
「『月光の葉』と『知恵の実』だ。我々エルフの森では神聖な食材とされている」シルヴァンは珍しく多くの言葉で説明した。「共有したいと思った」
「なぜ私に?」栄作は素直に尋ねた。
シルヴァンはしばらく黙っていたが、やがて静かに答えた。「君は食材を尊重する。我々エルフと同じだ」
栄作は感謝の意を示した後、「味覚分析」の能力で食材を調べた。「これは素晴らしい...精神と知性に作用する成分が豊富だ」
「ああ」シルヴァンはわずかに微笑んだ。「私の民は、この実を食べることで森の声を聞く力を得ると言われている」
「森の声?」
「自然との対話だ。君の料理も、似たようなものではないか?食材との対話」
栄作は納得したように頷いた。「確かに。料理は食材の声を聞くことから始まるんだ」
二人は屋上に登り、夕焼けを眺めながら静かに会話を続けた。シルヴァンは自分のエルフの森のこと、そして人間の村との複雑な関係について話した。長い間生きてきたエルフとして、彼は多くの人間の移ろいを見てきたのだ。
「私がギルドに来たのは、人間を理解したかったからだ」シルヴァンは静かに明かした。「長い間、我々は人間を警戒してきた。しかし、共存の道を探さねばならない時代になった」
栄作はシルヴァンの言葉に深い意味を感じ取った。種族を超えた理解—それは彼の料理が目指すものでもあった。
「明日、エルフの伝統料理を一緒に作りましょう」栄作は提案した。「あなたの知識と私の技術で、新しい料理が生まれるかもしれません」
シルヴァンは珍しく笑顔を見せた。「良い提案だ。受け入れよう」
数日後、栄作は厨房で一人考え込んでいた。マグナス、ナディア、ルーク、シルヴァン—彼らそれぞれの物語を知り、彼らの心と向き合うことで、栄作の中で新しいアイデアが生まれていた。
「皆さんのための料理を作ろう」
栄作は決意を固め、新しいメニューの開発に取りかかった。
マグナスのために—「勇者の記憶」と名付けた肉料理。故郷の味を思い出させながらも、前に進む力を与える一品。
ナディアのために—「遠き家族の絆」という保存食。長い遠征でも家族の温もりを感じられるよう、特殊なスパイスと魔法ハーブを使用。
ルークのために—「夢追いの魔法スープ」。若い魔法使いの集中力と魔力を高めるだけでなく、成長を促進する栄養素を豊富に含む。
シルヴァンのために—「森の調和サラダ」。エルフの伝統食材と人間の食材を融合させ、種族間の理解を象徴する一品。
そして、ギルドのメンバー全員のために—「絆のフェスティバル料理」。
それぞれの冒険者の特性を引き出しながら、チームとしての絆を強化する特別なコース料理。
調理を終えた栄作は、彼らを食堂に集めた。
「皆さん、今日は特別な料理を用意しました。それぞれのために考えた一品です」
冒険者たちは栄作の言葉に驚きながらも、その料理に目を輝かせた。
「これは...俺の故郷の味がする...でも、なぜか未来への希望も感じる...」マグナスは感動して言った。
「信じられない。家族のことを考えると、この料理の味がさらに深まるわ」ナディアも目を潤ませた。
ルークは一口食べた瞬間、杖から小さな光の花が咲いた。「すごい!魔力がみなぎってくる!」
シルヴァンさえも珍しく感情を表に出し、「自然との調和を感じる...素晴らしい」と言った。
セイジギルドマスターが栄作に近づいてきた。「君は単なる料理人ではない。心を繋ぐ者だ」
栄作は頭を下げた。「いいえ、ただの料理人です。でも、この世界で大切なことを学びました。料理は単なる栄養補給ではなく、人と人を繋ぐもの。冒険者の皆さんから、それを教えてもらいました」
その夜、ギルドの食堂は笑顔と会話で溢れた。種族も背景も異なる冒険者たちが、一つのテーブルを囲み、栄作の料理を通して互いを理解し始めていた。
栄作は厨房から、彼らの姿を見つめていた。かつての孤独な高級レストランの料理長とは違い、今の自分は多くの絆に囲まれている。異世界に来て見つけた、本当の「料理の力」—それは人々の心を繋ぐ力だった。
明日からも、彼らの物語に寄り添う料理を作り続けよう。栄作はそう心に誓いながら、新たなレシピのアイデアを頭の中で膨らませていた。
栄作は厨房から、彼らの笑顔や疲れた表情を眺めながら調理を続けていた。ここに来て数ヶ月、彼は多くの冒険者と交流を持ち、その料理で彼らを支えてきた。
しかし、本当に彼らのことを理解しているだろうか—そんな疑問が栄作の心に浮かんでいた。
「栄作さん、いつものをお願い」
カウンター越しに声をかけてきたのは、若い女性冒険者のナディアだった。彼女はいつも夕食後に栄作特製の「安眠のハーブティー」を注文する。
「今日もお疲れ様。すぐに準備するよ」栄作は微笑んで答えた。
ティーポットにお湯を注ぎながら、栄作はナディアの様子を観察した。いつもなら任務の話で盛り上がるマグナスたちと違い、今日のナディアは一人で座り、静かに手紙を書いている。
「ハーブティーです。今日は森で見つけた新しいハーブを少し加えてみました」栄作はティーカップを差し出した。
「ありがとう」ナディアは微笑んだが、その表情には何か影があった。
栄作は少し躊躇ってから隣に座った。「何か悩みごと?」
ナディアはため息をついた。「...実は、これは故郷の家族への仕送りの手紙なの」
「仕送り?」
「ええ。私には年老いた両親と、小さな弟妹が三人いるわ。彼らを養うために冒険者になったの」彼女は手紙を折りながら言った。「今月は少し稼ぎが少なくて...」
栄作はナディアの顔をじっと見つめた。いつも冷静で強いナディアだが、家族のことになると表情が柔らかくなる。
「ナディアさんは、とても優しい人なんですね」栄作は静かに言った。
彼女は少し赤くなって目をそらした。「そんなことないわ。みんな同じよ」
「いいえ、同じじゃありません」栄作は首を振った。「冒険者になる理由は人それぞれ。ナディアさんは家族のために命を懸けている。それは素晴らしいことです」
ナディアはハーブティーを一口飲んだ。「このティー...なんだか心が落ち着くわ」
「明日、ナディアさんのために特別な料理を作ります。遠征に持っていける栄養価の高い保存食です。いつもより長く効果が続くようにしましょう」
彼女の目が少し潤んだ。「ありがとう...でも、私だけ特別扱いは...」
「大丈夫です」栄作は笑った。「料理人の特権です」
翌朝、栄作は早くから厨房に立ち、ナディア専用の特製保存食を準備していた。普段の保存食に加え、栄養価を高める特殊ハーブと、彼女の故郷を思わせる香辛料を使った一品だ。
「おはよう、栄作」
振り返ると、マグナスが大きなあくびをしながら厨房に入ってきた。赤毛の大男は、まだ眠そうな目をこすっていた。
「マグナスさん、こんな早くから珍しいですね」栄作は作業を続けながら言った。
「ああ、ちょっと眠れなくてな」マグナスは厨房の椅子に腰掛けた。「何か温かいものはないか?」
栄作はすぐにスープを用意し、マグナスの前に置いた。「何か悩みでも?」
マグナスはスープを一口飲んで目を見開いた。「うまい!...いや、別に大したことじゃない」
しかし、その表情は何かを隠しているように見えた。栄作は静かに待った。
マグナスはため息をついた。「実は...明日は、俺の故郷が滅んだ日なんだ」
「故郷が...?」
「ああ」マグナスは遠くを見るような目になった。「十年前、ドラゴンの襲撃で村が全滅した。俺だけが生き残った」
栄作は言葉を失った。いつも陽気で強いマグナスが、そんな過去を背負っていたとは。
「毎年この日は、村の人たちのために祈りをささげるんだ」マグナスは淡々と続けた。「だから、明日は任務に出ない」
栄作はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。「マグナスさんの故郷は、どんな村だったんですか?」
その質問に、マグナスは少し驚いたような顔をした。誰も彼の過去について詳しく尋ねることはなかったのだ。
「小さな農村だったよ。山の麓にあって、特産品は蜂蜜とリンゴだった」彼は少し笑顔になった。「村の祭りの日には、みんなでリンゴと蜂蜜のケーキを作って...」
栄作はその話を聞きながら、何かを思いついたように目を輝かせた。「マグナスさん、明日の朝、ここに来てもらえますか?」
「ああ、いいけど...何か?」
「秘密です」栄作は微笑んだ。
翌朝、マグナスが食堂に現れると、そこには栄作だけが待っていた。テーブルの上には一つの大きなケーキが置かれていた。
「これは...」マグナスは息を呑んだ。
「リンゴと蜂蜜のケーキです。マグナスさんの故郷のレシピを再現しようと思って」栄作は少し恥ずかしそうに言った。「食材屋に聞き込みをして、この地方の伝統的なレシピを調べました」
マグナスはケーキを見つめ、手が少し震えた。「なんでこんなことを...」
「料理は記憶を繋ぐものだと思うんです」栄作は静かに言った。「私の料理で、マグナスさんが故郷の人たちとの思い出を大切にする手伝いができればと思いました」
マグナスは一切れを口にした瞬間、目に涙が浮かんだ。「まさにあの味だ...母さんの味そのままだ...」
栄作は黙って隣に座り、マグナスが故郷の思い出を語るのを聞いた。強く明るいマグナスが、この日だけは涙を流しながら、失われた家族や友人たちのことを話す。栄作は彼の言葉一つ一つを心に刻んだ。
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午後、厨房に小さな姿が現れた。
「栄作さん、今日も魔法の練習をしていいですか?」
ルークの幼い声に栄作は振り返り、微笑んだ。「もちろん。でも、その前に聞きたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「ルークくんはどうして魔法使いになりたいの?」
少年は少し驚いたような顔をしたが、すぐに目を輝かせて答えた。「世界一の魔法使いになって、みんなを助けたいからです!」
「素晴らしい夢だね」栄作は頷いた。「でも、どうして魔法使いなの?剣士や弓使いじゃなくて」
ルークは少し口ごもった。「それは...」
「言いにくいことなら、無理に話さなくていいよ」
「いえ、栄作さんなら分かってくれると思います」ルークは決意したように言った。「実は、僕の両親は魔法の事故で亡くなったんです」
栄作は息を呑んだ。
「父さんは町の魔法研究者で、新しい治癒魔法を開発していました。でも、実験中に暴走して...」ルークは悲しそうに目を伏せた。「だから僕は、父さんの残した研究を完成させたいんです。みんなを治せる魔法で」
栄作はルークの小さな肩に手を置いた。「立派な夢だね。きっと実現できるよ」
「栄作さんみたいに、料理で人を助ける魔法使いになりたいんです」
その言葉に栄作は心を打たれた。
「じゃあ、今日は特別な魔法料理の作り方を教えよう」栄作は立ち上がった。「魔力増幅の効果があるだけじゃなく、集中力も高める料理だ。練習にきっと役立つよ」
ルークの目が輝いた。「本当ですか?」
二人は午後いっぱい、特製の魔法使い用料理を作りながら、ルークの夢や魔法の話で盛り上がった。栄作は少年の純粋な情熱に、自分の若い頃を思い出していた。
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夕方になり、栄作が市場から戻ると、シルヴァンがギルドの前で待っていた。エルフの弓使いは普段は一人で行動することが多く、栄作と話すことも少なかった。
「シルヴァン?何かあったの?」
「少し話がある」彼は静かに言った。「森で見つけた食材を持ってきた」
栄作は興味を示した。「どんな食材?」
シルヴァンは小さな布袋を差し出した。中には見たこともない輝く葉と、小さな赤い実が入っていた。
「『月光の葉』と『知恵の実』だ。我々エルフの森では神聖な食材とされている」シルヴァンは珍しく多くの言葉で説明した。「共有したいと思った」
「なぜ私に?」栄作は素直に尋ねた。
シルヴァンはしばらく黙っていたが、やがて静かに答えた。「君は食材を尊重する。我々エルフと同じだ」
栄作は感謝の意を示した後、「味覚分析」の能力で食材を調べた。「これは素晴らしい...精神と知性に作用する成分が豊富だ」
「ああ」シルヴァンはわずかに微笑んだ。「私の民は、この実を食べることで森の声を聞く力を得ると言われている」
「森の声?」
「自然との対話だ。君の料理も、似たようなものではないか?食材との対話」
栄作は納得したように頷いた。「確かに。料理は食材の声を聞くことから始まるんだ」
二人は屋上に登り、夕焼けを眺めながら静かに会話を続けた。シルヴァンは自分のエルフの森のこと、そして人間の村との複雑な関係について話した。長い間生きてきたエルフとして、彼は多くの人間の移ろいを見てきたのだ。
「私がギルドに来たのは、人間を理解したかったからだ」シルヴァンは静かに明かした。「長い間、我々は人間を警戒してきた。しかし、共存の道を探さねばならない時代になった」
栄作はシルヴァンの言葉に深い意味を感じ取った。種族を超えた理解—それは彼の料理が目指すものでもあった。
「明日、エルフの伝統料理を一緒に作りましょう」栄作は提案した。「あなたの知識と私の技術で、新しい料理が生まれるかもしれません」
シルヴァンは珍しく笑顔を見せた。「良い提案だ。受け入れよう」
数日後、栄作は厨房で一人考え込んでいた。マグナス、ナディア、ルーク、シルヴァン—彼らそれぞれの物語を知り、彼らの心と向き合うことで、栄作の中で新しいアイデアが生まれていた。
「皆さんのための料理を作ろう」
栄作は決意を固め、新しいメニューの開発に取りかかった。
マグナスのために—「勇者の記憶」と名付けた肉料理。故郷の味を思い出させながらも、前に進む力を与える一品。
ナディアのために—「遠き家族の絆」という保存食。長い遠征でも家族の温もりを感じられるよう、特殊なスパイスと魔法ハーブを使用。
ルークのために—「夢追いの魔法スープ」。若い魔法使いの集中力と魔力を高めるだけでなく、成長を促進する栄養素を豊富に含む。
シルヴァンのために—「森の調和サラダ」。エルフの伝統食材と人間の食材を融合させ、種族間の理解を象徴する一品。
そして、ギルドのメンバー全員のために—「絆のフェスティバル料理」。
それぞれの冒険者の特性を引き出しながら、チームとしての絆を強化する特別なコース料理。
調理を終えた栄作は、彼らを食堂に集めた。
「皆さん、今日は特別な料理を用意しました。それぞれのために考えた一品です」
冒険者たちは栄作の言葉に驚きながらも、その料理に目を輝かせた。
「これは...俺の故郷の味がする...でも、なぜか未来への希望も感じる...」マグナスは感動して言った。
「信じられない。家族のことを考えると、この料理の味がさらに深まるわ」ナディアも目を潤ませた。
ルークは一口食べた瞬間、杖から小さな光の花が咲いた。「すごい!魔力がみなぎってくる!」
シルヴァンさえも珍しく感情を表に出し、「自然との調和を感じる...素晴らしい」と言った。
セイジギルドマスターが栄作に近づいてきた。「君は単なる料理人ではない。心を繋ぐ者だ」
栄作は頭を下げた。「いいえ、ただの料理人です。でも、この世界で大切なことを学びました。料理は単なる栄養補給ではなく、人と人を繋ぐもの。冒険者の皆さんから、それを教えてもらいました」
その夜、ギルドの食堂は笑顔と会話で溢れた。種族も背景も異なる冒険者たちが、一つのテーブルを囲み、栄作の料理を通して互いを理解し始めていた。
栄作は厨房から、彼らの姿を見つめていた。かつての孤独な高級レストランの料理長とは違い、今の自分は多くの絆に囲まれている。異世界に来て見つけた、本当の「料理の力」—それは人々の心を繋ぐ力だった。
明日からも、彼らの物語に寄り添う料理を作り続けよう。栄作はそう心に誓いながら、新たなレシピのアイデアを頭の中で膨らませていた。
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