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第二部:料理と冒険の日々
第9章:伝説の予言
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アーケイディアに戻った栄作を、ギルドのメンバーたちは英雄のように迎えた。
「栄作!どうだった?王様はどんな人だった?」マグナスが真っ先に駆け寄り、大声で質問を浴びせた。
「王宮の料理はさぞ豪華だったでしょうね」ナディアも微笑みながら言った。
栄作は苦笑いしながら荷物を下ろした。「みんな、ただいま。色々あったよ...」
ギルドの食堂に集まったメンバーたちを前に、栄作は王都での出来事を語った。壮麗な王宮の様子、緊張した晩餐会、そして料理を通じた外交の成功について。
「すごい!栄作さんの料理で国同士が仲良くなるなんて!」ルークは目を輝かせていた。
「さすがだな」シルヴァンも珍しく感心した様子で言った。
セイジギルドマスターが栄作の肩を叩いた。「よくやった。我がギルドの名を高めてくれたな」
「それより、これを見てください」栄作は王からの贈り物である古書を取り出した。「王様から頂いた古代料理の書物です」
古びた革表紙の本を開くと、黄ばんだページに古代文字と図解が描かれていた。
「おお、これは貴重なものだ」セイジは眼鏡越しに本を覗き込んだ。「古代アストラル語で書かれている。読めるのは学者くらいだろう」
「それより、栄作」マグナスが不意に真面目な顔になった。「本当に王宮料理長のオファーを断ったのか?」
部屋が静かになった。全員が栄作の返事を待っている。
栄作は静かに頷いた。「ええ。断りました」
「どうして?」ナディアが尋ねた。「あんな素晴らしい地位を...」
栄作は彼らの顔を見回し、微笑んだ。「だって、ここが僕の居場所だから。皆さんと一緒に料理を作り、冒険を支えることが、今の僕の使命だと感じているんです」
ギルドメンバーたちから歓声が上がり、マグナスは感極まった様子で栄作を抱きしめた。「よくぞ戻ってきてくれた!」
「それに」栄作は付け加えた。「王宮料理長のアンリさんから、気になる話を聞いたんです。『料理で世界を救う者』についての古い予言があるそうで...」
「料理で世界を救う?」セイジが眉を寄せた。「初めて聞く予言だな」
「詳しくは王都の古文書館にあるらしいのですが」栄作は説明した。
セイジは思案顔で顎髭をなでた。「実は、ここアーケイディアにも小さな古文書館がある。明日、一緒に調べてみよう」
---
翌日、栄作はセイジに導かれ、アーケイディアの北区にある古い石造りの建物を訪れた。「古文書館」と刻まれた簡素な看板が掛かっている。
「あまり人は来ないが、貴重な資料が保管されている場所だ」セイジは栄作を中に案内した。
内部は薄暗く、本棚が迷路のように並んでいた。埃の匂いと古い紙の香りが漂う。
「おーい、ヘルミナ!客人だぞ!」セイジが声を上げると、本棚の間から小柄な老婆が姿を現した。
「うるさいわねぇ、セイジ」彼女は眼鏡を直しながら近づいてきた。「何年ぶりかしら、ここに来るなんて」
「こちらは椎名栄作、我がギルドの料理魔法師だ」セイジは栄作を紹介した。「栄作、こちらはヘルミナ・ワイズ。アーケイディア古文書館の管理人で、古代言語の専門家だ」
「初めまして」栄作は丁寧に頭を下げた。
ヘルミナは栄作を上から下まで観察し、「あぁ、あなたが噂の料理魔法師ね。何を調べに来たの?」と尋ねた。
「『料理で世界を救う者』についての予言について知りたいのです」栄作は率直に答えた。
ヘルミナの目が急に輝いた。「まさか...その予言に興味があるの?」
セイジも驚いた様子で言った。「知っているのか、ヘルミナ?」
「もちろんよ」彼女は嬉しそうに言った。「古代の予言の中でも特に謎めいたものの一つ。ついてきなさい」
彼女は二人を奥の特別保管室へと案内した。鍵を開け、中から古びた巻物を取り出す。
「これが『五大食材の予言』と呼ばれる古文書よ」ヘルミナは恭しく巻物を広げた。「約千年前に記された予言と言われているわ」
栄作とセイジは身を乗り出して巻物を覗き込んだ。そこには古代文字と共に、五つの食材と思われる絵が描かれていた。
「何と書いてあるんですか?」栄作は尋ねた。
ヘルミナは眼鏡を直し、古代文字を読み始めた。
「大いなる闇が世界を脅かす時、料理の力を持つ者が現れる。異界より来たる者、その手にかかれば食材は魂を持ち、人々に力を与える。五大食材を集め、究極の一皿を作り上げた時、世界は救われるだろう」
栄作は息を呑んだ。「異界より来たる者...」
セイジが鋭い目で栄作を見た。「栄作、君は確か、別の世界から来たと言っていたな?」
「ええ...」栄作は動揺を隠せなかった。「日本という国から」
ヘルミナは続けて読んだ。「五大食材、すなわち深淵の炎竜の心臓、月光の果実、深海の真珠貝、風の果実、そして神々の涙。これらを集め、真の料理魔法師の手によって調理されるとき、世界を脅かす闇は消え去る」
「五大食材...」栄作はつぶやいた。
「興味深いのは」ヘルミナは巻物から顔を上げた。「この予言が出てきたのは、まさに今。数ヶ月前から各地で不穏な事件が起き始めているわ。人々が突然狂暴化したり、作物が枯れたり...」
「そういえば」セイジが思い出したように言った。「北方から来た冒険者が、奇妙な現象について報告していたな。何でも、食べ物に関する異変だと...」
栄作は巻物に描かれた五大食材の絵を見つめていた。「これらの食材を集めれば...」
「待ちなさい」ヘルミナは手を上げた。「これらの食材は普通に手に入るものではないわ。例えば、深淵の炎竜は火山の中心に棲む伝説の竜。月光の果実は特定の満月の夜にしか実を結ばないと言われている」
「危険な旅になるな」セイジは眉をひそめた。
「でも、調べる価値はあります」栄作は決意を固めた。「この予言が本当なら、私にできることがあるかもしれない」
ヘルミナは別の書物を取り出した。「この本には、第一の食材『深淵の炎竜の心臓』についての記述があるわ。南方の火山地帯『灼熱の迷宮』に炎竜が棲むとされている」
セイジが栄作の肩に手を置いた。「慎重に行動するんだ。まずはマグナスたちと相談したほうがいい」
栄作は頷いた。「ありがとうございます。この資料をしっかり研究して、準備します」
---
その晩、ギルドの一室で栄作はマグナス、ナディア、ルーク、シルヴァンに古文書館で知ったことを説明した。
「料理で世界を救う予言だって?」マグナスは半信半疑の表情だった。
「五大食材...」ナディアは思案顔で地図を見ていた。「灼熱の迷宮は、南方の火山帯にあります。そこは最難関のダンジョンとして知られています」
ルークは興奮した様子で言った。「すごい!栄作さんが伝説の予言の主人公なんだ!」
シルヴァンは冷静に言った。「その予言が本物かどうかを確かめる必要がある。しかし、世界に異変が起きているのは事実だ」
「どうする、栄作?」マグナスが尋ねた。「本当に五大食材を探しに行くのか?」
栄作は決意を固めた様子で答えた。「行きます。もし私にできることがあるなら、やるべきです。でも...」
「でも?」ナディアが促した。
「危険な旅になると思います。皆さんを巻き込むわけには...」
「なんだと?」マグナスが大きな声で遮った。「当然、俺たちも行くぞ!」
「そうよ」ナディアも頷いた。「あなたは料理で私たちを支えてくれた。今度は私たちがあなたを守る番よ」
「僕も行きます!」ルークは杖を握りしめた。「魔法で役に立ちます!」
シルヴァンも静かに頷いた。「私も同行しよう。森の知識が役立つかもしれない」
栄作は感動して言葉を失った。この異世界で出会った仲間たち。彼らとの絆は、前世では経験したことのないものだった。
「みんな...ありがとう」栄作は涙をこらえながら言った。
セイジが部屋に入ってきた。「決まったようだな。私からも情報を提供しよう。灼熱の迷宮へは、最高級の冒険者チームでも苦戦する。しっかり準備が必要だ」
「まずは情報収集です」栄作は言った。「炎竜についてもっと知る必要があります」
「それなら」セイジは言った。「西方から来た冒険者がいる。彼は昔、炎竜と対峙したことがあると聞く。明日、紹介しよう」
---
翌日、栄作たちは西方の冒険者「ファイアブレイカー」の異名を持つガロンと会った。片腕を失った老冒険者は、炎竜との戦いの傷跡を今も背負っていた。
「若造どもが炎竜に挑むというのか」ガロンは鋭い目で一同を見た。「命知らずもいいところだ」
「どうか教えてください」栄作は真摯に頭を下げた。「炎竜について、そして灼熱の迷宮について」
ガロンはしばらく栄作を観察し、やがて重い口を開いた。「いいだろう。だが警告しておく。炎竜は普通の魔物ではない。古代から生きる知性を持った存在だ」
彼は自身の経験を語り始めた。二十年前、若き日のガロンは仲間たちと共に灼熱の迷宮に挑んだ。迷宮の複雑な構造、高温の環境、そして様々な火属性の魔物たち。そして最深部での炎竜との遭遇。
「奴の炎は鋼鉄をも溶かす。魔法防御もほとんど効かない」ガロンは切断された左腕の痕を撫でた。「仲間の多くを失い、私もこの腕を犠牲にした」
「どうして挑んだんですか?」栄作は静かに尋ねた。
「宝を求めてさ」ガロンは苦笑した。「若さゆえの愚かさだった」
「炎竜の弱点は?」シルヴァンが実践的な質問をした。
「奴の心臓だ」ガロンは答えた。「胸の中央、鱗が薄くなっている場所がある。だが、そこを狙うには奴の炎の嵐をくぐり抜けねばならん」
マグナスが身を乗り出した。「迷宮への入り方は?」
「南方の火山帯、『燃える山脈』の中心にある」ガロンは説明した。「入口は見つけやすい。問題はその先だ。迷宮は常に変化していると言われている」
栄作は考え込んだ。「炎竜に対抗するには、特別な準備が必要ですね」
「普通の装備では溶けてしまう」ガロンは警告した。「特殊な耐熱素材が必要だ」
「それと」ガロンは栄作をじっと見た。「お前が本当に料理魔法師なら、一つアドバイスがある。炎竜は火山の熱と炎を食べて生きている。その性質を理解すれば、対抗する料理が作れるかもしれん」
栄作は目を輝かせた。「なるほど...火に対しては水や氷...」
「単純ではない」ガロンは首を振った。「炎竜は単なる火ではなく、魔力の炎だ。対抗するには同等の魔力が必要だ」
話し合いの後、一行は準備のリストを作成した。特殊な耐熱装備、魔力の高い食材、そして迷宮の地図作成のための道具。全てを揃えるには時間と資金が必要だった。
「一ヶ月後を目標に」セイジは提案した。「その間に必要なものを集め、栄作には特別な料理の研究をしてもらおう」
全員が同意し、準備が始まった。栄作は厨房に籠もり、炎に対抗する料理の研究に没頭した。氷結草、水晶魚、青の鉱石など、冷却効果のある素材を集め、様々な組み合わせを試した。
ナディアとシルヴァンは特殊装備の調達に向かい、マグナスとルークは他の冒険者から情報を集めた。
準備期間中、栄作は古代料理の書物を再び読み返していた。するとある記述に目が留まった。
「"深淵の炎を制するには、同じ炎で対抗せよ"...?」
栄作は考え込んだ。火で火と戦う—直感に反する方法だが、何か真理があるように感じた。
夜遅く、栄作はギルドの屋上で星を見上げていた。この世界に来て半年以上が経つ。最初は戸惑いばかりだったが、今は使命感すら感じていた。
「眠れないのですか?」
振り返ると、シルヴァンが静かに立っていた。
「ええ、色々と考えていて」栄作は星空を見上げながら答えた。
「予言のことですか?」
「はい...もし本当なら、私がこの世界に来たのは偶然ではないのかもしれません」
シルヴァンは静かに栄作の隣に立った。「我々エルフには古い言い伝えがあります。"星の導きは決して偶然ではない"と」
「シルヴァンさんは、予言を信じますか?」
「私は事実を見る」シルヴァンは答えた。「あなたは異世界から来た。あなたの料理には確かに特別な力がある。そして今、世界に異変が起きている。これらは事実です」
「理屈では分かっているんです」栄作は胸に手を当てた。「でも、私に本当にできるのかという不安も...」
「不安は自然なことです」シルヴァンは珍しく優しい声で言った。「しかし、あなたは一人ではない。私たちがいる」
栄作は微笑んだ。「ありがとう、シルヴァンさん」
二人は静かに星空を見上げた。明日からの準備はさらに本格化する。伝説の食材を求めての旅—それは栄作にとって、この異世界での最大の挑戦になるだろう。
「さあ、休みましょう」シルヴァンが言った。「明日からの日々は長くなりそうです」
栄作は頷き、決意を新たにしながら部屋へと戻った。料理で世界を救う—その予言が本当なら、彼は全力でそれに応えようと思った。
「栄作!どうだった?王様はどんな人だった?」マグナスが真っ先に駆け寄り、大声で質問を浴びせた。
「王宮の料理はさぞ豪華だったでしょうね」ナディアも微笑みながら言った。
栄作は苦笑いしながら荷物を下ろした。「みんな、ただいま。色々あったよ...」
ギルドの食堂に集まったメンバーたちを前に、栄作は王都での出来事を語った。壮麗な王宮の様子、緊張した晩餐会、そして料理を通じた外交の成功について。
「すごい!栄作さんの料理で国同士が仲良くなるなんて!」ルークは目を輝かせていた。
「さすがだな」シルヴァンも珍しく感心した様子で言った。
セイジギルドマスターが栄作の肩を叩いた。「よくやった。我がギルドの名を高めてくれたな」
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古びた革表紙の本を開くと、黄ばんだページに古代文字と図解が描かれていた。
「おお、これは貴重なものだ」セイジは眼鏡越しに本を覗き込んだ。「古代アストラル語で書かれている。読めるのは学者くらいだろう」
「それより、栄作」マグナスが不意に真面目な顔になった。「本当に王宮料理長のオファーを断ったのか?」
部屋が静かになった。全員が栄作の返事を待っている。
栄作は静かに頷いた。「ええ。断りました」
「どうして?」ナディアが尋ねた。「あんな素晴らしい地位を...」
栄作は彼らの顔を見回し、微笑んだ。「だって、ここが僕の居場所だから。皆さんと一緒に料理を作り、冒険を支えることが、今の僕の使命だと感じているんです」
ギルドメンバーたちから歓声が上がり、マグナスは感極まった様子で栄作を抱きしめた。「よくぞ戻ってきてくれた!」
「それに」栄作は付け加えた。「王宮料理長のアンリさんから、気になる話を聞いたんです。『料理で世界を救う者』についての古い予言があるそうで...」
「料理で世界を救う?」セイジが眉を寄せた。「初めて聞く予言だな」
「詳しくは王都の古文書館にあるらしいのですが」栄作は説明した。
セイジは思案顔で顎髭をなでた。「実は、ここアーケイディアにも小さな古文書館がある。明日、一緒に調べてみよう」
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翌日、栄作はセイジに導かれ、アーケイディアの北区にある古い石造りの建物を訪れた。「古文書館」と刻まれた簡素な看板が掛かっている。
「あまり人は来ないが、貴重な資料が保管されている場所だ」セイジは栄作を中に案内した。
内部は薄暗く、本棚が迷路のように並んでいた。埃の匂いと古い紙の香りが漂う。
「おーい、ヘルミナ!客人だぞ!」セイジが声を上げると、本棚の間から小柄な老婆が姿を現した。
「うるさいわねぇ、セイジ」彼女は眼鏡を直しながら近づいてきた。「何年ぶりかしら、ここに来るなんて」
「こちらは椎名栄作、我がギルドの料理魔法師だ」セイジは栄作を紹介した。「栄作、こちらはヘルミナ・ワイズ。アーケイディア古文書館の管理人で、古代言語の専門家だ」
「初めまして」栄作は丁寧に頭を下げた。
ヘルミナは栄作を上から下まで観察し、「あぁ、あなたが噂の料理魔法師ね。何を調べに来たの?」と尋ねた。
「『料理で世界を救う者』についての予言について知りたいのです」栄作は率直に答えた。
ヘルミナの目が急に輝いた。「まさか...その予言に興味があるの?」
セイジも驚いた様子で言った。「知っているのか、ヘルミナ?」
「もちろんよ」彼女は嬉しそうに言った。「古代の予言の中でも特に謎めいたものの一つ。ついてきなさい」
彼女は二人を奥の特別保管室へと案内した。鍵を開け、中から古びた巻物を取り出す。
「これが『五大食材の予言』と呼ばれる古文書よ」ヘルミナは恭しく巻物を広げた。「約千年前に記された予言と言われているわ」
栄作とセイジは身を乗り出して巻物を覗き込んだ。そこには古代文字と共に、五つの食材と思われる絵が描かれていた。
「何と書いてあるんですか?」栄作は尋ねた。
ヘルミナは眼鏡を直し、古代文字を読み始めた。
「大いなる闇が世界を脅かす時、料理の力を持つ者が現れる。異界より来たる者、その手にかかれば食材は魂を持ち、人々に力を与える。五大食材を集め、究極の一皿を作り上げた時、世界は救われるだろう」
栄作は息を呑んだ。「異界より来たる者...」
セイジが鋭い目で栄作を見た。「栄作、君は確か、別の世界から来たと言っていたな?」
「ええ...」栄作は動揺を隠せなかった。「日本という国から」
ヘルミナは続けて読んだ。「五大食材、すなわち深淵の炎竜の心臓、月光の果実、深海の真珠貝、風の果実、そして神々の涙。これらを集め、真の料理魔法師の手によって調理されるとき、世界を脅かす闇は消え去る」
「五大食材...」栄作はつぶやいた。
「興味深いのは」ヘルミナは巻物から顔を上げた。「この予言が出てきたのは、まさに今。数ヶ月前から各地で不穏な事件が起き始めているわ。人々が突然狂暴化したり、作物が枯れたり...」
「そういえば」セイジが思い出したように言った。「北方から来た冒険者が、奇妙な現象について報告していたな。何でも、食べ物に関する異変だと...」
栄作は巻物に描かれた五大食材の絵を見つめていた。「これらの食材を集めれば...」
「待ちなさい」ヘルミナは手を上げた。「これらの食材は普通に手に入るものではないわ。例えば、深淵の炎竜は火山の中心に棲む伝説の竜。月光の果実は特定の満月の夜にしか実を結ばないと言われている」
「危険な旅になるな」セイジは眉をひそめた。
「でも、調べる価値はあります」栄作は決意を固めた。「この予言が本当なら、私にできることがあるかもしれない」
ヘルミナは別の書物を取り出した。「この本には、第一の食材『深淵の炎竜の心臓』についての記述があるわ。南方の火山地帯『灼熱の迷宮』に炎竜が棲むとされている」
セイジが栄作の肩に手を置いた。「慎重に行動するんだ。まずはマグナスたちと相談したほうがいい」
栄作は頷いた。「ありがとうございます。この資料をしっかり研究して、準備します」
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その晩、ギルドの一室で栄作はマグナス、ナディア、ルーク、シルヴァンに古文書館で知ったことを説明した。
「料理で世界を救う予言だって?」マグナスは半信半疑の表情だった。
「五大食材...」ナディアは思案顔で地図を見ていた。「灼熱の迷宮は、南方の火山帯にあります。そこは最難関のダンジョンとして知られています」
ルークは興奮した様子で言った。「すごい!栄作さんが伝説の予言の主人公なんだ!」
シルヴァンは冷静に言った。「その予言が本物かどうかを確かめる必要がある。しかし、世界に異変が起きているのは事実だ」
「どうする、栄作?」マグナスが尋ねた。「本当に五大食材を探しに行くのか?」
栄作は決意を固めた様子で答えた。「行きます。もし私にできることがあるなら、やるべきです。でも...」
「でも?」ナディアが促した。
「危険な旅になると思います。皆さんを巻き込むわけには...」
「なんだと?」マグナスが大きな声で遮った。「当然、俺たちも行くぞ!」
「そうよ」ナディアも頷いた。「あなたは料理で私たちを支えてくれた。今度は私たちがあなたを守る番よ」
「僕も行きます!」ルークは杖を握りしめた。「魔法で役に立ちます!」
シルヴァンも静かに頷いた。「私も同行しよう。森の知識が役立つかもしれない」
栄作は感動して言葉を失った。この異世界で出会った仲間たち。彼らとの絆は、前世では経験したことのないものだった。
「みんな...ありがとう」栄作は涙をこらえながら言った。
セイジが部屋に入ってきた。「決まったようだな。私からも情報を提供しよう。灼熱の迷宮へは、最高級の冒険者チームでも苦戦する。しっかり準備が必要だ」
「まずは情報収集です」栄作は言った。「炎竜についてもっと知る必要があります」
「それなら」セイジは言った。「西方から来た冒険者がいる。彼は昔、炎竜と対峙したことがあると聞く。明日、紹介しよう」
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翌日、栄作たちは西方の冒険者「ファイアブレイカー」の異名を持つガロンと会った。片腕を失った老冒険者は、炎竜との戦いの傷跡を今も背負っていた。
「若造どもが炎竜に挑むというのか」ガロンは鋭い目で一同を見た。「命知らずもいいところだ」
「どうか教えてください」栄作は真摯に頭を下げた。「炎竜について、そして灼熱の迷宮について」
ガロンはしばらく栄作を観察し、やがて重い口を開いた。「いいだろう。だが警告しておく。炎竜は普通の魔物ではない。古代から生きる知性を持った存在だ」
彼は自身の経験を語り始めた。二十年前、若き日のガロンは仲間たちと共に灼熱の迷宮に挑んだ。迷宮の複雑な構造、高温の環境、そして様々な火属性の魔物たち。そして最深部での炎竜との遭遇。
「奴の炎は鋼鉄をも溶かす。魔法防御もほとんど効かない」ガロンは切断された左腕の痕を撫でた。「仲間の多くを失い、私もこの腕を犠牲にした」
「どうして挑んだんですか?」栄作は静かに尋ねた。
「宝を求めてさ」ガロンは苦笑した。「若さゆえの愚かさだった」
「炎竜の弱点は?」シルヴァンが実践的な質問をした。
「奴の心臓だ」ガロンは答えた。「胸の中央、鱗が薄くなっている場所がある。だが、そこを狙うには奴の炎の嵐をくぐり抜けねばならん」
マグナスが身を乗り出した。「迷宮への入り方は?」
「南方の火山帯、『燃える山脈』の中心にある」ガロンは説明した。「入口は見つけやすい。問題はその先だ。迷宮は常に変化していると言われている」
栄作は考え込んだ。「炎竜に対抗するには、特別な準備が必要ですね」
「普通の装備では溶けてしまう」ガロンは警告した。「特殊な耐熱素材が必要だ」
「それと」ガロンは栄作をじっと見た。「お前が本当に料理魔法師なら、一つアドバイスがある。炎竜は火山の熱と炎を食べて生きている。その性質を理解すれば、対抗する料理が作れるかもしれん」
栄作は目を輝かせた。「なるほど...火に対しては水や氷...」
「単純ではない」ガロンは首を振った。「炎竜は単なる火ではなく、魔力の炎だ。対抗するには同等の魔力が必要だ」
話し合いの後、一行は準備のリストを作成した。特殊な耐熱装備、魔力の高い食材、そして迷宮の地図作成のための道具。全てを揃えるには時間と資金が必要だった。
「一ヶ月後を目標に」セイジは提案した。「その間に必要なものを集め、栄作には特別な料理の研究をしてもらおう」
全員が同意し、準備が始まった。栄作は厨房に籠もり、炎に対抗する料理の研究に没頭した。氷結草、水晶魚、青の鉱石など、冷却効果のある素材を集め、様々な組み合わせを試した。
ナディアとシルヴァンは特殊装備の調達に向かい、マグナスとルークは他の冒険者から情報を集めた。
準備期間中、栄作は古代料理の書物を再び読み返していた。するとある記述に目が留まった。
「"深淵の炎を制するには、同じ炎で対抗せよ"...?」
栄作は考え込んだ。火で火と戦う—直感に反する方法だが、何か真理があるように感じた。
夜遅く、栄作はギルドの屋上で星を見上げていた。この世界に来て半年以上が経つ。最初は戸惑いばかりだったが、今は使命感すら感じていた。
「眠れないのですか?」
振り返ると、シルヴァンが静かに立っていた。
「ええ、色々と考えていて」栄作は星空を見上げながら答えた。
「予言のことですか?」
「はい...もし本当なら、私がこの世界に来たのは偶然ではないのかもしれません」
シルヴァンは静かに栄作の隣に立った。「我々エルフには古い言い伝えがあります。"星の導きは決して偶然ではない"と」
「シルヴァンさんは、予言を信じますか?」
「私は事実を見る」シルヴァンは答えた。「あなたは異世界から来た。あなたの料理には確かに特別な力がある。そして今、世界に異変が起きている。これらは事実です」
「理屈では分かっているんです」栄作は胸に手を当てた。「でも、私に本当にできるのかという不安も...」
「不安は自然なことです」シルヴァンは珍しく優しい声で言った。「しかし、あなたは一人ではない。私たちがいる」
栄作は微笑んだ。「ありがとう、シルヴァンさん」
二人は静かに星空を見上げた。明日からの準備はさらに本格化する。伝説の食材を求めての旅—それは栄作にとって、この異世界での最大の挑戦になるだろう。
「さあ、休みましょう」シルヴァンが言った。「明日からの日々は長くなりそうです」
栄作は頷き、決意を新たにしながら部屋へと戻った。料理で世界を救う—その予言が本当なら、彼は全力でそれに応えようと思った。
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