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第三部:死食のカルト
第14章:反撃の準備
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アーケイディアに戻った栄作たちを、セイジギルドマスターは重い表情で迎えた。
「良くぞ無事に戻った」セイジはまず安堵の言葉をかけたが、すぐに続けた。「だが、状況は悪化している。お前たちが旅の間に、カルトの活動がさらに活発になった」
栄作は月光の果実の入った容器を大事に抱えながら、「どういうことですか?」と尋ねた。
セイジは彼らをギルドの会議室に案内した。そこには地図が広げられ、各地に赤い印が付けられていた。
「これらの地点で、カルトによる事件が報告されている」セイジは地図を指さした。「村や町が次々と影響を受け、住民が行方不明になっている」
「前よりも組織的になっているわね」ナディアは地図をじっと見つめた。「彼らは何か計画を進めているのかもしれない」
セイジは重々しく頷いた。「そして最悪のニュースだ。お前たちが旅立った数日後、カルト信者たちがギルドを襲撃した」
「何だって?」マグナスが驚きの声を上げた。「被害は?」
「幸い、死者は出なかった」セイジは答えたが、その表情には暗い影があった。「だが、多くの冒険者が負傷し、私も...」
彼は服をめくり、胸に広がる黒い傷痕を見せた。皮膚に黒い筋が走り、傷の周りは不自然な色をしていた。
「これは...」栄作は息を呑んだ。「死食の影響?」
「ああ」セイジは苦しそうに頷いた。「彼らの使う『黒い刃』による傷だ。通常の治療法では完全には癒えない」
栄作はすぐに決意を固めた。「治療食を作ります。月光の果実には再生の力があります」
「だが、用心したほうがいい」シルヴァンが警告した。「カルトはお前たちの帰還を知っているはずだ。再び襲撃してくる可能性が高い」
セイジは同意した。「防衛策を強化している。だが、彼らの目的は明らかにお前たちと五大食材だ」
会議の後、栄作はすぐに厨房へと向かった。月光の果実の一部を使って、セイジのための特別な治療食を準備する必要があった。
厨房に入ると、そこはいつもと違って静かだった。通常なら賑やかなギルドの食堂も、襲撃の影響でまだ完全には回復していないようだった。
「栄作さん、おかえりなさい!」
エリーが駆け寄ってきた。若い給仕の少女は無事だったようだが、目には疲れの色が見えた。
「エリー、無事で良かった」栄作は安堵の表情を見せた。「襲撃の時、どうだった?」
エリーは震える声で当時の状況を説明し始めた。夜中、突然黒い服を着た男たちが現れ、ギルドに侵入してきたという。彼らは「料理人を出せ」と叫びながら、抵抗する冒険者たちを次々と倒していった。
「セイジさんが私たちを守ってくれました」エリーの目に涙が浮かんだ。「彼が立ちはだからなければ、もっと大勢が犠牲になっていたと思います」
栄作は拳を握りしめた。仲間たちが自分のために傷ついたと思うと、胸が痛んだ。
「もう二度とこんなことが起きないようにする」栄作は静かに、しかし力強く宣言した。「私の料理で全員を守る」
彼はすぐに月光の果実を使った「再生の汁物」の準備を始めた。果実の小さな欠片を特殊な方法で調理し、その力を最大限に引き出す。エオラから教わった精霊族の調理法を取り入れながら、栄作は心を込めて料理を作った。
完成した汁物は淡い青白い光を放ち、月の香りがほのかに漂っていた。栄作はそれをセイジの部屋へと運んだ。
「セイジさん、治療食が出来ました」栄作は部屋に入った。
セイジはベッドに横たわっており、顔色は悪かった。傷の黒い筋は徐々に広がりつつあるようだった。
「栄作...」セイジは弱々しく微笑んだ。「気を遣わせてすまない」
「いいえ、これは私の責任です」栄作は汁物をセイジに差し出した。「どうぞ、これを飲んでください」
セイジは汁物を一口飲むと、驚いた表情を見せた。「これは...体の中から温かくなる」
「月光の果実の力です」栄作は説明した。「精霊族の癒しの技術と組み合わせました」
セイジは少しずつ汁物を飲み進めた。飲み終わる頃には、顔色が良くなり、胸の黒い筋も薄くなっていた。
「驚くべき効果だ...」セイジは胸に手を当てた。「痛みが和らいでいる」
「完全に治るには時間がかかると思います」栄作は言った。「毎日これを飲んでください」
部屋を出ると、ナディアが待っていた。「セイジの様子は?」
「良くなりつつあります」栄作は答えた。「月光の果実の力は本物です」
ナディアは少し迷った後、「他の負傷者にも同じ治療食を作れる?」と尋ねた。
「はい、もちろん」栄作は頷いた。「でも果実の使用は慎重にしなければなりません。エオラの警告通り、使いすぎると枯れてしまいます」
彼らは厨房に戻り、負傷した冒険者たちのための治療食を用意し始めた。マグナスとルークも手伝いに加わり、皆で協力して大量の料理を作った。
その夕方、栄作は特別な「浄化の晩餐」をギルド全体に振る舞った。月光の果実のごく微量の成分を使い、全ての料理に浄化と強化の効果を込めた。
「この料理には、カルトの影響から身を守る効果があります」栄作は説明した。「そして、次の襲撃に備えて、皆さんの力を高める効果も」
冒険者たちは感謝の言葉を述べながら料理を口にした。特に負傷していた者たちは、食べるにつれ目に見えて元気を取り戻していった。
晩餐の後、栄作たちは再び会議室に集まり、今後の方針を話し合った。
「まず、ギルドの防衛を強化する必要があります」栄作は提案した。「カルトが再び襲撃してくる可能性が高い」
マグナスが頷いた。「俺たちが守る。だが同時に、第三の食材を探す旅も続けなければならない」
「分かれるべきではないわ」ナディアは懸念を示した。「一緒に行動するほうが安全よ」
シルヴァンが静かに言った。「しかし、ここを無防備にしておくこともできない」
議論の末、彼らは二手に分かれることを決めた。マグナスとナディアはアーケイディアに残り、ギルドの防衛を強化する。栄作、シルヴァン、ルークは南の海洋都市アクアポリスへ向かい、第三の食材「深海の真珠貝」を探す。
「心配しないで」マグナスは栄作の肩を叩いた。「ここはしっかり守る。お前は第三の食材を見つけることに集中しろ」
翌朝、栄作は旅の準備をしながら、突然ひらめいた。「待ってください。私には良い考えがあります」
「何だ?」シルヴァンが尋ねた。
「カルトの襲撃に備えて、特別な防衛料理を用意します」栄作は説明した。「ギルド全体を守る料理です」
彼はすぐに厨房へと向かい、新しいレシピの開発に取りかかった。深淵の炎竜の心臓と月光の果実の力を組み合わせ、長期間効果が持続する「守りの料理」を作るのだ。
三日間の研究と実験の末、栄作は「防衛の結界スープ」を完成させた。このスープを飲んだ者は、体内に防御の力が宿り、カルトの死食の影響を受けにくくなる。さらに、スープの一部を特殊な方法で濃縮し、ギルドの周囲に撒くことで、結界のような効果を生み出すことができた。
「これで少しは安心できます」栄作はマグナスとナディアに説明した。「でも、完全ではありません。注意を怠らないでください」
出発の日、栄作は最後の防衛準備をチェックした。ギルドの周囲には「防衛の結界」が張られ、冒険者たちには全員「守りの料理」が提供されていた。セイジも回復しつつあり、ベッドから起き上がれるようになっていた。
「栄作」セイジが彼を呼び止めた。「南の海は危険だ。特に深海の区域は未知の魔物が多い」
「気をつけます」栄作は頷いた。
「それと、これを持って行け」セイジは小さな巻物を渡した。「アクアポリスの長老、オーシャン・セイジへの紹介状だ。彼女は深海について多くを知っている」
栄作は感謝し、巻物を大切にしまった。
「栄作さん、出発の準備ができました」ルークが声をかけてきた。若い魔法使いの目は冒険への期待で輝いていた。
「わかった、行こう」栄作は頷いた。
ギルドの門で、マグナスとナディアが彼らを見送った。
「気をつけろよ」マグナスは栄作の背中を叩いた。「そして、早く戻ってこい」
「あなたたちこそ、危険な目に遭わないで」栄作は真剣な表情で言った。「ギルドを頼みます」
ナディアは小さな護符を三人に渡した。「これは私の故郷の守護のお守り。旅の安全のために」
感謝の言葉を交わし、栄作たちは南への旅路に就いた。彼らの背後では、アーケイディアの冒険者ギルドが朝日に照らされて輝いていた。
---
南への旅は、二週間ほどかかった。途中、彼らはいくつかの町や村を通過したが、中にはカルトの影響を受けた跡があるところもあった。荒れ果てた畑、廃墟となった家々、そして黒く焦げた跡—それらは全て死食のカルトの足跡だった。
シルヴァンはその都度、慎重に調査を行った。「彼らは南へ向かっているようだ。我々と同じ目的地を目指している可能性が高い」
栄作は通過する村々で、「守りの料理」の作り方を教え、カルトへの対抗策を伝授した。彼の料理を食べた村人たちは少しずつ勇気を取り戻し、自分たちの村を守る決意を固めていった。
旅の十二日目、彼らは遂に海が見える高台に到達した。
「海だ!」ルークは興奮して叫んだ。
栄作も息を呑んだ。果てしなく広がる青い海—彼は異世界に来てから初めて海を目にしたのだ。「美しい...」
シルヴァンは地図を確認した。「あそこがアクアポリスだ」
彼が指し示す方向には、海に突き出た巨大な半島があり、そこに建つ白い建物群が太陽の光を反射して輝いていた。街全体が階段状になっており、最上部には大きな神殿のような建物が見えた。
「海の都アクアポリス...」栄作はつぶやいた。
彼らは急ぎ足で坂道を下り、海沿いの道を進んだ。道は徐々に賑やかになり、旅人や商人たちとすれ違うようになった。
アクアポリスの門に到着すると、彼らはすぐに都市の独特の雰囲気に圧倒された。建物は全て白い石と青い装飾で作られ、通りには水路が走っていた。人々は明るい色の衣服を身につけ、多くは首や腕に貝殻や珊瑚のアクセサリーを付けていた。
「異国の旅人か?」門の守衛が声をかけてきた。
「はい」栄作は丁寧に答えた。「アーケイディアから来ました。オーシャン・セイジに会いたいのですが」
守衛は驚いた表情を見せた。「オーシャン・セイジは簡単に会えるものではない。証明書か紹介状がなければ」
栄作はセイジから預かった巻物を見せた。守衛はそれを確認し、敬意を込めて頭を下げた。
「申し訳ありません。どうぞお通りください。オーシャン・セイジは海の神殿におられます。案内人をつけましょう」
若い女性が彼らの案内役として付き添い、アクアポリスの通りを進んだ。栄作は街の様子を興味深く観察した。至る所に水と関連した装飾があり、噴水や水路が街中に張り巡らされていた。市場では見たこともない海の食材が売られており、栄作は思わず足を止めて見入った。
「これは何ですか?」栄作は青く光る魚を指さした。
「深海ランタンフィッシュよ」案内人が答えた。「深海で光を放って生きている魚。料理すると、食べた人の体内から光を放つの」
栄作は魅了された。「後で戻ってきたいです」
彼らは階段を上り、最終的に街の最上部にある巨大な神殿に到達した。神殿は巨大な貝殻の形をしており、周囲には水が流れ落ちる噴水があった。
「ここがオーシャン・セイジの住まいです」案内人は説明した。「中に入る前に、浄化の儀式を行う必要があります」
彼らは神殿の入口で特殊な塩水で手を清め、額に青い印を付けられた。その後、神殿の内部へと案内された。
内部は予想外に広く、天井は高く、壁には海の生き物や波の模様が彫られていた。中央には大きな円形の水盤があり、水面には無数の小さな光が浮かんでいた。
水盤の向こうには、一人の年老いた女性が静かに座っていた。彼女の肌は薄い青色で、髪は白く長く、波のように揺れていた。彼女の周りには小さな水の粒子が浮かんでいるようだった。
「オーシャン・セイジ」案内人は敬意を込めて頭を下げた。「アーケイディアからの使者です」
老女はゆっくりと目を開けた。その瞳は深い青色で、まるで海の底を覗き込むようだった。
「アーケイディアからか...」彼女の声は静かな波のようだった。「セイジ・ギルドマスターの友人たちかな」
栄作は一歩前に出て、深々と頭を下げた。「はい、椎名栄作と申します。こちらはシルヴァンとルークです。セイジさんからの紹介状をお持ちしました」
栄作が巻物を差し出すと、それは空中に浮かび、オーシャン・セイジの前まで飛んでいった。彼女は巻物に触れることなく、魔法で開いて内容を読んだ。
「五大食材の予言...深海の真珠貝...死食のカルト...」彼女はつぶやいた。「重大な事態のようね」
彼女は水盤に手をかざした。水面に映像が現れ、各地でのカルトの活動や被害の様子が映し出された。
「死食のカルトの活動は海域にも広がりつつある」オーシャン・セイジは憂いの表情で言った。「彼らは既に何隻かの船を襲い、海の民を操っている」
「私たちは彼らを止めるために、五大食材を集めています」栄作は説明した。「そして、第三の食材である深海の真珠貝を探しているのです」
オーシャン・セイジはしばらく考え込んだ後、頷いた。「深海の真珠貝...それはこの海の最も深い場所、『深淵の洞窟』にある」
「どうやってそこへ行けばいいのでしょうか?」栄作が尋ねた。
「簡単なことではない」彼女は厳しい表情になった。「深海に到達するには特殊な装備が必要だし、その場所は古代の海竜が守っている」
彼女は立ち上がり、水盤の周りを歩き始めた。「明日、あなたたちに試練を与えよう。それに合格すれば、深海への道を示そう」
「どんな試練ですか?」ルークが好奇心旺盛に尋ねた。
オーシャン・セイジは微笑んだ。「料理人であるあなた」彼女は栄作を見た。「私たちの伝統的な海の料理大会に参加してもらいたい。あなたの料理の真価を確かめるためだ」
栄作は驚いたが、すぐに決意を固めた。「喜んで参加します」
「明日の朝、海の広場で開催される」オーシャン・セイジは説明した。「今夜はゆっくり休むといい。アクアポリスの宿を用意させよう」
彼らは神殿を後にし、案内された宿に向かった。窓からは美しい海の景色が広がり、栄作は長い間その景色を見つめていた。
「明日の料理大会、どうするつもりだ?」シルヴァンが尋ねた。
「アクアポリスの食材を使って、海の都にふさわしい料理を作ります」栄作は決意を込めて答えた。「そして、五大食材の力も少し使ってみようと思います」
彼は窓の外の海を見つめながら、新しいレシピを構想し始めた。第三の食材、深海の真珠貝—それを手に入れるためには、まず海の民の信頼を勝ち取らなければならない。そのための第一歩が、明日の料理大会だった。
「良くぞ無事に戻った」セイジはまず安堵の言葉をかけたが、すぐに続けた。「だが、状況は悪化している。お前たちが旅の間に、カルトの活動がさらに活発になった」
栄作は月光の果実の入った容器を大事に抱えながら、「どういうことですか?」と尋ねた。
セイジは彼らをギルドの会議室に案内した。そこには地図が広げられ、各地に赤い印が付けられていた。
「これらの地点で、カルトによる事件が報告されている」セイジは地図を指さした。「村や町が次々と影響を受け、住民が行方不明になっている」
「前よりも組織的になっているわね」ナディアは地図をじっと見つめた。「彼らは何か計画を進めているのかもしれない」
セイジは重々しく頷いた。「そして最悪のニュースだ。お前たちが旅立った数日後、カルト信者たちがギルドを襲撃した」
「何だって?」マグナスが驚きの声を上げた。「被害は?」
「幸い、死者は出なかった」セイジは答えたが、その表情には暗い影があった。「だが、多くの冒険者が負傷し、私も...」
彼は服をめくり、胸に広がる黒い傷痕を見せた。皮膚に黒い筋が走り、傷の周りは不自然な色をしていた。
「これは...」栄作は息を呑んだ。「死食の影響?」
「ああ」セイジは苦しそうに頷いた。「彼らの使う『黒い刃』による傷だ。通常の治療法では完全には癒えない」
栄作はすぐに決意を固めた。「治療食を作ります。月光の果実には再生の力があります」
「だが、用心したほうがいい」シルヴァンが警告した。「カルトはお前たちの帰還を知っているはずだ。再び襲撃してくる可能性が高い」
セイジは同意した。「防衛策を強化している。だが、彼らの目的は明らかにお前たちと五大食材だ」
会議の後、栄作はすぐに厨房へと向かった。月光の果実の一部を使って、セイジのための特別な治療食を準備する必要があった。
厨房に入ると、そこはいつもと違って静かだった。通常なら賑やかなギルドの食堂も、襲撃の影響でまだ完全には回復していないようだった。
「栄作さん、おかえりなさい!」
エリーが駆け寄ってきた。若い給仕の少女は無事だったようだが、目には疲れの色が見えた。
「エリー、無事で良かった」栄作は安堵の表情を見せた。「襲撃の時、どうだった?」
エリーは震える声で当時の状況を説明し始めた。夜中、突然黒い服を着た男たちが現れ、ギルドに侵入してきたという。彼らは「料理人を出せ」と叫びながら、抵抗する冒険者たちを次々と倒していった。
「セイジさんが私たちを守ってくれました」エリーの目に涙が浮かんだ。「彼が立ちはだからなければ、もっと大勢が犠牲になっていたと思います」
栄作は拳を握りしめた。仲間たちが自分のために傷ついたと思うと、胸が痛んだ。
「もう二度とこんなことが起きないようにする」栄作は静かに、しかし力強く宣言した。「私の料理で全員を守る」
彼はすぐに月光の果実を使った「再生の汁物」の準備を始めた。果実の小さな欠片を特殊な方法で調理し、その力を最大限に引き出す。エオラから教わった精霊族の調理法を取り入れながら、栄作は心を込めて料理を作った。
完成した汁物は淡い青白い光を放ち、月の香りがほのかに漂っていた。栄作はそれをセイジの部屋へと運んだ。
「セイジさん、治療食が出来ました」栄作は部屋に入った。
セイジはベッドに横たわっており、顔色は悪かった。傷の黒い筋は徐々に広がりつつあるようだった。
「栄作...」セイジは弱々しく微笑んだ。「気を遣わせてすまない」
「いいえ、これは私の責任です」栄作は汁物をセイジに差し出した。「どうぞ、これを飲んでください」
セイジは汁物を一口飲むと、驚いた表情を見せた。「これは...体の中から温かくなる」
「月光の果実の力です」栄作は説明した。「精霊族の癒しの技術と組み合わせました」
セイジは少しずつ汁物を飲み進めた。飲み終わる頃には、顔色が良くなり、胸の黒い筋も薄くなっていた。
「驚くべき効果だ...」セイジは胸に手を当てた。「痛みが和らいでいる」
「完全に治るには時間がかかると思います」栄作は言った。「毎日これを飲んでください」
部屋を出ると、ナディアが待っていた。「セイジの様子は?」
「良くなりつつあります」栄作は答えた。「月光の果実の力は本物です」
ナディアは少し迷った後、「他の負傷者にも同じ治療食を作れる?」と尋ねた。
「はい、もちろん」栄作は頷いた。「でも果実の使用は慎重にしなければなりません。エオラの警告通り、使いすぎると枯れてしまいます」
彼らは厨房に戻り、負傷した冒険者たちのための治療食を用意し始めた。マグナスとルークも手伝いに加わり、皆で協力して大量の料理を作った。
その夕方、栄作は特別な「浄化の晩餐」をギルド全体に振る舞った。月光の果実のごく微量の成分を使い、全ての料理に浄化と強化の効果を込めた。
「この料理には、カルトの影響から身を守る効果があります」栄作は説明した。「そして、次の襲撃に備えて、皆さんの力を高める効果も」
冒険者たちは感謝の言葉を述べながら料理を口にした。特に負傷していた者たちは、食べるにつれ目に見えて元気を取り戻していった。
晩餐の後、栄作たちは再び会議室に集まり、今後の方針を話し合った。
「まず、ギルドの防衛を強化する必要があります」栄作は提案した。「カルトが再び襲撃してくる可能性が高い」
マグナスが頷いた。「俺たちが守る。だが同時に、第三の食材を探す旅も続けなければならない」
「分かれるべきではないわ」ナディアは懸念を示した。「一緒に行動するほうが安全よ」
シルヴァンが静かに言った。「しかし、ここを無防備にしておくこともできない」
議論の末、彼らは二手に分かれることを決めた。マグナスとナディアはアーケイディアに残り、ギルドの防衛を強化する。栄作、シルヴァン、ルークは南の海洋都市アクアポリスへ向かい、第三の食材「深海の真珠貝」を探す。
「心配しないで」マグナスは栄作の肩を叩いた。「ここはしっかり守る。お前は第三の食材を見つけることに集中しろ」
翌朝、栄作は旅の準備をしながら、突然ひらめいた。「待ってください。私には良い考えがあります」
「何だ?」シルヴァンが尋ねた。
「カルトの襲撃に備えて、特別な防衛料理を用意します」栄作は説明した。「ギルド全体を守る料理です」
彼はすぐに厨房へと向かい、新しいレシピの開発に取りかかった。深淵の炎竜の心臓と月光の果実の力を組み合わせ、長期間効果が持続する「守りの料理」を作るのだ。
三日間の研究と実験の末、栄作は「防衛の結界スープ」を完成させた。このスープを飲んだ者は、体内に防御の力が宿り、カルトの死食の影響を受けにくくなる。さらに、スープの一部を特殊な方法で濃縮し、ギルドの周囲に撒くことで、結界のような効果を生み出すことができた。
「これで少しは安心できます」栄作はマグナスとナディアに説明した。「でも、完全ではありません。注意を怠らないでください」
出発の日、栄作は最後の防衛準備をチェックした。ギルドの周囲には「防衛の結界」が張られ、冒険者たちには全員「守りの料理」が提供されていた。セイジも回復しつつあり、ベッドから起き上がれるようになっていた。
「栄作」セイジが彼を呼び止めた。「南の海は危険だ。特に深海の区域は未知の魔物が多い」
「気をつけます」栄作は頷いた。
「それと、これを持って行け」セイジは小さな巻物を渡した。「アクアポリスの長老、オーシャン・セイジへの紹介状だ。彼女は深海について多くを知っている」
栄作は感謝し、巻物を大切にしまった。
「栄作さん、出発の準備ができました」ルークが声をかけてきた。若い魔法使いの目は冒険への期待で輝いていた。
「わかった、行こう」栄作は頷いた。
ギルドの門で、マグナスとナディアが彼らを見送った。
「気をつけろよ」マグナスは栄作の背中を叩いた。「そして、早く戻ってこい」
「あなたたちこそ、危険な目に遭わないで」栄作は真剣な表情で言った。「ギルドを頼みます」
ナディアは小さな護符を三人に渡した。「これは私の故郷の守護のお守り。旅の安全のために」
感謝の言葉を交わし、栄作たちは南への旅路に就いた。彼らの背後では、アーケイディアの冒険者ギルドが朝日に照らされて輝いていた。
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南への旅は、二週間ほどかかった。途中、彼らはいくつかの町や村を通過したが、中にはカルトの影響を受けた跡があるところもあった。荒れ果てた畑、廃墟となった家々、そして黒く焦げた跡—それらは全て死食のカルトの足跡だった。
シルヴァンはその都度、慎重に調査を行った。「彼らは南へ向かっているようだ。我々と同じ目的地を目指している可能性が高い」
栄作は通過する村々で、「守りの料理」の作り方を教え、カルトへの対抗策を伝授した。彼の料理を食べた村人たちは少しずつ勇気を取り戻し、自分たちの村を守る決意を固めていった。
旅の十二日目、彼らは遂に海が見える高台に到達した。
「海だ!」ルークは興奮して叫んだ。
栄作も息を呑んだ。果てしなく広がる青い海—彼は異世界に来てから初めて海を目にしたのだ。「美しい...」
シルヴァンは地図を確認した。「あそこがアクアポリスだ」
彼が指し示す方向には、海に突き出た巨大な半島があり、そこに建つ白い建物群が太陽の光を反射して輝いていた。街全体が階段状になっており、最上部には大きな神殿のような建物が見えた。
「海の都アクアポリス...」栄作はつぶやいた。
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「異国の旅人か?」門の守衛が声をかけてきた。
「はい」栄作は丁寧に答えた。「アーケイディアから来ました。オーシャン・セイジに会いたいのですが」
守衛は驚いた表情を見せた。「オーシャン・セイジは簡単に会えるものではない。証明書か紹介状がなければ」
栄作はセイジから預かった巻物を見せた。守衛はそれを確認し、敬意を込めて頭を下げた。
「申し訳ありません。どうぞお通りください。オーシャン・セイジは海の神殿におられます。案内人をつけましょう」
若い女性が彼らの案内役として付き添い、アクアポリスの通りを進んだ。栄作は街の様子を興味深く観察した。至る所に水と関連した装飾があり、噴水や水路が街中に張り巡らされていた。市場では見たこともない海の食材が売られており、栄作は思わず足を止めて見入った。
「これは何ですか?」栄作は青く光る魚を指さした。
「深海ランタンフィッシュよ」案内人が答えた。「深海で光を放って生きている魚。料理すると、食べた人の体内から光を放つの」
栄作は魅了された。「後で戻ってきたいです」
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「ここがオーシャン・セイジの住まいです」案内人は説明した。「中に入る前に、浄化の儀式を行う必要があります」
彼らは神殿の入口で特殊な塩水で手を清め、額に青い印を付けられた。その後、神殿の内部へと案内された。
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水盤の向こうには、一人の年老いた女性が静かに座っていた。彼女の肌は薄い青色で、髪は白く長く、波のように揺れていた。彼女の周りには小さな水の粒子が浮かんでいるようだった。
「オーシャン・セイジ」案内人は敬意を込めて頭を下げた。「アーケイディアからの使者です」
老女はゆっくりと目を開けた。その瞳は深い青色で、まるで海の底を覗き込むようだった。
「アーケイディアからか...」彼女の声は静かな波のようだった。「セイジ・ギルドマスターの友人たちかな」
栄作は一歩前に出て、深々と頭を下げた。「はい、椎名栄作と申します。こちらはシルヴァンとルークです。セイジさんからの紹介状をお持ちしました」
栄作が巻物を差し出すと、それは空中に浮かび、オーシャン・セイジの前まで飛んでいった。彼女は巻物に触れることなく、魔法で開いて内容を読んだ。
「五大食材の予言...深海の真珠貝...死食のカルト...」彼女はつぶやいた。「重大な事態のようね」
彼女は水盤に手をかざした。水面に映像が現れ、各地でのカルトの活動や被害の様子が映し出された。
「死食のカルトの活動は海域にも広がりつつある」オーシャン・セイジは憂いの表情で言った。「彼らは既に何隻かの船を襲い、海の民を操っている」
「私たちは彼らを止めるために、五大食材を集めています」栄作は説明した。「そして、第三の食材である深海の真珠貝を探しているのです」
オーシャン・セイジはしばらく考え込んだ後、頷いた。「深海の真珠貝...それはこの海の最も深い場所、『深淵の洞窟』にある」
「どうやってそこへ行けばいいのでしょうか?」栄作が尋ねた。
「簡単なことではない」彼女は厳しい表情になった。「深海に到達するには特殊な装備が必要だし、その場所は古代の海竜が守っている」
彼女は立ち上がり、水盤の周りを歩き始めた。「明日、あなたたちに試練を与えよう。それに合格すれば、深海への道を示そう」
「どんな試練ですか?」ルークが好奇心旺盛に尋ねた。
オーシャン・セイジは微笑んだ。「料理人であるあなた」彼女は栄作を見た。「私たちの伝統的な海の料理大会に参加してもらいたい。あなたの料理の真価を確かめるためだ」
栄作は驚いたが、すぐに決意を固めた。「喜んで参加します」
「明日の朝、海の広場で開催される」オーシャン・セイジは説明した。「今夜はゆっくり休むといい。アクアポリスの宿を用意させよう」
彼らは神殿を後にし、案内された宿に向かった。窓からは美しい海の景色が広がり、栄作は長い間その景色を見つめていた。
「明日の料理大会、どうするつもりだ?」シルヴァンが尋ねた。
「アクアポリスの食材を使って、海の都にふさわしい料理を作ります」栄作は決意を込めて答えた。「そして、五大食材の力も少し使ってみようと思います」
彼は窓の外の海を見つめながら、新しいレシピを構想し始めた。第三の食材、深海の真珠貝—それを手に入れるためには、まず海の民の信頼を勝ち取らなければならない。そのための第一歩が、明日の料理大会だった。
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レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
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高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
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「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
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ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
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貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
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