愛し愛され。また愛す。

佐々木 おかもと

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第14話

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案の定、翌日には高熱がでて、挙句の果てには喉が凄く痛いという特典付きの風邪をひいた。

「あ"…頭痛い…水が飲みたい…」

頭の痛さで目が覚め、水を飲もうとベッドから立ち上がると立ちくらみを起こしてその場に座り込んでしまった。
思った以上に酷い風邪をひいたらしい。立ちくらみが良くなり、冷蔵庫に水を取りに行く。

ペットボトルのキャップを開けてコクコクと飲み干す。お陰様で喉は潤ったが、熱は上がった様に感じた。しかし、重要書類を今日中に仕上げてしまわなければいけない為出社しないといけない。

時計を見ればもう時間が迫っていた。
朝食を食べる時間も無い上に、食欲もない為風邪薬を飲み支度をする。

家を出る頃には、熱は薬によって一時的に下げられていた。

◆◇◆◇◆

会社に着くと俺は直ぐに書類を作り始めた。今日は早退きさせてもらおう。

俺は書類を何とか午前中に終わらせる為、特に席を立たずデスクワークを続けた。

「暁~?大丈夫かお前。顔色が悪いけど。」

俺の近くのコピー機で印刷をしていた佐々木から話しかけられた。

「ちょっと熱があるだけだ。今日は半休貰ってさっさと帰るよ。」

俺がそう言うと佐々木は「ならいいけど。」と言い戻って行ってしまった。
佐々木にはそう言ったものの、実は結構キツイ。
薬が切れかけているのだろうか。俺は額に自分の手を当て気持ち程度に冷やす。

とりあえず。水分さえ摂っておけば良いだろうとペットボトルの水を飲む。
しかし、上手く飲み下しきれずに口から零れてしまった。

「うわ…シャツ濡れた…」

熱があるとカバンからハンカチを出す事すらとても億劫に感じる。
シャツは放っておいて仕事に戻ろうとすると、俺の目線に濃い青と薄い青、白いチェック柄のハンカチが映った。

その差し出されたハンカチを持つ手を辿るように目線をあげると、心配そうな顔をした小林がハンカチを手渡していた。

「どうぞ。使って下さい…それに暁さん。熱があるんでしょう?」

今の話を聞いていたのか小林は俺の顔を覗き込んできた。

「あぁ。でもそれ程熱は高くない心配ありがとう。」

ハンカチを受け取りシャツを拭いていると、突然小林の手がのびてきた。
俺はびっくりして身を竦ませると、小林は俺の額を触りもう一方の手は自身の額に当てていた。

「そんなに高くないって…十分高熱ですよ。
良く出社出来ましたね。その書類俺が作るんで暁さんはさっさと帰って熱を治してください。」

そう言って小林は俺のパソコンからUSBを抜いて行った。
有無を言わさぬその強引さに俺は考えることを放棄した。
それに段々考える事が面倒臭くなってきた。

俺は仕事は諦めてさっさと帰路についた。家に帰ると悪寒と頭痛でもう限界だった。

風邪薬を飲み、着替える事すら億劫でそのままベッドに倒れ込んだ。

「やば…久しぶりにキツイかもな…」

そう呟いて俺は気絶する様に眠りについた。

◆◇◆◇◆

夜、まだ熱が引かずに寝苦しく起きた。
スマホで時間を確かめるともう20時をすぎる頃だった。
ダラダラとしていると突然、家のチャイムがなった。俺は気怠い体を何とか動かして扉を開けるとそこには小林がたっていた。

深緑のコートを羽織り、スーパーの袋を下げている。

「小林…どうして」
「ご飯、作りに来ました。どうせ貴方食べてないんでしょう?」

そう言って玄関に無理やり上がってきた。

俺は仕方なく小林を連れて中に入った。

「暁さん…もしかしてそのままの格好で寝てたんですか?」
「…あぁ。着替えるのが面倒臭くてな。」
「そんなの、休めるものも休めないですよ。」

母親みたいな事を言われ俺は仕方なくいつものスウェットに着替えた。
着替え終わり、リビングに行くと小林がスポーツドリンクを渡してきた。

「これスポドリです。あと、冷蔵庫に何本か入れて置いたのでしっかり水分は摂ってください。…あ。それとキッチン借りますね。貴方は寝てて下さい。」
「はぁ…好きにして下さいよ。」

俺はとりあえずベッドに寝転びウトウトと静かに眠りについた。

しばらくして、小林から起こされた。大分、体が楽になっていた。

「ご飯。出来ましたよ。食べられますか…?」
「…あんまり。でも食べる。」
「そうですか。」

俺は小林に起き上がらせて貰い、リビングへ向かった。
テーブルには雑炊と野菜たっぷりのスープが準備されていた。

「すげ…。」
「さぁ。食べてさっさと薬を飲んで下さい。」

俺は小林のスペックの高さに何となく、悔しさを覚えたが今はとても有り難い。
そう思いながら雑炊を口に運ぶ。ほろっと口の中で米が解けて鶏肉と野菜の出汁が朝から何も食べていない胃に染み渡る。

「うま…」
「…それなら良かったです。」

小林は軽く微笑んでグラスにお茶を注いだ。
俺は難なく完食して、薬を飲んだ。

「小林…?」
「なんですか?」

俺の呼び掛けに少しだけ不安な顔をした小林は俺の顔を覗き込んだ。

「ありがとう。」

そう、一言俺が言うと小林はまたいつもの顔に戻り「どういたしまして。」と微笑んだ。

◆◇◆◇◆
22時を回る頃、小林は帰る準備を始めた。

「じゃあ。俺は帰りますんで。」

リビングから出ようとする所で俺は小林の手を掴んだ。

「あの…さ。お前が良ければなんだけど、泊まっていかない?あ、ほら夜遅いし…」

俺は1人になるのがそれが何となく嫌で小林を引き止めてしまった。
しかし、何も言わない小林に少し我に返り急いで言葉の撤回をする。

「な、なんてな…!はは。ごめん、こんな事言われて気持ち悪いよな。」

俺は掴んでいた手を離して小林の顔を伺った。すると小林は手で口を隠しながら俺から目線をずらした。

「…俺。実は暁さんのこと好きなんだと思います。」
「へ?」

俺は突然の告白に頭が追いついていなかった。

「ゲイだって知った時も心の底ではラッキーなんて思ってたりして。だから今みたいに、期待させられると何するか分かりませんよ。暁さん?」
「…あ。う、ええ?」

小林は今まで見た事ないくらいの真剣な顔で俺の腰を抱いてきた。俺はわけがわからないこの状況に口から出る言葉が見つからず、口をパクパクさせてしまっていた。

「ほ、本気かよ?」

俺が戸惑いながらそう言うと小林は口の端をつり上げ笑った。

「どうでしょうね。…でも今日は泊まってもいいですか?」

不敵に笑ったと思えば次は犬のように伺ってくる。コイツは自分の見せ方を理解している。本当に狡い奴だ。

「もう、勝手にしろ…!俺は寝る!」

そう言って俺は寝室へ向かった。

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