喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

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035.能力

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 イケメンは食べ方も上品なんだなぁ。

 お店の従業員もお客もランディに釘づけだ。
 同時に、何あの喪女! という視線が辛い。
 ヒナは美味しいカルボナーラを口に入れた。

「あと見たいものはあるかい?」
「今日は手帳が買いたかっただけなので、特には」
「では、連れていきたいところがあるのだけどいいかな?」
「はい」
 時計を確認するランディ。
 連れていきたいところは時間が関係するみたいだ。

「……急いで食べた方がいいですか?」
「いや、少し早いから逆にゆっくり食べてほしいかな」
 気を使いすぎる聡明なヒナに、ランディはグレーの眼を細めて微笑んだ。

 食事の間も外には『鳥』がいる。
 目の周りが白い緑の鳥と、もう1匹増えた。
 思ったよりも街にいるみたいだ。

 店員に狼族ではない人もいるけれど、あの人は豹族と言われる人なのだろうか。
 働いているので問題ないのか、『鳥』のようにスパイなのかよくわからない。

「ヒナは青色が好きなのかな?」
 今日の水色のワンピースも可愛いねと急にランディが褒めた。

「こ、この服はエリスお姉様が選んでくれて、こんな綺麗な服、私なんかが着たら申し訳なくって」
 真っ赤な顔でごにょごにょ言い訳をするヒナ。

「よく似合っているよ」
 落ち着いた雰囲気だが仕立ては良いものだとわかる。
 さすがエリス。
 シンプルな服なのにヒナの魅力を最大限に引き出している。

「今度一緒に服を買いに行こうか」
 上から下まで俺好みの服を着せてみたいと笑うランディに、ヒナは全力で両手を振った。

 ユリウスの妻エリスと服を選んだ時でさえ、自分のセンスのなさを笑われたのにランディと行ったら恥ずかしいことになりそうだ。

「じゃぁ、服を贈ろうかな。デートで着てもらえるように」
 イケメンの破壊力満点な笑顔に、悩殺者が続出する。
 店内から黄色い悲鳴や悶える音が聞こえてきた。

「そろそろ行こうか?」
「はい」
 爽やかに手を出され、スムーズに立たされ、いつの間にか支払いも終わっていて店を出る。

 何このお嬢様扱い!
 何このイケメン!
 さりげなく腰に手が添えられたかと思うとグッと引き寄せられ密着する。

 自然に!
 流れるようなスムーズな仕草で!
 イケメンホストの完璧なお手本のようだ。

 女性の扱いに慣れているのだろうな。
 相当モテるのだろうな。
 これで27歳か。
 スペックが高すぎる。

「今から南広場に行くよ。疲れたら言ってね」
 10分くらい歩き角を曲がると急に建物がなくなった。
 アレクサンドロと一緒に行った中央公園は池や花が多かったが、ここは芝生の広場。
 障害物もあまりなく、木とベンチくらいしかない。

 芝生をオオカミが数匹走っている。
 もふもふの尻尾が揺れて可愛い。

「……あれ? あの子」
 少しサイズが小さいオオカミをヒナが指差すと、ランディはグレーの眼を細めて微笑んだ。

「大人の厩舎に移った子のデビューだよ」
 ヒナがお世話をした子だとランディは言う。
 大人のオオカミと一緒に芝生を走り、場所を覚えているそうだ。
 大人の厩舎に移動してしまったのは少し寂しかったが、街へ来たら偶然会えることもあるのだと教えるために今日はここに連れてきてくれたのだろう。
 やっぱり優しいなぁ。

「ランディ。ありがとう」
 ヒナがランディを見上げると、珍しくヒナと目が合ったランディは嬉しそうに微笑んだ。

 やっと目が合った。
 すぐにオオカミに視線を移してしまったヒナをランディは見つめる。
 もっと俺を見てほしい。
 もっと微笑まれたい。

「あ! 気づいてくれた!」
 ヒナに気づいた子供のオオカミが走ってくる。
 嬉しそうにオオカミに手を振り、その場にしゃがむヒナ。

 いや、待て。
 その勢いはダメだ。
 身体が大きくなった自覚を持て。
 遠慮なく全速力で走ってくる子供のオオカミにランディは苦笑した。

 このままではヒナに思いっきりぶつかるだろう。
 小さい子供の時のように飛びついて喜びそうなオオカミをランディは慌てて捕まえた。

 ぼふんと良い音が響く。

「……おい、その勢いではヒナが吹っ飛ぶだろう」
 溜息をつきながらオオカミを押さえるランディ。

 オオカミは耳をしゅんとしながらランディに擦り寄った。
 きっとごめんなさいなのだろう。

 ゆっくりとランディがオオカミを離すと、オオカミは尻尾を全力で振りながらヒナに近づいた。

「元気だった?」
 ヒナがオオカミの三角耳の後ろをガシガシ撫でるとオオカミは嬉しそうに擦り寄る。

 頭から背中をゆっくりと撫でると、かなり大きくなったことがわかった。
 もうヒナの手では背中の真ん中くらいまでしか届かない。

「こんなに急に大きくなっちゃうんだね」
 ランディが止めてくれなかったら本当に吹っ飛んでいたと思う。
 オオカミの首の辺りもふもふ撫でると、嬉しそうに尻尾を振ってくれる。

 1匹がヒナに遊んでもらっている事に気づいた他のオオカミもヒナに近づいた。

「あれ? この子もだ」
 おいでと呼ぶヒナ。

 この子は輪になかなか入る事が出来なくて、いつもご飯を最後に食べていた子。
 ゆっくり近づくオオカミの口の下をヒナが優しく撫でるとパタパタと尻尾を振って喜んだ。

 どんどんオオカミが集まり、あっという間にヒナは8匹のオオカミに囲まれる。

「ちょ、ちょっと順番! みんな一度には撫でられないよ」
 お世話をしていない大人のオオカミまで擦り寄ってくるので、撫でても撫でても終わらない。

 もふもふパラダイスだけど大変!

「こら、お前達。仕事中だろう?」
 道は覚えたのか? と溜息をつくランディ。

 オオカミ達はランディにも擦り寄り、グァウと鳴く。
 道は覚えたよとでも言っているかのようだ。

「ここどうしたの?」
 ヒナが肩に傷のある大人のオオカミを見つけ、指を差した。

「あぁ、ジョシュが耳を怪我したときに一緒にいた奴だ」
 豹族の牙が当たったのだろうとランディが言う。

 武官と一緒に戦うオオカミもいるので怪我をするのは武官だけではないのだ。
 ヒナはオオカミの肩にそっと触れた。

「……がんばってくれたんだね。ありがとう」
 ヒナが優しく撫でると傷が消える。
 驚いたヒナは自分の右手を見ながら目を見開いた。

 触っただけなのに!

 ランディはいつの間にかヒナの後ろで支えている。
 倒れてもすぐに受け止められるように。

 驚いたヒナは振り返ってランディを見た。

「治癒だよ」
 気分はどう? と心配そうな目でヒナを見つめるランディ。

 国王陛下との謁見でも回復したとか、治ったとか聞いたけれど、全く何の事かわからなかった。
 回復の瞬間を武官が見ていると。

 瞬間ってこういう事?

 肩の傷が治ったオオカミはヒナの手をペロッと舐めた。
 ありがとうという事だろうか?

 ヒナはもう一度肩に触れたが、やはり傷は残っていなかった。
 首の後ろと肩回りをグイグイ押すと気持ちよさそうにオオカミが擦り寄る。
 肩の周りを触っても痛くなさそうだ。

 本当に治ったという事?
 自分がやった事なのに信じられない。

 再び右手を見ながら呆然とするヒナをランディはゆっくりと立たせた。

「大丈夫か?」
 背中を支えてくれるランディ。

 治癒。
 聖女。
 半径50m程度の植物に影響があった。
 半径2km圏内の人の病気や怪我が治った。

 国のために働かせようと思った。
 この国に引き留めろ。
 他国から狙われている。
 婚姻を結びたい。

 やっと言われた事の実感が湧いてきた。

「……嘘」
 自分にこんな能力があるなんて。

 争いが絶えない国々。
 怪我を治せる能力。
 聖女召喚の儀。

 3人来てしまった聖女。
 男だと思われ、聖女ではないから捨てられた。

 あぁ、思っていたよりもとんでもない立ち位置に自分がいる。
 ヒナは血の気が引き、一気に指先が冷たくなった。
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