喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

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044.混ぜる

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 お昼ご飯の後は商店街へ。
 お菓子をたくさん売っているお店が北広場の前にあるそうだ。

「少し歩きますが大丈夫ですか?」
「平気です」
 この世界は女性を歩かせないらしい。
 日向を徒歩10分なんて嫌われてしまうとユリウスに聞いて驚いた。

 徒歩10分なんてマンションから駅までより近いのに。

「だからさー、そっちが真似したんだろ」
「お前が真似したんだろ」

 お店の前で言い争いをする男性2人。
 商店街のお隣同士のようだ。

「どっちでもいいだろ、うまい方が売れる。それだけだ」
 仲裁に入っているお爺さんはナイトリー公爵。
 本当に街の重鎮だったんだ。

「反対の端を歩いて行きましょう」
 ディーンに手を引かれて端を歩く。

「おい、文官次男」
 たくさんの野次馬がいるのに、なぜかナイトリー公爵がディーンの名前を呼んだ。

「巻き込まないでください」
 溜息をつくディーン。
 ヒナが見えないように後ろに隠したが、ナイトリー公爵は良い物を見たとばかりにニヤッと笑った。

「まさか彼女がおったとはなぁ」
「急ぎますので」
「文官の仕事だろ?」
「今日は休みです」

 面倒ごとはお断りオーラ全開のディーンをナイトリー公爵が笑う。

「まぁ彼女も一緒にちょっと寄っていけ」
 強引なナイトリー公爵に逆らう事も出来ず、争っていた店の一軒にディーンとヒナは連れて行かれた。

「悪いな、嬢ちゃん。ちょっとだけ。どっちがうまいか正直に言ってくれ」
 ナイトリー公爵はヒナに気づいていないようだ。
 ヒナの隣にドカッと座ると、ディーンとヒナを見ながらニヤニヤと笑った。

「お堅い文官に彼女ねぇ~」
 意外だと言うナイトリー公爵。
 ディーンは溜息をつきながら、早くしてくださいねと頼んだ。

 出てきたのはジュース。
 白いジュースと黒いジュースだ。

 真似したと騒いでいたが、この2つのジュースの何が真似したなのだろうか?

「今度祭りをするんだが、どっちも飲み物を売りたいと言い出して揉めているんだ」
 うまい方で買うだけだから争うものじゃないと言ってもお互いに引かないのだとナイトリー公爵は肩をすくめた。

 全然違う飲み物なのに。
 争う意味がわからない。

 飲んで美味しい方を教えて欲しいと言われたヒナは白いジュースを手に取った。

「ほら! 俺の方が良いじゃないか!」
「いえ、手前にあっただけです」
 また争いになっても困る。
 ヒナは冷静に理由を告げると、白いジュースを一口飲んだ。

 ……カルピスみたい。

 次は黒いジュース。
 こっちはシュワシュワしている。

 これコーラだ!

「平気ですか?」
 無理しなくて良いですよと言うディーンにヒナは首を傾げた。

「それ、ビリビリするでしょう?」
 狼族は舌がビリビリするのはあまり得意ではないが、一部の若者に大人気の飲み物なのだとディーンは説明した。

 そうか。苦手なんだ。

「新しいグラスください」
 ヒナはグラスをもらうと、カルピスも濃いのをくださいと頼んだ。

「なっ、なんで薄めるって知ってんだよ」
 狼狽える店のお兄ちゃん。

「お前、薄めるなんてセコイ事してんのかよ」
 責める隣の店の若者に、ヒナは「これは薄めて飲む物です」と告げた。

 争う店同士。
 ビリビリが苦手。

 だったら混ぜる!

 ヒナはコーラを新しいグラスに半分入れると、その上にカルピスを乗せた。
 2層の美しい飲み物が完成する。

「キューピットです。どうぞ」
 ヒナがナイトリー公爵に飲み物を差し出すと、全員が呆気に取られた。

 ……しまった!

 今は令嬢の姿。
 自分とナイトリー公爵は面識がない!

「す、す、すみません」
 慌てて引っ込めようとすると、ナイトリー公爵は豪快に笑いながらグラスを取った。

「混ぜるのか? このままか?」
「混ぜます」
 グラスを揺らして適当に混ぜると、ナイトリー公爵は一口飲む。

 ニヤッと笑うと店の若者に手渡した。

 飲めと顔で合図するナイトリー公爵。

「マジか!」
「こっちの方がうめぇ」
 争っていたはずの若者2人は笑顔で飲み合った。

「すげぇな、嬢ちゃん」
 ナイトリー公爵がヒナの頭をぐりぐり撫でる。

「わっ」
 ヒナの髪がボサボサになり、困った顔で微笑むヒナを見たナイトリー公爵は目を見開いた。

「お前、ひー」
 ナイトリー公爵に「ひー坊」と言われる前に急いで席を立つディーン。

「もうよろしいですね?」
 にっこり微笑みながらヒナを立たせると急いで店を後にした。

「ご、ごめんなさい、ディーン」
 余計なことをしてしまったと謝るヒナ。
 ナイトリー公爵にも正体がバレてしまった。

 ディーンはピタリと足を止めると元気のないヒナの頬を両手で包んだ。

「いえ、謝らなくてはいけないのは私です。すみませんでした」
 ナイトリー公爵は街の重鎮。
 無視して先に進む事が出来なかったとディーンは謝罪した。

「飲み物は大丈夫でしたか?」
「私、平気なんです」
 炭酸はよく飲んでいたので平気だと言うとディーンは驚いた顔をした。

「良かった。苦手だったらどうしようかと」
 ホッとするディーン。

 優しいなぁ。
 ヒナは心配してくれたディーンに微笑んだ。

「好きなだけ買って良いですよ」
 北広場前のお菓子屋でなかなか決められないヒナをディーンが笑った。

 ビリビリも平気なのに。
 ナイトリー公爵に臆する事なく新しい飲み物で争いも簡単に解決してしまうのに。

 飴2種類で悩んでいるなんて。

「2つとも買いましょう」
「えっ! でもコッチも気になっていて」

 ヒナの手には3つ目の飴。

「全部買いましょう」

 本当に可愛すぎる。
 ディーンは笑いながら飴3袋を手に取ると、クッキーも選びますよと微笑んだ。
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