喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

文字の大きさ
56 / 100

056.ラングドシャ

しおりを挟む
「聖女殿、そのパンを1つ分けてもらえないだろうか?」
 プチィツァ国第4王子フィリップは国に持って帰りたいとヒナに申し出た。

 困ったヒナはアレクサンドロを見る。
 今日は王子同士のお茶会。
 決定権はアレクサンドロにあるはずだ。

「フィリップ王子、彼女は稀有な存在。ウォルフ国は彼女を守りたい」
 公務モードのアレクサンドロは口調がいつもと違う。
 雰囲気も少しピリピリしていて別人みたいだ。

「アレクサンドロ王子、彼女を守りたい気持ちは私も同じだ。プチィツァ国は周辺国から撤退し、聖女に関する情報には口を噤んでいる」
 ヴォルフ国と友好関係を結びたいという思いを汲んでほしいと言うフィリップにアレクサンドロは驚いた。

 この国から『鳥』が消えた。
 それが彼のおかげだというのか。

「なぜか理由を伺っても?」
「彼女のお陰で目が治ったからだ」
 鳥にとって視力は死活問題。
 助けてくれた彼女を危険に晒す事はできないとフィリップはヒナの方を向きながら説明した。

「攻撃したのはなぜだ?」
 先ほどオオカミを攻撃した理由は聞いておくべきだろう。
 あのような態度では本当に友好を結びたいのか疑わしい。

「それは……本当にすまなかった」
 フィリップは目を伏せ謝罪した。
 一番怪我が酷かったオオカミと偶然しっかり目が合ってしまい掴みかかってしまった。
 イーグルの習性で視線が合うと「かかってこい!」と挑発されていると感じてしまうのだとフィリップは申し訳なさそうに説明した。
 特にその直前に遠吠えで追い返されたので、余計に感情が押さえられなかったと。

 だからヒナに言われた時、素直に謝ったのだ。
 失敗したという自覚があったのだろう。

「我が国としてもプチィツァ国と友好関係が築けるのは喜ばしい。王子同士ではなく、国同士の正式な書面を交わしたいがどうだろうか?」
 なんだかアレクサンドロが別人のようだ。
 どんどん話が進んでいく。
 コヴァック公爵に指示を出し書面の準備、ユリウスに指示を出し籠の準備を進めていく。
 ヒナは少し冷めた紅茶を飲みながら2人のやり取りを大人しく聞いた。

「ヒナ、せっかく作ったがパンを渡しても良いだろうか?」
 調印の手土産にしたいというアレクサンドロ。

「はい、大丈夫です」
 ヒナが微笑むとアレクサンドロはありがとうと微笑んだ。

 あ、笑い方まで公務モードなんだ。
 徹底してるなぁ。

 パンはユリウスが準備した籠に詰められていく。
 鳥になっても持って行けるように持ち手の長い柔らかい籠だ。
 あの中に調印の書類も一緒に入れて行くのだろう。

「ありがとう聖女殿」
 1つでも分けてもらえればと思って願い出たが、残り全部を詰めてくれている。
 15個ほどあっただろうか。
 そんなにもらえるなんて思っていなかった。

 狼族は血気盛んで獰猛な種族だと聞いていた。
 だが、ここ数日空から見ていたが全然違った。
 活気あふれる街、楽しそうな人々。
 そして同じくらいの年齢の王太子殿下は国のためを思い行動している。

「お礼はアレクサンドロ王太子殿下に。あと私の事はヒナと呼んでください」
「ヒナ姫、私のことはフィリップと」
「あ、姫も不要です。姫ではないので」
 令嬢は窓から「そこで大人しく待っていなさい」なんて宣言しないだろう。
 王子に向かって本当にごめんなさい。

「ではヒナ、私も敬称なしで」
 ニッコリ微笑むフィリップにヒナはとんでもないと両手を振りながら首を左右に振った。

「ではフィルで」
 フィルはフィリップの愛称だ。
 アレクサンドロ王子もそうお呼びくださいというフィリップに、アレクサンドロは自分のことはアレクでいいと告げた。

 なんだこれ。
 クラス替え初日のようだ。
 あだ名を自分で言っちゃう感じは少し不思議だが。

 でも鳥族と友好関係は良いのではないだろうか。
 宰相をしているお父様は鳥族が1番厄介だと言っていた。
 鳥族は他の国からも撤退したと言っていたので、熊族や豹族は聖女の情報が手に入らなくなる。

「ヒ、ヒナは、その、婚約者はいないと先ほど公爵から聞いたのだが」
 フィリップがチラッとコヴァック公爵を見ると、アレクサンドロはコヴァック公爵を睨みつけた。

「いないです。えっと、どこまでご存知かわかりませんが、まだここへきて4ヶ月も経っていなくて、まだ気持ちの余裕がないというか、そういう気にならないというか」
 自分でいろいろできるようになりたいのでと言うとフィリップは驚いた顔をした。

「自分で?」
「はい。食べ物にも治癒効果があるとわかったので、お菓子屋ができそうで良かったです」
 誘拐されなくなったら街でお菓子屋をやろうと思いついたと言い出したヒナに、フィリップ以外の全員が溜息をついた。

 あれ? みんな困ってる?
 ロウエル公爵は笑いを堪えていそうだ。
 コヴァック公爵は苦笑している。

 お菓子屋なんて無理だろうという事だろうか?
 そんなに商売は大変なのだろうか。
 ナイトリー公爵に頼んでもダメ?

「ヒナは面白いな」
 フィリップまで笑っている。

 お菓子屋をやりたいは変な子なのか!
 相当恥ずかしい発言だったのだろうか。
 後でお兄様に聞かないと!
 エリスお姉様に言ったら怒られそうだ。

「正式に求婚の書面を送ったら迷惑だろうか?」
 フィリップがヒナに問いかけるとアレクサンドロは一瞬眉間にシワを寄せた。

 正式って?
 国を経由するって事?

「やめてほしいです」
 せっかく国同士が友好関係を築きそうなのに、宰相の娘が求婚を断ったら気まずくなりそうだ。

「私の国は婚約者を決めない国でした。好きになって結婚しようと思った相手と婚約するのが一般的で、先に婚約者を決める習慣がないので困ります」
 気持ちがついていかないと困った顔をすると、フィリップはわかったと頷いた。

「アレクも求婚をしていると聞いたが」
 そこの公爵に。
 再びフィリップがコヴァック公爵を見る。

「あぁ。だがこの通り、頷いてもらえない」
 困った顔で笑うアレクサンドロの顔はやっぱり公務モード。
 ヒナがごめんねとアレクサンドロに言うと、アレクサンドロは肩をすくめた。

「とりあえず、モノで釣ろう。はい、ヒナ。あーん」
 アレクサンドロはヒナがずっと気になっていた薔薇のラングドシャを手に取った。

「えっ?」
「食べたかっただろう?」
 ずっと気にしていたと言うアレクサンドロ。

「そ、そんなに見ていた?」
 真っ赤な顔でヒナが答えると「見ていた、見ていた!」とフィリップも笑う。

「はい、口開けて」
 食べたい誘惑に負けたヒナが口を開けるとサクサクのラングドシャが放り込まれる。

 カスタードクリームでくっつけてある!
 花びらを何枚も作り、後からくっつけて形を作ったのだ。

「美味しい?」
 アレクサンドロに聞かれたヒナはコクコクと頷く。

「どうやったらこの形のまま綺麗に焼けるんだろうと思っていたけれど、後からくっつけたなら納得!」
 すごいねと笑うヒナ。

 そんな事を気にする令嬢はヒナくらいだろう。
 アレクサンドロとフィリップは顔を見合わせ笑った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ
恋愛
聖女アリアは、魔王討伐後は用済みとされ、国から冷遇される日々を送っていた。心も体も疲れ果て、聖女という役割に絶望していたある日、伝説の「終焉の黒竜」が彼女を攫っていく。 誰もが生贄になったと嘆く中、アリアが連れてこられたのは雲上の美しい城。そこで竜は絶世の美青年カイザーへと姿を変え、「お前を守る」と宣言する。 待っていたのは死ではなく、豪華な食事に癒やしの魔法風呂、そして何より不器用で真っ直ぐなカイザーからの過保護すぎるほどの溺愛だった。 これは、全てを諦めた聖女が、世界最強のイケメンドラゴンに愛され、本当の自分と幸せを取り戻していく、極甘ラブストーリー。

無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!

夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。 彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。 価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い! これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ
恋愛
「出来損ない」――それが伯爵令嬢リナリアに与えられた名前だった。壊れたものしか直せない【修復】スキルを蔑まれ、家族に虐げられる日々。ある日、姉の策略で濡れ衣を着せられた彼女は、ついに家を追放されてしまう。 雨の中、絶望に暮れるリナリアの前に現れたのは、戦場の英雄にして『氷の公爵』と恐れられるアシュレイ。冷たいと噂の彼は、なぜかリナリアを「ようやく見つけた、私の運命だ」と抱きしめ、過保護なまでに甘やかし始める。 実は彼女の力は、彼の心を蝕む呪いさえ癒やせる唯一の希望で……? これは、自己肯定感ゼロの少女が、一途な愛に包まれて幸せを掴む、甘くてときめくシンデレラストーリー。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...