喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

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086.尋問

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 美しい壁の装飾、分厚い赤絨毯。
 何度来ても慣れない豪華な廊下をヒナは進んだ。

 初めて立ち入る区域にイワライは息をのむ。

 ビクビクしながら歩くイワライの後ろから体格の良いイケオジ、ロウエル公爵が現れると、イワライはカチンと固まった。

「ごきげんよう、ロウエル公爵」
 ヒナが挨拶するとロウエル公爵はヒナの頭を優しく撫でる。

「一緒に行こうか?」
「お願いします」
 ニッコリ笑うヒナの顔を見たイワライは、もう逃げられないと苦笑する。

 とんでもない所へ来てしまった。
 しかも隣を歩くこの大きな紳士を聖女はロウエル公爵と呼んだ。
 銀狼一族の当主。
 美しい銀色の毛が赤い血で染まる姿は有名だ。

「珍しいね、こんな時間に」
 前から歩いてきた身なりの良い人まで聖女に声をかける。
 イワライはその光景に驚いた。

「こんばんは、コヴァック公爵」
 今日来ると知っているのに知らないふりをするコヴァック公爵にヒナが微笑む。

「どうだった?」
「20点です」

 コヴァック公爵の質問は「イワライの交渉はどうだった?」だ。
 ヒナの答えにコヴァック公爵とロウエル公爵は笑った。

「コレは厳しい」
「さすが我らの姫」
 ロウエル公爵が笑いながら宰相室をノックすると、中から「楽しそうだな?」と声が聞こえた。

 顔面蒼白で連行されるイワライ。

 宰相の顔を見た途端、イワライはその場に土下座した。

「……何しているんですか?」
 首を傾げるヒナにコヴァック公爵は普通の反応だと教える。
 普通?
 土下座が普通?

「名は?」
「イワライ・エバレット、環境局職員です」
 宰相の問いに震えた声で答えるイワライ。

 ますますよくわからない。
 ヒナが首を傾げると、宰相はイワライに立つように命じた。

 コヴァック公爵に連れられ、ヒナはいつものようにソファーへ。
 宰相も執務机からソファーへ移動した。

 イワライは扉の数歩前に立ち、ロウエル公爵はイワライが逃げられないように扉とイワライの間に立った。
 その変な光景にまたヒナが首を傾げる。

「さて、私に何か交渉したいことがあると聞いているが」
 宰相に話しかけられたイワライの身体がビクッと動いた。

 かなり緊張している?
 宰相の養父もいつもよりピリピリした雰囲気だ。
 いや、普段のお仕事モードはこちらなのだろう。
 宰相だもんな~。
 国を動かしている人だもんなぁ。
 
 余裕のないイワライとは対照的なヒナの様子に、コヴァック公爵は声を我慢しながら笑った。

「……普通はね、こんな反応だよ。貴族でもまぁこうなってしまう人が多いね。彼は平民。三人の公爵に囲まれたら当然の反応だろうね」
 平気な方が珍しいのだよとヒナに微笑む。

 あぁ、身分。
 そうなのか。
 こんな感じで影響してくるんだ。

「まずいくつか確認したい。君は以前アレクサンドロ王太子殿下の家庭教師をしていたね?」
「はい。12年ほど前です」

 緊張していても答えられないわけではないのか。
 いや、でもイワライの声は震えている気がする。
 ヒナはイワライをじっと眺めた。

「辞めた理由は?」
「……母が、病気になったからです」
 村に残していた母が病気になり、身の回りの世話のために戻ったとイワライは宰相に説明した。

「休暇ではダメだったのか?」
「当時、1ヶ月の休暇願いを出しましたが認められませんでした」
 イワライは目を伏せ、手をギュッと握った。

 おそらく本当だろう。
 当時の担当大臣は誰だっただろうか?
 平民が王太子殿下の家庭教師をしていることを快く思っていなかった者だったのだろう。
 通常認められるはずの休暇が彼は認められなかったのだ。

「今、母親は?」
「王都の南部で一緒に暮らしています。壊疽えそのため足を切断したので歩く事が出来ません」

 フィリップがくれた報告書には病気の母親と一緒に暮らしていると書かれていたが、足を切断していたなんて。
 治癒でも切断した足はきっと戻らないだろう。

 目を伏せたヒナを慰めるかのようにコヴァック公爵はヒナの頭を優しく撫でた。

「今日、昼間に会っていたカレブとの関係は?」
 驚いたイワライが顔を上げる。

 どうして会っていた相手まで知っているのだろうかとでも言いたそうな顔で宰相を見るが、イワライから質問することは許されない。
 質問に答えない事も許されない。
 イワライは視線を逸らしながら深呼吸をした。

「……彼とはアレクサンドロ王太子殿下の家庭教師時代に知り合いました」
 お互いに平民だったこと、年も近いこと、父が居らず家庭環境が似ていたことですぐに仲良くなったとイワライは言った。
 職場が違うので滅多に会うことはなかったが、会えばお互いの近況を話し、まるで友人のようだったと。

「家庭教師を辞める時、彼には会えませんでした。2ヶ月ほど前ですが偶然仕事中に会い、また話すようになりました」
 家庭教師をしていたことを知っていたためか、カレブはアレクサンドロ王太子殿下に最近想い人ができたと教えてくれたとイワライが言うと、宰相は眉間にシワを寄せた。

 使用人カレブはイーストウッド本邸で勤務しているはず。
 一体どこからそんな話を聞いたのか。
 イーストウッド家はヒナを養女にしたが、そこから想い人とまで発展するには極論すぎる。
 侍女の誰かがイーストウッド本邸で話したということだろうか。

 コヴァック公爵は手帳にカレブとイワライの再会を書き加えた。

「今日の昼間は彼から話しかけてきました。彼の母親が亡くなったので仕事を辞めたと」
 変装をしていたので話しかけられるまで気づかなかったとイワライは目を伏せた。

「カレブは他に何か言っていなかったか?」

 宰相の顔をチラッと確認した後、イワライは話し始める。

「……アレクサンドロ王太子殿下の想い人の娘がいなくなればいいと。……理由を聞こうと思った時に、聖女が現れて聞けませんでした」
 アレクサンドロ王太子殿下の想い人はユリウスの妹。
 つまり今話している宰相の娘だ。
 イワライは気まずそうに苦笑した。

 イワライとカレブ、二人が共謀しているのかと思っていたが、どうやら違うようだ。

 イワライは眼鏡の聖女を狙い、カレブはイーストウッドの娘を狙った。
 どちらもヒナだが。
 
 宰相は「そうか」と溜息をついた。
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