異世界転移。ジェネラルの男と竜人の娘~戦いの果て~

HATI

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初めての大地

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 キーボードを叩く硬質な音が閉め切られた部屋に響く。

 他にはパソコンのHDDが僅かに煩い程度だ。



 10分もしないうちにキーボードを叩く音は静かになり、

 それを叩いていた男はゆっくりと体重を椅子の背もたれに預けながら、

ペットボトルのお茶に口を付ける。



「今日はここまでにしとくか。またMP回復剤買い込まないと」



 昨日あれだけ買い込んだのに、と男は内心溜息を付く。



 パソコンの画面には、2年ほど前に始まったMMORPG[ディエス]のプレイ画面と、

彼の操作するキャラクターが移っている。



 時刻は既に深夜2時を回っている。

 彼は最近派遣の仕事を満了した為、資金に少し余裕がある此処2.3ヶ月はこの[ディエス]の新キャラ育成に費やそうと決めていた。

 初期のキャラクターが最高レベルになり、装備も質は上限に来てしまっている。

 新しく装備を更新してもバリエーションの違いにしかならない。



 その初期キャラクターをプレイ中に特殊職業のキーアイテムを手に入れた為、

朝のうちからその特殊職業を作成し育てていた。



 その職業は[ジェネラル]、将軍の職業だ。

 MMOでは余り見かけない職で、ソロが主な彼もその目新しさに加え作成に必要なキーアイテムも手に入ったことで作成した。

 レベルは50ほど。レベル制限ギリギリの装備と回復剤を注ぎ込む事で加速してあるとはいえ、数日で上げたにしては上出来だ。

 最高レベルの150までは遠いが、ステータスはある程度上がってきている。

 これなら暇な間に100は目指せると男は先ほど落ちた気分を良くし、パソコンを付けたまま布団に入り込む。



 明日は次の狩場に行こう。あそこは金銭も経験値も悪くないし……

 そう考えながら、男は眠りに落ちていった。

 次の日、男の身体はもうそこには無い。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「んあ?」



 寝転がっている男が陽射しの鋭さに目を覚まし、抜けた声を出す。



「なんだ?」



 カーテンで遮られている筈の直射日光に炙られる事の不快さと、疑問。

 そもそも男の背中の感触は慣れ親しんだベットのものではない。



 男は身体を起こし、周囲を見る。



 地面は草が生い茂っていて、近くには端が此処から見えている小さい湖。

 周囲を木々が囲んでいる。



 森の中の湖、といった印象だった。



「いや、いやそうじゃないだろ」



 なんでここにいるのか。いやそもそもここは何処?

 そんな疑問がぐるぐると男の中で渦を巻くが、夢だと判断し頬をつねる。



「……痛い」



 男の希望は外れ、男は少し迷った後勢い良く後ろに倒れこんだ。



「意味わかんねぇし」



 こんな景色に見覚えは無い。

 それにこんな鎧着込んだ憶えも……



 (鎧!?)



 焦って身体を起こし、身体のあちこちを見る。

 武装している。剣は直ぐ横に置いてあるし、全身に軽装とはいえ鎧を着ていた。



「こんなもん持ってた憶えも着た憶えもねー――、おいこれ」



 まったく身に覚えが無い事が続いていたが、ふと見た剣、それに鎧に僅かばかり男は引っかかりを憶えた。

 つい最近、つい直前まで見ていた覚えが……



「ああ、これ[ディエス]の装備、か?」



 [ディエス]の熟練プレイヤーである以上、装備の見た目を見間違うはずが無い。

 剣の模様も装飾も、僅かの違いも無く同じだ。



 それに気付いた時、男の心臓の鼓動は一気に加速する。

 それは恐怖と危機感による物だった。



 ドッドッドッ、そう心臓に急かされる。



 急いで湖へ駆け寄り、水面に反映された顔を見る。



「お、俺じゃない……、こいつ、ベルギオンじゃねーか」



 寝る前まで上げていた自キャラの顔が、紛れも無く水面に映っていた。



 数分ほどじっと水面を見つめていたが、しばらくして長い時間を掛けて防具を外し、

ベルギオンは何度か水を救って顔を洗う。

 湖の水は澄んでおり、恐らく煮沸や濾過をしなくても飲めそうだ。



 防具を外しかなり楽になった後、分からないながらも情報を整理する。



「俺は確かに部屋で寝ていた、よな」



 一つ、ここは全く見覚えは無い。

 二つ、手持ちの物をひっくり返したところ、金以外は寝る前に持ちキャラ……、

ベルギオンが持っていたものと同じだった。サブだったこともあり大した物は無かったが。

 三つ、意識しないと思い出せないが、ベルギオンの記憶が断片的にある。それは俺の操作してきた経歴とほぼ相違なかった。



 分かるのはこの程度だ。

 そして、この現実感を否定できる材料は一向に無い。



 つまり男はベルギオンで、見知らぬ世界に放り出されたってことになる。



 その結論に辿りつき、ベルギオンは頭を抱える。



「嘘だろぉ……いや嘘じゃねぇ。意味が分らんぞ」



 そう呟いてもこの悪夢から覚める様子は無い。

 ベルギオンはガリガリと苛立ちから頭を掻くが一旦思考を切る。



 これ以上考えてもどうしようもない袋小路だからだ。



 脱いだ鎧や手甲、足の脛当てを取り付ける。

 防具のつけ方など分らなかったが手が憶えているのか、思ったより早く付ける事が出来た。



 もしこのままなら現状で生きていく事になる。

 得てして防具、特に鎧は高額なものだ。

 レベル制限の関係でレベルにしては良い程度の物だが、

金も無い以上多少苦しいという理由で置いて行くわけにもいかない。



 そもそも、人間が居るのか?

 もし俺しか人間が居ないとすれば――



 そんな想像をしてしまい冷たく血が凍るような感触が全身を舐めた。



 ――――――――!



「なんだ?」



 何か今聞こえたか?



 そう思いベルギオンは背後へと振り返る。

 そうすると、以前では不可能であっただろう距離まで鮮明に見える。

 確かこの職は命中補正もあった筈だ。この視力はそれの影響だろうか。



 その視力に、モンスターに襲われる少女がハッキリと移った。



 僅かにベルギオンは迷ったが、剣を掴み駆け出す。

 以前の肉体より遥かに早い動きに意識が付いていかず、

こけそうになるが強引に力で傾いた体を振り戻す。



 (なんつー身体だよ。明らかに筋肉の量と密度がかつてと違いすぎる)



 ぐんぐんと距離を詰めていく。少女は逃げているが、モンスターの方が早い。

 その上3体が組織立って追いつめている。猶予はほぼない。

 追い立てているのはやけに筋肉の付いた緑色の小人。

 見た事は無いが、イメージとしてはゴブリンのやつだ。



 ベルギオンはそう判断し、より力を込め速度を増す。



 その走る音に少女が気付くほど距離が狭まった時、ベルギオンは軸足となった右足を蹴り上げ、先頭のモンスターに対し膝蹴りを顔面に決める。

 走ってきた速度と蹴り上げた力が合わさり、モンスターの首が縦に180℃捻じ曲がる。



 こいつはやった。そういう手応えだった。



 残りは二体。木で作った棍棒をそれぞれ一つ持っている。

 ベルギオンが僅かに後ろを見ると少女が倒れている。体力の限界のようだ。



 勢いで来てしまったが、喧嘩程度ならまだしも、生死に関わるような戦いの経験は全く無い。

 身体能力で遅れを取ることはなさそうだが、走ってきた疲れによる汗とは別の冷たい汗がじわりと額に流れる。



 ゴブリン達はいきなり現れて一体屠った男に戸惑いを感じたものの、ベルギオンの覇気の薄さに勝機が高いと見たのか武器を構える。



 見た所、二体一というハンデがあるが、あの棍棒を直撃しなければ戦えそうだ。

 しかしベルギオンに複数に囲まれた経験は無い。どうなるか分からない。



 (先手、取るか……!)



 剣を抜き、両手で構える。

 握り方は身体が勝手に教えてくれる。

 力を込めて、振り上げてから一気に振り下ろす!



 重い長剣を振り下ろす事で重い風圧の音が響き、予想以上の力に身体が前に持っていかれる。

 剣線上にいたゴブリンは避けようとするが、力を込めて加速のついた剣をかわせず大きく斬れた。



 完全に姿勢が崩れたベルギオンの頭を目掛けて、最後のゴブリンが棍棒を振り下ろす。

 ベルギオンは咄嗟に地面に突き刺さった剣から手を離し右腕で頭を庇う。



 ぐわん、と身体が揺れる。

 手甲の防御力が優ったのか、痛みは無いが衝撃で右腕が痺れる。



 (くそ、見た目より響くじゃねーかよぉ……)



 頭に受ければ致命傷は免れないだろう。

 ゴブリンは気色の悪い声で笑い、更に棍棒を振り上げる。



「図にのってんなよくそ!」



 その笑いにベルギオンは不快さが優り、咄嗟に右足で腹を目掛けて前蹴りを離す。

 さっきの一撃で僅かにひるんだ事で完全に油断していたのか、蹴りが綺麗に腹に入った。



「GuGAaa!?」



 腹を蹴られ、胃液と悲鳴を撒き散らしゴブリンは一目散に逃げ出した。

 ベルギオンは出来れば倒しておきたいと思ったが、初めての戦いで気力と精神力が疲労したのか、

 一気に疲れが出てくる。



 ベルギオンは座り込んで乱れた息を整える。

 何度かの呼吸で呼吸のリズムが戻った。



「っと、そうだ。さっきの女の子は」



 完全に忘れていた事に気付いて焦りつつも、ベルギオンは少女に近づく。

 金髪、というよりは茶色の髪の毛。

 あどけない寝顔だ。多少汚れはあるが傷などは見当たらず、呼吸も安定している。

 素人目には分からないが、問題は無さそうだ。



 しかし、余程疲れていたのかすぐには目は醒ましそうに無かった。

 仕方ないので、お姫様抱っこで湖の近くまで連れて行く。



 ベルギオンは、人が見つかった事に、目が覚めてから初めての安堵を抱いたのだった。

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