異世界転移。ジェネラルの男と竜人の娘~戦いの果て~

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石の街・カノフ

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 三人は森を歩く。ひたすら歩く。
 木々が生い茂っているが、太陽の光を遮るほどではない。
 ベルギオンは二人を見失わずにいるのがやっとだ。
 風の涼しさが無ければ汗だくになっていただろう。
 何度か休憩を挟み、夕刻に森を抜ける。

「ここから小屋に向かうわ。そこで休みましょ」
「やっと抜けたか。何度か転びそうになったぞ」
「竜人の村はエルフの街との間しか道がありませんからね。
 その道を使うと抜けるまで二日は掛かりますから」
「そうか……。小屋はもうすぐなんだな?」
「ええ」

 歩き慣れない森にベルギオンはかなり参っていた。
 太陽が沈む前に小屋に到着する。
 どの小屋も灯がついていない。誰も利用してないようだ。

「あら、誰もいないわね。都合が良いわ」
「流石に疲れたな」

 中に入ると、隅に何組かのシーツと毛布。
 奥に暖炉があるだけの質素な内装だった。
 キリアが薪を入れて暖炉に火をつけると、小屋の中が明るくなる。

「明りを使うとその分お金を払う事になるから。
 少し暗いけど我慢ね」
「薪はありますし、大丈夫です。持ってきた材料で夕食を作りますね」

 ラグルは持ってきた鍋に水を注ぎ、暖炉の火を使う。
 それほど時間が掛からず準備が整った。
 夕食のメニューは固いパンと干し肉入りのスープだ。
 パンを浸しながらふやかして食べる。
 ふやかしても少し硬いが、噛んでいる内に甘みを感じてきた。
 その後は食器などを片し、早々と寝る準備を整える。

(この展開は以前にも……)

 ベルギオンはデジャヴを感じ、似た光景を思い出した。

「あれ、そうか。一緒に寝ることになるのか」
「そりゃね。宿も稼ぐまでは一緒になるわよ?」
「よし、離れろ。目一杯だ」
「あの時の事根に持ってる? 良い思いしたじゃない」

 ベルギオンはその言葉にただ首を振った。

「死に掛けた覚えしかない」
「早く寝ないと明日が辛いですよ。真ん中に私が入りますから。
 姉さん。抱き付く位なら良いですけど、やりすぎたら怒りますね?」
「……はい」

 シーツを三組並べる。
 当然ベルギオンは二人と少し離して敷いた。
 キリアの警戒もある。だが女性と同じ場所で寝る経験が無かったのも大きい。
 暖炉は薪が燃え尽きて、ほんの僅かな火が灯っている。

「ねえおきてる?」
「この距離で会話は無理があるだろ。ラグルが起きるぞ」
「大丈夫。この子寝付きいいから」
「まだ寝てないです。というか布団に入ったばかりじゃないですか……」

 元気なキリアにラグルは少し困った笑みを向けた。

「ぐだぐだだな。早く寝ないと明日が辛いぞ」
「分かったわよ。つまらないわねぇ」
「姉さんが自由すぎるんです」

 その後二人の寝息が聞こえ始め、ベルギオンも眠る。

 朝、頭を抑えて悶えているキリアがいた。
 大方またやったのだろう。

「おはよう。痛そうだな」
「愛が――痛い」
「寝相を治したほうが良いぞ」
「ラグルは抱き心地いいのよねぇ。肌は柔らかいし。貴方も触ってみる?」

 笑顔でセクハラをしてくるキリアを、ベルギオンは呆れた顔で見る。

「いや、だめだろ」
「私のは触ったじゃない」
「筋肉が気になってな。他意はなかったが、そういえばそうだな。すまん」
「謝られるとこっちが困るんだけど。乙女の筋肉が気になるって他に気にするところがあるでしょう」
「おお、すまん。そういえばラグルは?」

 ベルギオンの誠意の無い謝罪にキリアは疲れたようにぐったりする。

「はあ……、水を汲みに行ったわ。丁度戻ってきたわね」

 扉をお尻で開けながらラグルが入ってきた。

「もどりました。どうかしましたか?」
「なんでもない」

 変な空気を感じ取ったのか、ラグルは首をかしげる。
 沸かしたお湯でお茶を飲んで眠気を払う。
 広げたシーツを畳み、暖炉や床を軽く掃除して元通りに戻す。

「シーツだけでよかったのよ?」
「俺の居たところでは来た時よりも美しく、と教えられてな。なるべく実行している」
「感心しました。良い心がけだと思います」

 小屋から出てベルギオンが扉を閉める。

「ここからどうするんだ? 歩きだと二日はかかるんだろう?」
「今回はお金が掛かるけど馬車かな。毎日朝と昼過ぎに此処に馬車が来るの。
 その馬車に一人に付き4000ペニで乗っけてくれる」
「……それって幾らだ?」
「もしかして知らない?」

 いくらなんでも、といいたいような視線がベルギオンに向けられた。
 ベルギオンはあえて胸を張る。

「ああ。物々交換が成り立ってたからな」
「税金とかはあったんじゃないの?」
「僻地過ぎて放置されていたようだな」
「あっきれた……いいわ。教えてあげる」

 キリアはため息を一つ吐く。そして地面に座る。
 視線で座れと言われたのでベルギオンも座った。
 キリアは小さい袋を開けると、中の硬貨何枚かを取って地面に置く。
 硬貨の種類は2種類。しかし同じような硬貨でも模様が違う物がある。

「まずはこれ。1枚の価値が100ペニのティレ王国銅貨」

 銅で作られた銅貨をキリアが指差す。
 二本の剣が画かれた旗が刻まれていた。
 ペニというのが通貨の単位になるとのことだ。

「これが一番下の単位になるわ。ある程度大きい国は大抵自国の銅貨がある。
 銅貨の価値は国の間の協定で全て一律とする。と決まっているの」

 他にも模様の違う銅貨が何枚かあった。
 ベルギオンは興味深そうに見る。
 次にキリアは銀で作られた銀貨を指差す。

「これはシュテル連邦国銀貨ね。名前が長いからシュテル銀貨とも言うわ。
 価値は多少上下するけど8000ペニ位かな。
 ティレ王国銀貨なら10000ペニは超える」

 シュテル銀貨は銀貨の中に5種類の動物が刻まれ、物珍しい。

「細工は綺麗だがティレ王国の方が高いんだな。銀の含有量か?」
「そこまで詳しく無いわ。王国の方がお金持ってるからじゃない?」
「少し気になるが……今はいいか」

 少し好奇心が湧いてくる。神話の事もあるし図書館に寄りたいとベルギオンは考えた。

「銀貨も発行してる国は多いわね。どこも7000ペニを割る事は無かったと思う」
「なるほど」
「で、私は持ってないけどこれより上に金貨。もう一つ上に白金貨がある。
 金貨は他にも発行してる国はあるけど、白金貨は王国だけね。
 価値は金貨が10万ペニ前後。白金貨が300万ペニだったと思う」

 白金貨の価値が随分と高い。そうベルギオンは感じた。

「金貨はまだ分かるが……白金貨は随分と価値があるな」
「個人で使うことは無いわね。大きな商会や国と国のやり取り位じゃないかしら」
「大量の金貨をやり取りする位なら、か」

 この世界はほぼ間違いなく機械も電子ネットワークも無い。
 小切手に該当する物はあるだろうが、それでも実際の金でやりとりするのだ。
 手間は少ない方が良いに決まっている。そういう経緯で生まれた可能性はあると考えられた。

「で、今の私達の残金はそれぞれの銀貨2枚と銅貨がそれなり。4万ペニってとこかな。
 ベルギオンは無一文……聞くまでも無かったわね。立て替えておく」
「すまん。ロードゴブリンの歯を売った金で返す。これは幾らで売れるんだ?」
「二組4個でシュテル銀貨5.6枚はいくと思う。依頼なら依頼料で合わせて金貨1枚にはなったかな」
「思ったより良い額だな」
「属性に関係する物は良い値が付くわよ。珍しいけど」

 取り出した歯をベルギオンはまじまじと見る。
 結果的にだが命を賭けて手にした物だ。多少は金になってくれるようで安心する。

「よし。売った額は三人で分けるぞ。今後の依頼なんかも頭割りで行く。いいか?」
「歯に関して私達は構わないですよ?」
「貰った物だが、最初だしこだわりだと思ってくれ。金は変に扱うと誰が相手でも揉める。
 分かりやすく頭割りにしたい」

 その提案にラグルとキリアは少し驚き、目が丸くなる。
 キリアは納得するように微笑み、ラグルは少しばかり溜息をついた。

「分かりやすいってのはいい事よ? ベルギオンがいいなら私は良いかな」
「特に反対する事ではないので……私も問題ありません」
「よし、馬車の代金もきちっと払う。とりあえず街に付いてからだな」

 三人が話している間に二頭の馬が引く馬車が到着する。
 何人かの商人風の男達が降りると、此方に会釈をした後森へ入っていった。
 エルフの街へ行くのだろう。
 キリアが御者に話しかけた。

「三人乗り。カノフの街まで御願いしたいんだけど」
「三人か。1万2千ペニだ。銅貨だけはやめてくれよ」

 キリアはティレ王国銀貨と20枚の銅貨を御者に渡す。

「丁度受け取った。水は途中で飲ませるからもう出る。さっさと乗りな」

 御者はそう告げると馬の運転に戻る。

「さ、乗った乗った」

 キリアにそう言われベルギオンは馬車に乗る。
 乗り込むのはベルギオン・ラグル・キリアの順だ。
 馬車の中は3人が座れる椅子が対になっていた。
 キリアとラグルが隣り合わせで座り、ベルギオンが向かいに座る。

「でるぞ、舌を噛むなよ」

 御者が馬車を走らせながらそう言う。
 やや揺れるが、そう居心地の悪い物ではなかった。
 敷かれた綿のお陰だろう。

「これから向かう街はどういう街なんだ?」
「最も北の大森林に近い街。それがカノフね」
「別名石の街という位石で出来てます。街の規模は大きい方ですね。
 北の大森林で取れる薬草なんかもここから流れます」

 ベルギオンに使われたモノだけでなく、毒や麻痺用の薬草も存在するとのことだ。

「モンスターは余りいないから、腕っ節の強い冒険者は来ないけどね。
 変わりにエルフの街やドワーフの里へ行く商人は良く来るし、拠点も構えたりしてる。
 戦えない冒険者は、ラグルが言ってた薬草なんかを採取に来るわね」
「外敵も居ないし、商売はそれなりに盛んな街か。中継地点だし金が落ちやすいんだろうな」

 揺られに揺られ、夕方に馬車はカノフの街に着いた。
 余りモンスターがいないとの事だったが、3メートルほどの石で出来た外壁が街を囲んでいる。
 見張り台も設置されていたし、門には衛兵が配備されていた。
 完全に防衛目的の建築だ。

「そういえばこの街、というかここはもうシュテル連邦国になるのか?」
「まだ。国境はもっと東よ。この街はほぼ独立して領主もいないわ。
 下手に国が収めると戦争になる可能性があるから。
 実際なったことがあるのよ。だから中立の意味も含めて何処の国もこの街を支配していない」
「だからやたらと防衛の為の設備があるのか」

 その言葉にラグルが少し首をかしげる。

「石をよく使ってると思ってましたけど、そうなんですか?」
「この街は城門を閉じれば篭城できるように作ってると思うぞ。
 国から独立してるなら攻自力でどうにかする必要があるからだろうな」
「そうだったんですか……」

 街に入る手前で馬車から三人は降りる。
 入り口は分厚い木の扉で閉ざされていた。
 扉の前に射る衛兵が幾つか質問してくる。

「三人共冒険者か?」
「そうだ」
「登録済みか?」
「推薦を貰ったのでこの街のギルドで登録するつもりだ」
「推薦は持っているのか。ならいいか……。名前だけ書かせてもらう」

 やや無愛想だが、不真面目な様子は感じはない。
 職務に忠実なのだろう。
 其々の名前を告げると衛兵は紙に記していく。

「入っていいぞ。くれぐれも問題は起こさないように」
「勿論だ。お疲れ様」

 衛兵は右手でその挨拶に返事をすると、中に合図を飛ばす。
 衛兵が中に合図すると、木の扉が開いていく。

 その奥には石造りで作られた家や店が並んでいて、何より活発な空気がある。
 色合いこそ欠けるが、きちんと整えられた街の造形は美しく見えた。



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