追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第五十四話 命の選別

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ゲームセンターから一転して、アレク達はポルカの家へと案内された。
どこか近未来的なアルスフォードの街なみから外れて、森の木陰が降り注ぐ小さな一軒家がポルカの家である。

「で……あんたさん達が、剣を作りたいっちゅーことでよろしいかい?」
「ああ」
「はい」

ポルカに問われ、双子が肯定の返事を示す。
ポルカはお茶を啜ると、テーブルに備えてあった煎餅を口にした。

「えー、あー、何ていったかの」

ポルカがとぼけたように首を傾げるため、ラフテルがすかさずフォローに入る。

「ポルカに短剣を作って欲しい。二人の」
「そうそう、二人の……短剣じゃったのう」
「大丈夫かこのばあさん」

ガディの発言に、「失礼だぞ」とラフテルが釘を刺す。
しかし口に出さないだけで、その場にいる全員が同意見であった。

「ラフテルの頼みじゃ。お二人さんに、立派な短剣を仕上げてやろうのぉ」
「! 本当に!」

興奮気味にエルルが立ち上がる。
そんなエルルを嗜めるように穏やかに笑うと、「それと」とポルカが続けた。

「短剣に組み込んどった魔石はあるかのぅ」
「あるが……」
「出してみぃ」

ポルカに促され、二人は取っておいた魔石をテーブルの上へと置いた。

「ふむぅ……随分と純度の低い魔石じゃのう。これじゃ力も出し切れまい」
「なっ」
「純度が低いって、それ本気で言ってるんですか? この魔石は、その……元父に用意してもらったものです。元父は見栄を張る人でしたから、それ相応のものを用意したと思うのですけど」

エルルの言葉に、ポルカは呆れ顔を浮かべた。

「これはダメじゃな。飾り玉のようなものが、よく保ぅたほうじゃのぅ」

ポルカは魔石をテーブルに再度置くと、手を組み合わせて二人に言った。

「お二人さんには今から、魔石を魔物から採ってきてもらおう。なぁに、殺さなくていい。魔石さえ採れれば、逃げてきてよろしい」
「魔物を殺さないって。俺達は魔物を殺すのが当たり前なんだぞ」
「生物を無闇矢鱈に殺めてなにになるというのじゃ? 少なくとも、そちらのお嬢さんは望んでいなさそうじゃがな」

振り返れば、複雑な表情をしたアリスが目に入る。
そうだ、こいつは悪魔だった。
あからさまに嫌悪をガディが押し出したため、エルルは彼とアリスの間に割って入った。

「あなたは魔物を殺すことに対してどう思うの?」
「……殺すことに目的があるなら、しょうがないです。でも、わざわざ仕留めるような真似は、してほしくないです」
「私達にとって魔物は敵なのよ?」
「それでも……してほしくないんです」

アリスの訴えに、「そう」と淡白な返事をエルルがする。

「アレクはどう思う」
「えっ」
「この娘を拾ったのはアレクよ。アレクが責任を取らなきゃ」

エルルの発言に、アレクは悩む素振りを見せた。
魔物は敵ーーというより、今まで狩ることに疑問を抱かなかった存在だ。
そこでアレクの頭に、グラフィールのディラン王のことがよぎる。
人の命を弄び、実験に費やした恐ろしい者。
しかし彼は、世の中の矛盾を射抜くような質問を、アレクにしてみせた。

『君が魔物を殺すのと、何が違う?』

アレクは恐らく、無意識的に命の価値に順位をつけていたのだろう。
人と獣に対する評価が違うように。
ポルカはどこか遠い目をして、アレクに向かって話しかける。

「坊や、命の価値というものはな、皆平等なのだよ。ただ測る者によって、価値が決められてしまう。これこそ知能を持つ生き物の愚かさと言えよう」
「ポルカさん……」
「どんな決断をしようと、それは坊やの主観でしかないんだ」

ポルカの一言は達観していた。
アレクは決めた。

「兄様、姉様。魔物は……危険になったら倒して」
「その危険っていうのはどこまで?」
「二人が怪我したり、周りの人が危険な目にあったらでいい。本当に無害そうなら、放置してほしい。アリスを拾った時点でわがままは言ってる。ごめん。だけど、甘えさせてほしい」

アレクの意志を聞き届け、エルルはふと花が綻ぶように笑った。
そんな笑い方をするのは、弟が相手だからだろう。

「わかったわ。あなたの考えに添いましょう」
「ありがとう!」
「ポルカ。その魔物の特徴と、住んでる場所を教えてくれ」
「急かすねぇお若いの。アチキはもう年寄りなんだよ?」

ポルカは本棚から一冊の図鑑を抜き出すと、本のページを捲り出す。

「ええとね……ううん……これだ」

ポルカが指差したのは、額に魔石の埋まった魔物だった。

「これから魔石を抜いておいで。すばしっこいから、捕まえるのには苦労するがの」
「了解した」
「あ、そうそう。お二人で捕まえなさいな。他の者が協力した瞬間、アチキは剣を作る話をなしにしてしまうからのぅ」

ポルカの忠告に対して、ガディは至極当然とばかりに返す。

「俺達を誰だと思ってる。てこずりはしない」
「……どこまでも若いのぅ」

ガディとエルルは身を翻して家を出て行った。
二人が森へと消えていく姿を、心配げにアレクは眺める。

「二人共、大丈夫かな」
「心配ないさ。アレクの兄と姉なんだから」

ラフテルの信頼に、アレクは嬉しくなって「うん」と呟く。
早く帰ってきてほしいと願いながら、アレクは彼らの姿を思い描いた。
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