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アルスフォード編
第六十九話 自己分析
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ガディが苦手とするもの。
水。それと、避ける癖の制御。
それは両方長所ともなり得るところであり、ガディとは切っても離せない。
泳げないが水魔法は得意だ。
避ける癖も、使わざるを得ない時がある。
しかし、ここでガディは、己の半身であるエルルの得意不得意を把握していないことに気がついた。
それは魔法を撃ち合い、息も切れ切れで立ち上がれないほどの疲労に襲われてからのことだった。
治癒魔法を使う力もない。
汗まみれになった視界で、横へと視線を投げる。
世界で一番見慣れた顔が、同じように虚な目でこちらを見返していた。
「エルル……」
「何よ……」
「お前の……お前の得意って、なんだ」
「私の……得意……?」
はあ、はあ、と途切れ途切れの息をしながら、エルルは考えた。
「そういえば……あまり、わからないかも……」
「……それって」
「確かに……攻撃魔法はできるけど……それが、唯一無二のものかと言われれば、違う気がするの……」
「じゃあ……代わりに、苦手は」
「それも……わからないわね……私はガディみたいに、泳げないわけじゃないし……」
「おい……」
「冗談よ」
ようやく息を整え、エルルは体を起こした。
「そうね。私もまあ、避けることはできるわ。伊達に師匠を見てたわけじゃない。でもやっぱり、師匠には遠く及ばない」
「……師匠はああ見えて凄いよな」
「あんなにぐーたらしてるのに」
脳内で不満げに『失礼ですけどぉ!?』と叫ぶクーヴェルが見える。
二人でくすくすと笑っていると、エルルが続けた。
「そうね。でも、これから得意と苦手を探していこうかしら。人生で手詰まりになったこと、そんなになかったから」
「まあそうだよな……お前、器用だしな」
「その点ガディは不器用ね」
「うるさい」
「あはは」
ガディがいじけた子供のような対応をすれば、エルルは決まって適当に笑い返す。
いつものお決まりだ。
「でも、こうしてみると、私達って……案外他人よね」
「それってどういう意味だ」
「違うってこと。ポルカは同一人物だとか言ってたけど、やっぱり別れたってことに意味があると思うの」
エルルは振り返り、ガディを立ち上がらせるために手を差し伸べた。
「人格が分たれていなかったら、こうして喋ることも、協力することもできなかった。それって何だか凄いことだと思わない?」
「まあ……そうかもな」
「なに、その反応」
ガディはエルルの手を握り返し、立ち上がる。
「いい匂いがする。夕飯誰かが作ってるのか」
「食べさせてもらいましょうか」
二人は揃って、ポルカの家へと戻った。
◆ ◆ ◆
「ポルカ。飯」
戻った双子を視界に入れると、ポルカはやれやれといった風な表情を浮かべる。
「まだ気配は掴めんようじゃの」
「そうだな」
「まあ仕方あるまい。今夜はポルカ特性シチューじゃぞ」
食卓に並べられたシチューを、二人は早速いただく。
魔力も体力も底をつき、かなりの極限状態であるせいか、シチューが酷く旨い。
そこでドアが開いて、ラフテルとナオが入ってくる。
「ラフテル。シチュー食べるかの?」
「ああ、もらおう」
「シチューですかぁ。いいですね!」
「ナオは食べられないだろ」
「いいですよ、私もご飯にしますから」
ラフテルとナオはそんな言い合いをしつつ、双子の前の席へとつく。
ラフテルの前にはシチューが、ナオの前には何やら怪しげなドリンクが置かれた。
その禍々しい色味に、ガディは思わず顔を顰めた。
「お前……なんだそれ」
「これは燃料です! 私、これがなかったら動けなくなるんですよ」
「燃料……どういう原料なんだ」
「特性ジュースです!」
ウキウキとしてジュースを飲み出したナオに、それ以上問うことはできなかった。
そこでライアンとシオン、アリスが入ってくる。
「疲れた~! あの魔物どう頑張っても倒せねえ!」
「お、お腹空いた……」
「二人共、また明日も魔力空っぽにしてやり直しね」
「「そんな~!」」
へろへろになったライアンとシオンに、ポルカは声をかけた。
「シチュー食べるかの?」
「食べますっ!」
「やったシチューだ!」
「はてさて……悪魔の娘も、人間と変わらぬ物が食べられたのかの」
「食べれます」
「そうか。じゃあ、シチューにしようかの」
そんなやり取りをした三人が席に着けば、あっという間に食卓が賑やかになる。
そこでエルルは、ユリーカとアレクがいないことに気がつく。
(まさか……! 二人で隠れて、恋仲にでも!?)
あり得ない妄想をしたエルルは、焦ってシオンに声をかける。
「いいの!?」
「へ?」
「アレクが取られるわよ……!?」
「ええ?」
ちなみに、エルルはシオンのことも認めていない。
可愛い可愛い弟を婿になどやらん。という自論である。
しかし唐突にそんなことを言われたシオンは、困ったように目を白黒させるだけだ。
「ど、どういうことですか?」
「だって、アレクとユリーカがいないじゃない」
「二人ですか……アレク君とユリーカは、その」
シオンから説明を受け、ガディとエルルはシチューを放って席から立った。
急いで部屋へと向かうと、アレクがベットで眠っている。
その横には、ユリーカが同じように眠っていた。
「アレク……」
眠り続ける弟へと歩み寄る。
〔過去視〕で一体、どんな景色を見ているのだろう。
綺麗な紫の瞳が見つめ返してくれないことに寂しさを覚えつつ、エルルはアレクの頭を撫でた。
「アレク……帰ってきてね」
本当に、可愛い弟だ。
二人には目に入れても痛くない、寧ろご褒美レベルの可愛すぎる弟である。
客観的に見ても美しい容姿をしているアレクが、日頃誰かに攫われてしまわないか密かに心配していた。
そんなアレクのためにも、強くならねばなるまい。
「……ん?」
そういえば、ナオが言っていたことがあった。
『お腹空いたら、美味しいもの食べたくなりません?』
「……そうか」
ガディはエルルに、確信を得た表情を向けた。
水。それと、避ける癖の制御。
それは両方長所ともなり得るところであり、ガディとは切っても離せない。
泳げないが水魔法は得意だ。
避ける癖も、使わざるを得ない時がある。
しかし、ここでガディは、己の半身であるエルルの得意不得意を把握していないことに気がついた。
それは魔法を撃ち合い、息も切れ切れで立ち上がれないほどの疲労に襲われてからのことだった。
治癒魔法を使う力もない。
汗まみれになった視界で、横へと視線を投げる。
世界で一番見慣れた顔が、同じように虚な目でこちらを見返していた。
「エルル……」
「何よ……」
「お前の……お前の得意って、なんだ」
「私の……得意……?」
はあ、はあ、と途切れ途切れの息をしながら、エルルは考えた。
「そういえば……あまり、わからないかも……」
「……それって」
「確かに……攻撃魔法はできるけど……それが、唯一無二のものかと言われれば、違う気がするの……」
「じゃあ……代わりに、苦手は」
「それも……わからないわね……私はガディみたいに、泳げないわけじゃないし……」
「おい……」
「冗談よ」
ようやく息を整え、エルルは体を起こした。
「そうね。私もまあ、避けることはできるわ。伊達に師匠を見てたわけじゃない。でもやっぱり、師匠には遠く及ばない」
「……師匠はああ見えて凄いよな」
「あんなにぐーたらしてるのに」
脳内で不満げに『失礼ですけどぉ!?』と叫ぶクーヴェルが見える。
二人でくすくすと笑っていると、エルルが続けた。
「そうね。でも、これから得意と苦手を探していこうかしら。人生で手詰まりになったこと、そんなになかったから」
「まあそうだよな……お前、器用だしな」
「その点ガディは不器用ね」
「うるさい」
「あはは」
ガディがいじけた子供のような対応をすれば、エルルは決まって適当に笑い返す。
いつものお決まりだ。
「でも、こうしてみると、私達って……案外他人よね」
「それってどういう意味だ」
「違うってこと。ポルカは同一人物だとか言ってたけど、やっぱり別れたってことに意味があると思うの」
エルルは振り返り、ガディを立ち上がらせるために手を差し伸べた。
「人格が分たれていなかったら、こうして喋ることも、協力することもできなかった。それって何だか凄いことだと思わない?」
「まあ……そうかもな」
「なに、その反応」
ガディはエルルの手を握り返し、立ち上がる。
「いい匂いがする。夕飯誰かが作ってるのか」
「食べさせてもらいましょうか」
二人は揃って、ポルカの家へと戻った。
◆ ◆ ◆
「ポルカ。飯」
戻った双子を視界に入れると、ポルカはやれやれといった風な表情を浮かべる。
「まだ気配は掴めんようじゃの」
「そうだな」
「まあ仕方あるまい。今夜はポルカ特性シチューじゃぞ」
食卓に並べられたシチューを、二人は早速いただく。
魔力も体力も底をつき、かなりの極限状態であるせいか、シチューが酷く旨い。
そこでドアが開いて、ラフテルとナオが入ってくる。
「ラフテル。シチュー食べるかの?」
「ああ、もらおう」
「シチューですかぁ。いいですね!」
「ナオは食べられないだろ」
「いいですよ、私もご飯にしますから」
ラフテルとナオはそんな言い合いをしつつ、双子の前の席へとつく。
ラフテルの前にはシチューが、ナオの前には何やら怪しげなドリンクが置かれた。
その禍々しい色味に、ガディは思わず顔を顰めた。
「お前……なんだそれ」
「これは燃料です! 私、これがなかったら動けなくなるんですよ」
「燃料……どういう原料なんだ」
「特性ジュースです!」
ウキウキとしてジュースを飲み出したナオに、それ以上問うことはできなかった。
そこでライアンとシオン、アリスが入ってくる。
「疲れた~! あの魔物どう頑張っても倒せねえ!」
「お、お腹空いた……」
「二人共、また明日も魔力空っぽにしてやり直しね」
「「そんな~!」」
へろへろになったライアンとシオンに、ポルカは声をかけた。
「シチュー食べるかの?」
「食べますっ!」
「やったシチューだ!」
「はてさて……悪魔の娘も、人間と変わらぬ物が食べられたのかの」
「食べれます」
「そうか。じゃあ、シチューにしようかの」
そんなやり取りをした三人が席に着けば、あっという間に食卓が賑やかになる。
そこでエルルは、ユリーカとアレクがいないことに気がつく。
(まさか……! 二人で隠れて、恋仲にでも!?)
あり得ない妄想をしたエルルは、焦ってシオンに声をかける。
「いいの!?」
「へ?」
「アレクが取られるわよ……!?」
「ええ?」
ちなみに、エルルはシオンのことも認めていない。
可愛い可愛い弟を婿になどやらん。という自論である。
しかし唐突にそんなことを言われたシオンは、困ったように目を白黒させるだけだ。
「ど、どういうことですか?」
「だって、アレクとユリーカがいないじゃない」
「二人ですか……アレク君とユリーカは、その」
シオンから説明を受け、ガディとエルルはシチューを放って席から立った。
急いで部屋へと向かうと、アレクがベットで眠っている。
その横には、ユリーカが同じように眠っていた。
「アレク……」
眠り続ける弟へと歩み寄る。
〔過去視〕で一体、どんな景色を見ているのだろう。
綺麗な紫の瞳が見つめ返してくれないことに寂しさを覚えつつ、エルルはアレクの頭を撫でた。
「アレク……帰ってきてね」
本当に、可愛い弟だ。
二人には目に入れても痛くない、寧ろご褒美レベルの可愛すぎる弟である。
客観的に見ても美しい容姿をしているアレクが、日頃誰かに攫われてしまわないか密かに心配していた。
そんなアレクのためにも、強くならねばなるまい。
「……ん?」
そういえば、ナオが言っていたことがあった。
『お腹空いたら、美味しいもの食べたくなりません?』
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ガディはエルルに、確信を得た表情を向けた。
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