騎士様も異世界人

キマイラ

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 両想いだということが判明したけれど私達の生活には一切変化はなかった。正直に言おう、両想いなのだから手ぐらい繋いでみたい。繋いでみたいけど……。これ、どう言えばいいの? 一人で悶々としても仕方がないので皿洗いをしながら声をかけてみた。

「パーシヴァルさん、私達両想いですよね」

「はい、マスター」

「じゃあ恋人ですよね」

「そうなりますね」

「恋人らしいこと、してみたいです」

「恋人らしいことですか。俺はしたことがないので教えてもらえませんかマスター」

「とりあえず、そのマスター呼びをやめませんか。恋人なんですし」

「それもそうですね。ではミナーヴァ、俺に恋人らしいことを教えてくれませんか」

「とりあえず手でも繋いでみます?」

 パーシヴァルさんが座るソファーの近くまで行って提案した。するとパーシヴァルさんは私の手を取って指を絡めた。恋人繋ぎってやつですね。うわ、手の大きさが全然違う。

「それからどうするんです?」

「どうしましょうね」

 これは本心だった。だって手ぐらい繋いでみたいとしか思ってなかったからこれからどうすると言われても困る。いや恋人らしいことってなに? そう考え込んでいる私の指先にパーシヴァルさんが口付けて、上目遣いにこちらを見遣る。うわ、なんていうかエロい。顔が真っ赤になったのが自分でも分かる。

「ミナーヴァ、どうしてほしいですか?」

「いえ、もう十分です……」

 この感情をどう表せばいいのか分からないけど、お腹いっぱいが一番近い気がする。きゅんきゅんゲージとかドキドキゲージというものがあるのならばもう満タンだ。私的には限界を迎えている。深呼吸、深呼吸。一回落ち着きたい。

「それは残念です」

 そう言ってパーシヴァルさんは私の手を離した。指先がなんだか熱を持っているような気がして、思わず胸の前で唇が触れた方の手を隠すように反対の手で覆っていた。

 次の日、仕事に出かけるパーシヴァルさんを見送っていると頬に唇が降ってきた。一瞬なにが起こったのか分からなくて呆然とパーシヴァルさんを見上げていた。それから理解が追い付いて顔が赤くなる。パーシヴァルさんはそんな私をおかしそうに見下ろしていた。

「行って参ります」

「……いってらっしゃい」

 パーシヴァルさんは目を細めてそう言うものだからできるだけ普段通りに聞こえるように声をかけた。

 え、あれ、なに? なにってキスだけど、それも頬だけど。……まあ、私達は恋人なのだしそういうことをしてもおかしくはないわけで。いや、でも、照れる。恥ずかしいものは恥ずかしい。でも恋人らしいことがしてみたいって言ったのは私の方だし、やめてくれっていうのもどうなんだろう。なんていうか我儘が過ぎる気がする。

 そんなわけで上の空だった私は今朝のキスを何度も思い出して反芻しながら一日を過ごしていた。……なにも手に付かなかった。

 あ、パーシヴァルさん帰って来たな。お出迎えしよう。

「おかえりなさい」

「ただ今帰りました」

 ぎゅうと抱きしめられて私は固まる。いや、なに、どうしたの? 混乱する頭では腕の中で顔を赤くすることしかできない。つむじに唇が降ってくる。いや本当になに。どうして。確かに恋人らしいことがしてみたいとは言ったけれどいきなりすぎませんか。

 パーシヴァルさんはそのまま私の頭に顔をくっつけて深呼吸をしている。

「あの、恥ずかしいのですが」

「もう少し、このままでいさせてください」

「どうかしたんですか」

「少し嫌なことがありました」

「私でよければ話を聞きますよ」

「ミナーヴァには聞かせられません」

「いやそれめっちゃ気になります」

「不快なことを言われただけですから気にしないでください」

 私には聞かせられない不快なことっていったいなんなんだろう。すごく気になるけど本人が気にしないでくれって言ってるし気にするのはよそう。

「今日のご飯はチキンソテーとポトフです。先にお風呂にしますか? それともご飯にしますか?」

「それは楽しみです。……先に風呂に入ってきます」

 そう言ってパーシヴァルさんは離れていった。……なんだか落ち込んでるっぽかったし、ここはお風呂にする? ご飯にする? それとも私? って冗談でも言うべきだったのだろうか。いや、パーシヴァルさんはそもそも異世界人なのだし伝わらないかもしれない。やめておいてよかった。

 それから夕飯を食べてそろそろお風呂に入って寝ようかな、なんて考えていたら声をかけられた。

「ミナーヴァ、恋人らしいことをしましょう」

「あ、はい」

 ソファーに座るパーシヴァルさんの隣に座れば手を取られた。指先に口付けられてそっと人差し指を甘噛みされる。

「っ……!」

 思わず息を飲んだ。そのまま舌が絡みついてくる。いや待って。なんか一気にレベルが上がった。

「パ、パーシヴァルさん?」

「ミナーヴァ、どうしてほしいですか」

 今度は中指を甘噛みして私に問うてくる。当然のように舌を絡められて優しく吸われる。なにこれどういう状況? 私の人生で一番エロティックな時間だぞ? なんなの? 不意に目が合って恥ずかしくて堪らなくて慌てて目を逸らした。

 混乱して固まる私にパーシヴァルさんは更に言葉を続ける。

「答えてくださいミナーヴァ」

「じゅ、じゅうぶんです……」

「それは残念です」

 そう言ってパーシヴァルさんは私の手を解放した。私を見つめるパーシヴァルさんの目はなんだかいつもと違う気がしてドキドキした。

「あの、どうしていつも私に聞くんですか? どうしてほしいかって」

「俺はミナーヴァの嫌がることはしたくないと思っているので。あなたの望みなら全て叶えたいと思っているんですよ。ああ、でも、それだけじゃないな。……俺はあなたに欲されたいんです」

 私に欲されたい。その言葉の意味は分からないふりがしたかった。だってこれまでの発言からすると、キスとかその先とか全部私がしたいって言わないとしないってことでしょう。乙女としてはそんなこと言えない。いや、興味がないわけじゃないのよ。でも恥ずかしい気持ちもあるしそんなこと自分から言えない。……私が十分だと言うと残念ですって言うしパーシヴァルさんもそういうことがしたいという気持ちはあるのよね? たぶん。

「パーシヴァルさん、全部あなたの好きにしてって言ったらどうします?」

「これ以上ない喜びを感じますね。だってそう言うってことは俺ならミナーヴァにとって悪いことをしないと信頼されているわけですから」

 何気なく問うた言葉にそう返されてもっと恥ずかしくなった。確かに悪いようにされるなんて欠片も想像していなかったけど、それが信頼だと感情に名付けられると気恥ずかしさがあった。
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