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January
嫉妬の解呪法 Side 翠葉 01話
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ツカサのキスに身を任せていると、再び携帯が鳴り出した。
名残惜しさを感じながらツカサから離れる。と、着信音はすぐに鳴り止んだ。
「メール……?」
ディスプレイを表示させると、鎌田くんからのメールだった。
新年の挨拶に加え、「助けて!!!」の文字。
何かと思えば、添付された写真に数学と化学の問題が写っていた。
あぁ、いつものヘルプメールだな、と思いながら、バッグからメモ帳を取り出し問題を解いていく。
途中式もきちんと書いて、わかりやすいように解き方のポイントも記して。
すると、私の行動を見ていたツカサに「なんで突然数学と化学?」と尋ねられた。
私は携帯のディスプレイをツカサへ向けながら、
「鎌田くんからのヘルプメール。たまにね、こういうメールが届くの。――できた!」
私はツカサから携帯を受け取りメモ帳の写真を撮ると、早速鎌田くんに返信した。そしてメモ帳をバッグに片付けていると、今度は電話が鳴り出す。
「もしもし鎌田くん?」
『御園生、明けましておめでとう!』
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくね」
『こちらこそ! メールの返信ありがとう! すごい助かった! なんかドツボにはまって全然解けなくって困ってたんだ。友達にも同様のメールを送ったんだけど、『バカヤロウ、受験生にだって年末年始を楽しむ権利くらいあるっ』とかなんとか言われて取り合ってもらえなくてさ。でも、解けない問題ってずっと頭に居座るでしょ? だから、割とレスポンスが早い御園生に頼っちゃった。夜遅くにごめんね」
「気にしなくて大丈夫だよ。今年の年末年始はお友達と過ごしているから。あ、数学のほうは一癖ある問題だったけど、あの説明でわかった?」
『ばっちり! 御園生の説明、学校や塾の先生の説明よりわかりやすくて――』
話している途中でツカサの手が伸びてきて、何事かとびっくりしているうちに携帯を奪われた。
「ツカサっ……!?」
慌てる私をよそに、ツカサは静かに口を開く。
「藤宮だけど――これから俺のメアドと電話番号送るから、次からは俺に訊いてこい。――翠はこれから受験に備えて忙しくなる。その点、俺ならもう受験も終わっているし、答えられない問題があるとも思えない。――その点は善処する」
通話を切ったツカサは、私の携帯からメールを作成し始めた。
どうやら、今話したとおり、自分のアドレスと携帯の番号を鎌田くんに送るつもりらしい。
呆気に取られて見ていると、ツカサは居心地悪そうに身体の向きを変えた。
メールの送信が終わり携帯を返されるとき、真っ直ぐな目で意外すぎる一言を見舞われる。
「嫉妬くらいするって前にも言ったと思うんだけど」
嫉妬――
その言葉に、以前感じたものとはまったく違う感情を覚える。
どうして嫉妬されて嬉しいなんて思ったんだろう。嫉妬するほうはこんなにも苦しいというのに。
申し訳なくて申し訳なくて、顔が上げられない。
すると、「翠?」とうかがうように声をかけられた。
私は小さな声で尋ねる。
「嫉妬……苦しい?」
ツカサをそっと見上げると、
「苦しくはない。ただ、面白くないだけ。でも、だからといって翠の交友関係を制限するようなことはできないし、自分が知ってる人間たちにおいては嫉妬したことがないから――だから、できるだけ翠の交友関係には詳しくありたいと思う。たぶん、鎌田に関しても、鎌田がどんな人間で、どういうつもりで翠と接しているのかさえわかれば嫉妬はしなくなると思う」
ツカサ独特の思考回路に驚くと同時、思っていることをすべて話してもらえた気がして少し嬉しくなる。
だから私も正直に――
「あのね、私も嫉妬する……」
それはついさっきの出来事だ。
ちょっと思い出すだけでも胸がきゅっと締め付けられるような感覚があるし、恐怖だって襲ってくる。でも、言葉にしたら、ツカサに伝えたら、少しは楽になれるだろうか。
「ツカサはまだ大学生じゃないし、話の合う女子が現れたわけでもないのに、未来にそういう人が現れたら……って考えるだけで涙が出てくるほど苦しかった。ツカサが自分以外の人を視界に入れることがこんなに苦しいことだとは思わなかった。前に、嫉妬されて嬉しいなんて言ってごめんなさい」
頭を下げると、ツカサに顔を上げるよう促される。
「あのさ、わかってると思うけど、そんな人間は存在すらしてないんだけど……」
「うん、わかってる……。だから、想像するだけでも嫉妬って地獄だなって思ったっていうお話」
言った直後、包み込まれるように抱きしめられた。そして耳元で、「ちょっとわかったかも」と囁かれる。
「え……?」
「嫉妬されて嬉しいなんて気持ち、絶対わからないと思ってたけど、これは確かに嬉しいかもしれない。でも、そんな心配は無用だけど」
何度でも否定してくれることが嬉しくて、私はツカサにしがみつく。
大好き、大好き、大好き――
こんなにも好きなのはツカサだけなのだから、本当はツカサだって誰に嫉妬する必要はない。それでも「嫉妬」という感情は、コントロールするのが難しいものだから……。
その厄介な感情を、どうしたら取り除いてあげられるだろう。どうすれば、いい……?
鎌田くんに関してはツカサが自分から動いてくれた。ほかにツカサの知らない人といったら――慧くん?
……慧くんも紹介すればいいのかな?
少しうかがうように、慧くんも紹介する旨を伝えると、
「それ、紹介するときは彼氏じゃなくてフィアンセでよろしく」
耳に響く「フィアンセ」という言葉がくすぐったい。
「婚約者です」と紹介するのは恥ずかしく思えるけれど、決していやなわけじゃない。
私は躊躇することなく快諾した。
ココン、ココン――
突然のノック音に、私は慌ててツカサから離れる。と、「開けるわよ」と桃華さんの声がした。
部屋のドアが開けられ、桃華さんはまっすぐ私のもとまでやってくると、
「もう体調は大丈夫?」
うかがうように顔を覗き込まれた瞬間、桃華さんの目つきが鋭いものとなり、私を抱き寄せツカサに噛み付いた。
「あんた、何翠葉のこと泣かせてるのよっ」
「泣かせたの、俺じゃないんだけど……」
「そんなわけないでしょっ!? この部屋にあんた以外に誰がいるのよっ」
私が口を挟もうとすると、ツカサがうんざりした様子で口を開いた。
「たとえこの部屋に俺たちしかいなかったとして、携帯ってツールがある限り、いつでも第三者が介入することは可能なんだけど。そんなことも思いつかないわけ?」
あああ、もう……またそういう言い方する……。
桃華さんは悔しそうに唇を噛み締めるとこちらを向き、
「電話って誰よっ!?」
「あ、秋斗さんっ」
桃華さんは口をポカンと開け、目を丸くして驚いた。
「なんで秋斗先生……?」
「あ、えと……新年の挨拶の電話がかかってきたのだけど、私ちょっと気が動転していて、秋斗さんにするべきじゃない相談ごとをしてしまったの。だから、少し意地悪をされちゃったのかな……? 言われたことを真に受けて、ちょっと涙が止まらないことになってしまって……」
「気が動転してたっていうのはこの男のせいよね?」
桃華さんはツカサを一睨みしてから、
「秋斗先生の機嫌を損ねるような相談って、いったいなんだったの?」
若干呆れたふうの桃華さんに、
「婚約や結婚って、両親に相談せずにお返事をしていいのかどうか……?」
言った直後、桃華さんは冷めた視線をツカサへ向け、私の方へ向き直っては深く深くため息をついた。その一連の動作を見て、やっぱり秋斗さんに相談すべきことではなかったことを改めて自覚する。
こめかみを押さえた桃華さんは、
「それで……? 秋斗先生の回答は? 意地悪って何を言われたのよ」
桃華さんに説明するために思い返すと、それだけで心がヒリヒリとする気がした。それを我慢して話すと、改めて大きなため息をつかれる。
「意地悪に聞こえなくもないけれど、秋斗先生の言うことは一理あるわね。人との出逢いは未知数だし、人との相性もまた未知数」
その言葉に、再度落ち込んでしまいそうな自分がいた。すると、
「もうっ、そんな顔しないっ! だって、一理あったとしても、翠葉の相手はこの男よ? たかだか将来を志すものが同じ人間が集まるところに放り込まれたところで、この男と話の合う人間なんてそうそういやしないわよ。見てみなさいよ、風間先輩なんて足蹴にされこそすれ、友人とすら思われてないわ。よくて同級生止まり。女子だってそう。たいていはこの容姿に惹かれてホイホイ集まってくるんでしょうけど、この男がそれを許すわけがないし、二度と近づかれないような言葉を見舞って以上終了よ。ま、実験やなんやかやとチームを組むことはあるでしょうけど、それだって生徒会と同じ。人間を一機能としてしか認知しないに違いないわ。使えないものは切り捨てるし、それが無理なら放置を決め込む。使える人間は手足として使うのみ。自分の邪魔にならないよう采配を揮うっていうか――人間相手っていうより将棋の駒程度にしか考えてないわよ。本当に最悪。こんな悪魔みたいな男が翠葉の彼氏だなんて。……でも、そんな男がやっと自分以外の人間に興味を持ったの。翠葉だけを目に入れたの。それは何よりも特別なことだし、この先そう何度もあることじゃないことくらい、赤の他人で大嫌いな先輩のことだとしてもわかるわ。だから不安になんて思わなくて大丈夫。ただ……翠葉が藤宮司以上の男子と知り合う機会に関してはなんとも言えないわねぇ……? そのあたりはどうお考えなのかしら? フジミヤセンパイ」
「そうだな……。契約不履行、または精神的損害を理由に容赦なく損害賠償を請求しようか?」
口端を上げて笑ったツカサを見て、「やっぱ魔王よ……」と桃華さんは零し、私に向き直る。
「本当にこんな魔王と婚約していいのっ!?」
急に本題を振られた私は思わず慌てる。でも、慌てても何しても答えは変わらない。
「うん。ツカサがいい。ツカサがいいの」
答えると、桃華さんは意外なほどあっさり「あっそ」と口にし、私たちふたりを交互に見ると佇まいを直し、
「ご婚約おめでとうございます」ととてもきれいに腰を折ったのだった。
その後、「今年もカウントダウンは一緒にできなかった」と海斗くんに文句を言われつつ、みんな揃って初詣をし、少しの仮眠をとってから次なるイベントのために移動開始。
夜通し動いている電車に乗って海へ向かうと、人がたくさん集まる浜辺で初日の出を拝んだ。
去年の冬休み、ふたりの兄と幸倉運動公園から見た日の出もきれいだったけれど、何も邪魔するものがない場所から臨む初日の出の神々しさは格別で、その光景から目が離せずうっかり願いごとをするのを忘れそうになったほど。
私の背後に立っていたツカサに「拝まなくていいの?」と声をかけられなかったら、ただただ初日の出を見つめて終わっていたに違いない。
私は慌てて手を合わせ目を瞑り、ただひとつ、心にある願いを声にならない声で唱える。
それは神社でお願いしたことと同様のもの。
この先、何があってもツカサと一緒にいられますように――
それ以外の願いごとも、それ以上の願いごとも、今の私にはなかった。
名残惜しさを感じながらツカサから離れる。と、着信音はすぐに鳴り止んだ。
「メール……?」
ディスプレイを表示させると、鎌田くんからのメールだった。
新年の挨拶に加え、「助けて!!!」の文字。
何かと思えば、添付された写真に数学と化学の問題が写っていた。
あぁ、いつものヘルプメールだな、と思いながら、バッグからメモ帳を取り出し問題を解いていく。
途中式もきちんと書いて、わかりやすいように解き方のポイントも記して。
すると、私の行動を見ていたツカサに「なんで突然数学と化学?」と尋ねられた。
私は携帯のディスプレイをツカサへ向けながら、
「鎌田くんからのヘルプメール。たまにね、こういうメールが届くの。――できた!」
私はツカサから携帯を受け取りメモ帳の写真を撮ると、早速鎌田くんに返信した。そしてメモ帳をバッグに片付けていると、今度は電話が鳴り出す。
「もしもし鎌田くん?」
『御園生、明けましておめでとう!』
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくね」
『こちらこそ! メールの返信ありがとう! すごい助かった! なんかドツボにはまって全然解けなくって困ってたんだ。友達にも同様のメールを送ったんだけど、『バカヤロウ、受験生にだって年末年始を楽しむ権利くらいあるっ』とかなんとか言われて取り合ってもらえなくてさ。でも、解けない問題ってずっと頭に居座るでしょ? だから、割とレスポンスが早い御園生に頼っちゃった。夜遅くにごめんね」
「気にしなくて大丈夫だよ。今年の年末年始はお友達と過ごしているから。あ、数学のほうは一癖ある問題だったけど、あの説明でわかった?」
『ばっちり! 御園生の説明、学校や塾の先生の説明よりわかりやすくて――』
話している途中でツカサの手が伸びてきて、何事かとびっくりしているうちに携帯を奪われた。
「ツカサっ……!?」
慌てる私をよそに、ツカサは静かに口を開く。
「藤宮だけど――これから俺のメアドと電話番号送るから、次からは俺に訊いてこい。――翠はこれから受験に備えて忙しくなる。その点、俺ならもう受験も終わっているし、答えられない問題があるとも思えない。――その点は善処する」
通話を切ったツカサは、私の携帯からメールを作成し始めた。
どうやら、今話したとおり、自分のアドレスと携帯の番号を鎌田くんに送るつもりらしい。
呆気に取られて見ていると、ツカサは居心地悪そうに身体の向きを変えた。
メールの送信が終わり携帯を返されるとき、真っ直ぐな目で意外すぎる一言を見舞われる。
「嫉妬くらいするって前にも言ったと思うんだけど」
嫉妬――
その言葉に、以前感じたものとはまったく違う感情を覚える。
どうして嫉妬されて嬉しいなんて思ったんだろう。嫉妬するほうはこんなにも苦しいというのに。
申し訳なくて申し訳なくて、顔が上げられない。
すると、「翠?」とうかがうように声をかけられた。
私は小さな声で尋ねる。
「嫉妬……苦しい?」
ツカサをそっと見上げると、
「苦しくはない。ただ、面白くないだけ。でも、だからといって翠の交友関係を制限するようなことはできないし、自分が知ってる人間たちにおいては嫉妬したことがないから――だから、できるだけ翠の交友関係には詳しくありたいと思う。たぶん、鎌田に関しても、鎌田がどんな人間で、どういうつもりで翠と接しているのかさえわかれば嫉妬はしなくなると思う」
ツカサ独特の思考回路に驚くと同時、思っていることをすべて話してもらえた気がして少し嬉しくなる。
だから私も正直に――
「あのね、私も嫉妬する……」
それはついさっきの出来事だ。
ちょっと思い出すだけでも胸がきゅっと締め付けられるような感覚があるし、恐怖だって襲ってくる。でも、言葉にしたら、ツカサに伝えたら、少しは楽になれるだろうか。
「ツカサはまだ大学生じゃないし、話の合う女子が現れたわけでもないのに、未来にそういう人が現れたら……って考えるだけで涙が出てくるほど苦しかった。ツカサが自分以外の人を視界に入れることがこんなに苦しいことだとは思わなかった。前に、嫉妬されて嬉しいなんて言ってごめんなさい」
頭を下げると、ツカサに顔を上げるよう促される。
「あのさ、わかってると思うけど、そんな人間は存在すらしてないんだけど……」
「うん、わかってる……。だから、想像するだけでも嫉妬って地獄だなって思ったっていうお話」
言った直後、包み込まれるように抱きしめられた。そして耳元で、「ちょっとわかったかも」と囁かれる。
「え……?」
「嫉妬されて嬉しいなんて気持ち、絶対わからないと思ってたけど、これは確かに嬉しいかもしれない。でも、そんな心配は無用だけど」
何度でも否定してくれることが嬉しくて、私はツカサにしがみつく。
大好き、大好き、大好き――
こんなにも好きなのはツカサだけなのだから、本当はツカサだって誰に嫉妬する必要はない。それでも「嫉妬」という感情は、コントロールするのが難しいものだから……。
その厄介な感情を、どうしたら取り除いてあげられるだろう。どうすれば、いい……?
鎌田くんに関してはツカサが自分から動いてくれた。ほかにツカサの知らない人といったら――慧くん?
……慧くんも紹介すればいいのかな?
少しうかがうように、慧くんも紹介する旨を伝えると、
「それ、紹介するときは彼氏じゃなくてフィアンセでよろしく」
耳に響く「フィアンセ」という言葉がくすぐったい。
「婚約者です」と紹介するのは恥ずかしく思えるけれど、決していやなわけじゃない。
私は躊躇することなく快諾した。
ココン、ココン――
突然のノック音に、私は慌ててツカサから離れる。と、「開けるわよ」と桃華さんの声がした。
部屋のドアが開けられ、桃華さんはまっすぐ私のもとまでやってくると、
「もう体調は大丈夫?」
うかがうように顔を覗き込まれた瞬間、桃華さんの目つきが鋭いものとなり、私を抱き寄せツカサに噛み付いた。
「あんた、何翠葉のこと泣かせてるのよっ」
「泣かせたの、俺じゃないんだけど……」
「そんなわけないでしょっ!? この部屋にあんた以外に誰がいるのよっ」
私が口を挟もうとすると、ツカサがうんざりした様子で口を開いた。
「たとえこの部屋に俺たちしかいなかったとして、携帯ってツールがある限り、いつでも第三者が介入することは可能なんだけど。そんなことも思いつかないわけ?」
あああ、もう……またそういう言い方する……。
桃華さんは悔しそうに唇を噛み締めるとこちらを向き、
「電話って誰よっ!?」
「あ、秋斗さんっ」
桃華さんは口をポカンと開け、目を丸くして驚いた。
「なんで秋斗先生……?」
「あ、えと……新年の挨拶の電話がかかってきたのだけど、私ちょっと気が動転していて、秋斗さんにするべきじゃない相談ごとをしてしまったの。だから、少し意地悪をされちゃったのかな……? 言われたことを真に受けて、ちょっと涙が止まらないことになってしまって……」
「気が動転してたっていうのはこの男のせいよね?」
桃華さんはツカサを一睨みしてから、
「秋斗先生の機嫌を損ねるような相談って、いったいなんだったの?」
若干呆れたふうの桃華さんに、
「婚約や結婚って、両親に相談せずにお返事をしていいのかどうか……?」
言った直後、桃華さんは冷めた視線をツカサへ向け、私の方へ向き直っては深く深くため息をついた。その一連の動作を見て、やっぱり秋斗さんに相談すべきことではなかったことを改めて自覚する。
こめかみを押さえた桃華さんは、
「それで……? 秋斗先生の回答は? 意地悪って何を言われたのよ」
桃華さんに説明するために思い返すと、それだけで心がヒリヒリとする気がした。それを我慢して話すと、改めて大きなため息をつかれる。
「意地悪に聞こえなくもないけれど、秋斗先生の言うことは一理あるわね。人との出逢いは未知数だし、人との相性もまた未知数」
その言葉に、再度落ち込んでしまいそうな自分がいた。すると、
「もうっ、そんな顔しないっ! だって、一理あったとしても、翠葉の相手はこの男よ? たかだか将来を志すものが同じ人間が集まるところに放り込まれたところで、この男と話の合う人間なんてそうそういやしないわよ。見てみなさいよ、風間先輩なんて足蹴にされこそすれ、友人とすら思われてないわ。よくて同級生止まり。女子だってそう。たいていはこの容姿に惹かれてホイホイ集まってくるんでしょうけど、この男がそれを許すわけがないし、二度と近づかれないような言葉を見舞って以上終了よ。ま、実験やなんやかやとチームを組むことはあるでしょうけど、それだって生徒会と同じ。人間を一機能としてしか認知しないに違いないわ。使えないものは切り捨てるし、それが無理なら放置を決め込む。使える人間は手足として使うのみ。自分の邪魔にならないよう采配を揮うっていうか――人間相手っていうより将棋の駒程度にしか考えてないわよ。本当に最悪。こんな悪魔みたいな男が翠葉の彼氏だなんて。……でも、そんな男がやっと自分以外の人間に興味を持ったの。翠葉だけを目に入れたの。それは何よりも特別なことだし、この先そう何度もあることじゃないことくらい、赤の他人で大嫌いな先輩のことだとしてもわかるわ。だから不安になんて思わなくて大丈夫。ただ……翠葉が藤宮司以上の男子と知り合う機会に関してはなんとも言えないわねぇ……? そのあたりはどうお考えなのかしら? フジミヤセンパイ」
「そうだな……。契約不履行、または精神的損害を理由に容赦なく損害賠償を請求しようか?」
口端を上げて笑ったツカサを見て、「やっぱ魔王よ……」と桃華さんは零し、私に向き直る。
「本当にこんな魔王と婚約していいのっ!?」
急に本題を振られた私は思わず慌てる。でも、慌てても何しても答えは変わらない。
「うん。ツカサがいい。ツカサがいいの」
答えると、桃華さんは意外なほどあっさり「あっそ」と口にし、私たちふたりを交互に見ると佇まいを直し、
「ご婚約おめでとうございます」ととてもきれいに腰を折ったのだった。
その後、「今年もカウントダウンは一緒にできなかった」と海斗くんに文句を言われつつ、みんな揃って初詣をし、少しの仮眠をとってから次なるイベントのために移動開始。
夜通し動いている電車に乗って海へ向かうと、人がたくさん集まる浜辺で初日の出を拝んだ。
去年の冬休み、ふたりの兄と幸倉運動公園から見た日の出もきれいだったけれど、何も邪魔するものがない場所から臨む初日の出の神々しさは格別で、その光景から目が離せずうっかり願いごとをするのを忘れそうになったほど。
私の背後に立っていたツカサに「拝まなくていいの?」と声をかけられなかったら、ただただ初日の出を見つめて終わっていたに違いない。
私は慌てて手を合わせ目を瞑り、ただひとつ、心にある願いを声にならない声で唱える。
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