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April(翠葉:高校2年生)
ふたりの関係 Side 翠葉 03話
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入学式の翌日はツカサの誕生日。何か欲しいものはないかと訊いてみたけれど、これと言った答えは得られなかった。
そこで唯兄と蒼兄に相談したわけだけど……。
「そんなの司っちに訊けばいいじゃん」
もっともな反応を見せたのは唯兄。
「訊いたの。そしたらフロランタンって言われちゃった」
「じゃ、それでいいんじゃないの?」
「うーん……フロランタンはもともと作る予定でいたの。だからほかのもので欲しいものがないかを知りたかったんだけど、答え得られず……」
「ふ~ん……じゃ、無難にステーショナリーグッズにしておけば?」
「文房具?」
「そっ。だって、高校大学って当分の間は学生を続けるわけだから、ステーショナリーグッズなら使ってもらえそうじゃん?」
そっか……。
すると、話を見守っていた蒼兄が会話に加わった。
「それならさ、司御用達のショップがウィステリアデパートに入ってるよ」
「いいねぇ、あんちゃん情報持ってるねぇ!」
「ショップ名教えてもらえる?」
「了解」
こんないきさつがあり、都合がついた唯兄が誕生日前日の夕方、藤倉市街へ連れて行ってくれることになった。
入学式が終わってマンションに帰ってきたらフロランタンを焼き、夕方に帰ってきた唯兄とウィステリアデパートへ向かう。
道は混んでおらず、二十分とかからずデパートに着いた。
ショップを前にして唯兄とふたり佇む。
「高校生って感じじゃないね」
唯兄の言葉にコクコクと頷く。
ダークブラウンで統一されたショップ内を照らすのはオレンジ色の照明。
万年筆などはショーケースに入っており、ショーケースだけを見ればジュエリーショップのよう。
ショーケースに並ぶ商品は、ベルベットの台座に鎮座していた。
オブジェに見えた地球儀にも値札がついている。値札がついているということは商品なのだろうけれど、どこからどう見ても勉強に使われるものには見えず、インテリアに使われそうなアイテムで……。
もともとはスーツを取り扱うブランドなのだろう。ステーショナリーグッズはそのオプション的位置づけの模様。
店内にいるお客さんは二十代後半から三十代くらいに見えた。
「唯兄……私、場違いじゃない?」
思わず訊いてしまうほど。
「なんつーか……アレ、だよね。スーツ姿のあんちゃんだとか秋斗さんと一緒に来たほうが良かったかも?」
ふたり揃って蒼兄にもう少し詳細な情報をいただきたかった、と零す。
「リィ、ここまで来たからには背筋伸ばしていざ出陣デスヨ……」
唯兄の手が背に添えられ、意識して背筋を伸ばした。
「あっちはスーツしか置いてないみたい。ステーショナリーグッズはこの一角とショーケースっぽい。とりあえず、ひとつずつ見ていって司っちにプレゼントしたいもの見つけよう。なければほかのショップを探すって手もある」
「う、うん……」
私はそこに並ぶものを見ながら、普段ツカサが使っている筆記用具を思いだしていた。
ペンケースは柔らかい皮のロールタイプ。それにはシャーペン、ボールペン、定規、消しゴムがポケットに挿してある。ポケットの数からしてもそんなにたくさんのものが入るペンケースではない。
シャーペン本体はネイビーで、品のよいゴールドに縁取れている。重厚感溢れるそれには、確か、金字でイニシアルが入っていた。
「……あのペンケースにはあれ以上のものは入らないよね」
だとしたら、ペンケースに入れないものを探す必要がある。そうは言っても、もともとが洋服屋さんなのでたくさんのものを置いているわけではない。
ひとつずつ見ていくと、ツカサの使っているペンケースと同じものがあった。
「ここのショップのだったんだ……」
もしかしたらシャーペンやボールペンもここのショップのものなのかもしれない。
視線を走らせると、シンプルな栞が目に留まる。
自分がホワイトデーに栞をもらったから、ということもあっただろうか。私は吸い寄せられるようにその棚の前で足を止めた。
栞は皮製品のものとステンレスでできたもの、十八金でできたものが並ぶ中、とくに目を引いたのは艶消しされたステンレス製。マネークリップを薄く小さくしたような感じ。
手に取ると、
「贈り物ですか?」
店員さんに声をかけられた。
「はい……」
「こちらの商品は名入れ、短いメッセージをお入れすることができます」
私は少し悩んでいた。
「リィ、どうした?」
「ん……ツカサのペンケースも筆記用具もここのショップのものみたいなのだけど、もしかしたらこれと同じ栞を持っている気がして……」
「なーる……。でもさ、プレゼントって気持ちだから。それに栞っていくつあっても困らないと思うよ?」
「そうかな……」
「それに一言メッセージを入れてもらえるんだったら、ハッピーバースデーって入れてもらえばいいじゃん」
文字数的に可能なのだろうか、と店員さんの顔を見るとにこりと笑顔を返された。
「日付もお入れできます」
「それじゃ、これでお願いします」
幅一・五センチ、長さ五センチの栞の表に、「T.Fujimiya」と筆記体で入れてもらい、裏面に年月日と「Happy Birthday.」の文字を入れてもらった。
帰宅すると、粗熱がすっかり取れたフロランタンを切り分けてラッピングを施し、黒い小さな紙袋に買ってきた栞と一緒に入れる。
さて、私はこれをいつツカサに渡せるだろう?
明日から授業は八限までのフルコース。一年のときはお昼休みにお弁当を食べにきてくれていたけれど、それは二年になっても変わらないのだろうか……。
そういう話をしていなかっただけに不安が残る。
携帯にツカサの番号を表示させてしばし静止。
電話は日付が変わるタイミングでかけたい。
去年ツカサがしてくれたように、誕生日のカウントダウンをしようと思っていた。誰よりも先におめでとうを伝えたくて。
「……そのときに明日会えるか訊こうかな?」
日付が変わる数分前に自室で携帯とにらめっこ。五十九分になって発信。
プルルル、プルルル、プルルル――
呼び出し音が鳴っている間はひどく緊張する。
『はい』
「あのっ――」
翠葉です、と言いそうになって言葉を呑みこむ。
『翠?』
訝しがるような声が返ってきて、トクン、と心臓が跳ねた。
録音された声じゃない。ちゃんと回線がつながっていて聞こえてくる声。
電話で話すことには未だに慣れていなくて、耳にダイレクトに届く声にドキドキする。
「ツカサ、今電話してても大丈夫?」
『問題ないけど……』
「あのね……」
ゴクリ、と唾を飲み込み懐中時計の秒針を見ていた。
「十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、誕生日おめでとうっ! ツカサ、十八歳の誕生日おめでとうっ!」
『…………』
「……ツカサ?」
『いや、少しびっくりしただけ……』
「去年、ツカサがこうやってお祝いしてくれたでしょう? だからね、絶対にカウントダウンしたかったの」
自分だけ必死で、テンションが高い気がして少し恥ずかしい。恥ずかしさを紛らわすために会話を繋ぐ。
「誕生日プレゼントを渡したいのだけど、明日、学校で会える?」
『学校じゃなくても会える』
「え?」
『模試の勉強、明日からにしよう』
「こっちに帰ってくるの?」
『そのつもり』
「なんでもっと早く言ってくれなかったのっ!?」
『今決めたから?』
「こっちに帰ってくるならケーキ焼いたのにっ」
そこまで言って思い直す。
「ツカサ、やっぱりだめ……」
『何が?』
「明日はツカサの誕生日だもの。真白さん、絶対にごちそうを用意して待ってると思う。だから、明日は藤山に帰らなくちゃだめ」
『……家で夕飯食べてからマンションに行くこともできるんだけど』
「……あ、そっか」
『明日、八時にはゲストルームに行くから』
「うん、待ってるね」
『じゃ、おやすみ』
「おやすみなさい……」
なんてことのない会話におやすみの挨拶。
特別な要素が何もなくても私にとっては特別で……。
幸せな気持ちのままベッドに潜り込んだ。
耳に、ツカサの声が残るうちに眠れたなら、夢でツカサに会える気がして――
そこで唯兄と蒼兄に相談したわけだけど……。
「そんなの司っちに訊けばいいじゃん」
もっともな反応を見せたのは唯兄。
「訊いたの。そしたらフロランタンって言われちゃった」
「じゃ、それでいいんじゃないの?」
「うーん……フロランタンはもともと作る予定でいたの。だからほかのもので欲しいものがないかを知りたかったんだけど、答え得られず……」
「ふ~ん……じゃ、無難にステーショナリーグッズにしておけば?」
「文房具?」
「そっ。だって、高校大学って当分の間は学生を続けるわけだから、ステーショナリーグッズなら使ってもらえそうじゃん?」
そっか……。
すると、話を見守っていた蒼兄が会話に加わった。
「それならさ、司御用達のショップがウィステリアデパートに入ってるよ」
「いいねぇ、あんちゃん情報持ってるねぇ!」
「ショップ名教えてもらえる?」
「了解」
こんないきさつがあり、都合がついた唯兄が誕生日前日の夕方、藤倉市街へ連れて行ってくれることになった。
入学式が終わってマンションに帰ってきたらフロランタンを焼き、夕方に帰ってきた唯兄とウィステリアデパートへ向かう。
道は混んでおらず、二十分とかからずデパートに着いた。
ショップを前にして唯兄とふたり佇む。
「高校生って感じじゃないね」
唯兄の言葉にコクコクと頷く。
ダークブラウンで統一されたショップ内を照らすのはオレンジ色の照明。
万年筆などはショーケースに入っており、ショーケースだけを見ればジュエリーショップのよう。
ショーケースに並ぶ商品は、ベルベットの台座に鎮座していた。
オブジェに見えた地球儀にも値札がついている。値札がついているということは商品なのだろうけれど、どこからどう見ても勉強に使われるものには見えず、インテリアに使われそうなアイテムで……。
もともとはスーツを取り扱うブランドなのだろう。ステーショナリーグッズはそのオプション的位置づけの模様。
店内にいるお客さんは二十代後半から三十代くらいに見えた。
「唯兄……私、場違いじゃない?」
思わず訊いてしまうほど。
「なんつーか……アレ、だよね。スーツ姿のあんちゃんだとか秋斗さんと一緒に来たほうが良かったかも?」
ふたり揃って蒼兄にもう少し詳細な情報をいただきたかった、と零す。
「リィ、ここまで来たからには背筋伸ばしていざ出陣デスヨ……」
唯兄の手が背に添えられ、意識して背筋を伸ばした。
「あっちはスーツしか置いてないみたい。ステーショナリーグッズはこの一角とショーケースっぽい。とりあえず、ひとつずつ見ていって司っちにプレゼントしたいもの見つけよう。なければほかのショップを探すって手もある」
「う、うん……」
私はそこに並ぶものを見ながら、普段ツカサが使っている筆記用具を思いだしていた。
ペンケースは柔らかい皮のロールタイプ。それにはシャーペン、ボールペン、定規、消しゴムがポケットに挿してある。ポケットの数からしてもそんなにたくさんのものが入るペンケースではない。
シャーペン本体はネイビーで、品のよいゴールドに縁取れている。重厚感溢れるそれには、確か、金字でイニシアルが入っていた。
「……あのペンケースにはあれ以上のものは入らないよね」
だとしたら、ペンケースに入れないものを探す必要がある。そうは言っても、もともとが洋服屋さんなのでたくさんのものを置いているわけではない。
ひとつずつ見ていくと、ツカサの使っているペンケースと同じものがあった。
「ここのショップのだったんだ……」
もしかしたらシャーペンやボールペンもここのショップのものなのかもしれない。
視線を走らせると、シンプルな栞が目に留まる。
自分がホワイトデーに栞をもらったから、ということもあっただろうか。私は吸い寄せられるようにその棚の前で足を止めた。
栞は皮製品のものとステンレスでできたもの、十八金でできたものが並ぶ中、とくに目を引いたのは艶消しされたステンレス製。マネークリップを薄く小さくしたような感じ。
手に取ると、
「贈り物ですか?」
店員さんに声をかけられた。
「はい……」
「こちらの商品は名入れ、短いメッセージをお入れすることができます」
私は少し悩んでいた。
「リィ、どうした?」
「ん……ツカサのペンケースも筆記用具もここのショップのものみたいなのだけど、もしかしたらこれと同じ栞を持っている気がして……」
「なーる……。でもさ、プレゼントって気持ちだから。それに栞っていくつあっても困らないと思うよ?」
「そうかな……」
「それに一言メッセージを入れてもらえるんだったら、ハッピーバースデーって入れてもらえばいいじゃん」
文字数的に可能なのだろうか、と店員さんの顔を見るとにこりと笑顔を返された。
「日付もお入れできます」
「それじゃ、これでお願いします」
幅一・五センチ、長さ五センチの栞の表に、「T.Fujimiya」と筆記体で入れてもらい、裏面に年月日と「Happy Birthday.」の文字を入れてもらった。
帰宅すると、粗熱がすっかり取れたフロランタンを切り分けてラッピングを施し、黒い小さな紙袋に買ってきた栞と一緒に入れる。
さて、私はこれをいつツカサに渡せるだろう?
明日から授業は八限までのフルコース。一年のときはお昼休みにお弁当を食べにきてくれていたけれど、それは二年になっても変わらないのだろうか……。
そういう話をしていなかっただけに不安が残る。
携帯にツカサの番号を表示させてしばし静止。
電話は日付が変わるタイミングでかけたい。
去年ツカサがしてくれたように、誕生日のカウントダウンをしようと思っていた。誰よりも先におめでとうを伝えたくて。
「……そのときに明日会えるか訊こうかな?」
日付が変わる数分前に自室で携帯とにらめっこ。五十九分になって発信。
プルルル、プルルル、プルルル――
呼び出し音が鳴っている間はひどく緊張する。
『はい』
「あのっ――」
翠葉です、と言いそうになって言葉を呑みこむ。
『翠?』
訝しがるような声が返ってきて、トクン、と心臓が跳ねた。
録音された声じゃない。ちゃんと回線がつながっていて聞こえてくる声。
電話で話すことには未だに慣れていなくて、耳にダイレクトに届く声にドキドキする。
「ツカサ、今電話してても大丈夫?」
『問題ないけど……』
「あのね……」
ゴクリ、と唾を飲み込み懐中時計の秒針を見ていた。
「十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、誕生日おめでとうっ! ツカサ、十八歳の誕生日おめでとうっ!」
『…………』
「……ツカサ?」
『いや、少しびっくりしただけ……』
「去年、ツカサがこうやってお祝いしてくれたでしょう? だからね、絶対にカウントダウンしたかったの」
自分だけ必死で、テンションが高い気がして少し恥ずかしい。恥ずかしさを紛らわすために会話を繋ぐ。
「誕生日プレゼントを渡したいのだけど、明日、学校で会える?」
『学校じゃなくても会える』
「え?」
『模試の勉強、明日からにしよう』
「こっちに帰ってくるの?」
『そのつもり』
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『今決めたから?』
「こっちに帰ってくるならケーキ焼いたのにっ」
そこまで言って思い直す。
「ツカサ、やっぱりだめ……」
『何が?』
「明日はツカサの誕生日だもの。真白さん、絶対にごちそうを用意して待ってると思う。だから、明日は藤山に帰らなくちゃだめ」
『……家で夕飯食べてからマンションに行くこともできるんだけど』
「……あ、そっか」
『明日、八時にはゲストルームに行くから』
「うん、待ってるね」
『じゃ、おやすみ』
「おやすみなさい……」
なんてことのない会話におやすみの挨拶。
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