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April(翠葉:高校2年生)
ふたりの関係 Side 翠葉 06話
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朝、いつもどおり登校してくると、教室にかばんを置いてすぐにテラスへ向かった。
桜林館ではバスケ部が朝練をしているのだろうか。キュッキュ、とバッシュの擦れる音が聞こえてくる。そして八時を回ると、運動部の人たちが部室棟へと戻ってきた。たくさんの人の中に佐野くんと海斗くんを発見する。それから河野くんとサザナミくんも。
みんな朝からとても元気。十分に運動をしてきただろうに、部室棟で友達に会うと楽しそうにじゃれつく。
そこへ弓道部の一行が戻ってくる。ツカサは先頭を歩いていたから容易に見つけることができた。
袴姿のツカサを見るのはどれくらい久しぶりだろう……。
姿はすぐに見えなくなったけれど、一瞬しか見られなかったことよりも、一瞬でも見ることができたことを嬉しく思う。
「……私、これだけで満足かも」
少しの間はもちそうだ。
満足した私は、足取り軽く教室へ向かって歩きだす。
教室にはクラスメイトがちらほらと登校してきていて、
「翠葉、どこへ行ってたの?」
「桃華さん、おはよう。ちょっとテラスへ行っていたの」
「テラス? またなんで?」
「ふふ、秘密」
話してもよかったけれど、しばらくは自分だけの秘密にしておきたかった。
ほかの人にとってはなんでもないことかもしれない。でも、私にとってはようやく見つけた、ツカサを眺めることができる場所だったから。
朝に見かけることができるということは、午後もタイミングが良ければ見られる可能性があるわけで、ホームルームが終わるとテラスへ行くのが日課になった。
そんなある日、知らない男子に声をかけられる。
「見ない顔だけど、外部生?」
「……はい」
「やっぱりね! 君、何組?」
「……A組、です」
「A組かー。そりゃ廊下でもそうそう会わないよね。俺、F組。A組だと飛翔と同じクラス?」
そこまで言われて話が食い違っていることに気づく。
「あの……」
「名前は? 俺、真島渉」
「あ……御園生翠葉です」
次から次へと話しかけられ、すっかり二年生であることを言いそびれてしまった。
「あっ! 飛翔だ!」
真島くんは校舎から出てきた飛翔くんを見つけて大きく手を振った。飛翔くんは私を視界に認めるなり眉間にしわを寄せる。
「なんであんたが真島と一緒にいるわけ?」
さぁ、なぜでしょう……。
「そりゃ、テラスにかわいい子がいたら声かけるでしょ! 飛翔もクラスにかわいい子いたら教えろって言っておいたのにつれねぇなぁ」
この期に及んで二年生とは言えなくなっていた。そして、飛翔くんの視線が痛い……。
「真島、何勘違いしてるのか知らないけど、この人二年」
「はっ!? まさかっ」
まさか、とはどういう意味だろう……。
恐る恐る真島くんを見上げると、
「見えない」
真顔で一言見舞われた。
「で、あんたは? こんなとこで何してるわけ?」
「……人間ウォッチング?」
「は?」
「……えぇと、本当にただ道行く人を見ていただけなので、何をしていたというわけでは……」
「ふーん……」
それ以上の追求はされないと思ったのに、
「でもさ、御園生センパイ、ここんところ毎日テラスにいません? 俺が気づいてからだともう四日かな」
口調を敬語に改めた真島くんに顔を覗き込まれる。
「……えと、日課なの」
一歩下がって答えると、飛翔くんに思いきりため息をつかれた。
「真島、寄りすぎ」
「いやいや、まだそんなに迫ってないってば。ほら、人ひとり分のスペースあるし」
「いいから……」
言いながら飛翔くんが真島くんの腕を引こうとすると、
「俺、飛翔と仲良くするよりもセンパイと仲良くしたいよ」
真島くんは飛翔くんの手を逃れ、私の背後に立った。
「ね? セーンパイ!」
トン、と両肩に手を置かれる。ただそれだけなのに、私の身体は強張る。
「……あんたつくづく面倒な女だな」
飛翔くんは私の腕を引くと、自分の後ろへと追いやった。
「飛翔ずりーぞっ」
真島くんの言葉を無視した飛翔くんに、肩越しに睨まれる。けれども、視線はすぐに私から外された。
「今の、必要最低限の救助活動なんで」
誰に向かって言ってるのかと振り返ると、すぐそこにツカサが立っていた。
「救助活動ついでにその男を連れて立ち去ってくれないか?」
「引き受けます」
「え? え? えーーー!? 何? 俺、まだセンパイと話したいよっ」
「司先輩に睨まれていいなら置いていく」
「えっ!? やっ、何っ!? そういうことなの!? ちょっ、飛翔待ってよっっっ」
ふたりは部室棟へと続く階段を下りていった。
ツカサに会うのはテスト期間以来。
「久しぶり……」
「……テスト振りなだけだけど」
確かに、「久しぶり」というほど日が経っているわけではない。
やっぱり、会いたいと思っているのは私だけなのだろうか……。
そう思えば思うほどに、言いようのない寂しさに心が支配される。
「これから部活、だよね」
「そうだけど」
「がんばってね」
目を合わせることができなかった。何を考えているのか読まれてしまいそうで。
一歩足を踏み出せば、私の前にツカサが立ちはだかる。
「泣きそうな顔されるのも、毎日ここにいるのもわけがわからないんだけど」
「っ……ここにいたのは人間ウォッチング。ただ、人の往来を見ていただけ」
「毎日毎日飽きもせず?」
「そう、悪いっ!?」
「悪いとは言ってない。泣きそうな理由は?」
「黙秘っ」
強行突破しようとしたら腕を掴まれた。
「色々納得いかないんだけど」
納得いかないのは私もだ。やっと会えたのに、どうしてこんななんだろう……。
寂しい気持ちに悔しい気持ちとやるせない気持ちも追加される。
「翠」
さっきよりも低い声。ツカサは機嫌が悪くなると少しずつ声が低くなる。
大好きなのに、大好きな人なのに――どうしてこんな声で呼ばれなくちゃいけないんだろう。
「泣きそうな理由は?」
「ツカサの機嫌が悪いからっ」
「翠が理由を話さないからだろ?」
「ここにいたのは――ツカサの姿が見れるからっ」
言って数秒後、
「なんで……」
改めて訊かれた。
「……姿を見たいと思っちゃいけない!?」
「いけないとは言ってない。なんでって訊いた」
「だって……テスト期間終わったら全然会えなくなっちゃったから――」
声はどんどん小さくなる。
こんなの、ただの八つ当たりだ。会いたいと思うのも、姿を見たいと思うのも、全部私の感情で、ツカサが悪いことなんて何もない。
「ごめん、全部私の八つ当たり……。だから、手、離して」
早く立ち去りたかった。涙が零れる前に、早くツカサの前からいなくなりたかった。
「あのさ……会いたいと思ってなんでここなわけ?」
「……え?」
思わず顔を上げる。と、ツカサは私の手を掴んでいないほうの手で、こめかみのあたりを押さえていた。
「電話かけるなりメールすればいいだろ」
それができたら苦労しない……。
「そこで反抗的な視線返してくるくらいなら、言葉にしてほしいんだけど」
「……電話で、なんて言ったらいいの? メールに、何を書けばいいの?」
「……別に、食堂に出てこいって言われれば出てくるし、部活の前にテラスに寄ってほしいって言われれば寄るし……」
「……だって、言えなかったんだもの……」
「だから、なんで」
「言っていいのかわからなくて……?」
「最後に疑問符をつけられる意味がわからない……」
人の往来が多くなってきたテラスに視線をやると、
「一時休戦。十分でいいから時間がほしい」
「え?」
「翠が泣くと人目を集める。とりあえず図書室」
私はツカサに手を引かれて歩きだした。
図書室に人はおらず、ガランとしていた。
「言っていいのかわからないって何?」
「だって……」
「だって何?」
ツカサは窓際に立っているのに詰め寄られている気がしてならない。これはたぶん、気持ちの問題。
「かなり前に言わなかったか?」
何を……?
「何かあってもなくてもいつでも連絡してきてかまわない。紅葉祭の帰り、そう言ったはずだけど」
言われてびっくりした。
紅葉祭の帰り……?
「――あ……」
「……思い出していただけたようで何より」
機嫌が悪いままににこりと笑みを向けられる。
「その俺に言っていいのかわからないって何?」
どうしてだろう……。ものすごく自分の分が悪い気がしてきた。
「勝手に思いつめて泣かれそうになるのとか勘弁してほしいんだけど」
「ごめんなさいっ……」
「第一、翠にとって俺って何?」
「……好きな人」
「そうじゃなくて――」
そうじゃなくて……? ほかに何が――
「いやいい、改めて言う」
ツカサは私に向き直ると一歩踏み出した。私はその分後ろへ下がる。
「俺と付き合ってほしいんだけど」
その言葉に頭が真っ白になる。
「意味は――彼氏彼女、恋人、カップル、それらに属するものと同義。……理解した?」
コクコクと頷きはしたけれど、理解が追いついているかは怪しい限りだ。
「……なら返事」
今度は物理的に追い詰められた。逃がさない、とでも言うように腕を掴まれる。
「付き合ったら……そしたら何もなくても電話していいの? 会いたいって言っても迷惑じゃない?」
「別に何もなくても電話かけてきてかまわないし、会いたいって言われてとくに困ることもない。ほかには? 何かあるなら今全部言ってほしいんだけど」
「電話しても話す内容がなかったらどうしよう?」
「……何度も言うけど、携帯って通信機器だからそのあたりは考慮してほしい」
そう言われると思ったからこそかけられなかったわけで……。
「……天気予報の話でもいい?」
却下されるかと思ったけれど、「別にかまわない」と言われた。
「お弁当、一緒に食べたいって言ったら迷惑?」
「……迷惑じゃない。ただ――」
ツカサは言いかけて口を閉じた。
「悪い……。何も言ってなかった俺も悪い」
「え?」
「翠がクラスで浮くのは嫌だって言ってたから」
……それはどういう意味?
「新学期始まったばかりだろ……。うちの学校、昼休みくらいしか人と話す時間ないから、その時間を自分との時間に割かせるのを遠慮しただけ。翠が一緒に食べたいっていうなら一緒に食べる。でも、まだ話したことがない人間がいるならクラスにいたら?」
言われてすんなりと納得できた。
お弁当、一緒に食べなくなったのにはきちんと理由があったのだ。
校舎がどうとかそういうことではなく、私のことを考えてくれていた……。
「ごめん……」
「なんの謝罪?」
「八つ当たりした謝罪……。会えなくて寂しいって思っているのが自分だけなのかと思ったら、すごく悲しかったの……」
正真正銘の八つ当たりだったことを自覚すると、ひどく申し訳ない気持ちになった。
「言いたいことは以上?」
「……うん」
「じゃ、最後にひとつ――付き合う以上は結婚まで考えてるから。そのうえでもう一度返事」
「…………」
「返事」
「……はい」
「同意、肯定の意味の返事と受け取るけど?」
コクリと頷いた。
言葉の意味は理解できていて、でも、あまりにも淡々と進む話のペースには心がついていかれなくて――
夢か現実か、とじっとツカサの目を見ていたら顔が近づいてきて唇にキスをされた。
「現実。夢じゃないから」
私は立ち尽くしたままツカサの背を見送った。
桜林館ではバスケ部が朝練をしているのだろうか。キュッキュ、とバッシュの擦れる音が聞こえてくる。そして八時を回ると、運動部の人たちが部室棟へと戻ってきた。たくさんの人の中に佐野くんと海斗くんを発見する。それから河野くんとサザナミくんも。
みんな朝からとても元気。十分に運動をしてきただろうに、部室棟で友達に会うと楽しそうにじゃれつく。
そこへ弓道部の一行が戻ってくる。ツカサは先頭を歩いていたから容易に見つけることができた。
袴姿のツカサを見るのはどれくらい久しぶりだろう……。
姿はすぐに見えなくなったけれど、一瞬しか見られなかったことよりも、一瞬でも見ることができたことを嬉しく思う。
「……私、これだけで満足かも」
少しの間はもちそうだ。
満足した私は、足取り軽く教室へ向かって歩きだす。
教室にはクラスメイトがちらほらと登校してきていて、
「翠葉、どこへ行ってたの?」
「桃華さん、おはよう。ちょっとテラスへ行っていたの」
「テラス? またなんで?」
「ふふ、秘密」
話してもよかったけれど、しばらくは自分だけの秘密にしておきたかった。
ほかの人にとってはなんでもないことかもしれない。でも、私にとってはようやく見つけた、ツカサを眺めることができる場所だったから。
朝に見かけることができるということは、午後もタイミングが良ければ見られる可能性があるわけで、ホームルームが終わるとテラスへ行くのが日課になった。
そんなある日、知らない男子に声をかけられる。
「見ない顔だけど、外部生?」
「……はい」
「やっぱりね! 君、何組?」
「……A組、です」
「A組かー。そりゃ廊下でもそうそう会わないよね。俺、F組。A組だと飛翔と同じクラス?」
そこまで言われて話が食い違っていることに気づく。
「あの……」
「名前は? 俺、真島渉」
「あ……御園生翠葉です」
次から次へと話しかけられ、すっかり二年生であることを言いそびれてしまった。
「あっ! 飛翔だ!」
真島くんは校舎から出てきた飛翔くんを見つけて大きく手を振った。飛翔くんは私を視界に認めるなり眉間にしわを寄せる。
「なんであんたが真島と一緒にいるわけ?」
さぁ、なぜでしょう……。
「そりゃ、テラスにかわいい子がいたら声かけるでしょ! 飛翔もクラスにかわいい子いたら教えろって言っておいたのにつれねぇなぁ」
この期に及んで二年生とは言えなくなっていた。そして、飛翔くんの視線が痛い……。
「真島、何勘違いしてるのか知らないけど、この人二年」
「はっ!? まさかっ」
まさか、とはどういう意味だろう……。
恐る恐る真島くんを見上げると、
「見えない」
真顔で一言見舞われた。
「で、あんたは? こんなとこで何してるわけ?」
「……人間ウォッチング?」
「は?」
「……えぇと、本当にただ道行く人を見ていただけなので、何をしていたというわけでは……」
「ふーん……」
それ以上の追求はされないと思ったのに、
「でもさ、御園生センパイ、ここんところ毎日テラスにいません? 俺が気づいてからだともう四日かな」
口調を敬語に改めた真島くんに顔を覗き込まれる。
「……えと、日課なの」
一歩下がって答えると、飛翔くんに思いきりため息をつかれた。
「真島、寄りすぎ」
「いやいや、まだそんなに迫ってないってば。ほら、人ひとり分のスペースあるし」
「いいから……」
言いながら飛翔くんが真島くんの腕を引こうとすると、
「俺、飛翔と仲良くするよりもセンパイと仲良くしたいよ」
真島くんは飛翔くんの手を逃れ、私の背後に立った。
「ね? セーンパイ!」
トン、と両肩に手を置かれる。ただそれだけなのに、私の身体は強張る。
「……あんたつくづく面倒な女だな」
飛翔くんは私の腕を引くと、自分の後ろへと追いやった。
「飛翔ずりーぞっ」
真島くんの言葉を無視した飛翔くんに、肩越しに睨まれる。けれども、視線はすぐに私から外された。
「今の、必要最低限の救助活動なんで」
誰に向かって言ってるのかと振り返ると、すぐそこにツカサが立っていた。
「救助活動ついでにその男を連れて立ち去ってくれないか?」
「引き受けます」
「え? え? えーーー!? 何? 俺、まだセンパイと話したいよっ」
「司先輩に睨まれていいなら置いていく」
「えっ!? やっ、何っ!? そういうことなの!? ちょっ、飛翔待ってよっっっ」
ふたりは部室棟へと続く階段を下りていった。
ツカサに会うのはテスト期間以来。
「久しぶり……」
「……テスト振りなだけだけど」
確かに、「久しぶり」というほど日が経っているわけではない。
やっぱり、会いたいと思っているのは私だけなのだろうか……。
そう思えば思うほどに、言いようのない寂しさに心が支配される。
「これから部活、だよね」
「そうだけど」
「がんばってね」
目を合わせることができなかった。何を考えているのか読まれてしまいそうで。
一歩足を踏み出せば、私の前にツカサが立ちはだかる。
「泣きそうな顔されるのも、毎日ここにいるのもわけがわからないんだけど」
「っ……ここにいたのは人間ウォッチング。ただ、人の往来を見ていただけ」
「毎日毎日飽きもせず?」
「そう、悪いっ!?」
「悪いとは言ってない。泣きそうな理由は?」
「黙秘っ」
強行突破しようとしたら腕を掴まれた。
「色々納得いかないんだけど」
納得いかないのは私もだ。やっと会えたのに、どうしてこんななんだろう……。
寂しい気持ちに悔しい気持ちとやるせない気持ちも追加される。
「翠」
さっきよりも低い声。ツカサは機嫌が悪くなると少しずつ声が低くなる。
大好きなのに、大好きな人なのに――どうしてこんな声で呼ばれなくちゃいけないんだろう。
「泣きそうな理由は?」
「ツカサの機嫌が悪いからっ」
「翠が理由を話さないからだろ?」
「ここにいたのは――ツカサの姿が見れるからっ」
言って数秒後、
「なんで……」
改めて訊かれた。
「……姿を見たいと思っちゃいけない!?」
「いけないとは言ってない。なんでって訊いた」
「だって……テスト期間終わったら全然会えなくなっちゃったから――」
声はどんどん小さくなる。
こんなの、ただの八つ当たりだ。会いたいと思うのも、姿を見たいと思うのも、全部私の感情で、ツカサが悪いことなんて何もない。
「ごめん、全部私の八つ当たり……。だから、手、離して」
早く立ち去りたかった。涙が零れる前に、早くツカサの前からいなくなりたかった。
「あのさ……会いたいと思ってなんでここなわけ?」
「……え?」
思わず顔を上げる。と、ツカサは私の手を掴んでいないほうの手で、こめかみのあたりを押さえていた。
「電話かけるなりメールすればいいだろ」
それができたら苦労しない……。
「そこで反抗的な視線返してくるくらいなら、言葉にしてほしいんだけど」
「……電話で、なんて言ったらいいの? メールに、何を書けばいいの?」
「……別に、食堂に出てこいって言われれば出てくるし、部活の前にテラスに寄ってほしいって言われれば寄るし……」
「……だって、言えなかったんだもの……」
「だから、なんで」
「言っていいのかわからなくて……?」
「最後に疑問符をつけられる意味がわからない……」
人の往来が多くなってきたテラスに視線をやると、
「一時休戦。十分でいいから時間がほしい」
「え?」
「翠が泣くと人目を集める。とりあえず図書室」
私はツカサに手を引かれて歩きだした。
図書室に人はおらず、ガランとしていた。
「言っていいのかわからないって何?」
「だって……」
「だって何?」
ツカサは窓際に立っているのに詰め寄られている気がしてならない。これはたぶん、気持ちの問題。
「かなり前に言わなかったか?」
何を……?
「何かあってもなくてもいつでも連絡してきてかまわない。紅葉祭の帰り、そう言ったはずだけど」
言われてびっくりした。
紅葉祭の帰り……?
「――あ……」
「……思い出していただけたようで何より」
機嫌が悪いままににこりと笑みを向けられる。
「その俺に言っていいのかわからないって何?」
どうしてだろう……。ものすごく自分の分が悪い気がしてきた。
「勝手に思いつめて泣かれそうになるのとか勘弁してほしいんだけど」
「ごめんなさいっ……」
「第一、翠にとって俺って何?」
「……好きな人」
「そうじゃなくて――」
そうじゃなくて……? ほかに何が――
「いやいい、改めて言う」
ツカサは私に向き直ると一歩踏み出した。私はその分後ろへ下がる。
「俺と付き合ってほしいんだけど」
その言葉に頭が真っ白になる。
「意味は――彼氏彼女、恋人、カップル、それらに属するものと同義。……理解した?」
コクコクと頷きはしたけれど、理解が追いついているかは怪しい限りだ。
「……なら返事」
今度は物理的に追い詰められた。逃がさない、とでも言うように腕を掴まれる。
「付き合ったら……そしたら何もなくても電話していいの? 会いたいって言っても迷惑じゃない?」
「別に何もなくても電話かけてきてかまわないし、会いたいって言われてとくに困ることもない。ほかには? 何かあるなら今全部言ってほしいんだけど」
「電話しても話す内容がなかったらどうしよう?」
「……何度も言うけど、携帯って通信機器だからそのあたりは考慮してほしい」
そう言われると思ったからこそかけられなかったわけで……。
「……天気予報の話でもいい?」
却下されるかと思ったけれど、「別にかまわない」と言われた。
「お弁当、一緒に食べたいって言ったら迷惑?」
「……迷惑じゃない。ただ――」
ツカサは言いかけて口を閉じた。
「悪い……。何も言ってなかった俺も悪い」
「え?」
「翠がクラスで浮くのは嫌だって言ってたから」
……それはどういう意味?
「新学期始まったばかりだろ……。うちの学校、昼休みくらいしか人と話す時間ないから、その時間を自分との時間に割かせるのを遠慮しただけ。翠が一緒に食べたいっていうなら一緒に食べる。でも、まだ話したことがない人間がいるならクラスにいたら?」
言われてすんなりと納得できた。
お弁当、一緒に食べなくなったのにはきちんと理由があったのだ。
校舎がどうとかそういうことではなく、私のことを考えてくれていた……。
「ごめん……」
「なんの謝罪?」
「八つ当たりした謝罪……。会えなくて寂しいって思っているのが自分だけなのかと思ったら、すごく悲しかったの……」
正真正銘の八つ当たりだったことを自覚すると、ひどく申し訳ない気持ちになった。
「言いたいことは以上?」
「……うん」
「じゃ、最後にひとつ――付き合う以上は結婚まで考えてるから。そのうえでもう一度返事」
「…………」
「返事」
「……はい」
「同意、肯定の意味の返事と受け取るけど?」
コクリと頷いた。
言葉の意味は理解できていて、でも、あまりにも淡々と進む話のペースには心がついていかれなくて――
夢か現実か、とじっとツカサの目を見ていたら顔が近づいてきて唇にキスをされた。
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