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April(翠葉:高校2年生)
メール友達 Side 翠葉 05話
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鎌田くんがいなくなったあと、藤棚に入ってきたツカサはベンチに腰を下ろした。
藤棚の下は日陰だし、強すぎず弱すぎずの風が吹いているため暑くはない。
「試合、お疲れ様。今年もインターハイ出場だね、おめでとう」
「出場だけなら去年もしている」
ツカサらしい受け答えだとは思う。でも、最近はこんな会話ばかり。
話しかけても、ツカサから一言返ってくるだけで会話が終わってしまうのだ。
普段から必要以上の会話はしない。でも、ここのところは拍車をかけて言葉数が少なくなっている気がしていた。
今日はこの状況を打破したい。
こんなふうになってしまったのは球技大会の前日から。つまるところ、鎌田くんとのメールが要因であることはなんとなくわかっていた。
「鎌田くんとのメール、見る?」
「人とのやり取りを見るほど悪趣味じゃない」
予想していた返答に私は苦笑する。
とてもツカサらしい切り返し。でも、きっと気になっていても「気になる」とは言えないのがツカサで、そんなツカサと付き合っていくにはどうしたらいいのか、と考えていた。
「手……つないでもいいかな」
尋ねると、ツカサはいつものように手を差し出してくれる。
たったそれだけ――たったそれだけのことにほっとしている自分がいた。
私はツカサの手に自分の手を重ね、ひとつひとつ言葉にしていくことを決意する。
「友達って……いつから友達で、どうしたら続いていくのかな。……あのね、私、友達という関係自体にブランクがあって、まだ『友達』がどういうものなのかよくわかっていないの。学校の友達には毎日会えるから何を考えることもないのだけど、毎日会わない人とはどうしたら友達でいられるのかな……。鎌田くんとは中学が一緒だったけれど、今の友達ほどたくさんの言葉を交わしてはきていないから、お互いのことをほとんど知らなくてね、こんなに何も知らない状態で友達といっていいのかがわからないの。だから、今は友達になるべくメール交換をしている感じ……。たぶん、お互いのことを知るためにメールの交換をしているんだと思う」
そこまで話して携帯を取り出す。
「ツカサは見たくないかもしれないけれど、私が見てほしい。……だめかな?」
私が鎌田くんへ送ったメールと鎌田くんから届いたメールを入れていたフォルダを表示させ、携帯をツカサの手に置く。と、ツカサは渋々、といった感じでメールを開いた。
「初めてのメールは私から送ったの。去年、テラスで鎌田くんに電話していたのは覚えているかな? あのあと、メールを送るねって話していたのだけど、私すっかり忘れていて、忘れたまま入院して年を越して、鎌田くんから年賀状が届くまで思い出さなかったの。だから、ごめんなさいのメール」
そのあと、都合のいい日に会いたいという内容のメールが届き、自分の現況を伝えるメールを返した。
「こんなに自然と入院していることや手術を受けたことを話せたのは、きっと藤宮で出逢った友達やツカサのおかげ。伝えることが怖くなかった」
それからすぐにメールが届き、お見舞いに来たいと言ってくれた。それに対する断わりのメール。
最初のうちは用件のみのメールだった。
それから少しして、何度か数学の問題を解くメールのやりとりをしたけれど、それには問題に関することしか書かれてはいなかったし、私もそれ以上のことは書いていない。
春休みに送られてきたメールには、進級試験の結果、春休みに友達と山に登ったこと。後輩が家の鍵をなくして、弓道部の人みんなで探したことが書かれていた。
そのころ、私は新しい薬の副作用でしばらく返信することはできなかった。
「春休み前から新しい薬を服用し始めて副作用がひどかったでしょう? だから、新学期が始まるころにようやく返信することができたの。で、この間もらったのが猫の餌付けのメール」
それに返信したのは尋ねられていた写真部の活動内容や生徒会の活動内容。ほかには、今度弾いてみたいハープの曲のこと。
どこからどう見ても近況報告。特別なことは何も書かれていない。でもたぶん、今の私たちには必要なことなのだ。
言葉を交わすことが必要。相手がどんなことを考えたり思ったりするのかがまったくわからない関係だから。
「……友達になるためにメールが必要だと思っているのは翠だけじゃないの?」
え……?
「鎌田は翠のことが好きなわけだから、ただつながりを得たかっただけじゃないの?」
……それは考えてもみなかった。
考えもしなければ、その答えを知っているのは鎌田くんだけなわけで……。
「さっき鎌田くんに告白された。でも、きちんと断わったよ。そのうえで、友達のままでいようって話をしたの。だから、今までがどうかはわからないけれど、これからはそういうつもりでメールをするわけじゃないと思う」
「俺が鎌田なら、そんな簡単には引けないと思う。翠は告白して相手に断わられたらそれで終わりにできるんだ?」
「……ツカサは私が考えもしないことを思いつくのね」
「翠の考えが浅はかなだけだと思うけど」
私が鎌田くんと同じ立場だったとして――「好き」という気持ちをすぐに諦めることはできないだろう。でも、でもね……。
「ツカサの考えが正しかったとしても、それは仕方のないこと……らしいよ?」
これは私の考えじゃない。佐野くんが私に教えてくれたこと。
「好きな人に好きな人がいたり付き合っている人がいると、しだいに心は収まるところに収まるものだ、って佐野くんが教えてくれた」
そんな経験、私にはない。
秋斗さんを好きで諦めようとしていたときの私と、佐野くんが教えてくれた状況は異なるから。
「鎌田くんがどういう気持ちでいるのかはわからないけれど、それはたぶんあまり関係ないの。鎌田くんがどう思っていても、私は今までと同じようにしか接することはできないから」
これ以上何を伝えられるだろう……。あと私が言えることは――
「ツカサ、私はツカサが好きだよ。だから、また鎌田くんに告白されたとしても、同じことを答える」
もう、これ以上に言えることはないと思う。
何か考えているふうのツカサを見ていると、私の携帯が鳴りだした。
ツカサから携帯を返されディスプレイを見る。と、唯兄からのメールだった。
運動公園を出る前にメールして、とのこと。私はすぐに「今から帰る」と返信した。
「ツカサ、歩きながら話そう? 唯兄がお昼ご飯を作ってくれているの」
声をかけるとツカサはすぐに立ち上がり、私が立つときには手を貸してくれた。
ただ、立つ際に手を貸してくれただけ。そう思っていたけれど、歩き出した今も手はつながれたまま。
藤棚を出て小道を歩き始めても解かれることはなかった。
「……土曜日の藤の会、来るの?」
生徒会の仕事以外でツカサから話しかけられたのは久しぶりだった。久しぶりすぎて思わず涙腺が緩む。
ツカサが違う話を持ち出したというのは、さっきのお話はもう終わったものとしていいのかな。あの答えで納得してもらえたのかな。
それとも、ただ話題を変えたかっただけなのだろうか――
少し考えて「違う」という答えがはじき出される。
ツカサなら、一度話し始めたことを途中でやめるようなことはしない。
「翠、返事」
「……うん、行く。あのね、先日朗元さんから振袖一式が届いたの」
「それを着て出席したら、面倒な人間たちの目に留まることになるけど?」
「……ツカサ、何度でも言うよ。私、ツカサたちに関わったことを後悔するつもりはないの。だから、大丈夫。何かあれば警護についている人たちが守ってくれるのでしょう?」
ツカサは少し沈黙してから、
「その日、翠のエスコートを俺にさせてほしい」
その言葉に驚いてツカサの顔を見上げると、
「……そんなに見るな」
ツカサはわかりやすく歩調を速めた。
つかつかと歩くツカサに手を引かれ、私は引き止めるようにツカサの手を引っ張った。
「エスコート、してくれるのっ!?」
「させてくれるなら」
じっ、とツカサに見下ろされ、去年の、パレスでの一件を思い出す。
「あのときとは状況が違うもの……。エスコート、してもらえるなら……お願いしたい」
「了解。……あとでその日に着る振袖見せて」
「うん!」
そのあとはとくに会話をするでもなく、ツカサは私の歩調に合わせて歩いてくれた。
ツカサはわかっているのかな……。
――きっと、わかっていないんだろうな。
お話ができたら嬉しい。でも、ツカサとなら何を話して歩かずとも、隣に並んで一緒に歩けるだけで幸せを感じられるのに。
ツカサ、いつかは気づいてくれる……?
そんなことを考えながら、時折ツカサの表情を盗み見て家までの道のりを歩いた。
藤棚の下は日陰だし、強すぎず弱すぎずの風が吹いているため暑くはない。
「試合、お疲れ様。今年もインターハイ出場だね、おめでとう」
「出場だけなら去年もしている」
ツカサらしい受け答えだとは思う。でも、最近はこんな会話ばかり。
話しかけても、ツカサから一言返ってくるだけで会話が終わってしまうのだ。
普段から必要以上の会話はしない。でも、ここのところは拍車をかけて言葉数が少なくなっている気がしていた。
今日はこの状況を打破したい。
こんなふうになってしまったのは球技大会の前日から。つまるところ、鎌田くんとのメールが要因であることはなんとなくわかっていた。
「鎌田くんとのメール、見る?」
「人とのやり取りを見るほど悪趣味じゃない」
予想していた返答に私は苦笑する。
とてもツカサらしい切り返し。でも、きっと気になっていても「気になる」とは言えないのがツカサで、そんなツカサと付き合っていくにはどうしたらいいのか、と考えていた。
「手……つないでもいいかな」
尋ねると、ツカサはいつものように手を差し出してくれる。
たったそれだけ――たったそれだけのことにほっとしている自分がいた。
私はツカサの手に自分の手を重ね、ひとつひとつ言葉にしていくことを決意する。
「友達って……いつから友達で、どうしたら続いていくのかな。……あのね、私、友達という関係自体にブランクがあって、まだ『友達』がどういうものなのかよくわかっていないの。学校の友達には毎日会えるから何を考えることもないのだけど、毎日会わない人とはどうしたら友達でいられるのかな……。鎌田くんとは中学が一緒だったけれど、今の友達ほどたくさんの言葉を交わしてはきていないから、お互いのことをほとんど知らなくてね、こんなに何も知らない状態で友達といっていいのかがわからないの。だから、今は友達になるべくメール交換をしている感じ……。たぶん、お互いのことを知るためにメールの交換をしているんだと思う」
そこまで話して携帯を取り出す。
「ツカサは見たくないかもしれないけれど、私が見てほしい。……だめかな?」
私が鎌田くんへ送ったメールと鎌田くんから届いたメールを入れていたフォルダを表示させ、携帯をツカサの手に置く。と、ツカサは渋々、といった感じでメールを開いた。
「初めてのメールは私から送ったの。去年、テラスで鎌田くんに電話していたのは覚えているかな? あのあと、メールを送るねって話していたのだけど、私すっかり忘れていて、忘れたまま入院して年を越して、鎌田くんから年賀状が届くまで思い出さなかったの。だから、ごめんなさいのメール」
そのあと、都合のいい日に会いたいという内容のメールが届き、自分の現況を伝えるメールを返した。
「こんなに自然と入院していることや手術を受けたことを話せたのは、きっと藤宮で出逢った友達やツカサのおかげ。伝えることが怖くなかった」
それからすぐにメールが届き、お見舞いに来たいと言ってくれた。それに対する断わりのメール。
最初のうちは用件のみのメールだった。
それから少しして、何度か数学の問題を解くメールのやりとりをしたけれど、それには問題に関することしか書かれてはいなかったし、私もそれ以上のことは書いていない。
春休みに送られてきたメールには、進級試験の結果、春休みに友達と山に登ったこと。後輩が家の鍵をなくして、弓道部の人みんなで探したことが書かれていた。
そのころ、私は新しい薬の副作用でしばらく返信することはできなかった。
「春休み前から新しい薬を服用し始めて副作用がひどかったでしょう? だから、新学期が始まるころにようやく返信することができたの。で、この間もらったのが猫の餌付けのメール」
それに返信したのは尋ねられていた写真部の活動内容や生徒会の活動内容。ほかには、今度弾いてみたいハープの曲のこと。
どこからどう見ても近況報告。特別なことは何も書かれていない。でもたぶん、今の私たちには必要なことなのだ。
言葉を交わすことが必要。相手がどんなことを考えたり思ったりするのかがまったくわからない関係だから。
「……友達になるためにメールが必要だと思っているのは翠だけじゃないの?」
え……?
「鎌田は翠のことが好きなわけだから、ただつながりを得たかっただけじゃないの?」
……それは考えてもみなかった。
考えもしなければ、その答えを知っているのは鎌田くんだけなわけで……。
「さっき鎌田くんに告白された。でも、きちんと断わったよ。そのうえで、友達のままでいようって話をしたの。だから、今までがどうかはわからないけれど、これからはそういうつもりでメールをするわけじゃないと思う」
「俺が鎌田なら、そんな簡単には引けないと思う。翠は告白して相手に断わられたらそれで終わりにできるんだ?」
「……ツカサは私が考えもしないことを思いつくのね」
「翠の考えが浅はかなだけだと思うけど」
私が鎌田くんと同じ立場だったとして――「好き」という気持ちをすぐに諦めることはできないだろう。でも、でもね……。
「ツカサの考えが正しかったとしても、それは仕方のないこと……らしいよ?」
これは私の考えじゃない。佐野くんが私に教えてくれたこと。
「好きな人に好きな人がいたり付き合っている人がいると、しだいに心は収まるところに収まるものだ、って佐野くんが教えてくれた」
そんな経験、私にはない。
秋斗さんを好きで諦めようとしていたときの私と、佐野くんが教えてくれた状況は異なるから。
「鎌田くんがどういう気持ちでいるのかはわからないけれど、それはたぶんあまり関係ないの。鎌田くんがどう思っていても、私は今までと同じようにしか接することはできないから」
これ以上何を伝えられるだろう……。あと私が言えることは――
「ツカサ、私はツカサが好きだよ。だから、また鎌田くんに告白されたとしても、同じことを答える」
もう、これ以上に言えることはないと思う。
何か考えているふうのツカサを見ていると、私の携帯が鳴りだした。
ツカサから携帯を返されディスプレイを見る。と、唯兄からのメールだった。
運動公園を出る前にメールして、とのこと。私はすぐに「今から帰る」と返信した。
「ツカサ、歩きながら話そう? 唯兄がお昼ご飯を作ってくれているの」
声をかけるとツカサはすぐに立ち上がり、私が立つときには手を貸してくれた。
ただ、立つ際に手を貸してくれただけ。そう思っていたけれど、歩き出した今も手はつながれたまま。
藤棚を出て小道を歩き始めても解かれることはなかった。
「……土曜日の藤の会、来るの?」
生徒会の仕事以外でツカサから話しかけられたのは久しぶりだった。久しぶりすぎて思わず涙腺が緩む。
ツカサが違う話を持ち出したというのは、さっきのお話はもう終わったものとしていいのかな。あの答えで納得してもらえたのかな。
それとも、ただ話題を変えたかっただけなのだろうか――
少し考えて「違う」という答えがはじき出される。
ツカサなら、一度話し始めたことを途中でやめるようなことはしない。
「翠、返事」
「……うん、行く。あのね、先日朗元さんから振袖一式が届いたの」
「それを着て出席したら、面倒な人間たちの目に留まることになるけど?」
「……ツカサ、何度でも言うよ。私、ツカサたちに関わったことを後悔するつもりはないの。だから、大丈夫。何かあれば警護についている人たちが守ってくれるのでしょう?」
ツカサは少し沈黙してから、
「その日、翠のエスコートを俺にさせてほしい」
その言葉に驚いてツカサの顔を見上げると、
「……そんなに見るな」
ツカサはわかりやすく歩調を速めた。
つかつかと歩くツカサに手を引かれ、私は引き止めるようにツカサの手を引っ張った。
「エスコート、してくれるのっ!?」
「させてくれるなら」
じっ、とツカサに見下ろされ、去年の、パレスでの一件を思い出す。
「あのときとは状況が違うもの……。エスコート、してもらえるなら……お願いしたい」
「了解。……あとでその日に着る振袖見せて」
「うん!」
そのあとはとくに会話をするでもなく、ツカサは私の歩調に合わせて歩いてくれた。
ツカサはわかっているのかな……。
――きっと、わかっていないんだろうな。
お話ができたら嬉しい。でも、ツカサとなら何を話して歩かずとも、隣に並んで一緒に歩けるだけで幸せを感じられるのに。
ツカサ、いつかは気づいてくれる……?
そんなことを考えながら、時折ツカサの表情を盗み見て家までの道のりを歩いた。
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